水魔法ぐらいしか取り柄がないけど現代知識があれば充分だよね?   作:mono-zo

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第376話 そこ恥ずかしがるとこ!?(ソレハヨウジョトハイエナイ)

 

理由はわからないけど、明らかに疲労しているハーリュー。

 

『楔』に『門』とやらを話した途端にこれだ。

 

ハーリューは話は終わったとばかりに退室しようとしたのか立って数歩歩こうとした途端に足はもつれている。息も絶え絶えで……話を切り上げる気なのはわかるが、ここは私の出番である。

 

 

「では次はこのまま私のお茶会に来てください」

 

「えっ、私、もう倒れそうでして、残念ながら……遠慮させていただきた――――「貴方には聞いていません。ミンテーさん、良いですね?」

 

「アッハイ。好きにしてください」

 

「グググ……この身は従者、付き従いましょうとも」

 

 

前世では必須スキル「場の空気を読む」というのは人間関係において大事なことだった。私も前世では気を遣うこともあったがここは異世界、なおかつ未知の危険がそこかしこに溢れている。

 

以前パキスに問いただした時も前世の価値観からしてもやりすぎだったが、それでも安全上必要だった。フリムちゃんは空気を読んだ上でズイズイ進むのだ。

 

今のこのタイミング、ハーリューは明らかに疲労困憊に見える。だけど立場上ハーリューには主がいて、その意向を尊重しているようだし断ることは出来ないと見た。

 

 

それに、もう少しだけ聞きたい。

 

 

上位存在なりの理屈は少し把握した。

 

そしてここに来た理由も……なんとなくだが寿命を減らしたいということもわかった。

 

ただ「根本的な動機」と「なぜこの国なのか」がわからない。わざわざ他国にまで来てこんな回りくどいことをしなくても自国でそういった条件に当てはまる王族を探して話せば良い。国交もないほど遠くのオベイロスまで行く必要は無いように思える。

 

それほどシャルルが珍しいという可能性もあるけど……弱っている今こそ聞き出せることもあるかもしれない。

 

 

「あ、じゃあ俺もそっち行くわ。カレーとチョコレイトー食べたい。あと鉄道で出したっていうふぉるもんうどんとやらも」

 

 

シャルルが軽くそう言った。微妙に言いにくそうだなホルモン。

 

シャルルも来るのならじゃあこのままここで良いだろうとも思ったけど、ここだと作ってから持ってくるまでに冷めるだろうなぁ。私のところだったら調理して熱々で食べられるだろうけど。

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

水の宮に帰って第二次お茶会が始まろうとしている。

 

 

一応ここは貴族の集まる王宮の奥、しかもお茶会の名目がある。チョコはともかくカレーやホルモン焼きうどんって良いのかとか、そもそも王様にそんな庶民的なものを食べさせても良いのか?と前世の常識的な何かで引っかかってるフリムちゃんである。

 

きっとシャルルはお腹が空いたのだろう。

 

調理時間中、ハーリューはぐったりしていて、ミンテーさんは吹っ切れたのか私の部屋に押し込められている財宝やドレスを見て楽しんでいる。

 

客間にもリヴァイアスや各所から届けられる荷物は侵略していたようでちょっと恥ずかしい。私自身は空路で来たから荷物が鉄道で届けられたのだろう。

 

ミンテーさんは刺繍が好きという情報は正しかったようで私のドレスの細部が気になるのかトルソーにかけられたままの状態で上から下からと舐め回すように見ている。

 

シャルルはお見合い大会における調査資料を横で読んでいえう。

 

 

「あ、うまいなこれ」

 

「ほんと!ピリッとしてて、このお肉も独特の歯ごたえで!」

 

「だな!カレーもうまい!!」

 

 

料理が来た途端、うちの王様とミンテーさんは私とハーリューのことなどそっちのけで料理を楽しみ始めた。二人はハーリューに振り回されていたし、吹っ切れたのかもしれない。

 

二人とも王族モードは解けているように見える。カレーもホルモン焼きうどんのタレも飛び散ると服に染みができそうだし落ち着いてもらいたい。

 

 

「再度問います。貴方の目的はなんでしょうか?」

 

 

私は私で別のテーブルでハーリューと対面で話す。気分は取調べする刑事だ。

 

 

「……そうですね。どう言えば伝わるものか」

 

「まずシャルルや私、そしてオベイロスに傷つける気はありますか?」

 

