水魔法ぐらいしか取り柄がないけど現代知識があれば充分だよね? 作:mono-zo
しかし容疑は晴れない。
貴族院の問題についてはともかく、今は「お見合い参加者の失踪」が問題であり、行方不明者は見つかっていない。
私が悪役令嬢をしていたのは確かだし居なくなった人物と私の関係は良くなかったことから私の容疑はまだ晴れてはいない。
私の行動記録とお見合い参加者のプロファイリング、それに一緒に送られてきた貴族どもの恥知らずな要求の書かれたお手紙専用の大箱を見て、マイコハンさんもデンレール卿も固まっていた。
お見合い大会は監視されて行われているものだし、参加者全員の行動・点数・性格・能力はプロファイリングされている。その量は凄まじいものだし、マイコハンさんが固まるのは無理もない。
そしてゴミ貴族からの度重なる要求や手紙については証拠をその都度残しているし、山程あるそれらを見てデンレール卿も言葉を失っていた。何人か待機している貴族院の貴族が居心地悪そうにしているな。
「…………リヴァイアス侯は、いつもこのような手紙を?」
「あ、はい」
部屋が狭く感じそうなぐらいの大箱に四つ、貴族の手紙を持ってきてもらった。
彼を支える何かが折れてしまったのか、酷くしおれてしまったデンレール卿。
「そんなわけで若くして高位貴族と王家相談役になった私は妬まれていまして、証言自体が疑わしいと言っておきます」
「…………」
「立場は理解しました。このまま失踪事件の解決にご協力願えますか?」
「はい。そちらの方は一度いなくなったようです」
「ならこっちですね」
今は萎れたデンレール卿よりもなにか手がかりでもあるかもと、プロファイリング資料を広げている。
もはや取り調べではなく調査協力だ。
私がここにいることにも意味がある。容疑がかかっているからこそ捜査の邪魔になりかねない。むしろ証拠隠滅や自作自演を疑われかねない。それでも行動せずには居られないし、……運び込んでもらったプロファイリング資料からなにかの共通点が見いだせるかもしれない。
今失踪している人物、これまでにいなくなった人物を洗い出した。更にどこでいなくなったのか、どこの国の人間なのか、日常のルーティンはどうだったのか、どこで寝泊まりしていたのか、誰と仲が良かったのかなどなど、調べて行く。
水のハンド君による書類整理は役に立っていることだろう。
「火の宮の裏でたまに肉を焼いていたそうです」「数名『貴婦人の会』に参加してる方もいるそうでしたが、貴婦人の会の方には詳細を聞けませんした」「複数の騎士との逢引が風の庭園で見られたそうです」「城下に違法賭場がありますが最近活発と聞きます」「城下の情報ならカレーうどん店にお忍びで何人も行っている」「ラズリー様と取り巻きの方々は見合いの場から無断で魔法省に行っていたそうですが」「あいつらのことは気にするな。外国の方々が来る前からだし捜査の対象外として良いのではないか?」「しかし……諸外国の魔法や魔導具と見れば飛びつく奴らですよ。もしかしたら……」「やっぱり捜査対象にしておこう」「西のカレーうどんは上手いよな」「報告、最近できた水の大家を称える会の会長はこの一件に協力してくれているがあくまで協力だ」「何を思ったかオッヴァーディア様の元に殴り込みに行ったやつがいるぞ」「後で食いに行こう」「リヴァイアス侯に癒された強者が何人かいて独自捜査に乗り出したようだ」
部屋が騒々しくなってきた。出入りする騎士が聞き取りをして戻ってくる。
私の持つ資料に法務官の部下らしき貴族と騎士達の証言が集まって漠然と形になってくる。
とにかく集まってくる情報も整理する。王都の情報に絞っているが、中には全く関係の無いものもあるだろう。
