水魔法ぐらいしか取り柄がないけど現代知識があれば充分だよね?   作:mono-zo

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第336話 情報収集Π様子がおかしい

 

特別命の危機を感じるようなこともなく、朝から晩まで歩き回って水を売っていた。

 

一箇所にとどまって水を売ると兵士に睨まれて怖いし、一定の時間ごとに場所を移す。

 

認識がおかしくなっている問題で新たにわかったことがある。

 

 

「水、いりませんか?」

 

「……あ、なんだ?」

 

「水が欲しくて列に並んでいたんですよね?」

 

「黙ってねぇでなんとか言えよスーリ」

 

「…………??」

 

「あれ?俺何してたっけ……」

 

 

人によっては私が話している内容と彼らが聞こえている内容が異なっている。

 

そのまま兵士の彼はいなくなってしまった。

 

初めは手持ちのコップで飲んでもらっていたが今ではいくつかのコップを買うことが出来た。いつも持っている水差しは路地裏のボロ布の下に隠した。

 

 

「領主様の水差しに似てるなぁ」

 

 

なんて言われては……盗んだと思われかねない。

 

すごく大事な品という訳では無いが、それでもずっと使ってきたお気に入りである。

 

宿屋には泊まれない。

 

スーリお断りの宿屋しかない。

 

宿屋はリヴァイアスの出身者の運営している半ば公的な宿屋しかない。なぜなら宿というのは人が泊まれる施設で、それなりの空間がある。港町であれば内部に違法な物品を置いたり、奴隷を集めたりなど……不正を行いやすいらしい。だからこそ危険人物の情報は回されているのか追い出されてしまう。

 

安全のためだけど、承認したの誰だよっ!…………私だよ!?

 

元のスーリは一体どこで寝ていたのだろうか……。

 

 

水を売りつつ、聞き耳を立てていると思った以上に色んな話が聞ける。

 

商品の価格や世界情勢、そして――――『今日の領主様情報』。

 

今日のフレーミス様は何を食べたとか、リューちゃんが発情期になったとか、最近寝室にこもりきりだとか、アモスが式典のための音楽隊を募集し始めたとか……情報も多い。

 

とりあえずスーリは仕事もせずにいるらしい。宝物庫に行って財宝を盗むわけでもなく、シャルルのもとに向かうでもない。大人しくしているようだ。

 

しかし、よくわからない情報も多い。情報の不確かさというか……聞こえてくる情報の中には拳闘王ディーンを巨人の近衛兵にボコボコにさせたとかドワーフをその魅力で倒したとか……王都の家来の背に乗って移動していたとか。

 

どれも微妙に違う。

 

魔導鎧で倒したのはディーンじゃなくてスーリだし、ドワーフは魅力じゃなくてお酒。ミリーの背に乗ったのはミリーが背負うと自分で言ってきたからお願いしたのであって何かニュアンスが違う。

 

噂は現在のものだけではなく、過去のものもあり、王都で私とお見合い参加者のこれまでの諍いが面白おかしく伝わっている。私に対してひどい態度を取っていたという貴族の情報も多い。

 

亜人の中にはその噂を聞いた途端に笑って食事をしていたはずのに、スンと静かになってリゾート地に向かうような人もいた。何をする気なのやら。

 

 

この生活、宿無し路地裏生活だけど良い面もある。

 

領地が見て回れていることだ。

 

迷子や一人の子供は保護施設に送られるし、路上には酔っ払いやどこで寝ていても問題のなさそうな種族くらいしかいない。せいぜいが酔っ払って寝ちゃうような人ぐらい。

 

ちゃんと衛兵が仕事をしてくれていて、治安が維持されているのが見て取れる。

 

外国から来た商人にはエルフを奴隷にしようという不貞の輩はいるけど衛兵が睨みを効かせている。スーリはエルフであり、もしかしたらハイエルフという上位存在だからか衛兵もできる限り監視はするけど触れてはこない。邪険には扱われてるけど。

 

おかげで私は唯一の路上生活者として君臨している。

 

廃材で出来たハウス……いや板を立てかけただけの裏に寝ているだけのものだけど、ちゃんとボロ布も追加されて寝床も出来た。仕事中撤去されないか怖いが……されて嫌なのは水差しぐらいである。

 

ご飯は種族が多い分、当たり外れがあるけど基本的にスパイシーで美味しい。

 

船大工、荷下ろし、露店、大通り、木工加工店、貝殻の加工現場、漁師と魚売りの仲買場、ボルッソファミリーによる都市開発、オークション会場付近に多くいる外国の工芸品店、薬草店、農場、ゴム加工場……どこにでも見に行った。

 

人は誰しも水を飲むもので、たまに邪険に扱われるものの見て回ることが出来た。

 

やはり文化に触れて回ることは楽しい。

 

ゴムも独自の文化をしていて……頭の角を覆うためのオーダーメイドカバーを喧伝していたり、ゴム手袋やゴム靴、ゴムの柄入りマットなんかも作られていた。

 

ゴムのマットは溶かしたゴムが床に伸びていって、熱くて手が出せないので一晩放置して……石畳から剥がすのに苦労したがこれはこれで滑り止めになるんじゃないかと思いついたらしい。しかし、見た目が良くなかったため、焼印のように熱した金属ヘラで模様を刻んでそれを売るとヒット商品になったそうな。

