水魔法ぐらいしか取り柄がないけど現代知識があれば充分だよね? 作:mono-zo
「多数の証言がリヴァイアス侯爵が犯人と言っております!」
「領地取り上げにしてもよろしいのでは無いでしょうか!!」
「私はこの目で嫌がらせを目撃しました!!」
壁際の貴族どもが何かキャンキャン叫んでいる。
普通に考えればこの状況は私にとって不利だろう。
だけど、本気で身に覚えがない。
「デンレール卿、訴えをされたのは貴族院であるため同席は認めますが黙らせてください。できないのであれば調査の妨害としてデンレール卿も調査の対象となりえます」
「わ、私がか!?」
「勿論、私は法務官であり、どちらの味方でもありません。あれらは証言ではなくリヴァイアス侯に対しての暴言と侮辱であり、調査に協力するリヴァイアス侯爵を妨害していると見て取れますが」
「わかった。ただ、必要そうなら証言させる」
「よろしくお願いします」
デンレール卿は貴族を呼びつけて静かにしろと命じている。
とりあえず私は私でペンを取り出して準備する。
「まずは私がこの場にいることは私自身が認めていると手紙を出しても?リヴァイアス領は政争からオベイロスに良い思いをしておりませんから」
「それでも栄えあるオベイロスの民か!」
デンレール卿が戻ってきた。
「聞こえているので大声を出さないでいただけますか?それとも耳が悪いのかしら?」
「くっぐぅ……」
歯を食いしばっているデンレール卿。空気は最悪である。
「領民が亜人狩りにあいましたからね。貴族として領主不在のリヴァイアスになにか手助けしていただけましたか?」
「……何も、して、いないな。領地を護るべき領主が死亡したしな」
「当時、商人のみならずオベイロスの……他領の貴族までもそのような野蛮な行いをしていました」
手紙を書きながらなぜこんな手紙を書いているか伝える。
きっと当時のことなんて証拠もないだろうし、貴族に問い詰めたところで正当な罰を受けることはないだろう。
黙って聞いているデンレール卿にマイコハンさん。
あまりジュリオンに聞かせたくない話だ。ジュリオンは当事者だし、細かい経緯は知らないけどジュリオンがあれだけの大怪我を負っていた。思い出したくないこともあるかもしれない。
「なら領民に反意が生まれてもおかしくはないでしょう。彼らからすれば一族郎党忠義を尽くして果てたリヴァイアス家を国は見捨てた。いえ、貴族によって襲撃までされていた」
私が知らない部分もある。私が生まれていないか生まれていても幼児の時期だ。
だから直接そこにいたわけじゃない。
……それでも私はリヴァイアスの民を大切にしている。貴族なら私がリヴァイアス出身の亜人を可能な限り探して買っているのは誰でも知っているだろう。
「……今更言っても仕方ないので手紙は出しても?内容は見てもらっても構いませんので」
当主就任前の問題であり証拠も証言も危ういし、加害者に対して安易に罰することも出来ない。
それに死者を引き合いに出してしまったが、リヴァイアス家の人間は全滅したとはいえ『政争で亡くなった』ということしか知らない。何の理由もないなら全滅するような事態は避けて逃げるだろうし、誰か生き残っていてもおかしくない。そう考えれば……多分忠義を尽くしたのだろう。
「良かろう」
「偉そうですね。部外者のくせに」
「…………」
あ、ギギギって聞こえた。今歯ぎしりしたようだ。エナメル層によろしく無いぞ。
うちの人間に早まらないようにと書いた手紙を二人に見せる。
誰かから伝えるだけよりも私からの手紙があったほうが暴発は防げるはず。……だけど、前々からお金を使ってオベイロスの王都中に隠れ家も作ってあるし、緊急時には準備するように命じてある。今頃兵力は整いつつあるだろうなぁ。
しかも王都の貴族を超魔力水で治療してから協力してくれている貴族はたくさんいるらしいし、いくら貴族院に兵力があったとしても、今では太刀打ちできないほどではないはず。
