水魔法ぐらいしか取り柄がないけど現代知識があれば充分だよね?   作:mono-zo

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第347話 天秤χ目的のために

 

「<水よっ>」

 

「そこで止まりなさい!<水よ!!>」

 

 

言うことを聞いてもらいたいだけなのに、近づこうとすれば魔法が飛んでくる。

 

水程度なら無視して近づけるが、雷撃が飛んでくる。あれは避けられない。

 

動きが鈍ると床と天井が牙のように噛みついてくる。身体は削れるが……必要があるし邪魔者は排除したい。

 

領主は水を使う人間にしっかり抱きかかえられてしまっているのが厄介だ。

 

 

「スーリ!何が目的かわかりませんが、もうやめてください!!」

 

「やめない。言うことを聞け」

 

「聞くわけ無いでしょう!私の大切なものを返してください!!」

 

「返しても良い。代わりに言うことを聞け」

 

「なん――――

 

話せると思ったが、その前に水の精霊が動いた。

 

突如として目の前に現れたオルカス。こちらを覗き込んだと思ったら顔面に突進された。

 

 

「――――……こっ」

 

 

顔への突進は避けられず、同時に脇に深々とオルカスが突き刺さった。

 

……しまった。身体の再生で精霊が気づいたようだ。

 

 

「<精霊よ。同根よ。世界の楔よ>」

 

 

オルカスに囲まれた死地から無理やり飛び退いたが、リヴァイアスの尾に潰された。

 

すぐに突っ込んでくるオルカスの群れ、体の芯だけはかじられないように身を捩り、領主に近づく。

 

しかしクラーケンの触手が脚を巻き取り、ルカリムの平手で叩かれ、水で腕が捻り折られた。

 

 

「ぐぅっ!……<天秤は傾いた。世に静謐をもたらせんがため、盟約を果たせ。我が道は世界の安寧が為にある。楔がために、要がために>」

 

 

なにかの精霊からの倒れた自分は氷に包まれそうになったが……精霊がピタリと止まった。

 

ただルカリムが静かに近づいてきて頭に触れられた。

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

自分たちには寿命の概念がほとんどない。いくらでも生きることが出来る。

 

他の生物は生きることに必死だ。

 

 

食べることに必死、身を守ることに必死、死なないことに必死。

 

 

でもエルフは違う。

 

古い枝は飲み食いする必要もない。古く作られたものほど様々な力を持ち、寿命がなく、感情も乏しい。

 

新し目のエルフは寿命や飢えで苦しむこともある。

 

エルフは生き物であって他の生き物と違う。精霊に近いかもしれない。

 

自分たちの後に人が作られた。だからきっと人を作るための試作品なのだろう。

 

一応新しいエルフには同族としての認識はあるし、苦しそうなら力を振るって助ける。自分のような感情のある古い枝は珍しいだろう。

 

新しいエルフとは会話も通じないこともあるが、それでも同族は同族。

 

自分たちは生き物というよりも世界を維持するための支木に近い。

 

竜は大気を作り、巨人は大地を作り、精霊は自然を作る。

 

きっと、自分たちは数多の生き物を作る前に作ってみたものだろう。よく覚えていないが……そんな気がする。しかし……自分たちにもなにか役割があったような気がする。

 

たまに古い枝は古い枝の仕事をするが、自分はまだそこまで古くない。

 

神のような存在は確かにいたような気もする。だけどもう残滓しか残っていなくて、役割も無い自分たちは遊び出した。巨人は別の世界に役割があって行ってしまって、残った竜と精霊、悪魔や天使は争いあう。

 

自分たちは彼らの行いを見ていただけだけど……たまに襲われる。だからたまに戦ったり手助けもする。

 

だいたい寝て過ごしていただけだが、彼らが襲ってくるのなら生き物として同族を守る義務がある。

 

 

何百年も寝て、たまに起きて、たまに旅して、たまに寝る。

 

 

そうしてたまに起きて知性ある生き物を観察していると「技術」が産まれていた。

 

 

生き物は唯生きて食べて繁殖するだけではなく、生きるためになにかの技を編み出していた。

 

ちょっと面白そうでやってみた。千年ぐらい剣や弓を使ってみて……でもそれらはすぐに朽ちる。結局は自分の身一つでできる格闘があれば大抵のことはそれだけで済むようになった。

 

枝の中でも体を動かすのが楽しいのは自分ぐらいだろう。自分は傷ついても元に戻るし性質にあっている。特別な剣に特別な弓、そしてこの拳。それぞれ千年は楽しく鍛えた。寝るのと同じぐらい楽しかった。

 

たまに新しいエルフでは対処できない外敵が来て、自分たちが対処する。

 

 

樹に戻って100年ぐらいは寝る。問題が起こる。対処する。また寝る。それだけ。

 

 

生き物同士のつながりというのも興味深い。

 

いつか誰かが言った。作ったものに意味があるのなら、生きているものの行為にも意味があるのだと。

 

助け合い、殺し合い、自分の種族を繁栄させ、他の種族を滅ぼそうとする生き物。別の種族相手でも約束をしたり、破ったり……。なぜそうするのか、理解しにくい。

 

別に知らないなら知らないで良いのだが……とにかく眠ろう。

 

エルフたちのいるこの樹で――――ゆっくりと、ただただ眠る。

 

