水魔法ぐらいしか取り柄がないけど現代知識があれば充分だよね?   作:mono-zo

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第317話 真っ向から⇔どつきあい

 

「では宣言しろ!!この命をかけた戦いに!主の命令ではなく己の言葉で参加の決意を宣言しろ!!!」

 

「俺はこの角に誓って戦う!これは誰かに命じられたからではない!強者を打ち負かし!俺の強さを世に広めるために戦う!!」

 

「獅子人として、部族に恥じぬ戦いを見せよう!これは誰かに命じられたからではない!俺と部族の有用性と忠誠心を証明するために戦う!」

 

 

大声で宣言してリングに入る2人。

 

普段の拳闘でも奴隷として「主人に命じられたから戦うわけではない」という宣言を挟んでいる。

 

これを行うことによって奴隷は『自身の意思で参加する』と表明し、その後はうちの保護下に入ることになる。

 

賭けがあるため主人が脅されれば奴隷は命令に従って八百長する可能性もあるだろうが、これによって奴隷も主人も保護し不正を排除する。

 

彼らは既に奴隷の身分からは解放されているため言う必要はないが……まぁ盛り上がっているようだし良いだろう。

 

 

ショー要素としても派手にしてくれている。

 

 

どちらかの生死でのみ勝敗が決まるような非道なものにしたくなかった。

 

それに奴隷も戦って勝てば奴隷から解放される。負けても本人の意思確認のもと継続して戦うことが出来る。それはこの世界では当たり前な「武器ありで死ぬまで殺し合え」よりはよっぽど良いはずだ。

 

ショー要素を作ることで奴隷に価値をもたせることができるはずだし誰にとっても良い環境にしたかった。

 

 

巨大な会場に対してリングは少し小さいように思えるが、前世のリングよりはきっと広い。軽く走れるぐらいのスペースはあるはずだ。しかし2人共大柄で肉厚な身体をしているからよりリングがより小さく見える。

 

何やら集音の魔導具を使っているようで2人の声が会場中に響いた。

 

会場周りでは賭けの比率の書かれた板を持ったうちの人間が歩き回り、海猫族が客席で掛け金と引き換えに割符のようなものを交換し、スタンプのようなものを押している。

 

 

賭けは少しぐらい赤字になってもとやかくは言わないが書類を見るにウハウハらしい。

 

単純に「どちらが勝つか負けるか」だけでもいいのだけど「ダブルノックアウト」や「反則負け」「腹へのパンチが決め手」「3ラウンド目にどちらの勝利」などなど。賭け方が多いためか黒字である。これらは当たれば大きいし、単純な賭けに飽きた商人からは好評なようだ。

 

なお賭けられたお金の一部は戦った奴隷たちの身の回りに使われたり解放後の資金にも当てられる。

 

 

――――少しだけ「賭けは良くない」って気持ちもある。ただ、それで彼らも助けられるし、回る経済もあるのだから推奨するべきだろう。

 

 

商人の中にはのめり込みすぎて破滅している人もいるようだがそれは彼らの選択である。

 

貴賓席には来ないように海猫族にあらかじめ伝えていたのだけど、お見合い参加者も賭けをしたいようで客席の方に向かっている。警備上問題があるから止めてほしいので逆に係員を呼びつけることにした。

 

 

「私も賭けたいわ」

 

「誰に賭けます?」

 

「んにゃー」

 

 

賭けの一覧表を海猫族が持ってきてくれて見せてくれる。

 

とりあえず第一回の組み合わせ的には鬼人VS獅子人とエルフVS狼人である。

 

ダブルノックアウトや一試合目に怪我してトーナメントにならない場合もある。

 

 

戦うと宣言した2人を放置してのこの結構な時間、いつもなら参加する奴隷は暇なのか祈ったり踊ったりストレッチしたり睨み合ったり……好きな人に告白したりもするらしい。

 

鬼人ディーンさんと獅子人パルは土の地面に柱を立ててロープを張っただけの四角いリングの隅と隅で立ったまま睨み合っている。

 

柔らかで暖かい雨の中、休むこともしていない。

 

 

「んー……ここは鬼人の方の一撃勝利に金貨3枚賭けますわ」

 

「はい」

 

 

初見の私たちのためにか海猫族の係員たちは戦歴も見せてくれる。

 

ディーンさんはこれまで試合の大半を一撃での勝利で終えている。データ的にはかなりありなようにも思える。

 

当然「どちらが勝つ」だけよりも細かい条件での的中の方が当たった時のリターンは大きくなる。ディア様は大穴狙いのようだ。

 

貴族たちの賭けが終わると早速試合が始まった。

 

 

「 試 合 開 始 ィ ィ ッ !!! 」

 

 

