水魔法ぐらいしか取り柄がないけど現代知識があれば充分だよね? 作:mono-zo
私に対して敵対心むき出しかつ強気なナンナであるが……考えてみればライアームと縁のある国と隣接している国の出身である。それなりに力があるのなら政治的にシャルルの嫁としてありなのではないだろうか?
私へ態度はいかがなものかと思うけどそれはシャルルへの愛ゆえと考えると……弱気な女性ではこの国の腐れゴミ貴族共に対抗できないから強気の方が安心できる。それにお茶と言うか油の調理の工程は迷いもなく手際も良かったことも考えれば努力や積み重ねを感じることが出来た。つまり彼女は努力もできる子だ。
見た目はちょっと生意気かつ勝ち気なタイプの美人だし、女性に対して「見るな触るな近寄るな」といった様子で引いているシャルルと相性が良いかもしれない。結局はシャルル次第だけど、総合的に考えれば候補としては悪くはないように思える。
「な、なによ?」
「なんでも無いです。まぁ良いでしょう」
「あんた……何様よ!」
「王家相談役ですが?」
つい「シャルルの娘様だよ」と脳内をよぎったけど、名付け親であることはそう知られてないし絶対混乱させるだけだからぐっと我慢。
「うぅ」
ぐぅの音のようなものが聞けて満足である。
あ、この切り口は彼女に友好なのね。
「まぁ続きをしましょう。<今後怪しい行動はしないように>」
「わ、わかったわよ……」
少し魔力を当ててやれば真っ青になってしまった。
大人フリムのモードは筋力も魔力も子供モードよりも上だし、ちょっと浴びせすぎたかもしれない。
その後何事もなくお茶会は終わって……ある意味恐ろしい思いをした。
お茶会が終わって、部屋に帰ってすぐナンナさんから謝罪の手紙と、四角い箱が届いたのだ。
手紙の内容は毒ととられてもおかしくはない騒動を起こしてしまったことであり、普通に謝罪である。
そっちはどうでもいい。それよりも箱だ。
ちょっと大きめのホールケーキが入るぐらいの箱で届いたのだ。
まさか私にお茶を作った従者の首だったりして…………。
一気に足元がぐらついた気がする。
この中に首が入っていれば……それは私に原因の一端があるように思える。
もしもこれが個人間の謝罪ではなく、国と国との関係性を考慮しての謝罪で……かつモラルとかそういうのの微妙な世界だ。充分に有り得る。
ゆっくり、危険物の可能性も考えた上で……水の障壁を張りつつもゴムハンドを使ってものすごくゆっくり開封する。
「フリム様、綺麗な花ですよ……フリム様??」
「あ、焦ったぁ」
「お見合い大会では問題も多く起きておりますので、荷物は必ず検めております」
は、早とちりだった。……入っていたのは普通に花だった。
花弁が大きくとても濃い藍色で、香水のような強く爽やかな香りが漂ってくる。
「花言葉とか毒性があったりは?」
「花言葉?言葉はわかりかねますが、その花は謝罪や親愛のためによく贈られます。毒ではありません」
「そかー……そっかー…………首じゃなくてよかったぁ」
一気に疲れた。
おのれナンナ、小癪なことを……だけど私の早とちりなんだよねぇ。
「しかし、もう一つ手紙も入っていますね」
花の影に追加の手紙が入っていた。
プレゼントボックスの前の手紙は謝罪だったけどまだ言いたいことでもでもあるのだろうか?
