水魔法ぐらいしか取り柄がないけど現代知識があれば充分だよね? 作:mono-zo
「まず、第一に居なくなった人物には共通点があります」
「他国の姫君以外にも我が国の貴族もいるのだぞ?」
「身分や地位は抜きにして考えてください。失踪者には『魔力が少ない』傾向があるという点です」
オベイロスの人間も居なくなったケースがあるが、共通点として精霊と契約していない事がわかった。そして彼らは魔法がそこまで強くない。
魔力や上位存在に対する抵抗力には個人差がある。
失踪者は調べてみればかなりの数に上っていたが、他国の人間が多いのは精霊に対しての耐性がないからと推測できる。
この国の高位貴族は強い魔法使いの血を積極的に取り組んでいるし高位貴族ほど魔力は強い傾向にある。だからオベイロス貴族の中でも被害にあったのは爵位が低かったり、商人に従者、それに平民が多い。
「私の推理ですのでまだ確実とは言えませんが……次に地図を見てください。これも共通点があります」
居なくなった人物の最終目撃地点、そして移動していた方向をリスト化して地図と照らし合わせると見えてくるものがあった。
確信を持ったのはその中の一箇所、見覚えのある場所があった。
私が貴族になる前、掃除のために使っていた小屋だ。
あの方向に向かっていく人がいた。あの庭園自体も人が集まるには微妙な位置にある。
男女が密会していたとかにしてもあまり景観が良い場所でもないし、賭け事だとしても目立ちすぎる。
しかも貴族が「普通の掃除小屋」を使おうと向かっていくなどありえない。
まぁ小屋はあの火事で燃えたこともあって建て直されたから、もしかしたら内部が綺麗になってたりして「密会場所にちょうど良い」なんて可能性も捨てきれないけど…………普段から仲が良いわけでもないはずの五人の女性が密会のためにわざわざ狭い小屋に入るとは考えにくい。
大の大人が何人もで落ち着けるような場所ではないはずだ。
なら、やっぱり、その小屋にある王宮の地下の迷路と、その先の闇の迷宮が怪しい。
「おそらく、居なくなった人は王宮地下の『迷路』、もしくは『闇の迷宮』にいると思われます」
「なるほど……」
「私が知っているのは一箇所ですが、この庭園に人が向かっていくのは明らかに不自然でしょう」
多分居なくなった他の人の位置と方向から考えると庭園以外にも隠し通路があるのだろう。
シャルルに聞いたことがあるけど、本来王族や大臣のような特別な役職者だけが使えるものだ。だけど政争もあったし知ってる人がたくさんいるらしい。秘密のボタンを押せば出入りできたり一方通行でいける出入り口もあるそうな。
貴族も知ってる人は普通に知ってるし……セキュリティガバガバだな。なんならそこに何人か賊が拠点にしていてもおかしくはな――――ハッ!?
「――――……まさか、シャルルが女性を連れ込んでいた?」
「フリム様それはないです」
「ないかと」
「リヴァイアス候ふざけている場合ではないのですよ」
たしかに今はシャルルも居ないし無理だ。けど、「男女の密会」と「熟知してるであろう王様」をセットで考えてしまった。
「思考がそれました」
「では『戻ってこれない』という理由をお聞かせ願えますか?」
「はい、わかったのは『居なくなる人の傾向』と『どこに行ったか』であって、動機や目的、犯人については不明です。犯人が何をしたいのかもわからないですがここまで騒ぎになって……犯人が素直に返してくれるでしょうか?」
シンと静まり返ってしまった。大事になって、その結果最悪の事態になっているかもしれない。
今頃、失踪者を――――証拠隠滅をしている可能性も考えられる。
「あの、お兄様が居なくて……」
「「「――――……!!?」」」
静まり返った部屋にピュリちゃんが入ってきて、思いもよらない言葉が告げられた。
部屋の全員が息を呑んだだろう。
居なくなった人物、注目されたのは他国の令嬢からであり、ガリアス君の安否確認が出来ていなかったようだ。普段から自由気ままに城で遊んで居なくなっていたガリアス君だ。発覚に時間がかかったのだろう。
「全騎士、全軍を使え!他国の姫と違って確実に内戦が起きる!!」
デンレール卿が吠えた。
たしかにそうだ。ガリアス君がライアームの息子であり、王族である。
彼に何かがあれば……戦いを回避しようなんていう「お見合い大会」なんて前提ごとひっくり返る。
「既に可能な限りの人員を使っております」
「もっとだ!貴族の家族まで、従者も使え!何としても助けねばならん!!」
