水魔法ぐらいしか取り柄がないけど現代知識があれば充分だよね? 作:mono-zo
貴族達の反応は様々だった。
ルカリムと一緒にいるから何となく分かるが……表情だけでもチベットスナギツネのような理解できないものを見る目だったり、飛びかかる直前の狼みたいに怒ってる人もいたり、ハシビロコウみたいに眼光の鋭い人もいた。
まぁ仕方ない。
そして、エルフもドワーフも挨拶は終わってリヴァイアスに一旦戻ってもらうことになった。
本来なら宴をやったりおもてなしするべきなんだろうけど、彼らは謝罪とお礼でやってきたし、財宝を運んだため結構な武装かつ結構な人数で来ている。
更に2つの勢力が被ったものだから「オベイロスの貴族に迷惑をかけないために」と相談して決めたらしい。
ちょっと安心な反面、リヴァイアスじゃなくて国に帰って欲しい。
そして謁見の間は封鎖された。
ドワーフとエルフの財宝。他国の正式な使者がこれを持ってきたという証拠のためにもシャルルの帰りまではそのままらしい。
他国の使者が来た場合、これが正式なルールだと説明を受けた。
私個人への贈り物だし、持って帰りたい気持ちもあるが、そういうことなら仕方がない。貴族が盗りそうで嫌だな。
イレギュラーはあったもののお見合いは継続だ。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
それは突然のことだった。
お見合い会場でのんびりしていた。
「フレーミス・タナノ・レーム・リヴァイアス!」
令嬢に突然大声で呼び止められた。
タナノ!?あとルカリム!ルカリム抜けてる!!
誰かと思えば相手はナンナだった。
離れた距離であることから周囲の目を集めているようだ。
「貴女に文句を言った方々が行方不明になっています!いくらオベイロスの侯爵と言ってもやっていいことと悪いことがあります!!あたしは貴族院に訴えます!!」
私のことだよね……一部間違ってるけど、リヴァイアス名乗ってるの私と大精霊リヴァイアスしかいないからね。
しかし、これヤバイやつだ。まず、最大の保護者であるシャルルとレージリア宰相がいない。
「身に覚えがありませんね。侯爵であり、王家の相談役であるわたくしに、そのようなことを言っていいのかしら?」
この程度で屈することはない。
偉そうに、尊大に対処してみよう。
「脅しても無駄です!証拠も、証言もあります!!」
「証拠とは何でしょうか?」
「居なくなった全員、貴女から不遇の扱いを受けていました。ドレスは思うようには作られず、茶器は用意されない。他の方々には完璧に対応しているのにこれは明確な嫌がらせでしょう」
「えぇ……」
いや、それは言われても……。
そもそも対応は「可能な限り」で行っているけど伝説にしか無いような素材を使えとか言われても無理だし、茶器は下手な説明から再現しようとして6度リテイクして時間切れになったから仕方ないだろう。
「何より貴女は婚約者の立場、つまり『参加者』の立場でありながらシャルトル様の横でのうのうとしているなど、恥を知りなさい!!」
実は私は参加者役ではなく監督役と伝えたいところだけど……まだシャルルの候補が決まってないし種明かしは出来ない。
やっちゃうとガリアス君と私の婚姻が進められちゃうからね。
「問題ないというのなら素直に貴族院に出向いて証明してみなさい!」
うーむ、ちょっとまずいな。
相手は一国の姫、彼女には彼女なりの正当性があるのだろう。
そしてこうなれば国として調べる必要がある。調べるのが貴族院なら……私にとって常に何か無茶を言ってくるゴミの集まりだ。不当な取り調べしか想像ができない。
彼女はセルティーさんと仲が良かったみたいだし打ち合わせ済みなのかな。
ゴツい騎士が数名、会場の外側からやって来ている。
対してうちの人間やうちに関わりのあった貴族が私のもとに集まってきた。
「私はやっておりません」
「信じられるわけがないでしょう!貴方の悪逆非道など!既に証言も出ていますが取り調べさえすればすぐに明らかになるでしょうね!!」
「<黙って言わせていればフレーミス様になんてことを……身の程を知れ>」
