水魔法ぐらいしか取り柄がないけど現代知識があれば充分だよね? 作:mono-zo
彼の地の精霊はわがままだ。
特定の果物を領主が選んで食べ続けることで精霊が満足するがそれがどの果物かはわからない。俺が行って精霊に聞いてその果物を選べば済む。
いつもなら行軍の段取りは事情も勝手もわかっている爺に任せていた。これまではそれでうまくいっていたように思える。
しかし爺には精霊のような価値観で物事をどうでもいいと思っている部分もあるとわかった。爺に任せれば時間など気にしないやもしれん。
フリムには「お見合いから逃げるのか」という批難の目を向けられたが、俺にも目的があった。
精霊教の中でも闇について祀る神殿に行って闇の魔法について学びたかった。
ちょうど方向も同じ、数日程予定は伸びる可能性はあったがフリムのことを考えれば最速で帰る必要がある。
問題の精霊がどこにいるか確認させた上で、精霊教の神官には闇属性の書物を用意してもらって手早く済ませよう。フリムに教わった「すけじゅーるの管理」と「時短」というやつだ。
書物を受け取るだけなら近衛に任せたいが、闇の精霊と一緒でないと渡してもらえないそうだ。
これまで自分で調整なんてしたことがなかったし、煩わしくも思えるが……これも必要なことだろう。確実に予定を一日短く出来そうだ。
まぁやってみて思ったが、城から出て何事もなく帰ることが出来るのなら二日か三日……この僅かな期間城を空けることになるが、これぐらいならフリムも問題を起こさないだろう。
――――……そう、楽観的に思っていた。
なんでエルフとドワーフの使節団が俺と爺の留守なのに同時に来るんだよぉぉ!!?
エルフなんて前の国交は何代も前の話だぞ!?
……心当たりはあった。フリムとドワーフ、フリムとエルフ……そしてリヴァイアス領だ。そんな報告があった。
ドワーフとエルフがフリムのいると考えられるリヴァイアス領に謝罪に行くのもわかる。そこでフリムに連絡しつつ待とうとしたのだろう。
エルフとドワーフはなにかと仲が悪いし競うことが多い。エルフとドワーフはリヴァイアス領で会ってしまって、先に謁見しようと鉄道で来たようだ。しかも風の魔法が弱いと何らかの魔法を使ってまで……鉄道勤務の騎士が息も絶え絶えで状況を知らせてくれた。いつもとは俺の行軍は順が違っていたし相当俺を探したのだろう。しばらく休め。
すぐに帰るべきだろうか……しかしエルフもドワーフも謝罪や感謝が目的、であるなら何の問題もないはず。
流石のフリムでもこれ以上大きな問題は起きないだろうと思ったのに、さらなる続報が入った。
何故かフリムが追放されそうで貴族院に囲まれているとかなんとか……わずか数日でよくもまぁここまで問題が――――いや、俺が離れたからこそ問題が起こったのだろう。
「爺、早く帰るぞ。担げ」
「これは罠かもしれませんぞ。道中を考えれば騎士と行動したほうがよろしいかと」
爺の考えは確実とまではわからないが付き合いも長いしある程度わかる。
「狙いは俺じゃない。そしてこれは国難となりうると『王』である俺が考えた」
「ふむ」
「仲の悪いエルフとドワーフが同時にやってきて、すぐになにかが王都で起こっている。これは上位存在による攻撃の可能性がある」
「ならばなおさら『王』である貴方様は危険から離れるべきではないでしょうか?」
「ガリアスとピュリーは王族だ。そしてその二人も危険にさらされている。二人が死亡した場合、内戦が始まる可能性が高い。そして王位継承にも問題が出かねない」
一度は問答を挟んでくる爺。
おそらくだが正当な理由があり、爺にとってなにかの禁忌に触れない限り俺の意見は通る。
それと――――
「……なるほど」
「それに、もしも俺が王都に帰るように仕向けた罠だったとしても――――お前がいるだろう?」
「ははははは!まぁ良いでしょう!!しっかり掴まってくださいませ!!」
――――だいたい筋肉で解決するからこその『筋肉宰相』である。
『無敵宰相』に『筋肉宰相』、それに『オーガの中のオーガ』……どれも普通は宰相につけられる二つ名じゃないんだよなぁ。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
そうして最速で城に帰って……すぐに状況を把握した。
お見合い参加者の中でも他国の姫君を中心に行方不明者が出ていて、フリムは悪役令嬢をやっていたことから容疑者となっていた。
フリムは訴えを受け付けた貴族院院長を倒して事件解決に向かっているらしい。………………何か重大で聞き捨てならないことがあったが、とりあえず事態の解決に向かおう。情報によるとガリアスも行方不明らしい。
「では陛下、近衛から離れられませぬように」
「わかった」
爺は謁見の間に向かった。
エルフとドワーフは帰ったかリヴァイアス領で待機しているだかでいないが、エルフとドワーフの宝物は謁見の間にあるそうで、それらを確認しに行った。
謝罪と感謝のためフリムに贈られた財宝だが、その中になにか災いを招くような特殊な魔導具があった可能性もある。爺はそちらに確認に向かった。
そして俺は……爺の言うように安全な場所で待機などはせず、闇の迷宮に向かった。
行方不明者もそちらに向かっていった。そしてフリムもそこに向かったそうだ。
フリムが水でなにかしているのなら俺が居たほうが何をするにしても効率が良いはず。俺が目になれば、きっとすぐに解決するだろう。
「ここで四人待て、そして周囲の出入り口を見て回れ」
「「「はっ!」」」
闇の迷宮も、隠し通路から繋がるこの道も、本来近衛にだって知られていい場所じゃないはずなんだけどなぁ……。近衛に聞いても多数が知ってるし、伯父上側で漏らしたのならもはや隠す必要もないだろう。
ただ闇の迷宮では闇の魔法使いや特殊な魔法使いや加護持ち以外、まともに行動することは出来ない。
強い水の気配をルーラに教えてもらって走る。
「…………気のせいか?いや、たしかに居たような」
なにか闇の中に居た気がして剣で切り払って進む。
闇の靄が漂うこの迷宮でも闇の加護を持つ俺には良く見えているが……蜘蛛でも居たのか?