「侯爵、いや姫よ。その問いはずるい。王や貴女のような個体を傷つける気はありませんが『オベイロス』が何を示しているのかによってその問いは是とも否とも言えるでしょう。国か概念か精霊か、それとも家名か」

 

「はぁ」

 

 

何がずるいのだろうか。

 

お尻の後ろが椅子の先にしか当たっていない……腰が悪くなりそうな姿勢でぐったりと椅子に背を預けて寝るかのような体勢のハーリュー。

 

 

「私!私も傷つけないでくれれば幸いです!」

 

「ミンテー様はそのままでいてください」

 

「傷つけないって言えよぉぉおおお!!!??」

 

 

ミンテーさんが追撃した。ストレス溜まってたんだろうな。

 

ハーリューは軽く受け流したけど。

 

 

「まずはそう、この身はほぼほぼ悪魔で出来ています。しかし、生まれは人間、育ちは人間、精神も人間でありまして。はぁ……はぁ……」

 

「<水よ。出ろ>お水どうぞ」

 

「ありがたく」

 

 

座っているだけで息切れしているハーリューに水を出す。いつもよりも魔力少なめの水だ。

 

渡すと一口飲んで、それでもそのままの姿勢のハーリュー。

 

 

「そうすれば別種の群れにいるようなもの、きっと私を貴女が理解できない部分もあるでしょう。ただ私も貴女を理解できない」

 

 

それは……生まれつきでもとても苦しいことじゃないだろうか。

 

 

「友は死ぬ、親は死ぬ、人は死ぬ。悪魔のようにしていても悪魔からは悪魔として認められず、されど人としても相容れられず、人のようで人ではなく、悪魔のようで悪魔でなし」

 

 

椅子で半分寝ているように見えるハーリュー。

 

そもそも私と対面しているけど視線は天井、明らかに私よりもかなり上だ。あまりにも無礼だけど、まぁ良い。

 

 

「ただ、そう――――愛する人を見つけまして」

 

「お、俺のことか!?」

 

「何を言っているのですか?笑えない冗談ですね。既婚者に対して破廉恥な」

 

「「既婚者!?」」

 

 

シャルルとミンテーさんが叫んだ。

 

既婚者?!いや、待って既婚者!!?

 

 

「既婚者なのに他国の見合いの場に来るなよ!?」

 

「既婚者だから来たのですが?」

 

「ますます意味がわからん……」

 

「シャルル。まぁ聞いてみましょう」

 

 

つまりはこの人は……いや、この悪魔は人間の心を持っていて、シャルルを利用して寿命を削りたいらしい。そして既婚者だ。

 

そのためにお見合い大会に来てシャルルと接触した。おそらくミンテーさんと一緒にいるのは余興か、この悪魔なりに都合が良いと思ってその立場に収まったのだろう。

 

 

「実は……その、こういうのは恥ずかしいのだが」

 

「何でしょう?」

 

「妻は幼くてね。できれば共に老いたいのだよ」

 

「お、おいくつでしょうか?」

 

 

幼い妻って……こいつロリコンだったのか?

 

こんな不審者が相手で、可哀想に。犯罪じゃなかろうか。

 

 

「……も、もうすぐ92でね。い、いやー恥ずかしい!若い嫁がいるのって!!」

 

 

赤面して、両手で顔を覆っている。多分本気で恥ずかしがっているハーリュー。

 

幼いって…………こいつとの年齢差からそうなるのか。いや、待って、相手も長命の可能性もある。

 

ハーリューはポケットから水晶の欠片のようなものを出して使った。空中に朗らかな老婆の顔が浮かんだ。プロジェクターみたいな魔導具だな。私も欲しい

 

 

「――――もう、伴侶を見送るのは二度と嫌なのだよ」

 

「……あっ」

 

 

彼女を見つめるハーリューはほんのり優しげだ。

 

 

「無為に死にたいわけじゃない。ただ、真っ当に生きて真っ当に朽ちたい。寿命を削る行為はなかなか出来るものでもない。そもそもそんな機会すらない」

 

 

上位存在の肉体で人間の精神。そんな彼にしかわからない悩みなのだろう。

 

 

「シャルトル陛下はおかしい。上位存在とともにある人間は大抵何処か染まるもの。だというのに、確認しても何の制約もかかっていない。しかし闇の大精霊は本物……生まれつきではないにしろ大精霊との加護を授かった時点でその生き方は世界に縛られるはず」