「字も筆記具も美しくないな」
「そこを指摘するとか子供か」
「誰が子供だ」
「緊急時に余計なことで口を挟まないでもらいたいです。邪魔なのでぇ」
「この小娘っ!!」
デンレール卿はそれなりの歳に見える。今の大人モードの私でも小娘なのかもしれない。
デンレール卿の額には血管が浮かんでいるし、相当お怒りなのが見て取れる。
「とりあえず、事情聴取をはじめましょうか。私も聞きたいこともありますし、あ、マイコハンさん、お菓子食べます?お水もどうぞ、そっちの首を突っ込んできた部外者さんは今にも倒れそうですし私の出したもので倒れたとか言われたくないので自分で用意して下さーい」
「――――こ、このアニャがぶらぁ……」
「だ、誰か!!デンレール卿が倒れられたぞ!!?」
あ、やば。歯をむき出しにしてキレて立ち上がった瞬間にデンレール卿が倒れてしまった。
おじいちゃん血圧の薬はぁ?って口に出しそうになったけど、光魔法使いっぽい神官が駆け込んできて治療されているのを見る。
「ペンは剣よりも強く、言葉は時に鋭利な刃物になるのかもしれないですね」
「フレーミス様?やったのフレーミス様ですよね」
「テキトー言いました。私も奴には言いたいことがたまっていましたので」
「まぁ、その、お疲れ様です」
第一試合は勝った!!
純真無垢な少女だったら大騒ぎするところだろうけど、フリムちゃんは成長したのかもしれない。ヤバそうだったら超魔力水を出すかな。
でも早く起き上がってきて欲しい。ボコボコにしてあげるから。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
デンレール卿は治療が終わっても退席せず、横に追加されたソファーで倒れたままこちらを見ている。
なにか凄い言いたげだけど無視しマイコハンさんに悪役令嬢をやっていた経緯や行動を話し、持ってきてもらった証拠の書類を渡しておく。
ある程度信用を得られたようである程度調査に協力はさせてもらえている。
私の行動と居なくなった人を照らし合わせている間、貴族院の人も一人ずつ別室に呼び出されてるのが見て取れる。……デンレール卿がいるから貴族院からの暴発が防げているのがわかるからこの場にいてもらってありがたい部分はあるな。
私の無実、いや悪役令嬢を演じていたことはディア様やミィア、リュビリーナに確認してもらえば裏は取れるだろう。
「それでちょっと別件で相談したいことがありまして、よろしいでしょうか?」
「なんでしょう?この一件に関わらないことであれば……いえ、調査が進むまでどちらにせよ時間もありますし、聞きましょう」
何度もマイコハンさんの部下らしき人が出入りしている。多分証拠との照らし合わせをしているのだろう。そうすると何もしない空白の時間が出来てしまう。
「貴族になった途端に役職をよこせだの年齢差50を超える方と結婚しろだの財産の管理を任せろだの、許可をしていないのに貴族子弟を送り込んでくるわ、戦ってもいないのに鉱山や権利をよこせと言ってくるのはなにかの罪に当たりませんかね?」
「それは……要請であれば断ればいいだけですが品位に欠けますな。しかし婚姻による資産の乗っ取りは貴族相続法6条違反となり明確な犯罪になります。それに仕えるにしても仕え先の主に許可を取らずに貴族の子弟を送り込むなど親として無責任、これは年齢と爵位の有無でそれぞれ変わりますが罪に問えましょう。戦時における戦利品の分配については戦利品を王家に分配して頂く場合もありますがクーリディアスとの戦いではほぼほぼリヴァイアス侯の働きであってローガ将軍もローガ将軍の部下からもいなくても問題なかったとされています。一方食料や武具などは他領から融通されていたようですがそれはシャルトル陛下の命令です。そう考えれば慣例を鑑みれば陛下に獲得した戦利品・領地・権利などを一度献上するべきかもしれませんがシャルトル陛下はそれを拒みました。なにか口を挟んできた貴族がいるとすればシャルトル陛下への不敬かと思われますが」
