水魔法ぐらいしか取り柄がないけど現代知識があれば充分だよね?   作:mono-zo

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第381話 ダンスと刺繡と悪役令嬢(ハンカチセイサン)

 

思った通り、夜会で踊るだけでも人によって準備が必要とわかった。

 

オベイロス流のダンスはまだ習得していない人もいるし、そもそもダンス自体が国元の文化にない人もいる。更に踊るなら「詩を準備するものだ」とか「特定の装飾品を身につける」のが常識という人も居た。

 

ならばとディア様と相談してオベイロスでポピュラーな夜会用のダンスを多めにレッスンしてもらうことになった。

 

 

「下手くそねぇ、あれで公爵令嬢ですって」

「うちの妹ならもっと上手く動けるわよ」

「やる気がないんじゃなくって?」

「きっとオベイロスのやり方が気に入らないって抗議でしょう」

 

 

これまでにも礼儀作法やダンスの講義はあった。

 

しかし今までとは状況が異なる。

 

なぜならシャルルは女性との接触を避けていて、イベントもお茶会ぐらいしか参加していない。しても「移動で横切る」だとか「新しく来た姫の紹介のために仕方なく連れてきた」程度で、僅かに顔を見せる程度だった。

 

今回は夜会を開こうとしているのはシャルルだと告知しているし、確実にシャルルは出席する。

 

踊るチャンスが有ると知った女性陣は浮足立っているように感じる。情報収集に躍起

になったり他者を攻撃して自信喪失させようとしたりと盛り上がっているようで…………練習に苦難している人にも聞こえる陰口が止まらない。

 

それぞれの国に合わせてオベイロス以外の踊り方もありにすればペアであるシャルルは全てに対応できるものでもなく、どうしてもみっともなくなってしまうだろう。覚えるにしてもその負担は過剰となる。

 

だからこそオベイロスのやり方で統一し、他国の姫君も恥をかかない程度のレッスンをする必要があるが、当然すぐにできるものではない。

 

そもそもだが……シャルルはオベイロスでは人気であり、そのシャルルが他国の人間とくっつくことを――――オベイロスで生きてきて、オベイロスで学んできた、オベイロス貴族からすれば気分の良いものではないのだろう。

 

 

「今度は足を踏みになってましてよ」

「あれじゃ、陛下の足を踏む練習じゃなくって?」

「ありえますわね」

「はははは」

 

 

とりあえず私の出来ることと役割を考え、ドレスは可能な限り要望を聞いて作ることにした。

 

オベイロスのドレスを配布しても良いのだけど、既に外国のドレスが流行っているのにわざわざこの国のドレスを着させるのはいくつかの点でよろしく無い気がした。

 

一応オベイロスの筆頭婚約者にもドレスは自由であると通達すると基本受け入れてくれた。

 

 

「あの程度で転びそうになっていてよ」

「滑稽ねぇ」

「何人か来てませんね」

「オベイロスを舐めてるんじゃない?」

 

 

ミィアはズボン付きのドレスが気に入ったようで乗り気だ。

 

リュビリーナは自分の着るドレスよりも私のドレスを夜会の後で欲しいとか言ってきたが取り巻きに簀巻きにされて連れて行かれていた。……最近あの子は暴走気味な気がする。いや、いつものことかもしれないな。まぁリュビリーナは基本的に害がないから問題ない。

 

それより「吾輩参加しないから」とか言うラズリーは論外として、セルティーさんは「ここはオベイロスなのだからオベイロスに合わせるべきでしょう」なんて強く主張してきた。

 

 

「サボってるのかしら」

「そんな娘じゃないと思っていたのだけど」

「ふふ、また転けそうになってるわよ」

「恥ずかしいわねぇ、子供でも出来ることなのに」

「その程度で王妃の座を狙おうだなんて……」

 

 

その意見もありと言えばありだけど、そうすると会場では派閥ごとにある程度統一されるだろうし、そうなれば外国から来た彼女らは少数である。会場で気まずい思いをするかもしれない。

 

ただでさえ、オベイロスの貴族は狭量で下衆で、人を貶めたり結婚だの領地よこせだのと常に手紙や使者を送ってくるゴミばかりだ。きっと会場でも少数が相手と分かれば多勢で陰険な攻撃をする可能性がある。争いの芽は起こる前から予防する。そのためにもドレスはバラバラで目立たせないようにしたい。