うちの人員も使えば良いかもしれない。
普段暗部みたいな動きで王都でうちの家臣を護ってくれてるヒョーカとか風と氷を使えるし、こっちに来てくれれば役立つ可能性はある。
でも、風の力でも闇の迷宮ではどこまで役に立つかはわからない。
普通の人でも見える隠し通路や迷路部分なら問題はないけど、闇の迷宮まで行けば黒い靄が漂っているし、視界はほとんどゼロだ。
あの迷宮は壁は刃物がくっついたようなツタが折り重なっていたり、通路の先の高さがいきなり数メートル落ちることもある。基本魔物はいないとはいっても迷宮の機構である隠しスイッチを押せば魔物が出てくることもある。
あまりにも危険。私が助けられたときのように闇属性のミィアならもしかしたら何らかの魔法でどうにかとも思うが……きっと危険なことはポヨ大臣が許さない。
かといって闇の精霊姫と契約したシャルルはこの場にいない。
「それは危険でしょう。政争で死亡した貴族の家族が居ます。普段なら理性を保てても、もしもそういう輩がこの騒動の最中にガリアス様を見つけては……!」
マイコハンさんの意見もわかる。
家族や大切な人を殺されて……戦いたいって人だっているだろう。
「しかし!!」
この部屋の中にもどっちの立場かわからない人もいるだろう。騎士なんて直接戦うわけだし自身の生死に関わる問題だ。半ばパニックになりつつあるのも仕方がないのかもしれない。
リヴァイアスの杖を手にし、床をトントン叩いて注目を集める。
「――――解決できる方法があります」
「どうするのだね?容疑者でもあるしリヴァイアス侯はここから動けない。なんならガリアス様が居ない方が婚約候補としては都合が良いだろう。なおさら動けないはず……」
「ガリアス君は見た目こそシャルルと同じぐらいに見えますが、子供です。助けるべきです」
「リヴァイアス侯!それはガリアス様を害する建前にも見えるが?!侯のことを考えてもここから動くべきではない!!」
デンレール卿も心配してくれているようだ。この人明らかに敵だったはずなんだけどなぁ。
「凄いやりたくないですし……でも私が動けばきっと解決はするのです。多分。可能かは確証はありませんが」
「やりたくということはリヴァイアス侯が直接どうにかすると?闇の迷宮で水を流せば行方不明者が危険でしょう。それにここを離れるのはよろしくない」
「いえ、うーん。この場で出来ます。出来はしますが結果は精霊のみぞ知ると言うか、やらないというのも…………そうも言ってられないか」
「どういうことだね」
「私には闇の迷宮で動ける人員を呼び出すことが出来るということです。私は『王家相談役』としてこの場で杖を振るいましょう。<全員下がりなさい>」
私から漏れ出る魔力の圧から本気を悟ったのだろう。
マイコハンさんも、デンレール卿も、貴族も騎士も、私から離れてくれる。
その中でピュリちゃんが不安そうに近づいてきた
「あの、お兄様を助けてもらえますか?」
「全力を尽くすと約束します。政争とか国とか関係なく、子供は護られるべきです」
大人として、5歳以下の子なんて困っていれば無条件で手を差し伸べてあげたい。
ガリアス君の見た目は大人でも中身は子供だ。私が関われば立場や政治がどうとかもあるかもしれないが関係ない。
「少し危ないかもしれないから、ピュリちゃんも下がっててね。ジュリオン、お願いします」
不安そうなピュリちゃんを撫でて、ジュリオンに目をやる。
私が何をするかわかっているのだろう。ジュリオンがピュリちゃんを抱えて下がってくれた。
リヴァイアスで水の魔導書から学んだ私には――――奥の手がある。
だから、この取り調べがもしも苛烈だったとしても余裕だった。
メモ帳を取り出して呪文のページを探す。
「<水よ。我が精霊よ。海の列王よ。冥界を行き来し死を運ぶ一柱、その大いなる力を貸したまえ。我が敵は同胞が敵>」
できれば使いたくはなかった。
多分「お願いオルカス」でも良い気がするけど……ちゃんとした手順が載っていたし、こういう手順や詠唱は大事らしいので詠唱していく。
「<家族よ、血を分けし同胞よ。慈しみ、遊び、愉しめ。進め進め進め。不実を払え、深淵を屠れ、邪魔者を喰い千切れ。果てまで征こう、彼方にまで征こう、共に征こう。この世は我が遊び場…………力を貸して―――――……オルカス>」
ちゃんと出てきてくれたそれらは嬉しそうだ。だけど、できればやりたくなかった奥の手である。
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