水魔法ぐらいしか取り柄がないけど現代知識があれば充分だよね?   作:mono-zo

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第320話 領主∞???

 

ちらりと貴族の集まる席のポヨ令嬢を見る。

 

彼女にとっては愛しのドゥッガの試合だったし一体どんな顔をしているのか気になった。

 

 

「はぁあぁぁ………」

 

 

指を絡ませ、両手を口の前に当てて乙女の顔をしている。

 

頬まで赤くして、目がキラキラしてて……これが恋する乙女の顔か。

 

 

「…………」

「…………」

「…………」

「…………」

 

 

不良娘で知られている彼女の変化に周りはめちゃくちゃ目を逸らすか俯いている。

 

きっと乙女顔になっていることに気がつけば……照れ隠しで貴族社会から追放されかねない。

 

私も気づかなかったことにしよう。気付かれたら照れ隠しにくすぐられてしまう。

 

 

次の試合は私とスーリさんだけど、どんなルールを望むか確かめに行ってもらった。

 

なにか言語の壁で勘違いしていたり、間違っている可能性もある。

 

確認してもやはり「魔法ありで全力でやってほしい。自分は拳闘」とのことである。それと広い方が魔法は使いやすいだろうからとリングは無しの方が望ましいと……。

 

派手に吹っ飛んだディーンさんによってリングの柱もロープも駄目になっているし、それは良いんだけど……。

 

 

……なんだろう、すごく腑に落ちない。

 

 

スーリさんの要望は「リングは無し、こちらは魔法あり、スーリさんは魔法なしで拳闘、そして私に本気で戦ってほしい」だけど……スーリさんにとっては不利になる条件ばかりである。でも私を指名してきたってことは何らかの思惑があるのかもしれない。

 

もしかして私をコロシアムの下に連れてくればどこかに潜んでいるヒットマンが仕事をする……とかかな?

 

普通の水魔法使いなら魔法を操れる範囲に制限があるもんね。私が魔導鎧を動かしていたのは会場入りしていなくて見ていないのかもしれない。それに雨だって魔導具で止めていると思われているのかも?

 

 

「うーん……エール先生。スーリさんの意図がわからないので警備を強めてください」

 

「はい」

 

「私が下で魔法を使うように誘導しようとしているなら、観客席か控えの通路などに刺客を忍ばせている可能性があります」

 

「……かしこまりました。鼻の良いものに調べさせます。それとゴーガッシュ周辺にも人をやります」

 

「はい。まぁ私はここから魔法を使うんで下で見てる人たちを帰らせるか観客席に戻す間に対処をお願いします」

 

「はい」

 

 

コロシアムでここまで戦ってきた参加者はリングの近くでボクシングを見ていた。

 

彼らの中に暗殺者を忍ばせていた場合、スーリさんのよくわからない要望も意味を持つ。

 

私はこの席から魔法を使うからもしも暗殺者がいた場合には想定を覆すことも出来るだろう。そもそも危なそうな場所には近づかない。昔の人も「君子危うきに近寄らず」って言ってるね。そもそも暗殺者がいるかもわからないけど。

 

 

強まってきた雨、ちょっと雨よけに使っている魔法を工夫する。

 

 

「 試 合 開 始 ィ ィ !!!! 」

 

 

コロシアムには複数の審判が遠巻きに見ているだけで残りはミニフリムとスーリさんが向かい合っている。

 

先程までと違ってリングを使わない上から俯瞰して見ているため会場がとても広く感じる。

 

 

「<水よ。魔導鎧よ。――――打倒しろ>」

 

 

水を使ってコロシアムの外周に並べていた魔導鎧たちを前に出して、攻撃を仕掛ける。

 

正直要望通りの「本気」ではない。本気ならこの会場ごと水没できる。

 

巨大な魔導鎧たちは見た目こそ猛威だがあくまで手加減だ。

 

 

「っ!!?」

 

 

巨体の魔導鎧たちが軽やかに動いて攻撃を仕掛けていく。

 

スーリさんは眠たげな顔だったのだけど魔導鎧たちはそれぞれ結構なスピードで動く。直ぐに余裕な顔など無くなり、必死に捌いている。

 

どの魔導鎧も伯父上に対抗するためにも練習した。

 

何度も試行錯誤して作り直していく内に人型以外は操作感が違いすぎて慣れなかった。そのため最終的に人型のⅥ号機ちゃんを使っていたが。

 

どれも私が乗ることを想定してジュリオンよりも大きい。そして伯父上と戦うためにかなり頑丈に作られている。……王都よりもリヴァイアスのほうが使いやすいな。自分が乗るよりも俯瞰して動かすほうが揺れないし動きも滑らかで自由に動かせる。

