水魔法ぐらいしか取り柄がないけど現代知識があれば充分だよね?   作:mono-zo

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第326話 干し芋/つながり

 

会話の流れからポヨ令嬢とも少し話してみることにした。

 

彼女は私に優しくしてくれるが基本ツンツンしているし、派閥や取り巻きのこともあって起きている時には話せるような機会はない。そして寝ているときには家族がいる。

 

だからあまり表向き親しく話してはいなかった。きっとポヨ令嬢的に配慮してくれているのだろう。

 

 

「そう言えばどんな精霊なんですか?」

 

「いつもいるんだが……ふんっ!――――こいつだ」

 

「<キュー!?キュー!!? キ ュ ー !!!>」

 

「うるせぇ!」

 

 

首の後ろ、うなじのあたりに手を突っ込んで掴みだされた精霊。

 

毛皮の襟巻き?いや……真っ黒に白のまだら模様のあるフェレットみたいな姿、ちょっと長くて太い。どこにしまわれてたんだ?

 

 

「暗くなるとこいつうっせぇんだ。だから俺いっつも寝不足でな、昼でも視界は暗いし最悪だ」

 

「<キュ!>」

 

「いてぇなクソ!やんのか!!」

 

 

自分の精霊と殴り合い始めたポヨ令嬢。精霊も精霊でキックを素早く避けて頭突きして反撃している。

 

そこに敬うという気持ちは一切なく……まぁいっか。ちなみにこの精霊はお酒好きらしい。

 

ルカリムみたいに何か特別な能力があるのか聞くと少し神妙な顔をしてから教えてくれた。

 

 

「夢以外だと、少しばかり認識を変えれる。だいたい取り巻きから逃げる時に使ってんな……秘密な!」

 

 

彼女はよく護衛や取り巻きを置いて逃げることがあるが力技以外にそんな方法で逃げていたのか。

 

昔はこの精霊は言うことを聞いてくれなかったが良い酒を手に入れてから言うことを聞いてくれるようになったそうだ。

 

護衛や取り巻きは大変だな。気がつけば護衛対象がいなくなるなんて。

 

 

「何か負担があるんですか?」

 

「こいつ、肩にずっと乗ってるし重いんだよ。しかも機嫌が悪いと余計暗くなるし首をカリカリ噛んで来て鬱陶しい」

 

 

それは精霊というよりも悪霊や幽霊のようなものではないかな?

 

精霊と目が合うとふてくされた顔でフンと視線を逸らされた。

 

 

「こらっ!リヴァイアス酒をくれてる相手だぞ!?」

 

「キュッ!?キュゥゥ」

 

 

精霊はこちらを見て細長い胴体を二足で立って手をフリフリしている。つぶらな瞳でこちらを見て……愛嬌を振りまいているようだ。

 

 

「お前……俺との態度が違いすぎんだろ!?」

 

「キキキキキ!」

 

 

ミィアの言葉に対してミィアを見てにやりとした後に笑い始めた。人間臭いなこの精霊は。

 

 

「なんて名前なんですか?」

 

「まだ名前を教えてくれなくてな。だから適当でいい」

 

 

一緒にいるけど名前を知らない。そういう精霊もいるんだ。

 

 

「別人に入れ替わるのは便利なこともあるんだがな。ただこいつの機嫌が悪いとせっかく抜け出そうとしてるのにいきなり姿を見えるようにしやがる。ばあやに何度しばかれたことか」

 

「まぁこれからもよろしくお願いします。またミィアにお酒は渡しますね」

 

「キュッ!」

 

 

握手のつもりで手を伸ばしてみると両手を振り上げてペシンと叩かれた。

 

痛くはない。だけど敵意も感じないし、むしろご機嫌でペシペシしてくる。この精霊なりの挨拶なのかな?

