水魔法ぐらいしか取り柄がないけど現代知識があれば充分だよね? 作:mono-zo
予想外の出来事があったものの……私の勝利に一応会場は盛り上がった。
しかし、会場の盛り上がりに反して私はなんかすごい微妙な気分だ。
スーリさんの得体のしれない部分は一旦抜きにしてもモヤモヤしてしまう。
私は経済が好きだ。そして平和や安全が大好きだ。誰かの大切にしている文化に風俗、慣例も尊重している。このコロシアムや賭けの文化も経済と関係しているし奴隷解放のきっかけにもなっていると理解している。――――――が……なんでこう、平和で文化的ではないのか。
さっきまで思い切り殴り合ったりしてたもんね。
もっと、こう、科学コンテストとか絵の展覧会とか歌の発表とか歴史的な資料博物館とかないものか……無いなぁ…………だれだ、この領地の運営者は…………私だよね。
「各自、よくやりました。褒美はそれぞれの使者が届けます!」
これで領民に顔見世も出来た。ボクシング以外にも色々見せてもらったし参加者には褒美を与えることを約束する。
激しく水を使った結果コロシアムはグッチャグチャだし、会場の水は排出しきれていないためここに人を呼ぶのは忍びない。
戦闘も終わって、この顔見世も出来た。終わる前になにか伝え忘れはないか……あ。
「……そうだ。リヴァイアスの民よ!リヴァイアスから連れ去られたとされる領民、おおよそ2700名を引き取りました!彼らは傷ついていますので優しく受け入れてあげてください!!」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
あれ?必要なお知らせだと思ったんだけどな。静かになってしまった。
私の言葉待ちか?
「うぉー!領主様ぁぁ!!」
「ワォーン!!」
「うるさっ?!」
「コケー!!」
「ブルル!」
「「「にゃー!」」」
一気に歓声が響いた。
そうだよね。領民にも家族がいて、その家族が連れ去られて生死不明になっていたら中央への悪感情がずっと胸のうちにあったとしてもおかしくはない。
数が数だけに列車による到着を待ち、順次治療。その後は出身地に戻すことになる。受け入れの準備をしてもらいたい。
「フリムちゃんフリムちゃん」
解散しようと会場の動きを見守っているとディア様が声をかけてきた。
沢山の観客がいるし貴族たちの安全のためにもある程度順番に解散して貰う必要がある。貴族はまとめて動いてもらわないと絶対に誰か勝手をする。
幸いにして海猫族による統率のとれたネコダンスに魅了されて貴族たちはゆっくりしている。「持って帰りたい」とか聞こえるがそれは駄目だ。お仕事として派遣するのなら良いけど。
「はいはい、何でしょうディア様」
「スーリさんには気をつけてね。あの治癒能力……きっと上位のエルフのはずよ」
軽く声をかけてきたということは「今すぐ逃げろ!」といったような緊急ではないのだろう。
「きっとハイエルフね。ハイエルフはそれぞれ強い力を持ちますし、人の形をしてはいますけど人の心を理解せずに問題を起こすこともあります」
ハイエルフ、エルフの上位種で、精霊のような上位存在と同等の存在。
スーリさんがそうだというのだろうか?
「エルフは精霊とも相性が良いこともあってオベイロスとエルフの国々は同盟関係です。あまり交流はありませんが」
「なら問題ないのではないでしょうか?」
強い力を持っていても友好的なら問題はないはず。私も今までに「エルフは危険な種族」と注意されたことはない。
「……とにかく気を付けてね。――――ハイエルフは上位存在で、何をするのか本当にわからないから」
少し渋い笑顔で話すディア様。その笑顔に少し不安を覚えた。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
ちょっと怖い事をディア様に言われてから……なんとか無事解散して城で面会を行う。
ポヨ令嬢とドゥッガに会わせて約束を果たしたい。
「俺、この服、服じゃない、髪、そうだ。髪おかしくないか?なぁ、だれか」
「大丈夫ですお嬢様。とてもお似合いでしてよ」
「そうか?なら、そう、やっぱこの服――――「自信を持ってくださいまし……お嬢様。とてもお綺麗ですよ」
「そうか。………なぁ――――「リヴァイアス侯爵。オギャース様のこのお姿、なにかよろしくない慣習などに当たるものはおありでしょうか?」
ポヨ令嬢は髪や服装を気にして凄くソワソワしている。
彼女の取り巻きの中でも品のある婦人が出てきて褒めちぎっていて、いきなりこちらにパスを渡して来た。オギャースと本人が嫌がる名前を言う辺りポヨ家の重要人物かな?