あれ?両者ともに構えない。

 

どちらも構えずに……静かにリング中央まで歩いていった。

 

リンゴひとつ分もないほどの距離にまで顔が近づき、お互いに顔を楽しそうに歪ませいる。

 

 

「――――やるか」

 

「ゴルル」

 

 

ゴガンと――――轟音が会場内に響いた。

 

 

同時に顔面に拳が入って、お互いが衝撃にのけぞるもまた相手に向かって激しい一撃を放ち合っている。

 

お互い避けることもせず……到底人体から出たとは思えないような音を立てて殴り合っている。

 

ドガンドガンと衝撃を伴う、工事現場の近くでしか聞いたことのない音だ。どちらも顔面狙いで避けようともしない。

 

 

「そこだ!」

「ディーン!ディーン!!」

「負けるなぁ!!」

「ニャー!!」

「行け行け!!!」

 

 

会場もワンワンニャーニャーゴルゴルと沸き立っている。

 

どちらもめいいっぱい拳を後ろに引き、顔面をぶん殴りあう。

 

避けるようなことはせずに、双方の口角が愉快そうに釣り上がっている。どちらも凄まじく頑丈。

 

 

「ゴルル!やるなぁ!!」

 

「お前こそな!お前のような強者と戦ってこそだ!!あぁ!この日、この時、この場にいられるほどの幸福は他にないだろう!!ラァっ!!」

 

 

喋りながらも楽しげに殴り合う2人。

 

 

「グルルル、光栄だァっ!!!」

 

 

ふっとばされたディーンさんが立ち上がって勢いをつけて殴りかかる。同じくパルさんもふっとばされて、また殴りにかかる。

 

重量級の2人の衝撃で地面が削れていく。

 

直ぐに立ち上がれば審判の中断もないようだ。完璧に倒れた場合には継続の意思を確かめるはずだが。……思ってたボクシングと全然違うな。

 

 

「そうだな!だが俺が勝つ!!」

 

「ははは!お前のような強者と戦えて光栄だ!!だが俺が勝つ」

 

 

双方、殴られてふっ飛ばされることはあっても譲ること無く、双方同じ回数を殴り合っている。

 

ディーンさんの拳はまっすぐに。パルさんは少しフック気味に。双方顔面狙いで。

 

普通なら一撃でも当たれば死んでしまいそうなパンチなのに。

 

 

「ははは!ここまでの強者と出会えるとは!ここに来れてよかった!!」

 

「ゴルルル!!俺もな!お前のようなやつを打ち倒せると思えば最高の気分だ!!」

 

「ぬかせぇ!!」

 

 

お互いに傷も増えてきて、ディーンさんは眉のあたりを切って流血していた。パルさんも良いのが入ってふらついた。互いにかなりのダメージのはずだ。

 

だけどまだ拳の勢いは衰えていない。

 

しかしいつまでも続くわけがない。

 

危険な打撃音はそれだけの破壊力を示している。

 

 

 

どちらかが逃げるかどちらかが倒れる。どちらにせよ――――……直ぐに決着がつくはずだ。

 

 

 

「ゴルル!おまガッ?!」

 

「……あっ!!?」

 

「両者そこまで!!反則により、勝者ディーン!!」

 

 

 

楽しそうに血を流して殴り合っていたが、唐突に勝者が決まった。

 

ディーンさんが殴った瞬間に何か言おうとしたパルさんの牙によってグローブが激しく裂けた。ディーンさんの拳の背から前腕中程まで血が溢れた。

 

攻撃手段はあくまで『拳』である。爪でも牙でも角でも反則となる。

 

 

「「なっ!?」」

 

「わざとではない!」

 

「わかっている!俺は構わない!まだやれる!こんな傷大したものではない!!」

 

 

傷ついた腕を大丈夫だとアピールしている鬼人。

 

両者ともに偶然だったのだろう、審判に続行を求めている。

 

 

「喋りながら顔面を殴り合っていたんだからそうなっても仕方ないだろう!続けるなら次の相手に失礼になるぞ!!」

 

 

王都でやっていた頃はここまで亜人が多くなかったため少しルールも変わるのも頷ける。

 

確かに角のある種族がパンチに対して頭突きをすればそれは防御に見せかけた攻撃になる。故意ではなくても大きく血が出てしまっている……審判の判断も理解できる。

 

 

「ぐぅ……」

 

「すまん」

 

「いや、俺も楽しくなっちまってな。またやろう」

 

「ガゥアゥ、またな」

 

 

こうしてパルさんは牙の使用による反則負けとなり、ディーンさんは腕の治療に向かっていった。

 




コメント嬉しいです(*´ω`*)原稿作業とかで忙しく、なかなか返せずごめんね!
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