水魔法ぐらいしか取り柄がないけど現代知識があれば充分だよね? 作:mono-zo
以前オルダースが言っていた。「新しいことは余裕があればやる」と。
彼は身体強化と水の魔法ができる武人だ。なのに料理が得意で他の騎士団や軍に顔を出しては酒を飲んで水を入れ、誰かを助けることの多い……人に頼られる人物だった。
余裕はどうやれば出来るのか?それを聞いたことがある。
「配属された環境にまず慣れ、周りを観察し、その場の道理を学び、失敗しないようにこなして、繰り返す。ある程度慣れれば誰かを助ける余裕ができる。大事なのはなにより体力!体力が大事!筋力と体力が大体解決する。…………えぇと、上手くできないことでも何度もやる体力があれば少しずつ解決するから!うむ!」
などと、説明下手なのに説明してくれた。
オルダースは大柄な体でだいたい筋力で解決する節があったが、たしかに体力があれば苦手なことであっても長く続けられるし、体力は大事だろう。
俺も王になって仕事に余裕ができた後、変装して城内を観察した。
ある程度は王家の抜け道を知っていたし、変装すれば人の多い王城で怪しまれるということもない。特に貴族は属性を見る時に髪を見がちだ。この目立つ金髪を黒くすればバレたことなどそうない。俺が闇属性なのに金髪というのが良かったのだろうな。
貴族の不正と汚職を暴くのに嗅ぎ回っても誰も俺と認識しない。完全に裏切っている貴族から俺の暗殺計画を聞いた時は体の芯から冷えたこともあるが……まぁ今となってはそれも学びだ。
今は俺にもこの国にも余裕ができた。
ならばやるべきことをやるべきで、この国の異変にも対応するべきだろう。慎重かつ、見逃しの無いようにする。………………ついでに嫁を迎えるのも。
そうして色々調べ、考えた。そして禁書庫で一つ学び、オルダースの言うようにもっと余裕が持てるようにと鍛えている。
力はすぐに付くものではないがクラルスが万全の環境を作ってくれた。……ただクラルスとは鍛えた年月が違いすぎる。たった数年鍛えただけの俺と、何百年鍛えたかわからないクラルスでは相手にもならない。
「そんなんじゃ猫にも負けるわよ。体力ないわねぇ」
リヴァイアスにいる海猫族になら負けるかもしれないな。
口は悪いが本気で稽古をつけてくれている。
臣下や騎士は俺に忠誠を誓ってくれている。そして人の目があるため本気で指導などしてくれない。……いや出来ない。
正しい指導であってもやりすぎだと周りに見られる。おべっかは周りから嫉妬を受ける。
騎士が互いに牽制するし、派閥の長が出てきて俺の稽古に文句をつけて……担当した騎士の謹慎まで会議にかけてきやがる。そりゃまともな指導もできないだろう。
ローガ将軍だってすぐに叱責を受けていた。
だがクラルスは違う。
武人であり、薬師であり、人を何処までやれば壊せるか、治せるかを知っている。国を想い、本気で俺を指導してくれる。
子供の頃から見てもらっていて遠慮もない。というかクリータで俺が捕まった時……俺の救出のためとはいえ黙らせるために俺の頭を踏みつけたからな。
ちょっとやりすぎと言うか、死にかねない攻撃もしてくるし、何度か危なかったが……治してもらえる。そうすれば俺も徐々に力をつけている…………はず。
このまま家族を助けられるよう、国に潜む『敵』に対応できるように――――『足りれば』いいのだが。
フリムが帰ってくる前、パキスという少年が先に王都についた。
「今日は相手を連れてきたわ。この子の戦い方はきっと参考になるはずよ」
「パキス・ドゥラッゲンです」
彼はフリムの筆頭家臣の息子で、ドゥラッゲン分家に養子に行った子だ。
見た目は子供で背も低く、肉付きもいいとは言えない。ただ俺を見る目つきは鋭い。
「あなたにとって兄弟子に当たるから礼儀を持って接しなさい」
「はい。いや、幼い頃に稽古をつけてもらったし俺が兄弟子では?」
「基本しか教えてなかったから弟子とは言えないわよ。パキスは荒っぽいけど何からでも学ぼうとする子よ。見どころがあるわ」
パキスは明らかに子供である。
現にクラルスに後ろから尖った髪を撫で回されて仏頂面で立っている。
「それに私とばかりやってると変な癖が付いちゃいそうだしね。ちょうどいいのよ」
「はい、わかりました」
