水魔法ぐらいしか取り柄がないけど現代知識があれば充分だよね? 作:mono-zo
「証拠も証言も揃っている!さっさと白状すべきじゃないかね!」
「然り然り」
「だいたい貴族として先達に対する礼儀の欠片もない」
「今からでも頭を下げるべきではないかね」
「で?証言と証拠はどこですか?」
とりあえずダースさんに連れられていった部屋にはおそらく貴族院のおっさん共がいた。
証言を出したのはお見合い大会に参加している若い貴族が多いはず、なのに当事者ではないおっさんばかりである。
「多くの証言があるが?」
「証人も多くいる!」
「爵位を返上したまえ!」
「儂の娘こそ国母にふさわしい」
「うちの息子の嫁になって隠居したまえ」
「その証言が正しい根拠は?」
統制が取れてないし話にもならない。
この部屋は取り調べの担当者が来るまでの待機室で、このおっさん共も証言のために待っているそうだけど罵詈雑言を飛ばして来る。
だけど私には杖があるし、ジュリオンが前にいる。危険とわかっているのか離れてキャンキャン叫ばれている。
ジュリオンにはまずは彼らの言い分が聞きたいのと失言を引き出すために黙ってもらってる。
「お前のとこの娘は離婚歴多いし無理だろ」
「貴様!言ってはいけないことを……杖を抜け」
「やめろ、ここはフレーミスを皆で追い落とす場で」
「ごはぁっ!?」
「内輪揉めですか?もっとやれー潰し合えー」
良いボディブローが入った。
何しに来たんだこいつら。
「貴族院院長ドレイド・アンガラス・クルエラーレ・ポルドール・デンレール。入室する。フレーミスには聞きたいことがある」
貴族院の長にしてセルティーさんの後援である貴族院院長が出てきた。少し上等で格式張った服装をしている取り巻きつきで。
眉間の皺がすごく深く、酷く不機嫌そうな顔をしている。
暴言をやめてしゃんと整列した貴族院のおっさん共。一人だけお腹を抑えてうずくまったままだ。
「フリム様お下がりを。『聞き取り』をするなら証言を上げたとされる貴族院の人間がしゃしゃり出てくるなどおかしな話ではないでしょうか?」
エール先生が前に出てくれた。
相手は国の重要人物だし、これまで正面から衝突しないようにしてきたのだ。完全に敵対しないよう前に出てくれたのだろう。
「乳兄弟なのに陛下暗殺に加担した疑惑のあったエール殿ではないかね。どの立場でそこにいるのかは知らないが――――遮られる筋合いはない。退き給え」
「この件はどう考えても不当に感じます。正当な理由無く、我々が主の前から退くことは決して無いでしょう」
相手はこの国の大物だがエール先生とジュリオンは全く怯むことなく前に出てくれる。
「このっ……」
「待ちなさい。プライマーレ赤竜騎士団団長の立ち会いの元、第三法務官マイコハン・アンティルス・エィオースがこの件を担当させて頂く」
「私は貴族院院長として正当な権利を持ってここにいるのだが」
「デンレール卿、陛下の留守です。陛下の庇護にある侯爵に対して立ち会いなしとはなりません。本件は貴族院が行う軽微な取り調べを超えております。むしろ我々こそが対応するべきでしょう。ただ貴族院がいればこそ一件が解決に向かうと――――――
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
デンレール卿が知らないお爺さんとプラーが割って入って……????
