水魔法ぐらいしか取り柄がないけど現代知識があれば充分だよね? 作:mono-zo
予定していた庭園でのお茶会が雨で無くなってしまった。
「少し、踊ろうか」
「はい?」
シャルルの仕事を手伝おうと執務室にいたのだが……いきなり踊ろうと言われて執務室でダンスが始まった。
少しドキッとした。
この国においてダンスが出来るということは地位を表し、そして「求愛行動」にもなると学んだ。
「仕事も一段落ついたしな」
「まぁ良いですけど」
学んだからこそ、なんだか気恥ずかしい気もする。わざわざ超重量の扉で守られた執務室で、2人だけのダンスをするのか。
しかもシャルルからは意味深に笑顔を向けられている。
大人フリムの魅力に気づいての行動だろうか?……違うな、シャルルのことだから恋愛感情はないはず。理由はわからないけど手を取って従っているとそのまま普通にダンスが始まった。
シャルルは何を言うわけでもなく、柔和な笑みをこちらに向けてくるばかり……これはまさか、シャルルは大人フリムの魅力にやられているのか?正気か?
「フリムは大きくなっただろう」
「はい」
「だから今度祝いをしようと思ってな」
祝いってことは……あ、これ練習なのね。たまには練習しないとやはり腕前は落ちるもんね。
「つまり?」
「夜会だ。各国から見合いの問い合わせも落ち着いたし、祝ってやろうと思ってな」
エール先生によれば夜会とは関係値ゼロの男女の恋の始まりの場にして狙った異性を落とす狩人が集まる狩猟場であり、ついでに貴族としてマウントを取り合う場なんだとか。
「その時に踊ると」
「そうだ。フリムも爺もだが、俺に見合いの場に出ろと言う。それに俺と初めに踊ればフリムを大切にしていると示すことも出来るだろう」
「最近舐められてますしね」
お見合い参加者からすれば私のポジションはわけがわからないだろう。故に敵愾心があったり舐められていることもある。
「そうだ、これでフリムを見る目も変わるというものだろう。少し良いものを用意した」
今の私の肉体は健全そのもので大人化に伴う全身の痛みもなく、むしろ動かしやすい。しかもエール先生にダンスも習ったから余裕である。
大人に変身すると慣れないうちは交通事故かってぐらい体が痛んでいて上手く動かせなかった。エール先生とのダンスでは足を踏みつけすぎたので1人で踊れる海猫族のダンスも習得した。夜会で踊る気はないが。
しばらく踊っているとシャルルの動きが鈍いことに気が付いた。ほんの少し足をかばってるように思える。
「どうかしましたか?」
まだ、本番ではない……執務室での秘密のダンス。
各国の姫君がお見合い大会には参加しているし、彼女らもその夜会に参加させようというのならミスしない程度に練習する必要がある。
とりあえず私が一番目に踊ることになる。しかし、私よりもシャルルの動きがどうもぎこちない。
「いや、少ししごかれてな」
「怪我ですか?」
「鍛錬の結果だ。気にするな」
手のひらもいつもよりも硬く、皮膚が破れたかのような感触がする。
学生時代、運動部の同級生の手や足の皮がむけるというのは見たことがあったし、鍛えているとそうなるものかもしれない。
「……なぁフリム」
「なん、でしょ、う」
「大きくなったな」
「なり、ましたね」
シャルルはほんのり動きが悪いけど普通に話せている。対して私はスムーズに話すまでは出来ない。大人モードではかなり動けるようになったがダンスしながらだと呼吸のタイミングが難しい。
それはそれとして、踊っていると体が触れ合うし、相手の呼吸や体温を感じる。
…………そもそもダンス自体が気恥ずかしいんだよね。日本でダンスと言えば盆踊りや学校で行われたりすることがあったりなかったりするフォークダンスぐらいか……こうやって男女で触れ合う機会自体が少ないと思う。家族でも子供の頃ぐらいしかそう触れ合うこともないだろう。だから私の気恥ずかしさも仕方ないはずだ。
「列車のサプレーゼは微妙な顔をしていたからな。先に言っておくと夜会はフリムのためにあると言ってもいい。用意はあるがなにか希望はあるか?」
私の内心の恥ずかしさなど知らないとばかりに話しかけてくるシャルル。
精霊による身体の変化はオベイロスでは祝われる対象だ。保護者であるシャルルが私を祝うのも………………ん?
「祝わ、れて、文句はありません、よっと」
「なら良いのだが、前は微妙な顔をしていたからな」
……………………あれ?
