水魔法ぐらいしか取り柄がないけど現代知識があれば充分だよね?   作:mono-zo

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第378話 王となる(ニゲタカコ)

 

「弱い、遅い、たるんでるわ!!」

 

「…………」

 

 

クラルスは容赦がない。

 

国中の貴族の中でも力の強い者を集めた近衛よりもクラルスの動きは段違いに鋭く、俺は全く動きについていけない。

 

顔面だろうと、股ぐらだろうと、躊躇無く打ってくる。

 

これまでに感じたことのないほどの痛みが体の芯に響く。

 

 

「そんなことでは守れるものも守れないわよ!」

 

「言わせておけば……ぐっ」

 

「さっさと立ちなさい」

 

 

死なない程度に毒は飲まされるし、地面が倒れてくるかのような感覚の中で剣を振るえるようにと訓練する。

 

死ぬんじゃないかと思えるぐらいには……恐ろしいほどに叩きのめされる。

 

 

 

――――……これでいい。これこそ俺の望むところだ。

 

 

 

フリムが居ない間に少しでも力をつけたい。

 

都合の良いことに王しか入れない部屋でもクラルスは裏道を知っていて、鍛える時間が出来た。

 

剣を振るい、手の皮は破れ、骨が折れても打ち据えられた。多分10じゃ効かないぐらいには折られている。

 

だがクラルスはこの国随一の薬師でもあるし、隠し通路を神官長ヴァルジャ・ノーイを荷物のように担いで来て、ボロボロの俺を治療してくれる。

 

 

「その薬品とは相性が悪いようですね」

 

「おかしいわね。毒を飲ませすぎたかしら」

 

「…………」

 

 

色々言いたいことはあるが、俺のためだ。

 

彼らは本来多忙で、俺にかかりきりなど出来ない。なのにこうやって時間を作ってくれる。

 

 

普段の俺には時間がない。

 

 

政務は容赦なく舞い込んでくるし、国中の精霊が問題を起こせば対処に出向かねばならん。文官も軍も騎士も好きに動き、派閥のため誇りのため家のためにと争う。

 

仕事の殆どは爺と他の大臣がこなしているが、それでも王のやるべきことは多い

 

とはいえフリムが超魔力水を使って、一線を引いていた有能な貴族を復帰させてくれた。

 

おかげで仕事を停滞させ、賄賂を要求するゴミ貴族を減らすことが出来た。元の職場や当主の座に戻った彼らはまともに働いてくれているし、俺がやるべき仕事は激減した。

 

……ただ彼らは国よりもフリムに恩があるようでフリムにとって不利となるような政策を取ろうとする貴族には貴族としての振る舞いを超えて攻撃的になるし、その杖の先が俺に向けられることもある。

 

ただ、時間が出来たのは確かだ。お見合い大会の参加者もリヴァイアスに行ったし、今この時しか時間がない。

 

ローガ将軍の教えに「足りぬに備えよ」とあるが、今がまさにその時だろう。

 

そのためなら苦しくても、辛くても、寝られぬほどに傷ついても……悪くない気分だ。

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

元々俺に王位を授かるとは思えなかった俺は一度王位から目を逸らし、逃げ出した。

 

 

王という重責、テリーオフ兄上のような他の兄や姉のような強烈な魔力も、兄上に心酔して全てを捧げようと気概のある後援も俺にはない。

 

国を二分する状況、戦うか、戦わないか。……どちらを選んでもろくに後援のいない俺はこのままでは殺されてしまう。

 

王にはなりたくてなったわけではない。なのに王になった。……なってしまった。

 

何もわからず臣下の言うとおりにし、俺の失策で民は苦しむ。

 

貴族共は俺がどう行動しようと過剰なまでに褒めちぎる。大貴族は俺を探るような目で見るか、人の暮らしを左右するほどの政策を投げつけてきて俺を試してくる。

 

 

重責に耐えられなかった。陰口は聞こえ、嘆きと怨嗟を叫ばれ、伯父上との全面的な開戦を何度も提案された。

 

 

答えがわからなかった。

 

 

戦えばどうなる?今ですら恨みと嘆きと悲しみが王宮に広がっているのに、それが増えるのか?それとも開戦が正解で、俺の迷いは間違っているのか?俺の選択一つで……………嘆きすら聞こえないぐらい、ここにいる人が死んでしまうのではないか?

