水魔法ぐらいしか取り柄がないけど現代知識があれば充分だよね? 作:mono-zo
私の分身体はシャルルに任せる。
分身体は見かけこそ私だけどその主人格はオルカスであるし、私には制御できない。
彼らは自由ではあるけど、私の知性と知識も残っている。だからこのお茶会には同意してくれて、なんとか邪魔されずに準備することが出来た。
というか分身体はいつ消えるのだろうか?騎士が敵に回ることや、事件の規模が大きかったことも考えてかなりの魔力を使ったからか、全然消える様子がない。満足して消えることもあるけどいつになることやら……。
「ナンナ・ヴォルテ・イ・アシュナイ嬢が参りました」
ナンナは約束した時間にピッタリ、鐘の音が鳴り終わると同時にノックしてきた。
「どうぞ通してください。――――ようこそ」
とにかく話す必要がある相手、私を追放しようとしたナンナとお話することになった。
ナンナは集団失踪事件の犯人を私だと思ってわざわざ衆目の集まる場で貴族院に突き出してきた。
「貴女には、全部……全部負けちゃったわね」
「まぁ、座ってください。<水よ。出ろ>」
俯いてしまって顔は見えないが、呼び出された彼女は間違いなく良い気分ではないだろう。
なにせ――――私の部屋に直接招いてのお茶会だ。
回転テーブルの上のカップに水を出し、一口飲んで見せてからテーブルを回して彼女の眼の前に届ける。
彼女は私を追放して、シャルルの隣のポジションを手に入れることはできなかった。
むしろ私が失踪者を救出したことが知れ渡っているため、肩身の狭い思いをしていると報告に上がっている。
「もう知ってるかもしれませんが、こちらポヨ令嬢。ミィアはポヨ令嬢と呼ばれることを好みます。こちらはフィレー、オベイロスの学園長をしているフィレーネです」
「はい、ナンナ・ヴォルテ・イ・アシュナイ……です。短い間になると思いますがどうぞお見知りおきを」
目が死んでるなぁ……。
元々私とナンナの関係は良くはない。
勝手に私を敵視してきていたし、彼女はシャルルのいるお茶会で油みたいな苦々しいドリンクを私に出してきたからね。
彼女を一対一で呼び出すと良からぬ噂が立ちかねないから何人か呼んでおいた。ミンテーさんもいるけどお見合い大会における外国勢力で最大勢力である彼女のことをナンナが知らないわけがないだろうし紹介は必要ないはず。リュビリーナもいるけど寝てしまっている。
とりあえずお菓子とお水と……お酒を出してもてなす。
ミィアとフィレーはこちらのことなど知ったことかと酒盛りをしていた。
「まず言っておきますが、私はあなたを害する気はありません。この4人はその証人のためにいてもらうだけです」
「酒が美味いぞー」
「つまみもっと!」
「…………」
「どうも」
王宮の時間の感覚が知れるのは数時間ごとの鐘の音である。
あらかじめ呼んでおいた酒飲み2人組は何を考えたのか鐘二つ分は早く来て飲んでいて……もうかなり出来上がっている。
リュビリーナは全く動かないし、ミンテーさんは呼ぶと来てくれた。
「こんなでも国の要人なので、まぁお気になさらず」
「…………はぁ」
ナンナの暗い顔は止まらない。
「まぁまぁ、お酒が良いですか?お好きに食べてくださいね」
ミィアとフィレーにはテーブルの左右に居てもらって証人をしてもらいたかったのだけど、なんかいつの間にか隣り合って飲んでいたため、空いた片側には安らかな表情で眠っているリュビリーナを設置した。それとオベイロスの人間ばかりでは良くないと思うしミンテーさんも来てもらった。そちら側は居てくれるだけでいい。
「いえ、その、負けた私に何の御用でしょうか?……意趣返しでもする気?」
「フリムはそんな狭量ではないわ!甘々じゃぞ!」
「フィレー、ちょっと黙って飲んでてください」
「はーい、お酒おかわりぃ!」
フィレーは出し惜しみなしにおいているリヴァイアス酒とおつまみを食べて……フワッフワしている。
ミンテーさんは静かに料理を食べている。お茶会のはずだったんだけどおつまみばかり要求されて、もう立派な食事会になってしまっている。ミンテーさんは新作の春巻きが気に入ったようだ。
「まったくもう……そもそも前提が違うのですよ」
「前提?」
「ネタバラシをしちゃいますと、私とシャルルは家族。シャルルは私の名付け親に当たります」
「――――――――…………は?」
驚いているナンナ。
あまり知られていない話であるし、外国人のナンナが知らないのも当然だろう。
そもそも私は寵姫なんて言われているしシャルルに可愛がられてはいるけど、それは「家族愛」であってそれ以上のものは感じたことはない。
