水魔法ぐらいしか取り柄がないけど現代知識があれば充分だよね? 作:mono-zo
ドゥッガとアモスに会ってみると明らかにやつれていた。
「王都から元王族を含む貴族がやってくる」「政争ど真ん中のライアーム子息に他国の姫君がやってくる」となって大忙しだったのだろう。更にドワーフの争いごとだ。
「お疲れ様です。挨拶を行いたいところですが状況を確認しておきたいです」
超魔力水を渡しておく。お水飲んで。
「わかった……じゃねぇな。わかりました」
「……はい」
報告書通りの問題が起きていたようだ。
「何人かしか言葉がわからねぇから苦労してる」
「こちらのドワーフはある程度言葉が通じるのですが、事情があるそうで面倒なことになっています」
そう言えば外国人だったか。アモスからは追加の報告があってドワーフの貴族は事情があってどうしてもその鏡が欲しいらしい。
問題となっている鏡を見せてもらったのだが完璧な鏡であった。鏡の縁にはすりガラスのような細工が刻まれている。なにかの模様や文字がとても綺麗に彫られて一種の芸術品のようにも見えて美しい。
鏡の外側は立派な額縁のようなもので飾られ、ニスでも塗られているのか重厚感もあるし、ところどころ品の良い宝石のようなものが埋め込まれている。大きさも個人所有ではちょっと見ないサイズだ。ジムとかダンス教室とかならありそう。
アモスとしてはこの鏡を献上したかったらしいが大いにケチが付いてしまったからか非常に渋い顔をしている。
ドワーフを軟禁している部屋に会いに行ってみた。アモスの一撃を食らっているし、アモスが城につれてきた上で死なれでもしたら……『とどめを刺した』と思われれば国際問題になりかねない。だから最低限は治そうと思ったのだが、ピンピンしていた。
「~~~~~~!~~~~、~~~~…………~~~。~~~ですから!それは儂らのものですして!」
「違います。商人から購入したものです」
一応貴族のドワーフに話を聞いてみた。
だが外国語でまくしたてられた上で説明ができたと思ったのかそのままこちらを説得してきた。伝わっていないがとりあえず言いたい最後の部分はわかったので反論はしておこう。
壁にかけられた旅装はたしかに泥まみれで、泥の中にダイブしてゴロゴロしないとそうはならないだろうと言うレベルで汚れている。これでは貴族には思えないだろう。
しかし今着ている彼の服は明らかに質が良く、貴族にしか見えない。ヒゲは斜めに切れていて若干不格好だが。
「ぬぬね。しかし!」
「一旦落ち着きましょう。それぞれの立場があります。素直に返すわけには行きませんが貴殿にも意見があることリヴァイアス領主である私に伝わりました。しかし細かな事情がわかりません。言葉がわかるものが別の事案に取り掛かっているので一旦時間をとりましょう」
「……わかりました。直接~を~~機会を与えて頂き、感謝します。またこのフドン・エルガ、領地を慌てさすしてしまったこと、謝罪します」
一部は理解できないし、微妙に言葉がわかりにくいが攻撃的な態度は見受けられない。
「この出会いもなにかの縁、ドワーフは酒好きと聞きますが貴殿もそうであるのなら酒宴を開きましょう。私は子どもなので飲めませんが」
「酒」
何が言いたいのか、彼も言葉にしたいようだがこちらの言語はそこまで達者では無いようでヒゲモジャの口元をモゴモゴして言葉にできないでいる。ドゥッガの方で対応している商人たちの通訳してもらってる人に来て貰う必要があるな。あっちは暴れた上でまた暴れそうなので緊急性がある。
相手は貴族だし、友好的な対応をしておこう。へりくだる必要はなさそうだが。
「ありがたく!しかし……人族は子どもが酒を飲めないとは~~と言うか、不憫です」
「種族差でしょう。うちの竜人やドワーフも驚くような酒を作りましたので話の種にでもしてくださいませ。……では、申し訳ないですが仕事も立て込んでおりますので後ほど酒宴で」
「直接お話させていただきありがとうございます」
彼はドワーフの国の貴族であることは間違いなさそうだ。家紋付きの小物を見せてもらえたし所作もおそらく何かに則ったものだろう。ドワーフの国は大陸でも際立った力を持っているそうで、戦いになるような事態は避けたい。
