水魔法ぐらいしか取り柄がないけど現代知識があれば充分だよね?   作:mono-zo

334 / 391
第313話 賠償請求★ポイントカード

 

フドンさんの言葉は微妙に通じず、通訳さんも貴族の言葉で書かれていて詳細に困っていた。これでは嘘を書かれていてもわからなかったので「こちらの言葉を一定期間話せるようになる秘薬」と言って翻訳用のカレーを食べてもらうことにした。

 

エール先生からは偽装のためにも「もっと渋く、それでいてうんと苦くしませんか?」という意見もあったのだが、翻訳カレーのことを領民に口止めしていないし後でバレると問題だと思っていつもの翻訳カレーだ。前よりも美味しく出来てる。

 

話し合った結果、鏡はより大きくより良いものと交換。ドワーフの商人については責任を持って連れて帰ってもらうことに決まった。

 

商人の2人にはそれぞれ結構な金額の賠償請求を請求する。

 

商会はそれぞれ国元では大きな力をもつ。治療費、滞在費、慰謝料などなど、結構エグい金額をふっかける。

 

彼らには「支払わない」という選択もできるかもしれないが、その時は『自分の商会員の命を見捨てた』という汚名がついてしまう。こちらで大騒ぎになったし交易に来た世界中の商人はそれを知っている。彼らと同じ国元の商人だっているため隠しようはない。

 

商売の世界でここまでの醜聞は致命的であるらしい。

 

 

そして何よりも『船』の大多数がこちらにはある。

 

 

船は海商にとって人の命よりも重い。数人が国元に帰れるだけの船を使い、残りの船と生き残った船員もこちらで拘束している。

 

 

「<水よ。船を持ち上げよ>」

 

「……………?ほげぇっ!!?」

 

 

沈んだ。いや、沈めた船を彼らの眼の前で私が引き上げた。

 

浜辺で魔法を使って、城壁の向こう側に沈んでいた船を城壁の上をまたいでひょいとこちらに持ってきたものだから商人たちはとてつもなく驚いている。

 

船の引き上げ費用も結構な代金にした。個人的には軽くお風呂のアヒルさんを持ち上げる程度の労力だが侯爵が直接使う魔法にはそれだけの価値があるらしい。

 

彼らは目玉が飛び出るほど驚いて……あれだけ強気に言ってきていたのに急に態度を豹変させた。私を侮っていたはずのドワーフの商人が「これほどの力をもつ相手だったとは」と私のことをおばけでも見るかのように震え上がっている。

 

 

「何でもします。殺さないでください」

 

「殺すなら儂が殺したい」

 

「ひぃっ!?」

 

 

ドワーフの商人の横には翻訳カレーを食べて話せるようになったフドンさんがいて……同じ国元の、同じドワーフであるというのに彼に怒りを向けていた。

 

彼らは同種族で、同じ国の同朋ではあるが……他国への脅しを貴族でもない彼が勝手に行ったことに対してお怒りのようだ。

 

 

「フドンさん、ちゃんと連れて帰ってもらわないと」

 

「すまん。ちゃんと連れ帰って賠償金をぶんどってくる」

 

「ありがとうございます。船の整備が終わればお願いします」

 

 

彼の船のうち、無事なものを使ってフドンさんを連れ帰ってもらう。

 

 

「ありがたく――――……このフドン・エルガ、亡き友の想いのこもった鏡をお返しいただけたこと山のように感謝しております。そしてアモス・ヤム・ナ・ハー将軍閣下への無礼、彼の部下への暴行、エルガの家名の元に深く謝罪します」

 

 

服が汚れるにも関わらず、拳を握り地面に拳から肘までついて頭を下げてきたフドンさん。拳は私に向かってではなく真横にして腕を地面につけている。

 

所作がドワーフ流なのか独特で良くわからないが、きっと彼らなりのちゃんとした謝罪方法なのだろう。

 

 

「はい、その感謝と謝罪。たしかに受け取りました。これからの友好に期待します」

 

