水魔法ぐらいしか取り柄がないけど現代知識があれば充分だよね?   作:mono-zo

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第318話 スピード⌒テクニック

 

 

「誇り高きヴァンディアズルはセンス一族として!我らがリヴァイアスに誓って戦う!これは誰かに命じられたからではない!俺と部族の有用性と忠誠心を見せるために戦う!センス商会もよろしくぅ!!」

 

「スーリは……スーリ・リリヤ・リリルリ・パルルカン・ユーグ・レミルは――――必要だから勝つ」

 

 

次はヴァンディアズル・センス……なんか覚えやすいな。彼とエルフの……すごい名前長い、スーリさんの試合だが勝負になるんだろうか?

 

対象的にヴァンディアズルさんは拳を振り上げ、会場を盛り上げているが、スーリさんは長い名前をいった後一言呟いただけ。

 

宣言が終わり、賭けが始まった。

 

 

「外れちゃったわ。んー、次はエルフの方に賭けたいところだけど……取り返したいしここは手堅く行くわ!」

 

「はい」

 

 

エルフの倍率は狼人に比べると低いとはいえ悪くはない。

 

やはり4人の中でエルフは異質な存在に見える。大柄で危険な雰囲気のある、見るからに強そうな3人に比べるとエルフのスーリさんは華奢だ。

 

詠唱無しで使える程度の身体強化ならありだけど詠唱できる魔法はなし、拳だけで戦うルール。……なのに優勝経験があるということはそれなりの実力者のはずで、きっと身体強化も使えるはずだ。

 

 

先程の賭けよりも皆真剣なようである。

 

 

なにせ貴族たちは己の立場のためにか……結構な額を賭けていた。そして現在、賭けの勝者と敗者が隣り合う状況となっている。

 

彼らは連続で負ければ「見る目がない」とか言われるだろうし、色々と考えて賭けているようだ。聞こえる声の中には「リヴァイアスの領地なんだからリヴァイアスの戦士に賭けるべきではないか?」とか……かなり真剣に、結構なお金を使っている。

 

もちろん彼らの使う金額は平民よりも桁が大きいため運営側としては嬉しい気もするが、後で大金を失った人が何かしでかさないか不安なのであまり賭けすぎないようにしてほしい。

 

 

「 試 合 、 開 始 ィ ィ ィ !!! 」

 

 

審判の掛け声でヴァンディアズルさんの姿が――――消えた。

 

気づいた時には既にスーリさんの真横から拳が突き出された後であった。スーリさんはその拳を両手で押し出すようにして横に立っていた。

 

 

「シィッ!!」

 

「……」

 

 

ヴァンディアズルさんはしなやかに動き、目まぐるしい動きで撹乱している。

 

後頭部や足を狙っての鋭いパンチ。手を開いて手刀も……手のひらも使っている。

 

前世では確か禁止だったような気もするが……まぁ掴んでないのならありなのかな?関節技や組み伏せたりはしてはいけない。あくまで「立って」「拳を使った」「殴り合い」だ。

 

ただスーリさんは驚くべきことに、手のひらを使って最小限の動きで攻撃の全てを逸らしている。ヴァンディアズルさんの猛攻に対してスーリさんは何事もないような表情で、緊張感もなくフラフラと動き……未だに直撃していない。

 

 

喋りながら派手に殴り合っていた先程の試合と違って、この試合は両者無言である。

 

 

音響の魔導具のせいか、リングの上の移動や呼吸、攻撃を受け流すような音が会場に響いている。

 

ヴァンディアズルさんは常に激しい動きをしている。空気を切り裂く剛腕、どの攻撃も直撃すれば終わりそうなのにスーリさんには当たらない。私にはわからないが独特な動きですべての攻撃を防いでいる。

 

スーリさんのその動きには迷いがなく、ヴァンディアズルさんの攻撃はその全てが予定調和かのように当たらない。

 

攻撃しなければ勝てないと思うのだが……まだ底の見えないスーリさんには期待感もあって目が離せない。

 

 

高速で動くことで砂埃が舞い、ほんの一瞬だけどスーリさんが真後ろにいる狼人を探しているようにしていて――――明らかな隙ができた。

 

 