確かに、それはそうかもしれない。
勝てない相手に何度もやっていると、何処に打ち込むかそんな簡単なはずの動きも出きずに、勝手に身が竦むこともある。
「チッ……はいじゃない『よろしくおねがいします』だ」
パキスにそう言われた。
明らかに10は離れた年下で、身分差もある。年齢的にも地位からしても俺が王とは知っているはず……なのにそれを無視できるのは大したものだ。へりくだるような人物ならクラルスも連れてこないか。
「よろしくお願いします。兄弟子」
「修行をつける間はパキスを敬いなさい。パキスも死なない程度に加減するのよ」
「わかった」
「『わかりました』よ」
「わかりました」
小生意気な子供で……だがクラルスの言うことは素直に聞くようだ。
彼を何度か見かけたことがあるがフリムの後ろに続くばかりに見えたが……強かった。土魔法は補助程度、たまに鋭い石弾を当ててくるが貴族であれば普通だ。だがそれよりも身体強化が抜群にうまいし戦い方の幅が広い。
パキスは小柄で素早く、なのにその力は獣人を相手にしているかのようであった。
「くぅっ!!?」
「あめぇ!」
剣を打ち合せた瞬間。丈夫さだけを追求したはずの訓練用の剣があまりの力で曲がった。
すぐに剣を捨てたパキスに胸ぐらを掴まれ、床に叩きつけられた。
しかも倒れた瞬間……脇腹に蹴りを入れてきた。
「そこまで!」
「よっわ、こんなもんかよ」
「っ~~~~~」
肋骨が傷む。痛みで呼吸もままならない。
「パキス、シャルルは弱いからもうちょっと手加減しなさい」
「はい」
不味い秘薬を飲み、目が痺れそうなほどの薬を塗られ、クラルスが裏から連れてきた神官長の治癒を受ける。
処置の後、しばらくの休憩の時間……俺のようにパキスもクラルスによって地を這っていた。
パキスも治療されて寄ってきたので手ぬぐいを投げて渡す。
「……王ってもっとクソつえーと思ってたんだが」
「俺は、王家の人間の中じゃ最弱と言ってもいい。なにせ闇だからな」
「闇?闇でもつえーやつはいるよ。工夫しろよ」
「工夫な、闇は何が起こるかわからない。しかも大精霊がいればその力が及ぼす影響は――――「知るか、工夫しろ」
「…………」
「返事は『はい』だ」
「……………………はい」
理不尽な兄弟子である。でも遠慮する必要もないし……俺に弟はいないが小生意気な弟でも出来た気分だ。
多分これを言ったら酷い目に合うのはわかっているから言わないが。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
フリムが帰ってきて、いつものように、いや、いつも以上にとんでもないことをやらかしていて驚かされたが……状況は何も待ってはくれない。
というか軍を連れてくるのはいいけど、結構な数の竜を連れてくるのは……いやまぁ、そこはいい。敵じゃないし、だがなんで大人の状態なんだ?隠した方がいいはずだが……もうずっと戻れないらしい。
祝いたいところだが、今はお見合い大会を優先するべきだろう。本人もそのつもりのようだ。
見合い参加者は曲者揃いで、天井から降ってくるし、押し倒されるしで秩序がなかった。
今までなら貴族院とセルティーに任せればなんとかなっていたが他国の姫に貴族院の威光は通じない。
しかもハーリューだ。あいつ『従者の男が他国の王族で俺狙い』とか本気で意味不明だったが、見合いは口実で目的があったのか。
魔国では力が強ければ王家において序列が高くなると聞く。第一王子ともなれば魔国では最高戦力となるだろう。
しかし、奴はわかっていたな。
膝の上に乗ったハーリューに触れられた箇所、俺の膝の上で何をするかと思えば何処も鍛錬の間に痛めた箇所ばかり……しかも触れられた際に何かの術で治癒されたようだ。
禁書庫の情報はすべてが正しいかわからなかったし、記録自体が古いものだった。フリムは一つの事象をあらゆる角度から考えるように以前言っていた。そう考えれば今を生きる他国の王族の言葉は一つの判断材料になったな。
しかし、ハーリューは何を考えているかわからないし、何かのきっかけで襲いかかってきそうで怖いが……それでも嘘はなさそうだ。
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