 

ホストとして様々な配慮を考えるのは当然なんだけど……いや、仕方ないか。

 

オベイロス貴族として彼女らの文化に対して寛容になるべきだと主張し、決めるのは陛下だと伝えておいた。裏で私が決めたけど。

 

 

 

「無様ね、恥を知らないのかしら」

 

 

 

踊っていた方が転けそうになって、相手の人が支えて……嘲笑と陰口が一際大きくなった。彼女は彼女なりに努力しているし、陰口が聞こえてか涙目だ。

 

 

 

「<貴女方こそ恥を知らないのですか?>」

 

「ひっ!?」

 

 

 

近くで喚いていた集団の言葉が聞くに耐えず、威圧つきで口が出てしまった。

 

確かに彼女は上手く踊れてはいない。

 

オベイロスの作法がわかっていないのか、それとも運動が苦手なのかどうしても上手く出来ないようだ。対してオベイロスの貴族はこれだから……派閥や面子のためだろうけど、それにしたって陰険過ぎる。

 

 

「おっと……誰でも初めてのことはあるでしょう。この国の作法と流儀に則って努力する人物に、それも反抗できない相手に向かって聞こえるように陰口を叩くなど……貴女達こそ恥を知りなさい」

 

「し、しかし見るに耐えないのは事実です」

 

「そうかしら?努力する人間は美しいと思いますけど。少なくとも努力を貶して嘲笑っている貴女達よりかはね」

 

 

陰口をたたかれている姫は涙をこぼさないようにするだけで反論もしていない。

 

ここはオベイロスで、外国から来た姫君にとってはアウェイなのだから何も言い返せなくても仕方ない。

 

 

「くぅ……し、失礼いたします!」

 

 

陰口を言っていた集団はレッスン中だと言うのに退室しようとした。

 

彼女らからすれば私は直接怒らせると危険な存在のはず、全員の個人が特定されていないかもしれない今逃げなければ今後の進退にも関わるかもしれない。まぁ全員リストで誰が誰かは把握しているけどね。名前は長くて覚えられてないけど。

 

 

「はぁ――――<待ちなさい>」

 

 

立ち去ろうとするその背を呼び止めた。

 

厳罰まで求める気はないが、ちょっと懲らしめてくれよう。

 

 

「なん、でしょう」

 

「まずは彼女らに謝罪なさい。そしてこの講義を取り仕切るディア様にも謝罪し、退室するのなら許可を得なさい。ディア様は我々全員のためにお忙しいにも関わらず時間を作っておられます」

 

「…………はい」

 

「それと――――貴女達はオベイロスの品位を貶めていると自覚なさい。行ってよろしい」

 

 

きっと私が子供の姿だともっと反発があっただろうな。

 

まだ子供の姿に戻るまではしばらくかかりそうだし、勝手にドレスが脱げる可能性が低いうちに夜会は済ませてしまいたい。

 

今の大人モードは悪役令嬢としては有効な気がする。子供の姿で悪役令嬢をやっていた時よりかは舐められていない気がする。……いや、後ろにいるジュリオンのおかげかもしれない。

 

ジュリオンは間違いなくお見合い参加者兼護衛の中で素手なら近接戦では最強格に当たるだろう。最近成長したっぽくて私にもまだ聞こえていない陰口を聞き取ったらそちらに向かって威圧していることもある。姫どころか騎士ですらジュリオンにビビっている時もあるしね。

 

しかし……私が注意したことによって、彼女らが他国の姫とディア様のもとに謝罪に行き、少し騒ぎになってしまった。

 

遠くでその様子を見たセルティーさんがこちらに来るか迷ったようだけど……目で制しておいた。

 

セルティーさんからは離れていたし会話は彼女に伝わっていないだろう。余計な首を突っ込んでこれ以上騒ぎを大きくしないでもらいたい。

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

国によって風習は違う。

 

夜会で踊るならば相手を想って作る詩が必要という人もいればドレスには自作の刺繡が必要という場合もあるようで、ダンス以外のレッスンも行われた。

 

刺繡はその姫の国の慣習では本来一人で作り上げるものらしいけど……今回はワンポイントだけ作ってもらおう。何年もかけて作られても困るし。

 

私は詩は全く上手く出来ないが、刺繡なら……デザイン次第では上手く出来るようになった。

 