 

 

「お前の酒は――今日はなしだ」

 

「キュ!?キュゥウ」

 

「うっせぇ戻ってろ!あ、噛むな?!クソ!!」

 

 

甘えたような声を出した精霊だったが、むんずと胴をミィアが掴んで首筋に戻された。精霊の定位置は私と同じである。

 

精霊の中でも自然な属性を発生させる以外に特殊な現象を起こせる精霊はとても稀らしい。何人かはエール先生から教えてもらったがタロースとドゥラッゲンの精霊が高位貴族の中では有名らしい。

 

出される土や岩石は出された直後は鉄よりも硬くなるし、タロースは巨人が入ってるかのような鎧が術者の意思とは関係なく動く。ドゥラッゲンであれば出された岩が竜のような輪郭で浮かび上がり生命体のような動きをする。

 

ある程度術者によって形状は異なるがタロースの青銅巨人とドゥラッゲンの岩竜は事例として上げやすいそうな。土の家は多くあるが名家となるのはいつもこの二家で、常に大家の座を巡って争い合っている。

 

近年は本家ではなく分家当主のダワシ・ドゥラッゲンが飛び抜けて強いらしい。

 

ちなみに他の土の家では「出した土で野菜が育ちやすい」とか「数回だけよく弾む石が出る」とか「二つの石を近づけると重みが増す」などという効果があったりするそうな。

 

火のフェニークスは火の中でも珍しく、「自己治癒力が高まる」などの効果があるらしい。それにフェニークスには「フェネイクス」や「ポイニクス」「フェイキス」「ベーヌ」なんていう見た目の近しい精霊が複数いて、ある程度助け合っている。フェニークス家からポイニクスの加護を授かることもあるし、逆もまたある。能力は違うそうだが火の家とフェニークス家の数の多い理由はこの辺にあるらしい。

 

 

「…………なんかすまん」

 

 

興味深いし、ウンウンと話を聞いていたのだが急に渋い顔になったミィア。

 

 

「なんで謝るんですか?」

 

「フェニークス家、いや、火の家が水の家の人間を多く焼いた。こんなこと水の家のフレーミスに話すことじゃなかった。悪かった」

 

「私は気にしませんよ。それよりもたまにはフリムって呼んでくれて良いんですよ?」

 

「フレーミス……呼んでやりたいが起きてる時にうっかりしちまったらローブの内から刺しかねねぇ。勘弁してくれ」

 

 

少し申し訳無さそうにしているミィア。

 

私と親しくすればポヨ派閥がどう動くかわからない。私は愛称で呼ぶように言われたし親しくさせてもらっているため無駄な気もする。しかし、彼女にとっては何か名前の呼び方は特別な意味でもあるのかもしれない。

 

そう言えば彼女の母親はオベイロスでも特異な存在らしい。彼女の名付けをした人物でもあるが……何か関係あるのかな。

 

 

「じゃあフェニックス、じゃない。フェニークスについてもっと詳しくお願いします」

 

「あぁ」

 

「私も興味があるわ」

 

「母さん?」

 

 

黙って見守ってくれていた母さんが口を挟んできた。

 

母さんはこちらの言葉はわからないはずだけどどうかしたのだろうか?

 

 

「その固有名詞の精霊?よく考えたら興味深いのよ」

 

「凄い?」

 

「んー、ルカリムやドラッゲン?とかは調べても出なかったの。でもね、フェニークスはフェニックスだし、オルカスはそのままシャチよ」

 

「そうなの?」

 

「そう、それに魔法とかは地球にはなかったけどね。異世界なのに人の形が同じで名詞や伝承が似通ってるのはとても興味深いわ。それにさっき見たイタチかテンみたいな精霊?どう見ても言葉に反応してて知性もあったわよね」

 

 

母さんが言うには他の星、他の世界に同じ人間のような生物がいることがおかしいのだとか、ヒトデとか蜘蛛とかは人間とはかけ離れた姿をしているけど、そういう種族が社会を作っていてもおかしくはないそうだ。

 

母さんは主婦になる前はこういう文化を調べる仕事をしていた。

 

その為母さんなりになにかの推測があるのかもしれない。

 

 

「そっちの世界にも人間がいて、骨格や内臓の動きが同じなんて……どこかで何かしらの繋がりがあるとしか思えないわ」

 

 

私のいる世界と地球はどこかで繋がっているのかもしれないとのこと。

 

 

「ヨルムンガンドはウロボロスと混同してるのか少し違ってる気もしたけど、そもそも昔の伝承なんてそれらが記述がされた当時でもなければ調べようがないわけで……まぁ良いわ。そのアホ毛もかわいいわね」

 