気が付けば貴族院のおっさん共が立ち並ぶ狭い部屋から凄い豪華な部屋に通されて話をする状況になった。
ただ取り締まり用の部屋ではないため騎士が机と椅子をセッティング中だ。
罵ってきたおっさん共は排除されて、デンレール卿の派閥っぽい別の偉そうなおっさん共も入室してきた。争っていたおっさん共は前の部屋にいるし……新手か。
え?それよりなんて言ったんだこの法務官のお爺さん。
名前が「舞妓はん」だった気がする。
なにか重要そうなことをたくさん話していたはずだけどなんか全部ぶっ飛んだ。ダンディで優しそうな顔のお爺さんが舞妓はん……。
デンレール……デンレール卿と舞妓はんさんがなにか話している。全く脳に会話は入ってないが状況の整理のためにも話す必要がある。切り替えよう、ここは異世界、マイコハンは普通の名前かもしれない。
「デンレール卿、まずははっきり言っておく必要があります」
「……何かね?」
状況はよくはない。
だけどうちの人員がまるまるついてきてくれているし、私も奥の手があるからこの程度問題ない。むしろパキスあたりがなにかしないか不安ではある。
「私は他国の姫君の失踪に関与していません。そして私に関しての悪意ある噂ですが、これは王家相談役として悪役令嬢を演じた結果です」
「「悪役令嬢を……演じた?」」
「えぇと、お初にお目にかかりますフレーミス・タナナ・レーム・ルカリム・リヴァイアスです。マイコハンで良かったでしょうか?」
眼の前でされていた話は完璧に抜け落ちているがとりあえず主導権握った!
しかし、このクラスの偉い人でも知らなかったのか。
マイコハンさんは貫禄のある渋いお爺さんだ。目元が優しげで、どこかで見たことのあるような顔をしている。
「はい。侯爵に対して挨拶もなく失礼いたしました。マイコハン・アンティルス・エィオースです」
「先に聞きたいのですが、まずは私に容疑がかけられるほどの何らかの異変が起きたことは確実か、シャルルは無事なのか、そして令嬢方の安否を知りたいです」
「容疑者である貴様に教えることではないと思うがね」
口を挟んでくる眉間に深い皺が出来ているデンレール卿。
確かに容疑はかけられているけどあくまで容疑であってこの身は潔白である。……失踪に関してはそのはず。
「デンレール卿、あくまで容疑がかかっているのであってリヴァイアス侯は王家相談役であります」
「しかしですな、彼女は貴族となってから幾度も貴族院の要請を無視しております。挨拶もなしに侯爵などと……我々としては彼女を貴族として認めることもおかしいと考えておる」
「それは、リヴァイアス侯に爵位を授けた陛下をも批判しているとの発言ですか?」
この二人、理屈を通そうとするデンレール卿と真面目に全部返そうとするマイコハンさんでは相性が悪い気がする。
「批判ではない。侯爵位以前に、貴族としてあるべき品格も教養も足りていない。ならば我々貴族院はその爵位に見合うだけの教導をするべきでしょう。なのに彼女はこれまで幾度となく差し伸べようとした導きを打ち払うのみ。そんな彼女を貴族としてみ――――「黙りなさいデンレール卿、今は緊急時ですよ。まぁ彼の同席は認めましょう。こちらもゴミ山の大将殿には話したいことがあります」
長くなりそうだし切り捨てた。
貴族院が私を貴族と認めるかどうかなんて今の「お見合い大会参加者集団失踪事件」と関係がない。
「こ、この私に向かって黙れと……い、いいい言った?そ、それにゴ、ゴミ山だとぉっ!?」
眉間の皺がさらに深く、それでいて怒りに震えて真っ赤になったデンレール卿。
こちらも言いたいことは山ほどあるのだ。
貴族になってから、結婚だの婚姻だの財産利権土地よこせだの役職につけろだの……と色々言ってきているゴミ共、そのボスがこいつだ。普段シャットアウトしていたし、気にせずにきたが正面から言ってくるなら話は別だ。正直生きたまま海に還してやりたい。
「はい、私に関してなにか言いたいことがあるようですが、こちらも貴方に言いたいことがあります。時間があればじっくり腰を据えてお話しましょう。それよりも他国の人間が居なくなったのであればそれは緊急事態です。早急な問題解決に努めることこそオベイロス貴族としての正しいあり方でしょう」
ある意味、前世で経済以外であまり前に出なかった私が成長した原因である。
強くなったよ。うん、権力のある目上っぽい人に対してゴミと断じれる程度には。