「まことありがたく」

 

 

ここは砂浜で周りには衆目の目があるし地面は綺麗なものではない。だと言うのに貴族の彼が周りの目も服が汚れるのも気にせずに謝罪した。彼なりの誠意は伝わってくる。

 

引き上げた船は半分が転覆しただけでほぼ無傷、半分はまっぷたつであった。それらは全てこちらで保管する。船は海商にとっては無くてはならないもので、その船を人質に取ったのだ。船員も込みで。

 

もちろん修繕費用も払ってもらう。支払わずにバックレる可能性もあるが……それなら船も船員もこちらのものだ。

 

あと思ったよりも引き上げてみたら商品が積んであったしそれらも全部もらう。

 

彼らは商人であり、リヴァイアスには商売に来ていて荷物は満載であった。一部は流されたり海の種族の人が持っていったかもしれないがそれでもかなりの量だ。海の種族の人たちがまとめてくれてるって?良いね。臨時収入である。

 

 

しかし、沈めた船の破損具合が尋常ではない。

 

 

詳細を聞くとドゥッガがやったらしい。

 

私が渡した金属製の杖だかハンマーだかよくわからない物体。あれはリヴァイアスを象徴する魔導具の一つで魔法攻撃が可能という説明だけあった。領地を任せる筆頭家臣が持つのにぴったりだと思ったし、クーリディアス王を倒すのに木槌が壊れていたので渡した。

 

魔力をチャージすれば水を発射できる。ドゥッガ船長いわく「なんか光ってたから向けてみたら出た。たまにしか使えねぇが使うのが癖になってきた」そうだ。それで海賊を狩ることもあるが、今回は薙ぎ払って船数隻をぶった切ったらしい。超火力である。いや、超水力か。

 

普通の人が扱えるような重量ではないしリヴァイアスの領域でなければ使えない。私の杖みたいに勝手に浮いてくれれば良いんだけどそういうものじゃないらしい。たまに持ち歩くだけで床が抜けることもあるそうだ。絶対私には持てない。

 

商人に来てもらったのもどちらがどの船を所有していたかで賠償具合が変わるためでもある。

 

とりあえず無事な船を選んで整備してドワーフの船まで帰ってもらうだけの物資を積んでもらう必要がある。フドンさんとドワーフの商人はもう少し滞在の予定だ。

 

元の船員は賠償が行われるまで人質となるため返すことが出来ない。船員はリヴァイアスから派遣する必要がある。じゃないと商人の部下がフドンさんに襲いかかる可能性もあるからね。船を操れる技能をもつ奴隷から志願者を募っている。

 

フドンさんとドワーフの商人が結託して部下も船も見捨てる可能性もあるにはあるが……そこは彼の誠意に期待しよう。

 

 

 

私に出来る国際問題回避兼海のゴミ撤去もしたし自室に戻る。

 

少し肩の荷が下りた気分だ。

 

 

「ひとまず超緊急の要件はなくなったようですね」

 

「次は何に取り掛かりますか?緊急とは言いませんがたくさんの要望が来ておりますが」

 

「とりあえずエール先生の膝で寝ます」

 

「はい」

 

 

……そこは「はい」でいいのだろうか?

 

「何が何でもとにかく働け」という職場よりもマシかも知れないがたくさん仕事があるとわかっているのに休むのを許してくれるのもそれはそれで心がざわつく。

 

膝枕してもらいながら領の問題に目を通す。

 

エール先生もこちらに来てからずっと働き詰めだし休んでもらいたい……好きに撫でるが良い。リューちゃんも私の足首の上を陣取って寝た。

 

 

現在のリヴァイアス領は急発展していてどの産業もてんやわんやの状態である。

 

大きな問題としては『宗教』や『商売』についてが挙げられる。

 

人が増えればそれだけ問題も増えるものだし仕方がないのかもしれない。

 