いや、気配からして蜘蛛ではなく異界の近くに現れる半透明の異形のような……強い魔力に引き寄せられることもあるし、失踪事件の影響の可能性もあるな。
帰還中に読んだ闇魔法の書物にあったように剣に闇をまとわせ、二つ三つと切り、前に進んでいく。
対人では威力は変わらないが、剣が見えなくなることで間合いはわかりにくくなるし、異形や精霊の一部には効果があるそうだ。
感じる気配は薄い存在だしぶつかっても問題ないかもしれないが、至近距離に来ていきなり影響を及ぼされるのも怖い。見つけ次第切り払って進む。
もしかしたらこのよくわからない靄が敵なのだろうか?だとすれば一度戻って――――
「お、フリム!無事…………………………か?」
角を曲がれば、フリムがいた。
「あ、シャルルだ!」
「王様だ!」
「この子おもーい」
「お菓子食べたーい」
……………………フリムが、たくさんいた。
そしてこの場は真っ暗なはずなのにどのフリムもこちらを見ていて、それでいてたくさんいる。
フリム達は行方不明者と思われる何人かを軽々と担いで……なにこれ。
「また出てきた、ふんっ!」
「よっわ!ざーこざーこ!!」
「このフリムの槍にかかればこんなもんよ」
「ズンバラリン!」
「チェストー!」
フリムが槍を使って、堂々とした所作で何かを切った。
はっきりと実体のあるものではなかったけど、何かを切ったということだけはわかった。
「その槍、騎士のだけどね。後で返しなさいよ」
「えーやだー、もらうー」
「まぁ良いんじゃない?信仰対象である私達が欲しいって言ってるし」
「補填は本体がすることになるよね」
なんなのだろう、これ。
フリムがたくさんいるのは、エルフとドワーフの魔導具か何かか?
「お金たくさんあるしいーじゃん」
「おーさまつかまえたー」
「ずるい!私も遊ぶ!!」
俺も捕まった。そして他のフリムに群がられている。
なんだこれ。俺の剣も取られた。
驚いているとなにか明らかに強い気配の靄が廊下の先に見えた。
フリムたちも気が付いたのだろう。見えないはずの闇の中、全員の視点が一致した。
強い気配が、嫌な気配がする。
「フリム!今すぐ降ろして俺の剣を返――――「でっかいの居た!フリムビぃぃぃぃぃム!!!!」
フリムの一体が前に出て、口の前から魔力の塊のようなものを放った。
靄を消し飛ばし、廊下の先の何かを壊したような音がし、地震のように少し闇の迷宮が震えたように感じる。
そのびーむとやらを使ったフリム個体は倒れて、他のフリムに担がれた。
「なんか言った?シャルルおーさま」
「ナンデモナイデス。…………あの、フリム……フリムさん、主犯はどうなりました?」
これは聞いておかねば……自分でも強い気配があったそれがどうなったかわからない。だけどこのフリム達の警戒は解けているようにみえる。
それに今吹き飛ばされた何か以外にも、まだいる可能性がある。
行方不明が人の仕業じゃないとすれば、きっと先程のあれはその親玉か、あるいはそれに属したもののはずだ。
「わっかんなーい」
「行方不明者優先!」
「頑張った!」
「それより恋バナしよーぜ!」
「シャルル、結局誰選びたい?」
「男でも良いんだよ?」
「ヘタレの恋バナより経済がいー」
「「「さんせー!」」」
なぜだろう。
フリムの肩に担がれたまま、この間執務室で話した政策について話している。
おかしいな。俺、フリムを助けようとしてたはずなんだけど??
「おろして」
「救助者だしだめー」
「こらそこ!何をしてる!!」
なんか堂々としてるフリムが来た。本体かな?
いや、多分違うな。フリムとは雰囲気が違う気がする。
「あ、リーダーだ」
「おーさまで遊んでるー」
「人で遊ぶんじゃない」
良いぞもっと言ってやれ。というか――――
「でもシャルルです」
「ならよしっ!!」
「フリムなのか?」
「私はリーダー!フリム・ゴスボフ様だ!」
良くはない。そしてフリム本体ではなかった。あと「りーだー」ってなんだ?
しばらくして迷宮を抜け、近衛も驚いているが降ろしてもらえず、そのまま本体と思われるフリムのもとに連れて行かれたが……。
「フリム」
「おか……えり……なさい……」
おそらくフリム本体は、多数のフリムに遊ばれていた。
群がられているフリムは特別扱いされていることから本体とわかる。
後ろから脇の下に腕を突っ込まれて抱きかかえたままブンブン振り回されたり。撫でられたりしている。
「何だその魔法は」
「水の奥義で、精霊の力を借りました。オルカスの分身魔法です。おぺっ」
フリムはフリムによって取り合いがされている。まぁフリムの魔法だろうし、死にはしないだろう。他にもフリムの派閥の人間やポヨ令嬢やリュビリーナが遊ばれている。
周りに何人か倒れている騎士や貴族がいるが……一体何がどうしてこうなったのだろうか?
ただ、まぁフリムも、山積みにされている行方不明者も無事ということだけはわかった。
いつもコメントありがとうございます!