水魔法ぐらいしか取り柄がないけど現代知識があれば充分だよね? 作:mono-zo
なんか超がつくほど変な人がいた。
確かによく観察してみれば加護持ちのような圧を感じる。服にも品があるし、何処にも隙のない所作、アクセサリーの類いは身にまとってはいないけど王族らしい。しかも悪魔を崇拝する魔国の第一王子…………なんだこれ。
……フリムちゃんは一気に疲れた。
加護持ちや魔力持ちには個性的と言うか少し変わった人が多いように思える。精霊や上位存在の影響なんだろうけど……そんな集団の上澄みの集まりである王宮で生活していて、これ以上はないと思っていたのに…………。
「なんで王子がシャルル目的でお見合い大会に来て従者なんてやってるんですか……」
もう取り繕うこともなくストレートに聞いてしまった。
その問いに顔を歪ませるほどの笑みを浮かべる魔国の王子。
「その2つの問いにはそれぞれ回答しよう。ククッ……王子の身分でこの国の王との婚儀に来た理由、この国では同性婚も出来ると聞き及んでおりますゆえ」
「……………」
魂が抜けそうだ。あれ、この人本気なのか?
嘘は感じないけど……国元の人は何も言わなかったのだろうか?
「従者をやっている理由――――それは……」
「それは?」
「面白そうだったからですね。――――クククッ!!」
ミンテーさんをゆっくり見つめてからハーリュさんはそう答えた。
私の視線に目をそらしたミンテーさん。すごく気持ちがわかる。私も目をそらしたい。
「……シャルルとは、これまで交流があったり、いえ面識があったりしたのですか?」
「認識もされていないでしょうね。こちらに来て初めてお見受けしましたが大変見目麗しく……大変精悍で人間らしく、とても美味しそうですね」
「…………………」
色々突っ込める部分はある。
別に同性愛を否定しているわけじゃなく、自国内でも相手はいくらでもいたはずだ。なのにわざわざ危険な他国に来てまでそうする理由が意味不明である。仮に私の知らない間に彼とシャルルに交流があっての一目惚れとかならまだ理解も出来るけどそうではない。しかも王族なのに他国の従者をやっている理由もなおさら意味不明である。宇宙人でも見ている気分だ。
ミンテーさんには問題なさそうだけど、ミンテーさんの従者には大変問題がありそうだ。
テーブルのお菓子を一口で食べ、ミンテーさんに告げる。
「――――なるほど、今日のところは解散で」
ニッコリ、全力の笑顔で問題を後回しにする。
「た、助けてくださいよぉおお!?」
「あ、貴女の従者ですし?」
「ですよね!でも意味わかんないので引き取ってほしいですぅぅ!!?」
「嫌です」
「そんなぁ」
まぁ爆弾は見つかった。後は保護者に丸投げしてくれよう。
「……そうだ、困ってることじゃないんですが」
お菓子をお土産に渡し、帰ろうとしていたミンテーさんが振り返った。
「なんでしょう」
「この催しに外から来た人は定期的にいなくなっているようです」
「それは……情報交換では?」
「そうかもしれませんが、様子がおかしな気もしまして…………もしかしたらどこかで襲撃でも企てているかもしれませんので……何かことが起きればご助力していただけると幸いです」
この人、自国からの令嬢にも狙われてるって情報もあったしなぁ。そうじゃなくても他国の姫君は集まって情報収集しているみたいだし…………いや、どちらにせよ何か悪巧みをするなら慣れてきた頃合いのはずだ。気をつけておくことにしよう。
「気にかけておきます」
こうして、ミンテー姫のヒアリングは終わった。
爆弾は見つかり、その爆弾は思っていた以上に大きなものだった……。
当初の目的は成功した。解散!私寝る!布団へダイブ!!!ジュリオン!一緒に寝よ!!などと現実逃避した。
とりあえずミンテーさんがどんなつもりなのか確認もできた。
なにか見過ごせない問題が出てくる可能性はあった。とはいえ軽く藪をつついて安全チェックをしていたら蛇どころか悪魔系王族が出てくるとは思ってもみなかった。
一旦解散し、シャルルに情報を丸投げして私はジュリオンと寝た。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
起きてスッキリした。
肉体的には余裕もあるけど、今の精神状態でペーパーテストは受けていられない。たまには休日にするのもいいだろう。
シャルルの政務を手伝いに行くのもいいけど、エルストラさんから渡されていた手紙の山から『天秤』について知る必要があると思った。
ただ、エルストラさんが書いていた手紙はすごい量であり……ドサッと渡されたものだから後回しにしていた。
新型ゴム製ハンド君で丁寧に開封し、並べて見ていく。
ほとんどがエルストラさんから私への心配や学校にいる水属性魔法使いの状況である。学園の水属性の代表としての活動は元代表であるエルストラさんに丸投げしている。
学園で何処の派閥の人間が何処の家の誰と喧嘩していたなどの日常の情報が書き記されていた。
あ、伯父上からの手紙あった。
読んでみると『天秤』というのはおそらく上位存在が大きく動くことであり、いわゆる天災のようなものが発生した状況であるとされる。
そうなった場合、対応するのが『王家』であるが、命じられて動くことがあるのが『大家』である。