私から見てもポヨ令嬢はいつもより気合が入っている。
艶がかった紫色の生地のドレスで普段のズボンにブーツとは明らかに違う。……改めて足の先から頭まで見ていく。私に見られて少し不安そうにソワソワしているポヨ令嬢が可愛いと言う他なく問題はない。むしろうちのドゥッガがなにか問題を起こしそうで怖い。
「問題ありませんね。とても可愛いです」
「そう――「はい、お嬢様はとても可愛らしいのです!できれば常に淑女としていつもこのようなお姿…………コホン、リヴァイアス侯爵、突然の質問にお応え頂き、ポヨ家より深く感謝を伝えます」
『家から感謝』を伝えるということはこの人結構な地位なのかな。
「いえ、むしろうちのドゥッガは試合後ですし、こちらの非礼が心配です」
「それは――「気にしねぇから!」お嬢様、お口が悪いですよ」
「うるせぇ!あー、たく!お前らだけ帰れって!俺だけでいいから!!」
「そういうわけには参りません。御相手の方に失礼になりますよ」
「……チッ」
舞い上がっているポヨ令嬢だが取り巻きの制御はできていなさそうだ。
ポヨ令嬢の恋する乙女状態はこの地にいるポヨ家の全員が知っている。いくらグレていて取り巻きを無視して好き勝手するポヨ令嬢であってもポヨ家の一人娘が悪い男にたぶらかされやしないかと彼女の取り巻き連中は臨戦態勢である。
ポヨ令嬢は彼女ら取り巻きを邪魔そうにしていて、蹴って追い払おうと実力行使したのだけど失敗していた。取り巻きの方々はスカートの下に金属製のプレートパンツのようなものはいていたのだ。
あんな重たそうなものをスカートの下に穿いていてよく動けるなと思ったが、それだけポヨ令嬢に対して一歩も引かない意思を見せつけられた。
いつも単独行動をしているポヨ令嬢だけど今日は目的地が決まっている事もあって逃げ場もない。団体行動してほしいと私からお願いしていることも理由かもしれない。
ドゥッガが待機している部屋に行く。事前に令嬢との面会があると伝えていたしちゃんと待っているはずだ。
「リヴァイアス侯爵、フレーミス様が参りました」
部下にドアを開けてもらうと……あれ?ドゥッガ??
「ドゥッガ?あれ?寝てます?」
「……ぐがが…………すぅー…………」
タオルを顔にかけてドゥッガが寝ていた。
ジュリオンが前に出てドゥッガの顔のタオルを外すと……額が拳の形っぽく赤くなっていて腫れている。
一人がけのソファーに完全に体を預けて大股をあけて寝ている。死んではいない。
「わりぃ、寝ちまってた。…………あ?」
「ドゥッガ・ドゥラッゲン様。以前我が家の姫を助けて頂いたそうで感謝とともに礼の品を届けに参りました」
「あ、あぁ?」
ドゥッガ親分にもこういう経験はないのか、それとも寝起きで頭が回ってないのか、頭部へのダメージが深刻なのか動きが鈍く、座ったままである。
親分の前にポヨ家からのお礼の品々が置かれていく。
「つきましては当家のお嬢様といかなる関係だったのか、そこのところくわし――「でてけお前ら!ほら!さっさと!」
「暴力反対ですわ!お嬢様!いたっ!?」
「るせぇ!俺もいてぇ!ほら!俺が大怪我する前にでてけ!!」
ポヨ令嬢が怒ってたくさんいた取り巻きを全員蹴り出してしまった。
思い切り蹴ったようで明らかに足を傷めたポヨ令嬢。その様子を見て取り巻きの人たちは青ざめていた。まだこの場にいたほうがいいんじゃないかと迷ってる人もいたけどポヨ令嬢は回し蹴りのような蹴り方から足の裏で踏むように蹴り方を変えて追い出していた。
息を切らしているポヨ令嬢。それを見つめる私たち。何が起きているかわかっていない座ったままのドゥッガ。
ドゥッガは最近忙しくしていたし、更には試合のダメージがあったのだ。体が休眠を求めたとしてもおかしくはない……脳出血とかじゃないよね。おでこ全部腫れてるけど。
「……はっ。そ、そ、その、ドゥッガ様」
「はい」
ジュリオンにつまみ上げるように無理やり立たされたドゥッガ。
「以前、暴漢から助けて頂き、あ、あ、ありがとうございます」
「あぁ?んなことしたっけか……そういうこともありましたかな?」
後ろにいるジュリオンから静かに蹴りを入れられたドゥッガ。
筆頭家臣として面会しているのにまだ寝ぼけているようだ。
「はい!もう駄目かと、誰も助けてくれなくて、助けてもらったのに、その手を払ってしまって……ごめんなさい」
「い、いや!気にすんな!じゃない。気にしないでもらいてぇ!?」
ポヨ令嬢は当時の記憶か、ずっと心に溜まっていたものを吐き出しているのか。涙がこぼれている。
ドゥッガは対応がわからずにパニック状態だ。泣いてる女の子を目の前にどうすれば良いのかわからないようで視線で私や周りに助けを求めている。
「いえ、こちらは命の恩があります。なのに、なのに、怖くなって……あれからずっと探してて、こんなに遅れてしまいました。本当にごめんなさい」
