水魔法ぐらいしか取り柄がないけど現代知識があれば充分だよね?   作:mono-zo

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第375話 ハーリューの望み(ヘンナアクマダ)

 

 

「クククッ……これこそ話す姿勢ですねえ」

 

 

シャルルの膝の上に横向きに座って偉そうにしているハーリュー。

 

彼はシャルルの服に触れてご満悦に見える。

 

 

「魔国ではこのように話すのでしょうか?」

 

「いえ、そんな作法聞いたこともありませんが?」

 

 

何だこいつ……。

 

私に渡されたミンテーさんは私の膝の上で固まっている。彼女は重くもないし花のような香りがして不快さはまったくない。ただ本人は凄まじく居心地が悪そうだ。

 

近衛兵はハーリューの一挙手一投足にピリついている。

 

 

「ではなぜこのようにした?言っておくが私を害しようとすれば近衛とルーラが動くが……」

 

 

呆れたように言うシャルル。

 

きっとハーリュー以外、誰もハーリューの行動の意味がわからないだろう。

 

近衛兵が心配してか精霊も出してきているし、何かあれば即座に行動に移すことだろう。

 

 

「私の目的の一旦とでも言いますか…………あぁ、傷つけたりはしませんよ。ご安心を」

 

「その目的とは?我々にも理解できるように順序立てて説明してください。面倒くさがらずに」

 

「ふむ……」

 

 

シャルルの膝の上で膝を組んで座っているハーリュー、顎に指を当てて真剣に考えているようだ。

 

 

「この国の『無敵宰相』殿は合う水を見つけて若返ったというのに、しばらくして急激に老けたのだとか」

 

「はい?……シャルルどうですか?」

 

 

予想外の話が出てきた。シャルルに関して愛を囁いたりするわけじゃなかったか。

 

レージリア宰相が若返ったのは知っている。そして疲れで老けたのも知っている。しかしそこまで過剰に老けたのは知らない。

 

 

「それは正しいな」

 

「―――――――――…………クククッ!ハァハッハッハ!!クファハハハハハ!!!!!<ここに来たのは間違いではなかった!我が生涯の崖はここにあり!素晴らしい!最高です!!貴方こそが我が生の標!待ちわびた!長かった!クファッ!ハッハッハッハッハ!!!>」

 

 

いきなり昂ぶってゲラゲラ笑い始めたハーリュー。

 

暴力的な魔力が溢れ、近衛が動いたがシャルルが手で制した。

 

ハーリューは今のところ不穏すぎる笑い方をしているだけで何もしていないしシャルルの頭の上に現れた精霊姫ルーラはシャルルの頭の上でハーリューを興味深そうに眺めている。

 

 

「な、なんだ?」

 

「<わからないでしょうとも!それでこそ人!素晴らしい!愛くるしい!魂の芯、生命の奥底から貴方のような存在に焦がれていました!!>…………ふぅ、そういうことです」

 

「「「どういうこと」」」

 

 

話が全く繋がっていないのに満足そうに言われても……。

 

スーリとは別の意味で話が通じないなこの人。

 

そこまでシャルルのことが好きなのだろうか?でも「貴方のような」と言っているし、なんか違う気もする。

 

 

「そういうことですが?まだなにか?」

 

「も、もうちょっと詳しく」

 

 

また指をピッと上げたハーリュ。今はお茶も菓子もないのだが?

 

 

「男の汗臭さを堪能しているのです。少々お待ちを」

 

「!?」

 

「鍛錬しているようですね」

 

「あ、あぁ」

 

 

シャルルの首元の匂いを嗅いだ後シャルルの頬に触れるハーリュー。

 

嫌そうにしつつも固まっているシャルルが可哀想だし、さっさと切り上げられるように頑張ろう。

 

多分だけどこの人は上位存在に片足を突っ込んでいるし、主導権を握られるといつまででもそうしていそうだ。

 

 

「まちましたのでさっさとこたえてくださーい」

 

「むぅ……これ以上どう答えれば良いのか」

 

「細かく、詳細に、必要そうなことを話してみてください」

 

 

スーリで学んだ。彼らは自分の目的のために手段を選ばないし、思考回路が人と違っている。

 