その瞬間、ヴァンディアズルさんの左ストレートがスーリさんの後頭部を捉えたかと思ったのだが、拳は頭を通り過ぎていて……いつの間にか向かい合っていたスーリさんの右の掌底が伸び切った狼人の肘の外側に炸裂した。

 

 

「ぐっ」

 

「……どうする?」

 

 

打たれた肘から鈍い音が聞こえた。

 

一瞬で離れたヴァンディアズルさん、スーリさんの頭は狼人の手首の内側にあって伸び切った肘を外から叩きつけたのだ。ヴァンディアズルさんの肘は脱臼か骨折をしていてもおかしくはない。

 

ダメージになったのだろう。拳が肘にあたった後、明らかに表情が曇っていた。

 

スーリさんからの追撃はない。距離を取ったまま睨み合っている。

 

その時、鐘が鳴った。

 

第一ラウンド終了だ。

 

 

「勝負は決まりませんでしたね!」

 

「そうですね!ヴァンディアズル様の速さは素晴らしいものがありましたがスーリ様の試合運びのほうが一枚上手だったようですね!下手をすれば頭に猛烈な一撃を受けてもおかしくはありませんでした!並大抵の胆力では出来ないでしょう!!」

 

 

第一ラウンドが終わり、試合の解説が入った。

 

2人には係員から椅子が差し出され、スーリさんはさっさと座ってヴァンディアズルさんは観客に手を振っている。

 

 

「普段なら常に解説をいれるところではありますが本日は領主様に見ていただいておりますので厳かに進めさせていただいております!それに先程の試合は解説の必要もない!真っ向から殴り合う試合運びでしたからね!」

 

 

やめていただきたい。

 

領主様ってワードでこっちに手を振ってきたりしたりと視線が集まる。よくわからない緊張が走るのだ。笑顔を取り繕って手を振っておく。

 

 

「そうですね!センス商会はヴァンディアズル様の母君が運営する革製品を作る商会!革を加工した鎧は匠の技が光ります!頑丈な袋や細工の施された財布は買って損はなし!ぜひ買って帰られては如何でしょうか!!スーリ様のディガッシュ商会はオベイロス国の南方の大商会!リヴァイアスでは肌触りの良い生地を売ってます!!多くの商品がありますが何と言ってもその生地が見どころ!!こちらでは売ってない商品も南方の本店にはありますのでご要望があればぜひお声がけを!!」

 

 

あ、宣伝も挟むんだ。

 

若干くどいようにも思えるが、『賭け』と『宣伝』がされることで弱い奴隷も解放できるチャンスとなる。

 

普段からちゃんとしてくれていることが感じられて少し満足である。

 

 

「そろそろ選手も休憩が終わったところでしょうか!いやー、我々、出番があってよかったですねぇ!」

 

「本当に!私の見立てでは速度と力はヴァンディアズル様が勝りますが経験と技量はスーリ様の方が圧倒的に上に見えます!!」

 

「そうですね!エルフといえば国によっては半神ともされます!尽きぬ寿命に桁外れの魔力!!我々には想像もつかないほど戦ってきたのかもしれません!!子どものような見た目に騙されるなぁぁ!!!」

 

 

もしかしたらエルフという種族は精霊鳥のような半分上位種なのかもしれない。見た目は華奢だけどね。

 

 

「 試 合 、 再 開 ィ ィ !!! 」

 

 

そのうちまた鐘がなり、審判が試合再開を告げた。

 

 

「続けるのか?」

 

「この程度、まだ軽いさ」

 

「そうか」

 

「領主様に見てもらうべく、俺もここからは本気を出すことにする。本来ならパルの奴に使う予定だったがそうも言ってられんな」

 

 

左の腕を抱えるようにしていたヴァンディアズルさんだが、左腕を軽く曲げてグローブを開閉している。

 

腕は折れてはいないようだ。そしてまだ、戦意は衰えていない。

 

 

「ただ、領主様は優しく、人死は好まない」

 

 

腰を深く落とし、両肘を曲げ、全身に力をためているように見える。

 

 

 

「だから――――死ぬなよ」

 

 

 

亜人特有の魔法の使い方、血統魔法だろうか。

 

毛がブワリと逆立ち、ヴァンディアズルさんが消えた。

 

 

「……速いな」

 

「まだまだぁっ!!」

 

 

先程よりも速い。ヴァンディアズルさんの一撃はスーリさんの髪を少しかすめた程度。

 