上位存在は力があればあるほど、人間では見るだけでひれ伏してしまうことがあるため、力ある大家が対応する。しかし大家の長、つまりその時代において強い精霊の加護を授かっているため上位存在に対して耐性を持っている。……それでも対応できないほど隔絶した差がある場合のほうが多いのだとか。
「おそらく」と書かれてあるけど……ここ数百年はこの国ではそういった問題は起きていないようだ。そしてこれまでに歴史上起きた問題でも水属性魔法使いが前に出ることはほぼほぼない。だいたいそういうのは火に任せておけば良いと……なるほど。
うーむ。言葉の意味からなんとなくの推測は出来ていたけど、貴族の中でも抜きん出た名家や、名家の中でもトップに位置する大家の役割があるのか。
伯父上からしてもほぼほぼ関係なかった事態なのかもしれないな。
それよりも学べと言わんばかりに『天秤』とは関係のない「大家の役割」が書かれていた。むしろそちらのほうがメインのようだ。
「研鑽を怠らず、強くあること」「心より精霊を祀り、その意図を正確に読み取ること」「精霊との縁を繋いでくれた王家を守護すること」「国内外の問題解決に足を踏み入れること」「大家でなければ解決できない問題の解決は素早く行うこと」「同じ属性同士での争いを仲裁し、可能な限り保護すること」……それと「貴族の派閥とは別で属性の派閥としてまとめ上げること」らしい。
書き方からして、伯父上らしくない。きっと大昔から伝わっている内容なのだろう。
前二つは大家じゃなくても行うべきことだし、王家の守護は理解できる。
事例や詳細も書かれていて……国内外の問題は「魔獣の対処」や「水源の消滅」などで出向くことがある。その時は大家として同じ属性の家に号令をかけて対処することもある。同じ属性の精霊を沈静化したり、特定の属性でしか対処できない魔獣の討伐もその仕事に含まれる。基本的に「宰相」もしくは「王」が要請してくるから自分で動くんじゃなくて指示に従うこと。
伯父上が大魔獣を討伐したことで現在そういう仕事は水の大家にはないらしい。
他国との紛争を解決する時に手合わせすることがあり、そう言った場合に国家の代表として大家の長で出ることがある。そういう場合は舐められないように、メンツにかけて潰せともある。
同じ属性で争うのはめっちゃよくあるけど、その属性を扱う人が減るのを防ぐように動くことも大事と……タナナとレームがルカリムに吸収合併されたのもこの辺が理由かな。
伯父上からメッセージがあった。
同じ属性の派閥をまとめ上げることが出来さえすれば大家の座を譲る。だが、小娘かつ人脈のないフリムには出来ないだろうと書かれている。相変わらずのクソ伯父上である。
あ、まだ追記がある。それも別の手紙だ。
つまりは「大家の長」は基本的にその時の力が強い人がなる。ただ、同じ属性を率いての行動もあるため、「ただ強いだけ」よりかは家単位や派閥での強さも近年重要視されている。
強い精霊の加護を授かっていたとしても、幼かったり逆に老齢だったりする場合は不安要素が残るし、もしくは国に対して何かしらの仕事をしていて手が離せない場合には大家の長になれないそうだ。
ドゥラッゲン家なんかは良い例で、当代最強と誰もが認めるダワシ殿がいるにも関わらず彼は分家当主であり、大家の長ではない。彼は老齢かつ仕事があり続けていることもあって大家の長にはなれない。
本家当主の方が力は遥かに劣るが年齢も問題ないし、ダワシ殿が派閥にいることで問題なく大家の長とされている。何かあっても代理にいつでもダワシ殿を前に出すことが出来るからだとか。
基本的に大家の長こそ最も力が強い者がなるのが正しいが、正しいだけで王家に貢献できないでは意味がないからこうなったそうな。
大家の長にふさわしいと思われる候補者が複数人いるケースは珍しくなく……土の名家は常に「ドゥラッゲン」と「タロース」が大家の座を争っているが今はドゥラッゲンの方が優勢で、更にダワシ殿がいるからこそドゥラッゲンが大家である。
現在水の家はレームとタナナは分解してルカリムが吸収したし最大勢力がルカリム本家かつ力を持つ伯父上がいるからこそ今のところ大家の長は伯父上である。
……私の場合は「子供」かつ「水の派閥に対して人脈がほぼ無い」から大家の長だと任命とか宣言まではされないってことかな。
前に伯父上と戦って私が勝ったこともあるから一定以上の力を持っていることは間違いないし、侯爵家をまとめ上げて、更に一国を降した。一度領地を離れて戻っても反乱もされていない。そう考えれば大家の長の座はすぐに譲っても良いとも書かれている。ただ、今すぐそれをやればライアームがどう反応するかわからないとも。
…………大家の長は仕事も多そうだしやりたくないな。
しかし箔がつけば貴族はもうちょっと私に対して舐めない対応をしてくると思うし、そう考えれば欲しい気もする。
もしも私が大家の長になって重労働が押し付けられたとして……逃げられない役職っぽいし、ただただ仕事が増えるだけの気がする。
実年齢は子供ってことで伯父上に任せてしまおう。伯父上は五体満足かつまだまだ働ける歳だ。うん、引退には早いよ伯父上、馬車馬のように働いてくれたまえ。
更新たのしーです(*´ω`*)