水魔法ぐらいしか取り柄がないけど現代知識があれば充分だよね? 作:mono-zo
とりあえずやらなければならないのはお茶会だ。
お見合い大会・お茶会・ディア様の礼節や刺繍などの授業。
この3つでお見合い大会参加者の性格や能力を把握していく。後はゆっくりとシャルルの相手を見定める。その「時間」によって他のお見合い参加者が……特にライアーム派閥と王都の貴族がくっついていけば――――今の冷戦のような状態よりかマシになるかもしれない。
もう政争は過去のもので、決着している。
恨みは確かに残っている。誰かに殺されては恨みも残るのは当然だ。だってそれだけその人が大切で、今なお愛しているのだから……だけど、それでも生きて、次代に繋ぐのも人間である。
生きて仇を取りたい人もいるだろう。だけどそれは危険な行為で、死んでしまっては、いや危険とわかっている行為をするだけで先に死んだその大切な人に顔向けできないのかもしれない。まぁ死者との関係性によっては「恨み絶対晴らしてくれ」とかって人もいるかもしれないけどさ。
できれば平和で、何事もないのが一番だ。
そう思っているのは私だけでまだまだローブの内で杖を磨いているような人もいるかもしれない。…………いや、前世の戦争映画なんかの知識や現在の状況から考えるに、平和を願っている人の方が多いからこそこんな状況になっているのだろうな。
時間が解決してくれるという言葉があるけど、それでしか解決できないのかもしれない。
とはいえお見合い大会ばかりに注力するのもよろしくはない。だって私にもやりたいことがある。
学園では単位をとりたいし、領地に戻って色々遊びたい。ミィアに頼んで父さん達にも会いたいし、ミリーやエルストラさん、リーズ達とも一緒に過ごしたりもしたい。ジュリオンとエール先生と空を飛んで旅行とかもしてみたい。空の上にも国があるそうだし、一度は見てみたい。
何処か切りの良い部分までは、内情が安定するまでは仕事をする必要がある。シャルルに相手を作って、更にガリアス君とピュリちゃんをどうにかすれば後は時間が解決してくれるはず。
……なんだかあれだな。長期休暇の前に頑張って仕事をこなしているような心境だ。
いけないいけない。きっと令嬢方は環境に慣れてきて悪巧みがしやすい時期だろう。そして私の方は現状の把握が出来てきて気が緩みつつある。こういう時こそ気を引き締めないと。
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情報収集すると……男性だけが知らない噂を聞いてしまった。
男性が淹れたお茶と女性が淹れたお茶では男性のお茶の方がシャルルの反応が良い。しかも身分が低ければ低い方がより反応が良い。…………フリム知ってる!シャルルは女性恐怖症な部分があるし可能性が低ければ低い方が関わることがないと安心しているのだ!
そして貴族という生き物はこういった観察に長けている。
令嬢方は理解してしまったのだ。
シャルルが女性に対して一線引いていることを。
そして…………誤認してしまったのだ。――――――シャルルが『男性趣味』だと。
くじを引いて当たった男性がシャルルに茶を淹れる。
その二人の姿を楽しみにしている方々がいる。
「ふむ、励むと良い」
「はいっ!ありがとうございます!」
「お茶、ありがとうな」
いつもよりほんの僅かに警戒心のないシャルルの表情。褒められた相手は王の相手という大役を果たせて嬉しそうだ。
女性陣は誰でも知ってる噂だけど、その噂を知った上で見れば……見え方が違って見えてもおかしくはない。
「…………」
「…………」
「…………」
普段キャイキャイ話していたり、シャルルの動向を伺っているはずの方々が別の意味で耳を澄ましているのがよく見える。口元ニヤけてるよ君達ぃ。
まぁシャルルの行動の結果である。仕方ない。
ちなみに平民男性からすれば「民思いの良い王様」という評価らしい。エール先生は頭が痛そうにしていた。シャルルとは乳兄弟だし、心配もしているんだろうな。
問題の姫がくじに当たってしまった。
要望されている茶葉や道具は可能な限り揃えて用意しているが……彼女の求めたお茶の原料は他の姫と比べて桁違いに多いものだった。
茶葉に果実に砂糖にスパイス、どれも複数用意しているが全部使うのだろうか。
「ではナンナ様、お茶を作っていただけますか?」
「陛下、どのような茶を所望でしょうか?」
私の声は絶対聞こえたはずなんだけど、聞こえなかったかのようにシャルルに問いかけた農業国家の姫ナンナ。
一度シャルルを押し倒した経歴のある危険人物だが、私に対しても敵意があるのかもしれない。
「茶はいくつか用意しているのか?」
「何を求められてもそれに応じてこその妻ですわ。シャルトル様にはあたしから愛を込めてお作りします」
「まだ妻ではないが…………では、胃に良さそうな茶などはあるか?」
「かしこまりました。とびきりの茶を用意しましょう」
初めは「直答を許す」などというやり取りもあった。だけど私が気軽に話しているのもあるし、「このような催しですし、直答を許しては?」と促したことで面倒なやり取りも無くなった。
魔導コンロに火をかけ、大きめの栗ぐらいのサイズの黒い果実をトングで掴んで焼き始めたナンナ。
数秒焼くと皿に移し、また別の果実を焼いてを繰り返している。ナンナの従者も同じ手順で焼きの作業をし始めた。
焼いた果実を袋に入れて…………棒で叩き始めたナンナ。更に袋を絞って隙間を減らし、専用のプレス機のようなもので圧縮し始めた。
ちょろちょろ出てくる黄金色の液体。
「はぁはぁ……わ、我が国では健康のために飲む最高の茶といえばこれでして――――んくっ……どうぞ」
結構な体力仕事に見える。息を切らしたナンナさんは濾したそれをすぐにカップに注ぎ、毒見のため一口飲んでシャルルに差し出した。
ほんの僅かに……彼女はちらりと私を見た。
私にも彼女の従者が作ったものが届けられた。一口飲んでみるが、強い苦みと渋みの残るオリーブオイルのような味だ。いやこれお茶じゃなくて油では……。
「うまいな……とても爽やかな味だ!!」
「ふふっ……お口に合えば幸いですわ」
――――っ!?