彼らの理屈は説明してくれればなんとなくは理解できるが説明させることが困難だ。

 

 

「悪魔と天使は人の感情を司り、なおかつその感情を糧としております。感情を堪能するためにも人を攻撃してきたり、嫌がらせをしたり、喜ばせたりもする。悪魔も天使も人がいてこそその感情を味わえる。ですから人を責め立てることもありますが、その数が増えるように………そうですね。人を保護して数を増やし、その感情を出せる環境を作ろうという考えもあり、そちらが主流となります」

 

 

急に真面目に話し始めたハーリュー。

 

真剣に話しているのは良いけど、シャルルの膝の上である。格好はついていない。

 

内容も関係あるのか意味不明だ。ただ情報は多いほうが判断材料になるし止めはしない。

 

 

「しかし、保護が過ぎると人間は停滞するか堕落してしまう。そのため武器を持って殺し合わせるという勢力がいるのも確か。生きるための悪、生きるための善、生き抜くための感情。怒り悲しみ恥じらいなどと表現できる感情を我々は感じ取っていますが……私の話は伝わっていますか?」

 

「なんとなくな」

 

 

頬を撫でられたシャルルが答えた。

 

なんとなく天使と悪魔について理解した。人間にとっては上位存在からの守護はありがたいが、感情のために争えなどというのは……そういえばエルフの国が襲われたのもそういう理由だった。

 

前世のように上位存在はいるかどうかもわからない存在であるわけじゃなく、直接干渉してくる。そしてその行動原理が自分勝手というか迷惑すぎる。

 

しかしハーリューが「我々」と言った辺り、やはり彼は人ではなく上位存在としての視点だな。

 

 

「この国でも魔国でも天使の国でも竜の国でも人が王となる。この世界は人が生きるために作られた。ならば人が王になるべきである。人が国を作り、人がそこに居ることが――――■■■■、いや、■■■、違うな。どう表現すべきか……『楔』であり『門』である。グフ………………王は人でなければならない。でなければ上位の存在が人など滅ぼしていたでしょう。竜も精霊も関わりはしますが下位の存在を滅ぼしはしない」

 

「ほう」

 

 

一部聞き取れなかったな。

 

饒舌になったハーリューだが…………この話、ハーリューがここにいる理由に関係あるのだろうか?

 

 

「……しかし、滅ぼさないだけでは秩序は生まれません。人は愚かなので縛りもなく秩序を保たせないと必ず殺し合います。そのため上位の存在が決めた約定があり、上位の存在が人の王に力を与え、契約し、制約で縛り、続く秩序が生まれました。しかし制約を結んだ人間とはいえ自由を奪いすぎれば王はもう人ではなくなる。だからある程度は自由なのですが――――貴方はあまりにも自由が過ぎる。とても興味深い」

 

「そうなのか?と言うか膝の上に乗ったことに関係があるのか?」

 

「あります。ありますとも。無いのなら私が男色家みたいじゃあないですか」

 

「違うのか」

 

「違いますよ」

 

 

あ、違うのか。

 

ハーリューは頭が痛いといったふうに眉間に指を当ててやれやれと首を振っている。シャルルはホッとしたように肩の力が抜けたように見える。

 

 

「こうやって、ここまで接近しても精霊姫は私を退けようとはしていません。我が身の殆どは悪魔ですし、ここまで近付いて感情を感じ取って、味わっているというのにです」

 

「ほう」

 

 

ハーリューが指先をシャルルの頭上にいるルーラに向けると……そのままハイタッチした。

 

ルーラはシャルルの精霊で、明らかにヤバそうなハーリューに対して警戒心はなさそうだ。

 

 

「人と縁を持った場合、何かしらの制約を受けるはず。ある程度話せなくなる場合が多いのですが、王が、王のまま何の制約も受けていないように見受けられます。――――ククク!あぁ麗しの君、君こそ我が希望。我が願い!!」

 

「その願いというのは何でしょうか?」

 

 

なんか本人が納得しそうな雰囲気だったので更に突っ込んで聞く。スーリで慣れたものだ。

 

 