「母さんいきなり話が飛ぶの変わってないね」

 

「ちゃんとポヨさんにお礼するのよ」

 

「わかってるって」

 

 

母さんは少し変わってる部分がある。よくはわからないがミィアに近づいて……肩に乗って寝ていた精霊に二礼二拍手一礼して頭を下げていた。

 

精霊もミィアからすればよくわからない行動のようで目をパチクリさせてびっくりしている。私もびっくりだよ。

 

 

「これどうぞ、ポヨさんも」

 

「キュ!?キュ~」

 

「え?え??フレーミス、なんて言ってるんだ?」

 

「母さん?!えっそれどうしたの?」

 

 

何かを精霊に渡している母さん。

 

この夢の空間に物の持ち込むは出来ないはずなんだけど!!?

 

 

「服って繊維じゃない?だからさつまいもを干して服に縫い付けて持ってきたのよ」

 

「……………………あ、ミィア、お菓子なんで受け取って欲しいって」

 

「この黄色いのと紫のは食い物なのか?」

 

「…………それです。なにそれぇ」

 

 

たくわんを大きくしてシナっとさせたかのような見た目の干し芋。ミィアに渡された分を横から取ってそれぞれひとくち食べて返す。

 

小さくかじるだけで強烈な芋の甘味が広がってくる。

 

 

――――……あぁ芋の味だ。

 

 

 

「こらっ!人の分をとるんじゃないの」

 

「いや毒見、こっちの貴族社会じゃそういう文化もあるから。っていうか紫色のやつ混ぜると毒々しいって」

 

「あらそう?」

 

 

精霊様は干し芋を随分気に入ったようで自分の分を食べた後はミィアの分を狙い始めた。

 

これまでにもポケットにスマホやメモ帳を入れて持ってこようと実験はしていたがうまくいっていなかった。

 

これまではそういうものを持ってくることができなかった……けど母さんの思いつきによって干し芋を服に縫い付けてみたそうだ。それはありなのか。

 

 

……ん?

 

 

「和樹、ちょっと脱いで」

 

「どうした姉ちゃん」

 

「調べたいことがあってさ。ミィア、いやポヨさんがいるから父さん母さん壁になって」

 

「貴族の前では服脱いじゃ駄目なのか?」

 

「違う。下脱いで」

 

「え”?」

 

 

うちの家族は基本的にパジャマで寝る。

 

だけど和樹は何故か普段着だ。きっと寝落ちしてこちらに来たのだろう。ということはズボンにはチャックがあるはずで……調べてみたい。

 

 

「慎重にね。チャックの部分の金属が見てみたいの。スマホを持ってこれないなら金属のベルトやその部分がどうなってるのか気になる」

 

「そういうことか……ナンダコレ?」

 

 

脱ぐまでもなく、ベルトとジッパー部分の金属だけが黒い靄がかかっていて見えない。

 

 

一気に青ざめた和樹。下手したらその部分に接触して――――万が一消滅でもすれば……どうなるかわからない。

 

 

震える手でズボンを脱ごうとしている和樹。

 

金属部分がどうなってるのか気になるのだが現在幼女の私にそれを見せるわけにはいかないと思ったのか妹に捕獲された。

 

 

「おねぇちゃんさー」

 

「なにー?」

 

「……うぅん、なんでもない。可愛いね」

 

 

意図はわかったし、弟とはいえ男性のズボンのジッパーを凝視するとかは流石にはしたないため妹の好きにさせる。

 

妹に抱きしめられて後ろから髪を触られている。

 

死んでしまった申し訳もあって好きにさせているが……姉の威厳とかないなぁ。

 

 

「アホ毛がなかったらなぁ……」

 

「まぁまぁ、唯一無二の個性って良いじゃない!」

 

「いや、個性って意味なら結構色んな人いるよ。肌が岩の人とかもいるっぽい」

 

「変わってるね」

 

 

妹と弟は歳も離れていて幼い頃によく面倒を見たからか懐かれていた。

 

座ってるともたれてくるなんて当たり前だったが、なんか逆は複雑な気分でもある。

 

今日の夢は色々あったし、背中を預けて休む。

 

 

弟の悲鳴は気になるが、まぁなるようにしかならないだろう。

 




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