やることは自由で、自分は眠るのが好きだから。

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

里に問題が起きた。

 

普段なら自分や他の枝で対処できるが出来なかった。解決できる存在を探すことにした。

 

海に居た竜を求めてここまできたが、死んでいた。

 

魂の近しい竜も居たが……まだ生まれたてで力もない。

 

 

「如何なさいましたか!?」

 

「きっと発情期、閉じ込めといて」

 

「発情期?……なるほど、かしこまりました」

 

 

姿は領主のもののはずなのに噛みついてきた。殺そうと思ったが……こいつも育てれば使えるかもしれない。

 

領主には多くの仲間が居て、彼らをどうにかする必要があった。まだこの体の力が馴染んでいない。それにこの身の精霊は周りの存在あってこそ契約しているのかもしれないから排除も出来ない。

 

 

エール、ジュリオン、ドゥッガ、テロス、ニャールル。

 

 

一人ずつ刷り込んでいくが……その中でも側近のエールとジュリオンは閨に呼んで、より認識を刷り込んでいく。

 

 

「あれ?なにかお加減でも」

 

「…………」

 

 

厄介だ。

 

姿は完全に同じにしていて、普段の領主に見えるようにしているはずなのに違和感があるようだ。

 

精霊は神殿に置いてきたし、今のうちに認識を改めさせる。

 

 

「な、なにを!?ぐっ……」

 

 

喉・腹・後頭部にそれぞれ一撃。人間は脆いし、気をつけないといけない。

 

エールにも精霊はいるが、助ける気はなさそうだな。

 

 

「私のことが大事。私を守ること。領地を守るようにすること」

 

「……フリム様が大事。フリム様を守る。領地を守るようにすること」

 

 

殺してしまえば水の精霊は力を貸さないかもしれない。殺してしまえば……自分が力を扱えなかった時に使えなくなる。

 

人の精神力というものはどれほどで壊れるのかそれぞれで違うし、無理もできない。

 

エールとジュリオンは自分が主じゃないと何度も気がついたようだ。精神力か、忠誠心か……それとも精霊からそういう力を分け与えられているのか。

 

初めは気付くたびに攻撃してきたが、手の届く範囲で自分が負けるわけがない。

 

 

 

だから何度も……

 

――――何度も何度も何度も何度も何度も、意識を飛ばし、言い聞かせて、術で練り込み、認識を刷り込んでいった。

 

 

 

身近な人間ほど認識の変更は気が付かれやすい。だから丁寧にした。

 

エールもジュリオンも、領主に心を開いていたからこそ術にかかりやすい。しかし、何が違うのか……何度も抵抗してきた。

 

この二人はそれぞれ強い力を持っているからこそ面倒だった。精霊は単体で契約することもあるが、この家だから、この集団だからと契約することもある。王家がそうだし、この二人がそういう役割かもしれない。

 

 

「貴様!!フレーミス様じゃないな……」

 

 

ジュリオンも竜の血か、違和感すら無くなっているはずなのに何度も抵抗してくる。

 

ただ若い。

 

1000年ほど鍛錬すれば危うかったかもしれないが、この距離で自分が打ち負けるわけがない。騒がれそうだったし、胸ぐらで掴まれたまま手のひらで頭に打ち込む。傷つけないように、意識を飛ばすように。

 

 

「……あれ?私、なぜここに」

 

「一緒にお昼寝してた」

 

「そう、ですか?」

 

 

不思議そうにしているジュリオン。

 

 

「なにか忘れてるような……」

 

「ジュリオン」

 

「はい?どうかされあがっ!?」

 

 

ついでにもう一度だ。

 

刷り込み、刻み込む。

 

周りの人間が騒がなければ、精霊も違和感を感じることはないだろう。あいつら雑だし、神殿に置いてきた。この身体は領主の姿も力も写し取ったから気付かれてないはず。

 

領主は自分の姿に見えるようにしたし、自分はこの領地では力を見せつけていたから死なない程度に過ごせているはず。

 

 

里の問題を解決するためにはこの力を使いこなせるようにするか、ここにある水の道具で解決できないか見てみるが……よろしくないな。

 

ルカリムとかいう精霊。こいつは人の心を覗くことが出来るようで定期的に近づいてくるし、そのうちバレる気がする。

 

自分に気が付きそうな家臣には術をかけたし騒ぎはしなさそうだが、精霊が気がついていないうちにやる必要がある。

 

 

しかし……この人間、なんでこんなに精霊の数が多いんだ。……似せてはいても、芯まで同じではない。馴染ませてわかったが自分ではこの力を使いこなせない。

 

 

宝物庫を調べ、別の方法を探すも人間の繁殖方法についての本しか無い。少し離れた地にオベイロス王家の人間もいるようだし、できるだけ近づかずに、どうにか他に使えそうな技能持ちは居ないかと探して……良いことを聞いた。上手く使えるかは別だがとりあえず海に行くことにした。

 

 

人に言うことを聞かせるためにはどうすれば良いのか?……断れない状況を作り出せば良い。

 

 

海から帰ってきて領主を探そうとしたが、先に領主がこちらに来ていた。

 




忙しすぎて時間が一瞬で過ぎた気がします。

妹が結婚したり、書くものがたくさんあったりと私生活ガガガガガ
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