「現在、陛下に関しては問題はない。何らかの異変は起きているようで他国の姫を中心に十を超える人間が行方不明となっています。現在調査中であり、証言が多かったリヴァイアス侯が容疑者となったわけです」
プルプル震えて怒れるデンレール卿と目を合わせたままでいるとマイコハンが現状を教えてくれた。
なるほど、私はやっていないがそれなら仕方ないな。
デンレール卿から直接何かを言われたことはないが貴族院からは明確に利権や土地をよこせといった要求を突きつけられたことがある。それらは無視したが……私は私が大切にしたい家臣や民、仲間のためにも理不尽な要求に屈することはない。
「なるほど、では問題解決のために私共の集めた資料と照らし合わせましょう。協力は惜しみません。ただ、意味不明な立ち入りとか検査を強行するようならリヴァイアス侯爵領が反乱を起こしかねないのでやめていただきたいです」
あくまで容疑であって、犯人と断じるだけの証拠はないはずだ。もしもそうなら即座に牢屋行きでもおかしくはない。
以前からお見合い参加者の姫君がいなくなるということは耳にしていた。
そこに明らかに悪役令嬢の私がいれば犯人として見られてもおかしくはない。
少しぐらい事情聴取を受けてやろう。今すぐにでもいなくなった人を探すことこそ国のためになるとも思えるけど、最低限話さないと私の容疑が晴れない。
容疑がかかったまま行動すればそれこそ犯人と見られるか。自作自演に見られてもよろしくない。
「この……!自領が反乱しかねないなど!確信犯ではないか!!?」
おっと、その点については言い方が悪かったかもしれないな。
ただリヴァイアス領ではオベイロス王家にもオベイロス貴族にも良い感情はない。こうして私に容疑がかかって、話を聞いている段階で武器を掲げる人がいたって何らおかしくはない。
「デンレール卿、おやめください。では確認ですがリヴァイアス侯は容疑について否認すると言うことでよろしいか?」
「私は家名にかけて人拐いなどしていません。しかし悪評については……証言しているという自称被害者の方々がどのように主張されているかはわかりかねますが、役割上一部そう見えてもおかしくない部分はあると言っておきましょう」
「……ならば聞き取りをさせていただいてもよろしいでしょうか?」
「えぇ、オベイロス貴族として『協力』しましょう」
これはあくまで自主的な「協力」だ。
「生ぬるい!生ぬるいのではないか!それでも法務官か!!?これは諸外国に数代残る大問題になりうる!!戦端が開かれかねないぞ!!」
「デンレール卿、貴殿は貴族院院長であり、貴族としてのあり方をより良いものに指導し、王家のため国のために貴族を正しく教導するのが役割であって司法はその役割から逸脱しているでしょう」
「これは貴族として国の危機に際したこの現状を早急に解決するべく、私自らが不良貴族から聞き取りを行おうと出向い――――「あら、貴族とは認めてくださるのですね。デ ン レ ー ル 卿 」
マイコハンに対して取り繕っているデンレール卿に口を挟んだ。
デンレール卿は両手を強く握りしめてプルプルしている。結構な歳に見えるけど、煽りに対して耐性がないのかな。
このキレ具合からすれば殴りかかってきてもおかしくはない。
彼は貴族として、デンレール家としての体面を気にしてか私に直接手が出せない。もしもキレて手を出そうものならうちのジュリオンが嬉々として対応するのだろう。
「…………」
血管が浮き出て声も出せないでいるデンレール卿。
「あら、それほどお怒りになっては健康によろしくありませんわ。お座りになってくださいませ」
先に私が座るとマイコハンさんとデンレール卿は座り、エール先生とジュリオン、プライマーレ騎士団長にダースさんが席の横についた。
……残りの騎士とうちの人員とデンレール卿のおつきの貴族院から来たっぽい方々は遠巻きに立つこととなった。
うちの人員は部屋の隅で会場から持ってきた料理をセッティングしてくれている。これからどれだけ取り調べが続くかはわからないけど、その間に毒を盛られるのは怖いから食料の確保は必須だろう。
何故かマイコハンがエール先生を親しげな目で見た気もする。仲が良かったりするのかな。
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