まるでコマ送りのように、打撃が終わった後にその姿が見えた。

 

亜人の使う血統魔法。魔法を放出すると言うよりも身体の何処かに魔力を集中させてなにかの現象を引き起こす。爪やヒレの先の物質に干渉したりもするが基本的に身体強化が多い。

 

あからさまな魔法には分類されないものであれば使用可能で……審判も止めない。それまで以上の、桁違いの速度になったヴァンディアズルさん。

 

先程も目で追うのがやっとだったのに、今度はもう無理だ。

 

凄まじい速度でリング全てを使ってスーリさんに攻撃を仕掛け続けている。

 

スーリさんは先程まで眠そうにも見える表情だったのだが、今は目を見開いて必死に動いている。直撃とはいかないまでも被弾が増えていく。

 

 

解説の言うようにスピードは明らかにヴァンディアズルさんの方が上、ただ技量はスーリさんのほうが上だろう。

 

 

スーリさんは暴風のようなヴァンディアズルさんに対して最小限の動きで攻撃をいなし、避け、躱している。

 

会場に降り続けている雨はそう強くはないが、雨にも負けず砂埃が増えていく。ヴァンディアズルさんはピンボールのようにロープ内を駆け回って攻撃を仕掛け続ける。中央で最小限の動きで避け続けているスーリさん。

 

先程の破壊力と耐久力勝負ではないが、だけど同じくこのまま行けばどちらにせよ勝負は直ぐにつく。

 

これはこれで見応えがあり、会場の熱気がすごい。

 

 

唐突にヴァンディアズルさんの動きが止まった。決着かと思ったのだけど、そうではないらしい。

 

 

「ガゥ……その目、やはり見えているな」

 

「見えている。それでいて感じているだけさ。もう終わりか?犬っころ」

 

「……安い挑発だな。これまでの戦い、相手を怒らせて疲労で勝っていたのも知っている」

 

「そう、それで?」

 

「たしかにこのままやっていれば魔力切れになるかもしれんな……だが俺にも意地がある。殺さぬようにしていたが、その技量であれば殺す気でやっても届かぬかもしれん」

 

「私はそこまで強くないぞ。死んでしまうかもしれんな」

 

「嘘つきが――――」

 

 

彼らの声が、会場に響く。

 

ヴァンディアズルさんは大きく体を沈め、後ろに腕を大きく引いた。

弓矢を放つように、いや、一発の銃弾のように凄まじい加速をして攻撃した。

 

 

 

「―――― グ ル ゥ ラ ァ ァ !!!」

 

 

 

一瞬の交錯、ヴァンディアズルさんの凄まじい速度の攻撃に対してスーリさんは空を舞い、掴めない羽根のようにひらりと避けた。

 

 

「――――――――――」

 

 

何かをスーリさんがヴァンディアズルさんの耳元で呟いた?

 

ヴァンディアズルさんは怒りの形相となり、体を捻ってスーリさんの顔面を下から凄まじい勢いで空中で無理やり殴った。直撃したかと思ったのだがスーリさんはここがスケートリンクでもあるかのようにくるりと回転させて体をねじり、最後には後頭部を地面につける寸前まで体を反らし……またしても羽根のように二度目の攻撃も避けた。

 

 

「ヴァンディアズル様場外です!!審判の判定は――――勝者、スーリ様ぁぁぁ!!!!!」

 

 

ヴァンディアズルさんは加速の乗った攻撃は避けられ更に無理な体勢から追撃しようとしたため、勢いを止められずにリングのロープにあたって外に飛び出していってしまった。

 

反則負けの項目には「自らの勢いで身体が場外に飛び出してしまう」なんてものもあった。

 

殴り合って偶然出てしまった場合は問題ないが、これを許せば「突進に成功するまで何度でもトライする」事ができる。やられる方はリスクばかりで、やる方はほぼリスクなしである。

 

そのため事故を除く、接触なしの突進による場外は反則になってしまう。

 

正直今のは攻撃を避けられる前提の攻撃じゃなかったようにも思えるが……審判がどう判断するかもこみで、スーリさんの技量が一枚上手だったということだろう。

 

 




裏で水ぐら関係の作業をしています。たくさん読んでくれてありがとうございます(*´ω`*)
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