この短時間でよくかけたなと言える手紙の量である。
「読んでください」
「はい。……えー、とても長いので要約いたしますと、『シャルトル様の正妃の座を本気で狙っています。今のうちにその席で楽しんでおくと良いわ。もしも貴女が側室に入るのなら仲良くしてあげなくもないわよ』とのことです。後で読んでくださいね」
「要約していない部分は?」
「挨拶とリヴァイアス領についてと助けてもらったことには感謝しているというものです」
「なるほど、後で読みます。いえ、今読みますね」
ナンナはすごく悪い子でもなさそうだ。
でもタイミング的に、ちょうど首が入りそうなサイズの箱で花を贈ってくるのはちょっとなぁ。
一瞬で「運動不足なのに全力ダッシュをした」ぐらいには疲れたよ。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
私個人のお茶会ではなく、シャルル主催のお茶会に呼ばれた。
参加者は3人。私、ミンテーさん、ミンテーさんの元で何故か従者をしている魔国の王子ハーリュー・ディース。
「きょレっはこれは……お招き頂きたいッペン嬉しく思いますワ」
既に震えてるミンテーさん、めっちゃ噛んでるぅ。
彼女からすれば「王から私的な呼び出しをされた」と周囲に知られれば絶対に突かれることになる。かと言ってこの国の最高権力者からのお呼び出しを断ることなどできない。
そしていつも身の安全を重視して小動物な彼女だ。……その心境は想像に難くない。
「ミンテー殿、私は貴女をここに呼ぶのは本意ではなかったのだが……彼がミンテー殿の従者をしていることもあってな。従者だけ呼ぶわけにはいくまい」
王様モードのシャルルが対応した。
彼の主であるミンテーさんはおまけだけど、礼儀のためにもここに呼ぶ必要があったってことかな。
「なっるほど?」
「彼にいくつか質問してもいいか?」
「勿論です!で、できれば引き取って頂ければ!なにとぞ!!」
「引き取ってって……いや、席についてくれ。ディース卿も」
シャルルも困惑しているのがわかる。
ハーリュ、いや伸ばすのか。ハーリューは第一王子なのに……それも上位存在が国元にいるような大国の偉い人なのに従者をやっているのか。
彼女の主となっているミンテーさんも理解できていないし、私にもシャルルにも意味がわからないでいる。
恭しくミンテーさんの前に膝をついたハーリュー・ディース王子。……何がしたいのだろうか。
「我が主の許可さえあれば、その席に座りましょう。話もしましょう。――――で、如何でしょう?ミンテー様」
「あっ、はい。座って話してください。頼みますから失礼のないように……頼みますから……お願い」
「クククッ――――賜りました!では、お話しましょうか?シャルトル陛下ァ!」
心底愉快そうに笑みを浮かべてササッと椅子に座ったハーリュー王子、彼とは対象的に頭痛が酷いといった様子のシャルル。
とりあえず、私の仕事はここでシャルルのサポートをすることだ。
「では聞きたい。貴殿の目的は?」
「ハァッ?…………あまりにも無粋、あまりにも直接的、あまりにも面白くない。なんともつまらない質問ですねぇ。しかしこれはこれは上等で甘美な茶ですねぇ。水が良いのでしょうか」
普通に無礼だった。
ミンテーさんは青ざめて、一気に滝のような汗を流した。
彼女からすれば一応とは言え彼女の従者が一国の王に舐めた態度を取っているのだ。これは「主の教育が悪い」とミンテーさんに責任の追求をすることだってできる状況である。
「真面目に聞いているのだ。貴殿の理解しがたい行動の真意を知りたい。家臣からは魔国がオベイロスに対し――――?」
シャルルの問いかけに対して目を閉じたままシャルルに対して指を立てたハーリュ。
その仕草に止まったシャルル。これは……何かの合図だろうか?