 

派閥を持つほどの大貴族であれば王と同じく派閥の貴族からの声に動きが左右される。だから開戦に踏み切るかは意見が割れていた。

 

 

 

わからない俺が責任を持つ。

 

わからない俺の判断で人は死ぬ。

 

わからない俺が、決めなければならない。

 

 

 

答えが見えなかった。どう答えても、ここに答えなど無い気がした。

 

臣下から逃げ、迷宮を抜けて城下に出れば……かつて見たことのある平和な街は何処にもなくなっていた。

 

何処を見ても争いの跡がありありと残り、焼け焦げてそのままの建物に……道から退けられてもいない死体があった。

 

小さくて、子供で……でも周りを見ればそれが一人ではなく、たくさんいた。

 

目を逸らしてただただ進み、吐き気が耐えられなくなって路地に入ると……通行の邪魔だからか押し込められた死体が積み上がっていて――――目があってしまった。

 

 

生きているわけじゃない。

 

目は開いたまま、虫に集られ、生気はなく……当然だが死んでいた。

 

 

子供も老人も、男も女も、敵も味方も死んでいる。

 

 

それは――――俺のせいかもしれない。身が竦むほど怖かった。

 

 

だが、彼らこそ真に怖い思いをしたであろう。

 

 

きっと生きたかっただろう。死にたくなかっただろう。

 

 

死んだ女の子に覆いかぶさっている女性は親だろうか、それとも他人か……どちらにせよ死んでいる。

 

 

怖かった。彼らの死は王家の責任かもしれない。兄や姉がやったのかもしれない。

 

 

彼らには未来があったはずだ。だけど、死んだ。死んでしまっている。

 

 

大人も子供も、老人も。――――誰も彼もただ死んでしまっている。

 

 

胃が焼けるように熱く、せめて何もない場所で吐いた。

 

 

誰のせいだ?

 

 

王が代替わりした程度で……俺の家族の問題で、死んだ民が沢山いる。

 

周辺国家が攻め込んでくるのが悪い。兄上らが派閥を作って争っていたのが悪い。精霊が明確な王を父の病中に決めなかったのが悪い。争う貴族が悪い。俺の家族が悪い。…………俺の決断が、悪い。

 

心底怖かった。こうなった責任は俺の家族にも少なからずある。――――そして俺にもあるのだろう。

 

今のこの状況を覆せるのは、俺か伯父上しかいない。

 

伯父上は聡明と聞く。伯父上にならきっと国を任せてもいい。

 

だから、レージリア宰相に相談した。

 

だが、王位を譲ることは出来ず、それを決めるのは精霊姫だけだという。

 

もしも譲るというのなら……それは俺の死を意味する。

 

それは俺を王にしようとして死んでいった仲間の期待を裏切ることになる。生きて俺の味方をしている仲間の今後が暗いものになる。

 

俺の生は俺だけのものじゃない。誰かの人生に関わっていて、一つの失敗でもしかすれば道に転がっていた死体のように俺も俺を信じる仲間もそうなるかもしれない。

 

誰かの期待に応えたいというより、俺自身死にたくはなくて……誰も死なせたくなかった。逃げたかったけど逃げ場はない。なにか方法があるかもしれないし、それまでの間だけでも王になろうと奮起した。

 

 

爺は貴族院も大臣も、素早く貴族を取りまとめて俺を王にした。

 

 

俺は兄上らによって闇の迷宮に閉じ込められていた。だから王都から離れていた伯父上は俺を死んだと思っていた。

 

生き残った王族は俺だけだと……王都に凱旋してこようと伯父上が向かってきていたが、選んだのは精霊である。なんとか伯父上も助けてくれないかと期待した。

 

ただ、伯父上からすれば俺は「外国からの侵略」にも「派閥争い」にも「オベイロス国の動乱」にも何もしなかった、王として不適格な存在で……認められなかった。伯父上にも伯父上を慕う後援がいて、止められなかったのかもしれない。

 

王になった俺に頭を下げず、王都に入る前に引き返していった伯父上はどう思っただろうか。

 

 

俺は死にたくはなくて、オベイロスの誰も死なせたくはなくて…………王になった。なるしかなかった。

 

答えを求めて漠然と逃げた。そして死体の山を見て、一つの答えを見つけた。

 

 

きっと『誰も死にたくない』はずだ。

 

 

自分が死なないことに精一杯で、俺の力不足で…………たくさん、俺を慕う兵を死なせてしまった。

 

時間もない、余裕もない。大切なものは減っていく。

 

最低の気分だった。俺の大切な存在にも大切な家族が居て、そこにも悲しみがあったはずだ。

 

彼らに報いなければならない。貴族も民も生きられるようにまとめ上げる必要はある。

 

 

この状況を変えられるのは俺しかいない。

 

 

だから争いを止めるべく、俺は王として振る舞った。それまでのように仕方なくではなく、正しく王として。

 

それこそが正しく、それこそが人が最も死なない道で、俺を信じたものに報いる唯一の方法だ。

 

 

王をやってきて……後悔も悔恨も懺悔も、悔やむことも反省もいくらでもあった。

 

 

それでも進むしか無く、やれることをこなしていく日々。

 

王の責務だからと女性をあてがわれたが……何度か襲われていくうちに避けるようになった。何度も襲われたし、他にも仕事は空高く積み上がっていたので流石に後回しにしてもらえた。そのうち大貴族や有力貴族が姫を次々送り込んできてある程度落ち着いたが……親の視線の痛いことよ。

 




新作をハーメルンにも投稿するか迷うところ……。
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