 

現在では船の一部に鋲で打ち付けて使ったり、馬車の床や梱包の敷物として活躍しているそうな。鼻高々としていた売り子に教わった。

 

少しずつでも交友関係を増やして仲良くなっておいて……危険人物ではないアピールと、出来れば知り合いへの繋ぎをいつかしてもらいたい。

 

この街にいてどこにいても見かける海猫族、彼らからニャールルに繋いでほしかったのだけど……警戒と監視がされている気がするためそれも出来ない。

 

ゴム製品店の売り子のお兄さんとは何故か仲良くなって……製品のアドバイスをしておいた。

 

 

「その水筒は良くないかもですね」

 

「なんで?画期的じゃない?」

 

 

品質の良くない水精石のクズとゴムと生地を混ぜて作られた「水の滴るスクール水着」から発想を得て、金属や木製の水筒の中にその生地を入れて飲水にできるようにしていた。

 

蓋を外して、魔力伝導の良い棒を突っ込んで魔力を通せば水ができる。

 

しかし、それなら水精石だけでいいと思う。わざわざゴムや生地を飲み水に入れて……それを飲むのは体に悪そうだ。

 

作った物の再利用することに考えが凝り固まってしまっているが、使用者のことも考えてもらいたい。たしかに生地を作った後に出る「切れ端の再利用」という点は素晴らしいとは思うけれども。

 

 

「たしかに、水筒の中で生地が溶け出したり、陽の光で熱くなっちゃあ不味くもなるか」

 

「それよりも競技用の玉と浮き輪を作ってみては?」

 

「競技用の玉と、浮く輪っか?」

 

「はい」

 

 

玉は強度が必要なためすぐにはうまくいかないかもしれないが、浮き輪は作ってもらいたい。というか前々から立案はしていたけどうまくはいっていなかった。

 

空気を入れて、それを閉じるのに金属ヘラで溶かして空気を閉じ込めている。そしてゴムの品質がまだまだイマイチで、劣化も早く作っても一月と経たずに割れてしまう。

 

 

「領主様にも浮く輪っかは所望されてるんだが、うまくいかなくてねぇ」

 

「なるほど」

 

「海には海の奴らもいるし、いるのかわからねぇ。領主様も何をお考えなのか……」

 

「ははは」

 

 

確かに、会議でもそういう話が出たことがある。

 

そもそも泳がない種族は泳がないし、海には海の種族の方々がいる。更に亜人が多くいるこの地では身体能力が高い人が多いためそもそも誰かが溺れるという場面が少ないのだ。

 

普通の人や外国人、そして緊急時のことも考えてなのだけど……そう思う人もいるよね。

 

 

「しかし領主様の考えた車輪用の『たいや』は凄いぞ!」

 

「おぉ!」

 

「なにせ船乗りが買ってくれる!こんなゴミが銀貨でや宝石で売れるんだからわっかんねぇよなぁ!」

 

「おぉう……」

 

 

タイヤも、それなりになってきているものの……ここは港があり、海には波が立つ。そのため船と船のぶつかりを防止するのに破損したゴムの束が結構役立っているらしい。

 

木の船と木の船、どちらも頑丈な木材でできてはいるものの、軽くぶつかるぐらいの力でも恐ろしい力がかかっているようで、ぶつかれば船は破損する。

 

そのため柔軟性があるゴムの束が結構な値段で売れるそうだ。

 

研究途中でだめになったゴムや割れたり裂けたりしたゴムをある程度細かくして、私の初期考案したように浮き輪型に加工しただけのもの。

 

ゴムは溶かして再利用もできるが、むしろこれがかなり売れて、緩衝用のゴムブロックの開発まで求められているそうな。

 

 

品を見て意見を言っていく。

 

 

売り子のお兄さんも開発をしたいそうでアイデアを求めてきている。

 

なんか前はちゃんと開発の仕事をしていたけど、ゴムを凝縮させるのに「焼いて水分を抜く」って思いついて、燃焼油を使って――――凝縮どころかゴムの原料と開発室の一角を燃やしたそうな。

 

 

「これはちょっと間違ってますね。ゴム底にするのが正しいのであって、足首まで全部ゴムにすると動きにくいかと」

 

 

ゴムハンドくんは手をゴムで完全に覆う形をしているが、靴はそういうものじゃない。

 

靴は靴屋という概念でもあるのか、試作品が隅にポツンとしていた。底も薄っぺらい。

 

たしか靴底は厚みのあるものが作られていたはずだけど……王都か他の工房で出来ているのかもしれない。ここの靴底は小石で破けそうなほどペラッペラだ。

 

 

「なるほどね。あんた物知りだな。まるで領主様みたいだな」

 

「はは、ありがとうございます」

 

 

少しドキッとした。

 

出来れば誰かに繋いでもらいたいが、信頼関係も気づけていないうちに事を進めれば繋いだ途端…………「貴様!フリム様に成り代わろうなどとは一体何事か!切り捨ててくれる!」「あ~れ~」とズンバラリンされかねない。

 

気をつけねば。

 




12月も中頃、寒くなってきましたねぇ。
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