 

水で針を掴んで、生地に針を踊らせる。

 

 

意識を水と針に集中すれば手縫いの領域を超えたスピードで刺繍ができるようになった。ただデザインのセンスはあまりないのが難点だ。絵を描いてもらえばその通りにできるけど、自分でデザインを生み出すようなセンスはあまりない。

 

リヴァイアスやオルカスを呼び出して見たままに作ってみたり、雪の結晶や蜘蛛の巣を作って遊んだ後は青い糸でグルグルと渦巻きを縫い続けて練習した。

 

タナナの水の練習法の一つで水で針を動かすわけだけど……青い渦巻き模様は練習にちょうどいい。

 

他にもいくつかのパターンの練習もあるけど、なんか「金運アップにまつわるマーク」や「ありがたい模様」「告白するための果実」「野盗安全祈願」などと……そういうお金稼ぎっぽい部分がなぜか多いし、この場ではやらない。

 

聞くところによるとタナナ家は何処も貧乏っぽいし、そういうので稼いでたんだろうなぁ……。

 

 

水に意識を向ければ今では3つの針を同時に動かすことも出来る。

 

 

それぞれゴム製ハンド君に生地の両端を握らせ、針と糸を動かしていく

 

前は布を破いていたが、大人モードがリヴァイアスで定着して体が痛んでいる間に練習した。政務と救助活動をしていない時間……ダンスに魔法、本に礼儀作法などゆったりまったり楽しんでいたからこそ習得できた技能の一つである。

 

今はゴム製ハンド君の予備がないから4枚は無理だけど、針と糸だけならもう一本増やせるかもしれない。

 

しかし、青い渦巻きを等間隔で作ることにも大きく作ることも飽きた。そもそも私は刺繍をする必要はないし、練習で作っているだけだ。

 

 

私がハンカチ30枚作ってる間に周りは1枚に丹精込めて針を刺している。

 

 

針に意識を乗せるように集中すればいくらでも作れるし、作業スピードが違う。

 

ひらがなにカタカナにアラビア数字に掛け算表をなんとなく超高速で、かつ整然と並ぶように縫い込んでいく。あ、「ま行」より先……縫えるスペース無くなった。

 

途中で周りに「何縫ってんだ」と奇異の目で見られたので風景画とかに挑戦しようとして……そういうデザインセンスはなく、なぜか文字なら歪まないのに、建物を縫ってるうちに歪んで奇っ怪なものになってきたのでまた青い渦巻きを作ることにした。風景画は糸の交換も多いし面倒だ。

 

 

「私こういうの苦手だぁ。繕い物なんて穴を塞げばいいってぇ」

 

「わかるっス。でも刺繡と繕い物は別っス」

 

 

ミリーは苦手らしい。ミキキシカはなにかのデザインを上手くチクチク作っていた。

 

 

「ミキキシカぁ、コツ教えてぇ」

 

「愛っスよ」

 

「じゃあダーマに?ねぇ!それ何の模様!?」

 

「そうっス。矢避けのありがたい模様を作ってるっス」

 

 

参加してくれているうちの派閥の人は楽しくやっているっぽい。

 

ミキキシカはここに参加していないダーマとの仲が進展したっぽい。彼女は精霊の瞳を持っているから身分は低くてもお見合い大会に招集された。そして引き抜きや結婚相手を紹介されるのが面倒になったらしい。

 

その状況をダーマと話してしかし、いつの間にかダーマに「心は貴方にあるっス」などと……いつの間にか告白に成功したらしい。

 

ミキキシカはやるなぁ。

 

 

「……リーズの、強そう」

 

「でしょう!タロース様よ!!」

 

 

テルギシアは逃げようとしたけどリーズに捕まって地道にチクチクやっていた。リーズは何やらゴーレムのような刺繍をしている。精霊タロースかタロース家の模様だろうか。

 

……そう言えば渦巻きってなんかひらがなの「の」っぽい気がする。渦巻きを作ることにも飽きたし、青い糸も減りまくってるから別の色で「の」を作るか。

 

没頭して山盛りに作ってるとなんか「の」がゲシュタルト崩壊したかのようなハンカチが渦巻きハンカチの横に出来た。……きっとこういうの、タナナの家にはたくさんあるんだろうなぁ。

 




コメントが読んでみると結構カオスで好き(*´∀`*)
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