「セルティー・ラース・デンレール様がよく喧嘩の仲裁をしていましたが」「よく失敗してたやつな」「しっ」「土の庭園でたまに休憩してる方々がいましたね。居なくなったこの子は従者とも良い仲のようでした」「天ぷら店にも行っている可能性はあるかもしれません」「調べさせに行け」「城下に抜け出してるやつ多いな。だいたい出入りの記録と合うし…………ここからここまでは除外して良いのでは?」「違法賭場巡りとか、ポヨ令嬢の悪い遊びが広まっているのかもしれませんね」「貴族院の派閥は全員動け。家名に恥じぬ行いをしろ」「「「はっ!」」」「ヌールー様についてですが」「あの頭からなにかかぶってる……怪しいやつか」「はい、神聖国の聖女なのでその言い方は問題ですよ。神殿に行っていただけのようです」「明らかに怪しいのにな」「食料貯蔵庫にエンカテイナー学園長と複数の方が入っていった記録があります。お茶会のためと称していましたが無断で酒を持っていったそうです」「この二人は密会してただけだった」
人の出入りが酷いな。デンレール卿の取り巻きも誰かに命じて情報収集に協力してくれている。
集まってくる情報を整理して行くのに精一杯だ。
机に王宮や城下の地図を広げ目印となる小物を置いていく。
中央でマイコハンさんが部下に気になった人物への聞き取りを命じ、私が水のハンド君で書類を浮かせ、デンレール卿が集まってくる新情報をまとめたものをメモしてくれている。
なにげにデンレール卿の下働きが便利だ。私の前に簡略化されたメモを分別して置いてくれる。足りていないと思われる情報があればマイコハンさんと相談して騎士かデンレール卿の配下に命じて聞き取りしてくれる。
うちの人間もてんやわんやしつつもプロファイリング情報の中から有益そうな情報の引き出しをしてくれている。エール先生とジュリオンは常に警戒していてあまりうまく動けていないがパキスやローガンがよく働いている。
騎士と貴族のお陰で表立って動いていなかった自分よりも多くの情報が集まってくる。
「城下でまた違法薬物を扱う商人が増えていますし怪しくないですかね」「この名簿に書かれた両名は占いの部屋に集まっていたようです。今は空き部屋ですし、なんでもつまみ食いのためだそうで……候補から外してもいいでしょう」「いてぇ!足踏むなよ!?」「すまん」「違法な魔導具を取り扱う店が増えているのは確かだが、この失踪事件とは関係ないように思える」「全属性究極魔導書などというものを作ってる集団が居るが、あそこの変人どもとこの四名は接触しているが口を割らんぞ」「あそこはエロ本作ってるだけだ。気にするな」「この女性は国元に帰る前にロライ料理長のマヨネーズを聞こうとしていただけだった。不審ではあるが問題ない。それよりこの子はこの地点で居なくなった集団を見かけたそうだ」「日付と人数は?」「日付はあってる。人数は二人足りない」「この子は迷子だっただけ、あまり強く聞いてやるな」「この令嬢にも聞き取りをお願いします。捜査から抜けています」
どこかに集まって秘密で賭け事でもしてるなら問題ない。
それに今までにも居なくなった人は居たが、全員普通に戻ってきている。もしかしたらこれは緊急事態ですら無いかもしれない。
しかし……これまでに居なくなった人に話を聞いても「覚えていない」という。
「……これってもしかして」
喋らずに水のハンドくんを操作しつつ地図上のコマを動かし、プロファイリング資料を見ていた。
私の前世における「失踪に関する知識」なんて刑事ドラマや映画を見ていただけだったけど――――見えてきた。
「どうかしましたか?」
私の専門は経済であり、全くの別ジャンルだけどデータ分析の一部は近しいものを感じる。
一つ一つの数字を見ていけば会社の状況がわかるように、ここにある情報だけで見えてくるものがあった。データから物事を捉えるには「必要な見方」がある。私はそれを漠然と知っていた。
居なくなった人物の共通点、そして居なくなった日時と地点。
殆どの情報に意味はないが、その中から使えそうな情報を掬い上げて今の状況を考えると――――
「……もしかしたらですが、今回居なくなった人は帰ってこれない可能性もあります」
「どういうことでしょうか!?」
私の推察があっているかはわからない。ただ、それでも――――私の中で思い浮かんだその可能性は……あるはずだ。
友人と野球小説の話で盛り上がった結果、書きたくなりました。
野球小説が人気なサイトはどこだったかな。