水魔法ぐらいしか取り柄がないけど現代知識があれば充分だよね? 作:mono-zo
「――――あの方は、危険すぎます」
精霊の恩寵である緩やかな雨の中、闘技場に集まり……危機感が一層膨らみました。
なぜ、リヴァイアス侯爵……フレーミス嬢は貴族院に逆らおうとするのでしょうか。
「何だ、まだなんかフレーミスに文句があんのか?」
「当然です。そもそも幼く、貴族の当主としてその地を統べる事ができましょうか?」
「は?心配してんのか?」
「当たり前でしょう。聞けばこの地では他に当主になろうという方が多くいたそうです。そんな中で若い彼女が当主としてやっていけるわけがないでしょう」
天候を簡単に変えられる精霊。それも一柱のみならず数え切れないほどの精霊がリヴァイアス侯爵と共にあります。それだけでも充分に危険。
そして王家の相談役としての強権を持ち、国にとって重要となった領地の当主になっていて……この会場を埋め尽くすだけの人に期待されている。
「……普通、貴族院が後見人を出すものですがそれも拒否されています。このままでは東の一領主の我儘一つでオベイロスが揺るぎかねません」
「フレーミスの心配じゃなくて国の心配かよ」
「そうですが?」
彼女の精霊、彼女の力、彼女の領地、彼女の配下。どれをとっても中央にとって危険な存在です。
存在するだけで国が揺らいでいます。
他国の商人をどうするか?聞いておいて誰の意見も聞かないほどに我が強く、制御ができないでいます。
なのにシャルトル陛下のみならず、エルストラも、ポヨ令嬢も、ラズリーも、リーナまで懐柔されてしまっています。
ポヨ令嬢も浮かれているのか何やらいつもよりも良い服装をしています。彼女のみならず、筆頭婚約者と称される…………私以外は浮かれてしまっています。
リーナは意味不明なまでに彼女に付き従っていますし、話の通じないラズリーですら魔導具で買収されています。エルストラなど言葉を何年ぶりに聞いたことでしょう……。
本当に危険。一人の貴族が、国を揺るがすようなことがあってはいけない。
彼女の成り立ちからすれば両親を失った経緯もありますしオベイロスに反目していてもおかしくはありません。
貴族とは、オベイロスを支えるためにあるものなのに……。
「リヴァイアス侯爵、フレーミス様が到着されました!!」
耳が痛くなるほどに獣人の咆哮が上がっている。目には見えませんが熱気が舞い上がってくるかのように感じます。
観覧席ではなく、闘技場に人が入ってきました。
筆頭家臣ドゥッガ・ドゥラッゲン卿を先頭に、アモス将軍が部下を引き連れて宙を舞い、ジュリオンと呼ばれる竜人の肩に乗ってリヴァイアス侯爵は現れた。上位竜の子を抱えて。
「なにあれ?」
「知らない、異形……?」
「一体だけ見たことある」
彼女の後ろにはエール女史のみならず、中央にいた彼女の配下が列を成して入って来ました。
ボーレーアスの子が丸々としていてとてもわかり易いです。
……それよりもリヴァイアス侯爵の左右に数体の異形が現れました。
大型の剣を持ち、頭を脇に抱えた豪奢な鎧の騎士。
上半身が男性で下半身が馬の獣人。
上半身が女性で下半身が蜘蛛のような虫人。
腕が6本もある謎の人物。
手足の妙に長い樹人。
四角い箱が組み合わさったようなゴーレム。
馬車のような芋虫のような何か。
他にもよくわからない何体かの異形に竜…………どの方も、大柄なジュリオン・ヤム・ナ・ハーよりも大きく、全身が黒く……見ただけで強そうに見えます。
「あれ、魔導鎧だよ。ルカリム侯爵を倒したやつ!」
「既に首が取れているのですが……」
「なかなかに強そうだが、どなたか中の勇士に心当たりはありませんか?」
獣人の作法なのか、観覧席のから会場が轟くほどに咆哮がいくつも聞こえ、肌にビリビリと熱狂の叫びが叩きつけられます。
そのまま彼女は杖を掲げて巨大な水を作り上げ、配下ごと水の塊に入って……こちらに向かってきた。
薄っすらとリヴァイアスも現れ、私たちを見たような気がします。
彼女は会場の一段と高い貴賓席、その更に上……ディア様の横に豪華な席があり、そこに彼女は座り、彼女の配下らは彼女に頭を垂れた。観覧席の大半の獣人も頭を下げていた。下げていないのは異国の方のみ。
これだけの人材に恵まれている。