誰かに祝われることに文句はない。とはいえ……国を上げての、それも貴族が揃った場で祝われるとか恥ずかしいんだが!?
……………………………………………………えっ!!?
待って、待って待って待って脳内で整理できてきた。……鉄道と比較するってことは――――私のお祝い…………国家事業と同じレベルでやる気か!!?
「フリム?」
「練習しないと!<水よ。超魔力水よ!出ろ!!>ほらシャルル飲んで!練習!!」
「お、おう」
なんか改めて考えると焦ってきた。汗がブワって出た気がする。
シャルルには超魔力水で体の不調を整えてもらう。
私もいつまでも前世の一般庶民だった価値観に縛られているわけではなく、今世では貴族としてやっていこうという気持ちもあり、そこは受け止めつつある。
そしてシャルルもエール先生も家族だし、「貴族としての行動」や「お見合い大会」は「家族のため」って考えもあって積極的にやれていると思う。
だけど――――『私がメインで貴族に祝われる国家行事』とか……焦るわっ!?いや、あってるかわからないけど多分そういうやつぅぅ!!飲み込むまで時間がかかったよ!!?
しかも……しかもだ。私がまずシャルルと踊って、後はシャルルが色んな人と踊るわけだけどさ……二番手三番手のダンスが私よりも格段に上だったらと思えば……プレッシャー過ぎるぅぅ!!
シャルルはどうかしたか?って顔をしてるけど!もう!
「ど、どうかしたか?」
「他国の姫君が出席しても問題ないか、全員分調べましたか?」
「いや?参加したくなければしなくてもよいのではないか?俺はその方が助かる」
「はぁ……シャルルは全く……」
――――真の敵は身内にいたか。
わかってないようだけど、しれっと超メンタル攻撃してくるとは……。
まぁ、この男なりの、祝いの為だろう。そして私以外とも踊るということはお見合い大会にも消極的とはいえ参加の意思を持っている。それは良いことだが、プレッシャーに打ち勝つためにも練習はガッツリやるべきだろう。いや、練習で足りるか?納期……じゃない。いつにする予定だ?練習すれば今よりは動けるようになるだろうけど。まず、私の後ろの杖が浮いてるけど格好はつくのか?ドレスはどれを…………落ち着け私。
「シャルル、私にいい考えがあります」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
とりあえず、予定は予定。シャルル次第で先延ばしも出来るらしいので先延ばししてもらう。
シャルル的にはベストなタイミングであり、私が軽くでも踊れたならすぐにでも決行しようとしていたっぽいけど「<女性には何事にも準備というものがあるのですよ。オホホホホ>」と目は笑わずに威圧して黙らせた。
たしかに誰かに祝われるのは嬉しい。プレゼントも用意してくれている。そしてシャルル的には私のダンスが下手でも問題はないとのこと。
もうちょっと、シャルルには女性同士のパワーバランスや……「事前の準備」というものを考えてもらいたい。
お見合い参加者の中でも他国の人間はスーリの襲撃によって荷物を喪失したケースが大半である。
現在、彼女らは国元の方とも連絡が取れているし、服や日用品の類いも届いているケースはある。最低限のものならオベイロスでちゃんと用意したし、ドレスもうちが提供してはいる。
だけど盛大に夜会をする場合。しかも踊るとなれば彼女らにも準備が必要かもしれない。
彼女らの国元でのドレスや装飾品の決まりは?夜会用のドレスは全員分揃ってる?ダンスはこの国の曲でできる?そもそも国元には踊るって習慣はある?……ちゃんと調べる必要がある。
……もしも、こちらの不手際で恥をかかせるような事があっては国際問題になりうる。
もしもドレス無しで夜会に挑み、シャルルとのダンスになったタイミングで彼女らが知らない作法があったり、彼女らが踊ろうとする曲をオベイロスの楽団が知らなかったら?
きっと私のお祝いを兼ねているのならオベイロスの貴族は参加するだろうし、当然我が国のゴミ貴族どもは失点を嘲笑するだろう。
きっとこれは気の緩みだろうな。
お見合い大会では既にテストでストレスをかけて喧嘩しているような令嬢もいる。問題が起きてもいつものことだ。
だがそれはシャルルの花嫁を選ぶために必要な措置という前提がある。しかしこの夜会は別。シャルル的には祝いとついでなのだろうけど、外国から来た彼女らの捉え方次第では大問題になりかねない。
こうして私は「事前の準備の必要性」の名のもとにシャルルの雑な企みを計画し直すことが出来たのであった。……サプライズとか教えるんじゃなかったな。
更新更新~♪
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