相手は騒ぎを起こしたということも自覚していて傲慢な態度はまったくなかったし、待遇は「貴賓室に軟禁」程度でいいかな。見張り付きで。
ドワーフの貴族と揉めたくはないが、重臣にあたるアモスが部下の前で買って私に献上しようとしたものを簡単に渡してしまえばアモスもアモスの部下も私に良い気はしないだろう。
「切って捨てればよいのではないでしょうか?」
「ジュリオンはアモス側ですか……」
「いえ、そもそも商人から鏡を買っただけのアモスが責められることがおかしいのです。鏡を運ぶアモスを盗人扱いしたのですよ。あのドワーフは」
そりゃあアモスも買い物したものを後で泥棒したみたいに言われれば腹も立つだろう。しかも周目の面前でケチを付けられたのだ。
アモスもこの領地を護る将軍であるし、交易の盛んな領地だけあって他国の貴族を殺すのはまずいとなったらしい。下手すれば勘違いから戦争が起きそうだった。
「アモス」
「はい」
「領地の守護、本当にご苦労さまです」
「……いえ、このような問題を起こしてしまって申し訳ないです」
膝をついて頭を下げるアモス。
「私への贈り物で騒ぎになっているので私もなにか言葉をかけにくいのですが……よく領地のことを考えて彼を生かしてくれました。ありがとうございます」
「いえ、奴が頑丈だっただけといいますか……」
アモスは首を落とそうとしたそうだもんね。会ってみたドワーフの……フトンさんだったかウドンさんのヒゲは斜めにすっぱり切れていた。
当時何があったかはわからないが……とにかくアモスはとどめを刺さなかった。
「それでも打ち倒したあとにその場で首を落とすこともできたはずなのにやらなかった。これは領地のためになるかもしれませんし、度量がなくては出来ないことでしょう。将軍としてよくやりましたね」
褒めておいた。
きっと彼も個人的には思うところがあるだろう。だけどそれを超えて彼は領地のことを考えて行動したんじゃないかと推察できる。
私も前世の上司には思うことがあった。
理不尽に叱られ、腹が立つこともあった。……しかし、個人的に思うことはあっても上司の言い分には『会社に属する』『上司の立場があるゆえ』の言葉で、理解できる部分はあった。――――今でも納得はしてないがな!
自分の感情よりも将軍としての立場や領地のことを考えて選択ができたアモスは本当に立派だと思う。
「ありがとうございます」
「なのでジュリオン、これ以上説教は無しで、こぶしおさめて」
「はっ!」
ジュリオンは「弟は悪くない」と理解はしているようだが、それとは別に「仕事が多いのに面倒事起こしやがって」と言う思いもあるようだ。
この強い姉は弟にとって理不尽な存在な気がしてならない。
「酒宴にはアモスも同席してください。私たちに否はありませんし交渉がうまくいかなければそれはそれでいいでしょう。もしかしたらその場で良い交渉も思いつくかもしれません。……それに『アモス将軍がリヴァイアス酒の前で喉を鳴らしていた』という報告もよく聞きますよ」
「あ、ありがたく――――「愚弟?」
「まぁまぁ」
ジュリオンを制止しておく。
リヴァイアス酒の熟成には私の超魔力水を加水してから酒蔵や宝物庫にも保管するが……「木の上」とか「土の中」とか「海の中」に保管して謎の精霊パワーで熟成する。
そのため管理人もいるが、酒好きなアモスは酒の保管場所に足を運んで鍛錬をしていたそうだ。自主的に見回りも兼ねていたのか、それとも俺の獲物に手を出すなという主張のようにも思える……。
よっぽどお酒が好きなのだろうな。リヴァイアス酒はまだまだ生産量が少なくて飲むよりも熟成による味の変化を観察中であり、王都でうちの家の力を見せるために僅かに消費している分ばかりでこちらでは殆ど飲まれていない。酒に詳しいラディアーノの品質チェックが入っているだけである。
ラディアーノも酒のチェックに行くとアモスは必ず運搬やチェック作業を手伝ってくれるそうな。飲みたそうに喉を鳴らすアモスがいるのに、アモスはこれも忠誠だからと一口も飲んでいなかった。
少しぐらい飲んでもらっても良かったのだが……なんにせよ、やはりジュリオンは弟に色々と厳しい気がする。
弟<<<<<姉