味が違うってことはまさか毒?!
「シャルル。一口いただきますね」
「ん?わかった」
「<水よ。集めて>」
シャルルのお茶を奪い取って一口、周囲の令嬢のもとに運ばれたお茶も回収して一口ずつ飲んでいく。
シャルルの分は苦くもなく、爽やかな……やはりオイル。私のものより苦くもなく軽く爽やかな香りがして飲みやすい。
他の令嬢の分は私ほどではないけど渋みと苦みがある。
「ナンナ――――……これはどう言うことでしょうか?」
静まり返ったお茶会の場で、杖を彼女に向ける。
このお茶が問題のあるものであればこの姫を排除できるきっかけになるだろう。
私に渡された分は他の令嬢に渡された分と同種の苦みだし、まだ毒かはまだわからない。今のところ体に異常は感じられない。
杖を向けたというのにナンナは余裕そうで……笑顔をこちらに向けてきた。
「落ち着きがありませんわねぇ。……この茶には『奥方の力量を試す』という格言もありまして、同じように見える淹れ方であっても味が大きく変わりますわ。シャルトル様の分はあたしが作ったもの、美味しくて当然です」
「なら、毒ではないのですね?」
使われる材料は私が用意したもので、当然毒性がないものだ。
なのにこうも味が違えば疑っても当然だろう。従者の動きも監視があったはずけど……。
「はい。この茶は火入れに叩き方に絞り方……僅かな違いが味を大きく変えますわ。従者が淹れたものは私が淹れたものよりも不出来だったのかもしれませんね」
つまりこのお茶の苦みや渋みは従者が作ったものだったからであって、彼女が作ったシャルルの分は特別美味しかったから味が違っていたということか。
「しかし貴女……狭量の上、浅識ですわね。その杖を、一体誰に誰に向けているのか――――わかってのことでしょうか?」
「これは必要なことです」
警戒は必要なことだった。
だけど相手からすれば私の失点とでも言いたそうである。
「ふふっ、いいんですのよ。謝罪も出来ないなんて――――恥ずかしくはなくて?」
「この席にいることを許された私に対して――――毒を疑うほどに不味い茶を出す貴女こそ恥ずかしくはないのですか?」
謝罪はしない。
それに明らかに不味い茶を私に出したのはナンナである。
杖を向けるのはやめるが謝りはしない。
「ふふ、作り手によって味が大きく変わるのは当たり前なのですが……ならば茶を入れた従者の首でも差し出しましょうか?」
「いえ、いりません。王が楽しんで茶を飲むこの集いで人死にを出させる気ですか?無粋ですねぇ」
明らかな敵意、明らかに私を誘い出したと言わんばかりのナンナ。
味の差は偶然とも言えるだろうけど、私の茶が一番苦かった。……ここまでの差は嫌がらせ、もしくは――――どちらが上かの『序列争い』もしくは『宣戦布告』だろう。
「ふふふふふ」
「ほほほほほ」
久しぶりに扇子の出番だ。視線はナンナから離さず、口元は隠して笑う。
シャルルは我関せずの状態で菓子を食べていた。おい、保護者。
書きたいシーンをメモする→メインサイトで書く→コメントを楽しむ→別サイトでも投稿する→コメントを楽しむ→メインサイトで書き直す→かなりあとに書籍になる(こともある)
全ての工程で誤字・脱字・衍字・表現不足が見つかるんだが……_| ̄|○ il||liナンデェ