地鳴りがしそうなほど低く、ジュリオンが威圧たっぷりで私の前に出た。
ジュリオンも魔力込みの威圧が使えたのか……。いや、問題はそこじゃないな。
「おいおい物騒だなぁ、悪さをしてねぇなら貴族院にくりゃいいだろうが――――トカゲ女」
「ダースさん……」
「こほん、贈り物ありがとうございます。リヴァイアス侯爵閣下……ただ今回はこういうことですので同行していただけませんか?」
彼女の前にも貴族院からダースさんが出てきた。
ジュリオン相手には荒っぽいが私相手には取り繕おうとしている。
彼女も彼女に続いてきた兵も完全武装。対してこちらは武器も防具もない。
「<――――……お前らなど、私一人で充分だ>」
ジュリオンはやる気のようだ。
以前にも増して迫力がある。天使と悪魔を倒してからか、存在感が増した気がする。
きっと彼女ならやってみせるだろう。――――だけど。
「ジュリオン」
「<はい>」
「取り調べを受けることにします。ついてきてください」
「…………かしこまりました。ですが、よろしいのですか?」
ジュリオンは微動だにせず、ダースさんから目を離さずにそう返された。きっとGOサインを出せばやるだろう。
しかし、たかが取り調べだ。
私は私の身が潔白だと知っているし、何も私一人でその取り調べを受けなければいけないわけではない。
「ここで争えば被害が出るでしょう。すると戦争になりかねません」
「わかりました――――おい」
「なんだ?」
「フレーミス様に対するこの無礼。許さんからな」
「調子に乗るなよ、トカゲ女が…………ではこちらへ」
「はい」
ナンナの横を通り過ぎようとして、耳打ちされた。
「貴女なんて……後宮から追放してやりますわ」
それはどちらになることやら。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
あそこで暴れれば勝てたかもしれない。しかしあの場では誰かの犠牲が出かねなかった。
他国の王族も参加しているというのに、彼らに怪我人が出ればそれは国際問題になりかねないし、騒動の発端とされる私の領地は海に面していて……更にオベイロスの国の中では一番東に存在している。
戦争となればリヴァイアスは狙われるかもしれない。リヴァイアスが狙われなかったとしても戦争が起きれば犠牲者が出る。
それは避けたい。
「……本当に、よろしかったので?」
エール先生にそう言われたが本当にこの選択はベター、いや、ベストなものだと思う。
「はい。あ、パキス、モーモス、ローガン」
「「「はい」」」
「あそこの料理、可能な限り持ってきてください」
部屋から出る前にそう指示を出した。
あの場で争えば、あの場だけでも少なからず被害は出ていたはずだ。
相手は貴族院。この国の高位貴族が運営する邪教徒の集団……じゃない、由緒正しい貴族のあり方を教えてくださるありがたーい団体様だ。
当然王宮には彼らの仲間は多くいるだろう。
数がどれだけいるかもわからないし、装備も好きなだけ使える。対してこちらの装備は最低限。流石に侯爵である私を殺すまでは行かないだろうけど、部下であれば「ちょっとした行き違い」とか「警告」として殺しても問題ないと考えるはず。
しかも王宮にも後宮にも非戦闘員の配下がいる。
彼らの身の安全を考えれば、何度考えてもこれがベストのはずだ。
「それとシャルルにも遣いはいりません。入れ違いになるでしょうし」
「そんな、一刻も早く呼ばねば取り返しのつかないことになりかねません!」
エール先生はこの事態を深く受け止めている。それでいて危険だと考えているようだ。
「大丈夫です。シャルルは数日で帰ってくると約束しましたし、遣いをやればその遣いが狙われかねません」
「ですが……」
「エール先生、それに私は――――負けるつもりはないんですよ?」
空気は非常事態。まさに断罪でもされそうな雰囲気だが……何も心配することはない。
いや、取り調べの間の食事に毒を入れられるのは怖いな。お茶会会場の軽食が無くなる前にシャルルには帰ってきてもらいたいものだが。
コミックス3巻、2026年8月10日に発売予定✨️
原作者として嬉しい限りです(*´ω`*)楽しんでもらえれば嬉しいなぁ……。