 

「無理しない程度に話してくださいね」

 

「いえ、無理したいからこそこの国に来ていて……二度とこんな機会は無いかもしれません。世の均衡を、天秤を守護するは上位の存在、人に出来るものではない。だが人こそが王であり、王は人でなくてはならない。王は必ず染まり、縛られるはず」

 

 

シャルルとミンテーさんは好きに横で飲み食いしていたが気になる話だったのか手を止め、耳を傾けている。

 

 

「王であって王ではない。あるべき姿ではない、おかしな王」

 

 

ハーリューは立ち上がってふらふらとシャルルのもとに向かっていった。食事しつつも聞いていたシャルルも手を止めて向かい合うとハーリューはシャルルの手を取った。

 

シャルルの拳を首の下、自身の胸の中央に押し当て、頭を下げたハーリュー。何かの礼をとっているようだ。

 

 

「なればこそ、こうやって話すことが出来る。こうやって世界の均衡を、世界を護るために寿命を使うことが出来る。ありがたい。まさに我が為にいると言っても過言ではないシャルトル……私には愛すべき人がいますが、私が生きている間で貴方が死ぬまでの間ぐらいなら……愛妾として閨に呼んでいただいても構いませんよ?」

 

 

礼というかとんでもない対価を提示したハーリュー。

 

その瞬間シャルルは本気さが伝わったのか一瞬ブルっと大きく身震いした。

 

 

「お、男は趣味じゃない」

 

「ならば数年待って頂ければ子も産めるようにしましょう。もしくは趣味にして差し上げましょう」

 

「やめてくれ。比喩でも冗談でもなく本気でやめてくれ」

 

「おぉ、嫌悪の感情。まさに甘露!」

 

 

ちょっと、悲しい思いがあったのかと思ったがハーリューはハーリューだった。

 

そもそもそれぐらいは生きるつもりなのか。というかハーリューはともかく、ハーリューのお嫁さんは「旦那が女性になって他の男性と付き合う」とかどんな気分なのだろうか。良いのかそれ。

 

 

「理由も聞けたっぽいですし、疲れたんで離席していいですか?」

 

「あ、私も!こいつが動けない間に休みたいです!」

 

 

どう答えるかはシャルル次第だし、なんか自分はお邪魔な気もする。

 

誰かが誰かに真剣に気持ちを伝えようというのなら……流石の悪役令嬢フリムちゃんも邪魔はしまい。

 

一緒に立ち上がったミンテーさん。彼女もこの場から脱出したいのかもしれない。

 

 

「フリム、待て!お願いだ!こいつと二人にしないで!!?」

 

「ほら私子供ですし」

 

「見た目も中身も大人だろう!?タスケテ!!」

 

「ほら、シャルル鍛えた身体の使い時では?」

 

「うぉおおお!?あっいけそ――――「力比べですか?貧弱ですねぇ。なんと可愛らしい」――――ちょっ、まっ?!」

 

 

おそらく本気ではないだろうけど抱きつこうとするハーリューに対して抵抗しているシャルル。……なんか男子高校生みたいだな。

 

見ていてわかるがハーリューはからかっているのだろう。多分無害な絡み合いである。ただシャルルは必死の様子であった。

 

 

「ジュリオン、じゃれ合いが終わったらシャルルを回収してきてください」

 

「わかりました」

 

 

近衛兵も動いていないし、彼らもじゃれ合いと見ているのだろうな。

 

上位存在のいる王族とは力もつ存在であり、ミンテーさんは妖精の血を引くとはいっても抵抗するシャルルの魔力が漏れているだけで震えてアウアウしていた。彼女が倒れて国際問題にでもなる前に彼女を連れて一旦避難するべきだろう。

 

 

「フリム!フリムさん!助けてぇ!!!??」

 

 

ドアを閉める直前、なんか聞こえたけど部屋には近衛もジュリオンもいるし、大丈夫だろう。多分。

 

それにちゃんと女性の相手がいればこんなことにはなりにくくなるはずだ。これを機にお見合い大会に対してもうちょっと向き合ってくれればと思う。

 




最近いろんな執筆してて楽しい。メインサイトで彫金で書き始めてて、反応もあってびっくり。マイナージャンルだし誰も読まないかもって思ってたのに。
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