「私は人として生まれましたがほぼ悪魔。事情を知っていても話せないこともありますが……これには例外があり、特殊な状況においてのみ話すことができる場合もあります。話さなければより被害が出ると考えられる。そんな場合にのみ起こりうるこの現象。この場合でも何かしらの制約に引っかかることもありますがね。――――この国の無敵宰相は何かありませんでしたか?」

 

「問い詰めたら老いてしまったな……」

 

「ククク、老いたということは答えるしかなく無理をしたということでしょうか。それは無体なことを……しかしそれでこそ人間、それでこそ王かもしれませんね」

 

「貴殿はなぜ話せる?」

 

「あぁ、私も王族、悪魔の血を引きますが、悪魔の血が濃すぎると王にはなれませんで、そのため第一王子に据えられております。王とは人でこそなれるもの!とは言え私は肉の身を持ちます。故に!貴方こそが切望!熱望!導き!!!ここに来た理由であります!……こんなところですが満足でしょうか?」

 

「いえ、もっと話してください。繋がっているようで繋がっていません。貴方がここに来た理由を話してください」

 

「話したところですが……ククク!これも人であり、人ではないがゆえの齟齬か!!!!」

 

「叫ぶなうるさい」

 

 

ハーリューが叫び、シャルルが迷惑そうにしている。

 

スーリのように何を話していいかわからないという部分は同じ、ただスーリは話す言葉が少なかったがハーリューは話すことは話せるけどよくわからないな。

 

天井を見ていたハーリューだったけど、ウンウンと頷きながら話し始めた。

 

 

「悪魔としての寿命、これは人としては長すぎる。生物として生きるためには寿命を差し出すなんてとんでもない。ともあれ楽しみや正しさの為におかしくとも身を削るのも人間でしょう。酒が好きで飲まなくてもいい酒を楽しみ、大した理由もなく行ったこともない道を使い、食べ物を選んで食べる」

 

 

残っていたお菓子に手を伸ばして食べてみせたハーリュー。

 

 

「私のこれは……人間的行動でしょう」

 

 

満足そうに、そしてどこか寂しそうな表情を浮かべたハーリュー。

 

 

「なかなか、こうやって話せる機会はそうそうないのでこちらは本当に助かります。こうやって寿命を削れて、涙が出そうなほどに嬉しい。あぁ世界は美しく、愛は胸を焦がし、人を人足らしめる!!」

 

 

一部一部理解できないが彼の話をまとめると自らの寿命を削りに来たということなのだろうか?何のメリットもないように思えるが。

 

 

「寿命を使うこと、それが貴方が来た理由ですか?」

 

「はい」

 

「しかしそれは貴方にとって良くないように思えますが」

 

「こうやって話すことで寿命を削っています。これがまた良いのですよ。人が人として生きるには長く生きようとすることこそ自然かもしれませんが、話すことが私には必要なのです」

 

「必要か、俺の膝の上で話す事もか?」

 

 

シャルルが突っ込んだ。

 

シャルルの膝の上でわざわざ話す理由が微妙にわからない。確認のためっぽい気もする確定ではない。ついでに私の膝の上にミンテーさんを乗せたことは更に意味不明だ。何かの確認のためならもう離れてもいいはずだけど離れてはいない。

 

 

「はい、美味な感情を向けられていますね」

 

「……あの、なんで私まで?」

 

 

ミンテーさんも突っ込んだ。私も聞きたい。

 

 

「妖精の感情はとても甘美ですので」

 

「なんで私までぇ、勘弁してぇぇ……」

 

「そう、その、心から嫌がる感情!できれば逃げたいと考えているのがよく分かりますよ!美味!そう!美味!!」

 

 

酷いな悪魔、人の心とか無いのか……。

 

 

「ククククク!素晴らしい言葉!そうですとも、わたくし、これでも悪魔ですので!!このまま楽しみたいところですが、また話しましょう。じゃないとこのまま倒れてしまいそうです。またの機会に、我が渇望よ」

 

 

シャルルから軽い動作で離れたハーリュー。

 

名残惜しさとかはなさそうだし、恋愛的な意味でシャルル狙いではなさそうだ。

 




活動報告に戯屋先生のXにて描かれるフリムちゃん画像などのリンクをはっつけました。知らない人には楽しんでもらいたいな!
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