だからこそ――――あまりにも、あまりにも危険。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「フリムちゃん、あの人?……はなにかしら?」
「ディア様、あれは私の魔導鎧です」
「??」
すごい熱気の中席について、横の椅子に座って待ってもらっていたディア様と少し話す。ディア様は王命を受けている事もあって領主である私よりも上という扱いも出来る。
魔導鎧のことは説明していなかったしちょっと困惑してるみたいである。頭を脇に抱えてる六号機もいるから仕方ない。
私の姿を見て凄く興奮している様子の領民たち。
挨拶をする予定だったけどあまりにも興奮してるみたいだし、司会に進行してもらった。私の出番は勝者に声をかけることであって今声を出す必要はない。
修繕途中の魔導鎧六号機や他の魔導鎧を出して、一緒に入場してみた。
コロシアムはサッカー場のように広く、領民が大半を占めているが外部の人間も見に来ている。客席から外部の人間による攻撃がされた場合。領主である私がいる以上、護衛は逃げることが出来ない。
そうなれば人的被害も出るだろうし、私が逃げたとして私がいなくなればその場にいる領民も危険に晒すことになる。
だから、盾役として魔導鎧たちを使ってみた。
まだ王都にも魔導鎧はあるが、運んでもらっていた。戦闘を想定しているわけではなく、大きく見栄えもするのでお出迎えで使うことも出来るかもしれないと思って頼んでおいた。それを抜きにしても列車の試験運行では魔導鎧を載せて実験していたそうである。頑丈で大きいし、人や動物を使うよりも人道的なように思える。開発元がユース老先生だったことが幸いした。
何体かは試験運行時に風圧で吹き飛んだり崖をダイブしてごみになってしまったようであるが……まぁそれは仕方ないとしよう。
リヴァイアスの領民や兵には私の魔法と知らせてあったし、流石にこれだけの魔法を使えると見ればお見合い参加者も侮ってくることはないだろう。
リヴァイアスではミニフリムちゃんのように遠距離でもある程度の操作ができる。とはいえ同時にこのユニークすぎる造形では難易度が高かった。数体の人形を同時に動かすような繊細な操作は難しくて……ちょっと失敗した。ドラゴン型の魔導鎧の翼の根本がちぎれかけたが……まぁあれ飾りだしね。それにしても馬車型は芋虫みたいな頭と尻尾部がつけられたのは意味があるのだろうか。
会場内部の壁際に設置した魔導鎧たちは一旦放置して近くのお見合い参加者の様子を見る。
皆コロシアムでの戦闘を楽しんでいるようだ。
上品なお貴族様が見ているという理由も付けて木剣を使い、槍の先端は布と綿で包んでもらっている。
個人的には誰も怪我してほしくはないし、コロシアム自体をやめて欲しいのだが……これもこちらの文化、受け入れよう。
戦いは見ごたえがあり、亜人が凄まじい速度で戦っている。
ホントは山積みの政務がしたいんだけど……私がこの場で彼らを見ることも必要らしい。
ん、視線を感じると思ったらセルティーさんがこちらを見ていた。こちらが見ると目を逸らされたが……どうかしたのだろうか?また「貴族院にもここの収益を分配すべきだー」とか考えているのだろうか?
「あれ可愛いわね!」
「ですね」
1組戦闘が終わる度に何処の所属の誰と誰が戦闘したのかを司会が大きな声で会場に伝え、そのたびに海猫族がでてきて負傷者を運んだり壊れた装備を拾って掃除してくれている。
集団で踊って和ませてくれたり、大きな商会の看板を持って回ってくれている。素晴らしい。
「「「にゃ~♪にゃにゃにゃ~♪」」」
見た目は完全に二足歩行の猫だし、とてもかわいい。
個人戦や団体戦、弓矢の的当てに演舞など、ディア様とは今後の打ち合わせをしながら見ていく。
そもそもライアームの息子御一行はいつ頃来るのかとかわかっていない。だからとりあえず待機なんだけど……この地の領主である私は政務をする。だからできるだけお見合い参加者の統率をディア様にはしてもらわないといけない。
この催しによってリヴァイアスの人は「私の無事」とともに「私が歓待するだけの人が来ている」と知れたはずだし、お見合い参加者は私の魔法と参加者の武力を見ることで「リヴァイアスは無理を言っても許される辺境の野蛮な地域ではない」とわかってくれただろう。多分。
メインサイトではたくさんの誤字修正してます。過去の僕にボッコボコにされまくってます(ヽ´ω`)ありがとうねぇ……グフッ………。