水魔法ぐらいしか取り柄がないけど現代知識があれば充分だよね? 作:mono-zo
パーティは終わり、集まってきた貴族は帰っていった。
ディア様からライアーム前王兄殿下の子どもやシャルルの嫁候補となる他国の姫君が来ると聞いて、それぞれ何やら慌てていた。
ここは何も起きない辺境……いやちょっぴし経済的に盛り上がってるだけの辺境のはずが、現在は中央の争いのど真ん中である。何かあれば戦地になるんだ。彼らは領地に帰って大事な人は隠し、兵を整えるぐらいするんじゃないかな。
リヴァイアスに味方している側の貴族も私に向かって連絡してほしかったと一言言ったり批難の目を向けてきた。
彼らの立場を考えれば少しばかり配慮したほうが良かったかもしれない。思いつかなかったけど。
まぁ失敗は仕方がない。反省はしてやるべきことをしなければ……フドンさんをドワーフの国に送らないといけない。
ドワーフの商人やリヴァイアスから集めた船乗りとともに帰ってもらう。フドンさんの友人の作った嫁入り用の鏡とリヴァイアス領主としてドワーフの国に挨拶するための品も込みで。
相手が一国だからとへりくだるまではする必要はない。それはそれとして使った船は帰って来る予定だし少し交易品を載せておいた。船旅をするのに積荷を載せても載せなくても危険度はあまり変わりないらしい。
むしろ募集した船乗りたちは「稼いできますぜ、旦那!」とばかりの態度でウッキウキだった。船足が遅くならない程度の積み荷にしておいて、積み荷よりも乗組員の命重視でお願いしてもらう。ちゃんと帰ってきたらボーナスを上げよう。無理せず帰ってきてもらいたい。
フドンさんとは挨拶をせずに別れることとなった。
お見送りぐらいしようかと思ったのだけどそれを伝えると自分はこの地で罪を犯したためそれは悪い前例になるのではないかと遠回しに伝えられたのでそういうものかと納得した。でも宣伝マンとしての効果を期待していることもあって彼には特別出来の良いお酒を渡しておいた。
情報の精度がゴミなこの世界だ。フドンさんの行動はドワーフの国の人が聞けばフドンさんの首が危ない。そこで「貴族間トラブルがあって解決した場合、良い酒を渡しておけば絶対大丈夫。良い酒を禍根が残る相手に渡すことはありえないので」というドワーフの慣習をうちのドワーフに聞いて実行した。
フドンさんは酒樽を全身で抱いて目と口を開いて無言で固まっていたそうだ。
悪役令嬢をする前にここでたくさんの指示を出していたがうまく行っているものもあればうまく行っていないものもある。
人口が増えたことで様々な消費も増えたリヴァイアス。
ここにも氷を作れる魔法使いや海の種族もいるが誰もが私みたいに建物サイズを作れるわけではない。漁業が盛んであり、氷と亜人の皆さんの驚異的身体能力で鮮魚を売っていたわけだが氷はもちろん熱に弱く、結構な速さで溶けてしまう。
前世のように冷蔵庫もなければ製氷機もない。
そのためいくつか地下に貯蔵庫を作ったり、古代の簡易冷蔵庫を作ろうとしてみた。
素焼きの壺を二重にして……間になにか入れていたはず。テレビで感心していたんだけど何が入っていたのか全然わからなかった。
気化熱がどうとかのはずだったけど……私はその壺と壺の間に何をいれるかわからずに失敗した。断熱材をいれると思ったけどそもそも古代の簡易冷蔵庫にそういうものは使われなかったはずで……きっと氷をいれるんだと思ったけど普通に溶けた。
冷たいような冷たくないような。結局のところ効果があるのかないのかもわからずに計画は頓挫していた。
氷も切り出して外で使うのだから外においておく間に使うのに良いと思ったのだ。失敗はしたが……今度父さんに聞いてみよう。私がいる間は氷を作れるから良いんだけどね。
現在は氷を使った鮮魚よりも干物の方が主流となっている。基本的に魚は焼くものなので鮮度よりも日持ちする加工済みのものの方がよく売れるようである。
うまく行っていないといえば私が計画した中でも本命がうまく行っていない。
それは『紙幣』である。前世で経済大好き変な子と言われた私にとって紙幣による信用取引は経済を大きく加速させるものと知っている。
だから導入したかった。
けど紙の品質や印刷技術が未熟だったためうまく行っていない。
コピー機もあるし、うちでは変態……じゃないトルニーが作ったゴムのスタンプもあるがまだまだ技術が足りずに『精密かつに大量の印刷』というのは出来ていない。
やってくる商人には金貨や宝石をこちら基準で少し買い叩く程度の倍率で交換しているがそれだってどれだけ騙されているかわからない。
リヴァイアス内だけでも使える紙幣をと頑張ってはいるものの、紙一つとっても耐久性が無い。考えが一周回って王都のコピー魔導具使えばいいじゃんと閃いたが、それを使うと魔導具の提供元の中央貴族が絶対偽札を作る。他の商人も同じようなことを考えるだろう。
理想は前世の海外にあったポリマー紙幣だ。水をかけても問題なく、普通の人の筋力では破れない。そこまでの強度があれば同じ紙幣が出たとしても偽造されたものかどうか分かるというものだろう。……技術革新がないと無理だな。一旦諦めよう。
紙幣の前に、商人たち向けに『債券』――いや、商人にもわかりやすいように『高額な交換用紙幣』を作れば良いか。
海商はリヴァイアスでの商売を終えて国元に硬貨や別の商品を持って帰る。その際、再び来た時に「こちらの硬貨と引き換えできる金券」があればより身軽に動くことが出来る。
船には積荷に許容量があるし、嵐や事故によって身一つで商売をやり直す保険にもなる。同じく貸金庫や貸倉庫もありだろう。