 

殺傷可能な金属製の武器は壁において素手で戦っているが、そもそも魔導鎧の体そのものが凶器となる。動かしにくい異形型や私自身がもいまいち動かし方のわかっていない樹人型なんかは壁際に置きっぱなしにして動かしやすいタイプだけ動かす。

 

スーリさんも必死に逃げていたが、巨人とも呼べる魔導鎧たちの猛攻はスーリさんを確実に追い詰めている。

 

どのタイプも当たるだけで普通の人なら大怪我をしかねないだけの『質量』がある。身体の何処かがぶつかればそれだけでダメージになるだろうし、逆に魔導鎧は生物ではないため自身を守る必要すらない。

 

 

スーリさんは達人のような体術で華麗に凌いでいたが限界はある。

 

 

人体であれば関節の可動域が決まっているし動きが予想できるだろうけど、魔導鎧はゴムと金属がメインのため人には出来ない動きもできる。

 

腕が多い魔導鎧なんて肘が突然反対側に動くのだ。普通の人体ではあり得ない攻撃が何発も被弾していくスーリさん。

 

両手で蚊を叩き潰すようにスーリさんを狙い、足首を捉えることに成功、しかしすぐに離れられてしまった。

 

内部構造が未完成かつ整備のために骨格の抜き取られたドラゴン型なんて実はゴムボールのようなものだ。普通にぶつけても避けられそうだったのでドラゴン型をきりもみ回転させてぶつける。

 

予想外だったのかそれとも足のダメージがあったのかダンプにはねられたかのようにスーリさんが激しくふき飛んだ。

 

 

「あぐっ?!」

 

 

少し心苦しい。しかし彼女の要望は本気でやってほしいということだった。

 

けど本気ではない。魔導鎧は武器を持たせていないし、水や氷によって同時に攻撃も行っていない。本気とは言えないが……虐殺ショーをしたい訳では無い。今でもちょっとそんな感じに見えなくもないが。

 

大きな怪我をさせないように、壊さないように、丁寧に攻撃を調整する。

 

ドラゴン型の体当たりも少しやりすぎかと思ったんだけど、どれも致命傷となりうる攻撃なのに当たっても直ぐに走ってミニフリムに向かって攻撃を仕掛けようとしてくる。

 

ケンタウロス型で攻撃を仕掛けると避けられ、肩を足場にミニフリムに迫ってきたので蜘蛛型に内蔵型ワイヤーでその足を絡め取り会場の壁に投げる。

 

コロシアムの壁が大きく壊れたたが、それでもスーリさんは止まることがない。凄まじく頑丈だな。

 

芋虫型は出番がない。ミニフリムの前で壁にしているだけだ。

 

他の使いにくい異形型のように動かさないでも良かったのだけどミニフリムの前においておくことで事故を防ごうと考えた。

 

芋虫型は内部の構造が未熟な上、外装の重みで動かしにくい。

 

だが防御力が特に優れている。本来なら大きな芋虫の内部には私が乗りこむことで、小さな部屋ぐらいの広さに快適さ、さらに防御力を上げたものである。流石にミニフリムをこれの中に乗せるのはずるい気もするし乗せていない。目立つように内部に乗せるではなく、芋虫型の上にミニフリムを立たせている。

 

独特なステップをとり、ふわりふわりと踊るようにミニフリムに向かってきたスーリさん。

 

魔導鎧たちによる連続攻撃を仕掛けるが今度はどれも当たらない。

 

 

「これで勝ち。言うことを」

 

「勝ちではありませんね<水よ>」

 

 

攻撃してくる魔導鎧の巨体に隠れ、するりと前に出てきたスーリさん。魔導鎧たちの一群から距離を取って芋虫型の前に出てきて勝利を確信しているようだ。

 

芋虫型の前に水の壁を展開する。飛び越えようとするスーリさんの足を水の腕を壁から発生させて掴み、地面にひきづり倒す。

 

手加減はしているが、ここまで魔導鎧の攻撃されても降参しないスーリさん。

 

魔法も使ってくれという要望だし、どこまでやっていいかわからないがこれで諦めないかな?

 

審判も止めようか迷っているようだ。ボクシングじゃないもんねこれ。

 

とりあえず本人はすごく藻掻いていて、水の腕も何本か破壊されたが破壊されるよりも多く発生させて身体を拘束していく。

 

もっと強く魔法を使って拘束してもいいけどここはリヴァイアスだし強くしすぎると殺してしまいかねない。でも、普通の人なら死んでもおかしくないほどのダメージをものともしないから止め時がわからない。

 

 

スーリさんは降参するようなことはなく、鐘が鳴って第一ラウンドは終わってしまった。

 

全身ボロボロで、両方のグローブも壊れている。何がそうさせるんだろうか?