「…………」
「…………」
「…………」
そのままお茶を飲むハーリュー。私もシャルルもミンテーさんも無言だ。
周囲で見守っているエール先生もジュリオンも、近衛兵も静かに事の成り行きを見守っている。
「やはり美味しい。これを作った水はリヴァイアス侯爵の出したものでしょうか?」
「あっはい」
「なるほどなるほど……良い魔力ですね。美味しく、唾棄すべき味。もう一度飲みたくなってしまって、しかしこれは抗うべきものでしょう。クククッ悲しいなぁ」
茶をじっくり見て感慨深そうにしているハーリュー。なんだこいつ。
「もう一杯欲しいということでしょうか?」
「心より欲しい。だが飲みはしない」
「は、はぁ??」
ま っ た く い み が わ か ら な い 。
どうしよう。この王子が何を言ってるのかさっぱりわからない。
シャルルもミンテーさんも理解が出来ないのだろう。口を挟んでこない。
一旦深呼吸して、落ち着く。この理解不能さ……どっかのスーリを思い出した。
「この国に来た目的を教えてください。このままでは魔国との関係悪化につながりかねません」
また指をピッと上げてお菓子を口に含んだハーリュ。
また食べてるから待ってということだろうか。
「さっさと答えなさい」
「ククク、こういうのは楽しんでいくうちに話すもの」
「さっさと――――<答えてください>」
声に魔力をのせて答えるように促した。
周囲の空気がピリついている。あまりにも無礼が酷すぎて誰か動きそうだった。
シャルルの近衛兵はシャルルへの対応で動きそうになったし、私への指立てで私の後ろのジュリオンが動こうとしたのを感じる。
なによりハーリューのペースではまともな答えにたどり着きそうにないし、この場では私が強引に進めるのが良いだろう。
「おぉ、素晴らしい!目的は『生きたい』から来ました。魔国とオベイロスの関係は悪化しないでしょう」
「生きたいとは?」
「そのままです。では答え終わったので失礼して従者に戻りましょう」
「ダメです。貴方の言っていることはこちらに伝わっていません。ちゃんと理解できるように話してください」
立ち上がったハーリュに対してまっすぐ話す。
こいつ、確実にタイプ・スーリだな。人の言葉が通じているのか通じていないのかさっぱりわからない。
ただ、スーリのように言葉自体が少ないタイプではない。
「伝わっていない?……しかし、問題はないでしょう」
「いえ、貴方の理解不能な言動には問題があります。なのでもっと詳しく答えてほしいのです」
「答えて私に得があるのでしょうか?」
「あるでしょう。疑いが晴れますし、国家間の関係悪化が防げます」
「疑われてるのですか?心外ですねぇ」
不思議そうな顔をしているハーリュー。
シャルルとミンテーさんは私に対してキラキラした目でこちらを見てきている。この身分のすごく高い謎の生物に対して会話ができているように見えているのかもしれない。
「疑われるだけの態度を取っているのは貴方ですので。せめて貴方の褒めた茶と菓子の分だけでも話してください」
褒めてくれたし、これで話してくれないかな。
長く話すのは精神がすり減りそうな気分だし少しずつでも良い。
「茶と菓子の分は話しましたが?あぁでは――――やってもらいたいことがあります。そうすればもう少し話に興じるのも悪くないかもしれませんねぇ」
「何をすれば良いのでしょうか?あ、無茶を言ってくるようなら私も本気で怒りますからね?」
シャルルやミンテーさんが直接魔国の第一王子とこういう話をするのは非常に良くない。二人は王族で国のメンツがある。……しかし放置もできないだろう。追求することで国家間の関係が悪化する可能性がある。
しかし私なら「王家相談役」の立場もあっての正当な質問のはずだし、もしも問題になってもその役職を失う程度で済むだろう。まぁそもそもシャルルのもとに顔を出すためだけのいらない役職だし罰を受けるほどではないと思うが。
「おぉ怖い!――――そうですね。では膝の上に乗せてもらってもいいでしょうか?」
じっとシャルルを見て、理解したくないことを言い始めたハーリュー。
「はい??意味がわからないのですが、シャルルを傷つけないように出来ますか?」
「出来ますとも!そうしてお話して頂ければたいへん嬉しく思います」
何が正解なのかはわからないけど、とりあえず話してくれるようだ。
そもそもシャルルに近づけるのは危険かもだし、了承はしたくないが聞いておこう。
「傷一つ、肉体的にも精神的にもつけないと約束できますか?」
「<ここにハーリュー・ディースが血と短き角と魂にかけて約定を守ると誓おう>」
ハーリューは突然長い舌を出して中指の先をその舌に触れた。
……おそらく指の先に唾液をつけてテーブルクロスをトントンと叩くとテーブルクロスに魔法陣のようなものが現れた。よくはわからないが何かの魔法を使って誓ったハーリュ。
「これで約定は成りました。ではでは失礼して――――ほら、ミンテー様も」
「わぇ?!」
固まって動かなくなっていたミンテーさんを軽く持ち上げたハーリュー。
そうして私の膝の上にミンテーさんが置かれ、シャルルの膝の上にハーリュが乗ることとなった。………………ナンデ?
いつも読んでくれてありがとうございます。
小説もコミックも楽しんでくれてるなら嬉しいです!