マイコハンさんは理知的で話の分かる人だな。
雑にまとめて聞いたのにまとめて返された。結構なお年に見えるけど記憶力も凄い。
「ということです。デンレール卿、貴方恥とか知ってます?」
「――――え?なんだそれ??」
デンレール卿は「バレてしまったか」とか「隠さねば」という反応ではなく、「そんな奴がいるのかふーん」といった他人事の様子だった。
そんなデンレール卿に聞いてみた。
「だいたい貴族からの要求とかですし、貴族院からは明確に利権をよこせとしつこいです」
「儂知らん。なにそれ、え?ダース知っているか?」
彼は治療も終わって寝てるだけだし、時間があるなら追撃もしておこう。
「細かな詳細まではわかりかねますが、リヴァイアス侯爵のもとには日々貴族から要求が送られているのは確かなようです」
「あ、ちなみにエール先生を含む家臣の結婚にも応じませんよ。明らかに引き抜きですし、そんな政略でしか考えられない結婚、幸せにならないでしょう」
「待て、待ってくれ!儂は『貴族として正しくあるように』という手紙を送ったことはあるがそのような恥知らずな要求をしたことなど一度たりともないぞ!?」
慌てて立ち上がろうとしてダースさんに止められているデンレール卿。
これまで何度も貴族院所属の貴族から命令が来ているし、そんなはずはないと思うんだけど……。
「あの……地方の貴族の話を聞くに、中央では税金は多く取られるし、話が通るまで何日も待たされることは普通。賄賂を渡さねば話も聞いてもらえないなどの腐敗がまかり通っているなどの現状は知っていますよね?」
うん、地方の貴族に慕われている私にはそういう意見が耳に入る。
それも一件や二件ではなく、それが常識となっている。
「…………し、しらん。貴族院は貴族の正しいあり方を新たな貴族当主に導く役割はあるが、そんな賄賂ありきで話を進めるようになど指導した覚えはない」
おや、まさか全く知らなかったのか?
法務官が横にいるから取り繕っているだけの可能性もあるけど、嘘を感じない。
「私にはそんな厚顔無恥な手紙が来ていますが?それも毎日」
「そんな貴族にあるまじき要求をする輩がいたとは、誰だそいつは」
「誰と言われましても」
「あぁ数人いるのか?貴族院院長として中立の立場で相談を受けよう。不逞の輩はオベイロスから排除せねばいかん。排除は無理でも再教育か、最悪の場合は当主は別の者がすれば良い」
トカゲの尻尾切りか?
これまで「何十」じゃ済まないほどの要求や無茶振りが来ていた。
末端だけではなく『貴族院』という組織、そしてそれを束ねるデンレール卿にも責任はある。
「いえ、数え切れないほどいまして」
「数え……切れない?」
「はい。私のもとに来る手紙の量は、水の宮においてある分だけで……おそらくこの広い部屋の天井まで届くでしょう」
あ、呆然としてる。
呆然としたいのは私の方である。あれだけ厚顔無恥な手紙を山程送ってこれるものだなと。
「……なにかの間違いではなく?」
「むしろ、オベイロス貴族といえば要求ばかりするゴミしかいないのではないかと…………」
「違う!我らオベイロス貴族は王家に仕え!精霊とともにあり!国を護り、民を護り!精霊と王家を命を懸けて守護するべき存在だ!!貴族同士の争いに精霊様が巻き込まれないように!決して精霊様を私的な理由で使わないようにっ!!!決してゴミなどと言われるような行いをするような――――していたのか」
座り直し、唾を飛ばして主張するデンレール卿。
私が真っ直ぐ見つめると両手で顔面を覆ってしまった。
「その様子では、貴族院からのまともな意見は伝わってないようだな」
「貴族院ってまともなことするんですか?」
「…………」
もはやぐうの音も出ないデンレール卿。
おそらく、少しぐらい自身の配下の問題を薄々感じていたのだろうな。
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