商人たちにとっても利があるし、ここに預けたものは当然だがここに戻ってこなければ引き出しができない。悪いことを考えるなら「紛失」や「破損」もありうる。そうなればうちは大儲けである。
まぁそれは可能性だし、紛失や破損をしたとしても2つ3つと合言葉や符丁を取り決めておいて再発行できるようにしよう。誠実に商売を行うことで信用や信頼は培われていくのだ。
……変身の魔導具があるんだし、セキュリティはたくさん作らないといけないのか。
出身地・身長・体重・髪の色・指紋・血液型……は無理か。国籍・秘密の質問3つ・幼かった頃の思い出・なにかの符丁や符号などなど。魔法を使えるなら得意魔法や属性もいいかもしれない。
それらを保管する場所もきっと狙われるだろう。前世のスパイ映画や銀行強盗の映画だと正面から攻略する以外にも「職員の買収」や「地下トンネル」とかもあった。そこのところもしっかりしないといけない。なにせトンネルならこの世界では出来る人が多い。
超高額の場合は宝物庫の奥に入れよう。どうせ宝物庫の奥の親族用スペースなんてあっても使ってないしね。
きっとたくさんセキュリティをつけても何かしらの方法で突破される。突破されることを前提にして突破されないようにしなければならない。
面倒でも二つの書面を二箇所で保管、双方の保管箇所を厳重に警備すればどうだろうか?銀行の紙幣や金のインゴッドと違って揃わなければ効力を発揮しないようにすればセキュリティは高価を発揮するだろう。
経済においてなにかの信用を担保にして自分の持つお金以上の金額を動かすことが出来るものだと知っていた。だけど私自身は現物主義であり、自分の自由にできる金額以上を投資することはなかった。
しかし、統治者としては商人に対してなにか貸付を行ったりしたほうが良いはずだ。
家臣にも理解はされていないが商人にも私にも利があるやり方のはずだ。
商人からすれば紙面や符号、符丁さえ持っていれば全財産を失ったとしてもリヴァイアスに戻ってくれば再起が可能となる。普段の商売でもこれほどの約定をリヴァイアスと結べたというステータスになるし、積荷に乗り切らなかった分を預けることが可能。商店をリヴァイアスに作っておけば緊急の引き出しができる。
こちらの利点としては預けられた金銭を領地運営に回せる点だ。もちろん引き出しを求められれば直ぐに引き出しを行う必要があるがそもそも金銭的にウハウハでお金に困っていない。
リヴァイアスやオベイロスの商人に対してなら貸付も行っているのに、なぜにこうも金が増え続けているのだろうか……。商人は船の修理や滞在費で大きなお金を落としてくれる。塩もオベイロス向けで大量に売れているし……ん、漬物が結構売れてる?あ、そうか長期保存の可能な食料は船の上での栄養としてありなのか。
後ミネラルブロックが馬鹿みたいな価格で売れてる?
あれは塩作りで出来た色の悪い部分を固めて家畜と騎獣用にしたものなんだけど……なになに、騎獣が元気になる謎の薬として騎獣レースで人気となり、王都への輸出分に品質が足りない分を試しにオークションにかけると凄まじい値段で売れたと。
なんで塩の塊が金貨と交換されてるんだ?え?塩だよ?塩……売れるのか。
塩や砂糖が家畜の健康に良いのはあまり知られてはいないようだが――――あれ?リヴァイアスの塩だから効果があるのか?!もしかして恵みの雨が降るから超魔力水みたいに、何か体に良い謎成分が凝縮されたりするのかもっ!!?
塩はとりあえず調査してもらおう。
安定を通り越してとんでもない利益も出ていることだし、ある程度貴族や信用のある人物には債券を発行しても良いかもしれない。
私自身は借金なんて縁のない生活だった。だけど、領地経営を考えれば国債……いやこの場合「領債」か?そういうものを出したり、商売の活性化のためにももっと商人に貸し付けるぐらいならしても良いのかもしれない。
だけどそれはそれで良いのだろうか?評判とか……むむむ。
「フレーミス様、休暇をいただきたいのですがよろしいでしょうか?」
「はい。ライアーム殿下の御子息が来るまでの間はたいして動けませんし」
「それまでには必ず戻ってきます」
「お気をつけて」
ジュリオンが休暇に入った。
ずっと働いてくれていて、休む気配がなかったのだけどせっかくリヴァイアスに帰ってきたのだからと休むように伝えてみた。
彼女の弟であるアモスは将軍職をする前には竜人族の族長だったわけだし、怪我を治してからずっと私の側で働いていたのだから色々とやるべきことがあるだろう。自分の村の様子を見に行ったり、家の整理をしたりと。
初めは休暇の提案に対して悲しげな顔をしていたジュリオンだが理由を告げると納得してくれた。
この土地なら敵対するような人は王都より遥かに少ないし、逆に味方は凄く多い。
やることといえば本来であれば「ライアーム殿下の御子息御一行のお出迎え」のはずだけど何処にいるか分からない。ここに来るということは船旅だと思うけど……何処かで遭難でもしてないか心配になってきたな。
ジュリオンは王都の10倍は警備を厚くしてくれていて、領内の視察なら問題はないだろう。なにやら勝手に私が危ないことをする可能性があるから注意するように部下に言っているあたり腑に落ちないが……うーむ、リュビリーナの噂を確認しにジュリオンと一緒に変装して行ったからなぁ。
小説四巻も好評発売中!よかったら書籍の感想やレビューもしてくれると嬉しいな!
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