「ですのでシャルルとの婚姻相手は私が見繕ってやろうと思っているぐらいです」
「…………え?」
「私の酷い態度はシャルルの相手となる人の知性や所作、本性を見るためのものでした。きっと不愉快な思いをしたことでしょう。そこのところはごめんなさい」
「……あの大量の意味不明な筆記試験も?」
「あれの内容は貴族が考えたものですね。試験でそれぞれの知性を試そうと提案したのは私ですがまさかあんな酷いものになるとは……あ、ちなみに私も筆記試験は受けていました」
「…………そう……そうなのね」
なんだか彼女への種明かしが心苦しい。ナンナは普段勝ち気で前向きだったんだけど萎れてしまっている。
彼女にとっては狙ってるシャルルの相手は蹴落とす対象のはずだったのに、前提がそもそも的外れだった。しかも追放させるはずが逆に追放されてもおかしくない状況になってしまっている。
私としては後々の問題にならないようにしたい。むしろ――――
「そんなわけで、ナンナにはこれからもシャルル攻略を頑張ってもらいたいです。私の立場や事情を秘密にして、そのままお見合いでは頑張って貰えませんか?」
「その、良いのでしょうか?」
分身体の対応よりも彼女の対応を急いだのは彼女が国元に帰ろうと準備していたからだ。
そもそも私は彼女に対して怒りも恨みもないし、報復なんてする気もない。
それにきっとあれだ。貴族院の関係者にそそのかされたのだろう。証言を出したのは私のことを良く思っていない人ばかりだった。証言も「嫌がらせをしていた」とか「威圧した」とかで失踪との関係は微妙だった。なにか追求されても逃げられそうな証言ばかりして、そそのかした貴族が悪い。
情報によれば証言を行った人物は現在ナンナを叩く側にまわっている。私とナンナをぶつけて安全圏にいる奴らこそ何らかの罰に処してやりたい。
「はい。そもそもシャルルは女性恐怖症のヘタレですからね。強気に出るあなたのような人は相性が良いと考えます。あ、同意無く押し倒したのはどうかと思いますが」
「そ、それはっ!!?そういう作法でして……」
「まぁまぁ、料理も飲み物も食べてもらってゆっくり話を聞きましょう。春巻きはオススメですよ」
春巻きはオススメである。皮はパリッと香ばしく、中の具材が良い味をしている。一口目にはもう美味しいと分かる出来になった。
これまでもたまに食べていたけど、王都のスパイスを合わせるとコクと深みが出て、より美味しく出来た。いつものように唐揚げや餃子をおつまみに出していたのだけど、フィレーに「新作を出せ」とわがままを言われて作った。正直かなりありな味だ。
「……その、あたし、あなたのことを誤解していたようです。ごめんなさい」
「はい、正式に謝罪を受け取りました。今後仲良くしていただけると幸いです。お酒も飲みます?リヴァイアス酒って言ってちょっと光って酒精の強いお酒で、ドワーフ用に集めていたのですが数が確保できたので過剰分を出しています」
元々リヴァイアスからオベイロス間の輸送経路が鉄道以前は元々人力だったこともあって、どの屋敷にどれぐらいの物資があるのか状況がいまいちわかっていなかった。
とりあえず調査して、王都にある分だけでも渡せる分は確保した。残りをこうやって出したのだけど……結構度数の高い酒になるし、そこまで減らないと思っていたのにここぞとばかりにフィレーが飲んでいる。
「いかーん!!!この酒はぁ!…………この酒はぁ………………全部……のむぅ」
フィレーが異議を唱えた。
大事そうに酒樽に抱きついて……寝てしまいそうだ。立ち会いのために呼んだのに自由だなぁ。
もう私の分身体に囲まれて幸せそうに眠ってしまったリュビリーナと同じく静かに寝ていて欲しい。
「このように、好きな人は好きなようです。あなたの情報にはお酒好きとありますし、どうです?」
「いただきますわ」
まだ緊張の抜けていない彼女だけど、悪いようにはならないだろう。
しかし、この一件…………一体誰がどんな目的でそんなことをしたのか――――不安が残るところだ。
「あ、これ美味しいですね」
「遠慮せず好きなだけ食べてください。お酒にも合いますよ」
まぁ、リストにあった失踪者は全員無事だった。
他国から攻め込んでくるリスクは回避できたし、それだけで良しとしよう。
コメントや評価などしてくれるとうれしーです!
コミカライズの細かい部分まで見てくれてる人が居て先にコメント返しそうになりましたw
感想はたまに見て不審者ばりにニヤニヤしているのですが、各サイト各作品に大量に来ていて、合わせると余裕で千超えてて……これ返すと新話も新作も書けないのです。ごめんね!でも更新や活動頑張るよ!いつも(/>ω<)/アリガトー✨️