「あぁ、気、気にすんなって!?ほら涙拭いて!?あ、ちがっ、こ、これで!」
ドゥッガはとっさに持っていた……ちょっと汚れた濡れタオルを渡した。
ポヨ令嬢はそれを受け取って顔を覆った。
ジュリオンがドゥッガの尻に蹴りを入れて自分のハンカチをドゥッガに渡した。ドゥッガはそれを受け取ってポヨ令嬢に差し出すが、ポヨ令嬢は泣いてしまった顔を見られたくないのかタオルで顔を覆ったまま動かない。
「本当に、本当に有難うございました!」
「わぁった。わかったから顔を上げてくれって」
しばらくして、タオルを顔から離して大きくお礼を言ったポヨ令嬢。
「私に出来ることなら何だってします!」
「お嬢様!淑女たるもの殿方とそのような約定を取り付けてはいけませ――――「うるせぇ黙ってろ!」いいえ黙りませんとも!お嬢様!」
いつもよりしおらしいポヨ令嬢がとても可愛らしく見える。そこに取り巻きが戻ってきて空気を壊そうとしている。
「その、俺は大丈夫なんで。それにこれだけの品がお礼ってことで……」
「それではお礼になりません!私に出来ることなら何でもします!命の恩ですから!!」
ポヨ令嬢はタオルと、追加で渡されたハンカチを胸元に握りしめて真っ赤な顔でドゥッガに迫っている。教育係らしき人は肩を掴んで引き留めようとしているが力はポヨ令嬢のほうがあるようで止められないでいる。
迫られるドゥッガだがどのように対応するのか、部屋の全員がドゥッガに注目している。返答によってはジュリオンの鉄拳やエール先生のムチが火を吹くだろう。
「じゃあ、息子!息子が困っていたら助けてやってほしい!」
お金とか女性を要求しないのは良かった。
「息子……ですか?」
「そう!ミュード!……ミュラードやトルニー、パキスを助けてくれれば嬉しく存じます。お嬢様と年も近く、貴族として王宮に出入りし始めた新参者です。王宮に慣れていませんし見かけたときにでもお声がけいただければ幸いです」
ちらちらとエール先生やジュリオンを見るドゥッガ親分。エール先生を見るにこの対応は及第点っぽい。
ドゥッガ親分もポヨ令嬢も、私は荒っぽい部分も丁寧に話している部分も知っているからかちょっと不思議な気分である。人の恋愛を知った上で現場で見てるって結構面白いかもしれない。
「お嬢様、お化粧が崩れていますわ」
「そ、そうか?」
「大変みっともなく……一度下がりましょう」
「わかった」
「リヴァイアス侯爵閣下、この度は我が姫の願いを聞いて頂き、感謝申し上げます」
「いえ、私もポヨ令嬢の懸念が晴れて嬉しく思います。こちらのドゥッガも負傷しているようですし治療が必要です。退席を許していただいてもよろしいでしょうか?」
「そ――――「もちろんだ!ドゥッガ殿!息子たちのことは任せてくれ!それと……それとな、ほんとに感謝してる!ありがとな!」
笑って礼を言うポヨ令嬢。
そもそも雨の中観戦していたし、化粧はしていないはずだ。
鼻筋をかいていたドゥッガだがエール先生の視線を受けて背筋を正し、頭を下げた。
「こちらとしてはいつ助けたかも覚えてはいませんが、それでも助かったって言うなら、礼を受け取ります」
「……そうか、そう…………助かったんだ。――――やっと伝えられた。またな」
「はい」
ポヨ令嬢にとってはドゥッガを恋愛対象に思えてしまうほどの、人生を変えるだけの出来事だったがドゥッガは覚えていなかった。だからか……ほんの少し傷ついた表情をしたポヨ令嬢。
退席していくポヨ令嬢を見送る。
「ドゥッガドゥッガ」
「なんでしょう」
頭をポリポリかいているドゥッガに耳打ちする。
「超魔力水を入れておくので少し休んでください。痛々しいので誰か医者を呼んでください」
「あぁ、いえ、俺、骨は丈夫なんだが、肉はそこまでじゃなくて……腫れてるだけで冷やせば大丈夫だ……です。医者にも診てもらった」
「まぁ一応入れておきます。ポヨ令嬢の対応をしてくるので休んでください」
まだ言葉が荒っぽい。きっと私がいない間は荒い言葉遣いのままで過ごしていたと見える。
「わかりました。これにお願いします」
水瓶を差し出されたので超魔力水を入れておこう。
「<水よ。出ろ>……頭部の傷は怖いので、いえ、溺れないように常に1人か2人つけてくださいね。それと見事な対応でした」
「貴族の嬢ちゃんの対応とかよくわかんねぇ……」
「手出したら駄目ですよ。いや、出すなら覚悟して出してくださいね。彼女はポヨ家の御令嬢です」
「出すかよ!?」
4巻の作業で〆切バトルのためデスマーチして、魂削って書いていました。
途中、カフェインを入れようとコーヒーを飲み、飲んでる途中に何故か疲労軽減のキレートレモンの瓶を無意識に開けて……キレートレモンをコーヒーだと疲れた脳で誤認して飲んでとんでもなく咳き込みました。
3サイト全部投稿遅れました(;´Д`)ユルシテ……ユルシテ……。