 

 

「領主。もっと強い魔法を使って欲しい」

 

「今でも殺しかねない威力のはずですが」

 

「それじゃ意味がない。この身の心配をすることはない。見て」

 

 

駄目になっているグローブを脱いでその場に捨てたスーリさん。

 

右手を手刀の形にして――――――自分の胸の中心に向かって……貫いた。

 

 

悲鳴が観客から上がり、私も遅れて動揺した。

 

 

 

何が起きているのか意味がわからない。

 

 

 

胸の中央に手首まで刺さった手を動かし、その服を血で染めていく。

 

手を動かし、体が少し揺れる。口の端からも血が流れているのに、腕は手首まで胸に埋まったまま動かし続けている。

 

そしてそのままじっと……私を見つめてきている。目を逸らしたいが、スーリさんから目を逸らすほうが怖い。

 

おもむろに手を引き抜き、蠢く臓器をこちらに見せてきた。――――心臓だ。

 

 

「きゃー!!?」

「心臓?!」

「見ちゃいけません!」

「あれはエルフなのかっ!?死霊ではないのか?!」

「なんなんだ!?一体!」

 

 

観客の動揺など知ったことかと何事もなかったかのように眠そうな目をこちらに向けてきて……その心臓を地面に投げ落とした。

 

 

 

――――意味がわからない。

 

 

 

胸に空いた穴は直ぐにふさがり、次は――――頭を額の高さで、手を振って深く切り裂いた。

 

 

 

頭の真横から眉間よりも奥まで。

 

 

 

しかし傷口は瞬く間に治っていた。

 

胸の中央も、頭も…………幻術などではないだろう。皮膚を伝い、服に残った血液でそれがわかる。

 

 

 

「な、何が、したいのですか?」

 

「すぐに治る」

 

 

生理的に恐ろしかった。

 

普通の人なら心臓をもぎ取られれば死ぬ。頭部を半分切り裂いてもだ。

 

スーリさんは……あまりにも異質すぎる。

 

 

「だ、だからなんです?」

 

「勝ったら願いがある。だから水で――――もっと本気で戦え」

 

 

これまで感じたことのない恐怖。ざわめく観客席。

 

そんな中、第二ラウンドの鐘が鳴った。

 

 

「っ<水よ。押し潰せ!>」

 

 

ミニフリムではなく、私をまっすぐ見てきて、一歩踏み出したその姿を見て……手加減できる相手ではないと本気を出した。

 

会場全体にトンカチを振り下ろすように……コロシアム全体の雨よけにしていたドーム状の水の壁全部……皿に周囲一帯からも水を集め、一気に落とした。

 

まるで天井のないコロシアムの中央に大きな柱が出来たかのようにも見える。

 

この一撃は逃げ場もなく質量もあり流石に効いたようで、立ち上がろうとするスーリさんを水流でミニフリムと反対側の壁に叩きつけた。

 

そのまま強い水流で押しつぶし続ける。

 

息もできないはずなのになおも抵抗するスーリさん。だけど私のコントロールする水の中にいる以上、私が負けることはない。

 

スーリさんの周囲数センチほどはコントロールしきれない。きっと別属性ではあるんだろうが強い魔力で抗っているのだろう。

 

だけど数センチ操れなくても、こちらはリヴァイアスにいる以上1キロ先までだって水を操ることが出来る。強い水流で押し潰し続けた。

 

一分か二分か、あるいはもっと長くか……時間はわからないけどとにかく手加減などしない。殺すつもりはないが、それでも本気で水中に閉じ込めた。

 

脱出しようと激しく動いていたが、動かなくなった。意識を失ったのだろう。

 

 

「そ、そこまでっ」

 

 

動かなくなったスーリさんに審判が駆け寄る。

 

これでも動くのなら樹木型搭載の毒や異形型のギミックを使うか、Ⅵ号機の大剣を使うしかなかった。

 

審判がスーリさんを揺らし、呼びかけに反応がなかったがしばらくしてスーリさんは水を吐いて起き上がった。審判となにか話している。

 

 

「………………し、試合終了!勝者フレーミス様!」

 

 

敗北を認めたようで、それで決着はついたが……恐ろしい思いをした。

 

会場に私の勝利を告げる声が響いたが、直ぐに雨の落ちてくる音でかき消されてしまった。

 

私だけではないのだろう。スーリさんのその底しれない異質さを目にして……眼の前で何が起きたのか理解するのに時間が必要なのは。

 




実は重大な発表があるんだ!

裏での作業で3徹したりもしたけど、頑張った!
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