まず商人がこの土地に来ることは続々と増えつつある。そしてドワーフと人の商人のように問題を起こすこともしばしば。

 

賭場や競馬場、コロシアムも運営はうまく行っているが、賭けも行き過ぎればと言うか借金や船や権利を担保にしてやるような商人もいて結構荒れている。

 

商人は基本的に交易のために来ているが……競馬とコロシアム、それにオークションを目的に来ることもあるようで結構な経済効果を生んでいる。

 

海商にもなるような商人は力をもつ。

 

普通の港であれば品を売り買いして終わりだが、ここには付加価値として「店を借りて拠点に出来る」「嵐が来ても安心して船を停められる壁が海にあって長期滞在が可能」「船のメンテナンスが可能」という点で優れている。

 

さらに競馬やコロシアムでは自分の持ち込んだ騎獣や戦士による一定数の勝利で店舗の宣伝や優遇措置がされている。

 

この世界では既得権益というか……普通その土地で力を持つ存在には逆らいにくい。信用ならない新参者は貴族だったり商人に無理を言われて潰されるようなこともある。

 

普通に商売していても「外国の商家」が大儲けすることはなかなかないそうだがここリヴァイアスではチャンスが他よりもあるのだ。商売人同士の理不尽な潰し合いはできるだけ止めるように言っている。

 

オークション会場では希少品や珍品がよく出てくるためそれが目的という人も多い。

 

 

「……やっぱりポイントカードは有効だな」

 

「ぽいん……なんですか?」

 

「なんでもないです。いえ、よく来る人に特典があるようにしています」

 

 

商人はここに来て活動する。真っ当に活動すればするほど優遇措置をする。

 

宿泊の割引だったり、商売用の借り店舗を優先したり、港の停泊場所の優遇処置だったり、船の改修費用の割引だったり、オベイロスから売られる布の代金を割り引いたりと……ここに来る商人にも「良い思い」をしてもらうことでwin-winの関係を築いているのだ。

 

商人にはわかりやすく大きなポイントカードを配布しているが、首からポイントカードをかけて他の商人に自慢していることもあるそうだ。あくどい商売をするような商人はこのポイントカードを持つことはできない。本の構想ではただのポイントカードのはずだったのだがもはやある種の特権階級とも言える。

 

調子に乗るような商人もいるそうだが、そうすれば特権取り上げやポイントカードの格下げもあって商人たちは素直である。商売に成功して海商をしている彼らは賢く、引き際をわきまえている。――――なにより陸路ではなく海から来ているため、やりすぎれば船が使えず、自分が詰むと理解しているのだろう。

 

大きな要望を見ていくと……コロシアムに来てほしいようだ。私が顔を出すことで誰が領主かわかるし領民が安心するらしい。その辺に勝手に作られてる像か巨大なやつ見ればいいじゃないかとツッコミたい。そういうことじゃないか。

 

あとコロシアムの優勝者には領主になにか願いを聞いてもらうような機会があったほうが良いらしい。似たような施設やイベントでは『戦いの勝者に最高権力者が声をかける』のは当たり前だかららしい。

 

願いを叶えられるかはともかく、賞品やお金を渡したり……場合によっては役職を与えたりするそうだ。

 

 

家臣たちに無事な姿を見せないのはもよくないらしい。

 

 

忙しかったし国際問題に対応していたから仕方ないが………………私にはよくわからない感覚だな。前世で働いてて部長よりも上の役員クラスが現場に現れようものなら「ヒェ!?」ってなった。良い要件でも悪い要件でも、いや、要件は関係なく、できれば関わってほしくない人種であった。

 

だって相当な役職者には自分の人生を変えられるだけの力がある。クビにしろ昇進にしろお褒めの言葉にしろ立ち寄っただけでも……ん、ということはリヴァイアスの人には顔を出して嫌がられない程度には好かれているのだろうか?…………社交辞令じゃないことを祈ろう。




皆様たくさん読んでくださり(/>ω<)/アリガトウゴザイマース✨️
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。