水魔法ぐらいしか取り柄がないけど現代知識があれば充分だよね? 作:mono-zo
ダンスはちょっとやりすぎた部分がある。
ダンスの参加者のうち何人か気絶してしまっていた。明確に、言い訳のしようもなく、精霊をたくさん出した私のせいである。
これにはちょっと貴族達も苦言を呈してきた。オルカス達分身体が貴族院の貴族を襲撃した猛威を知っているようで恐る恐るだったが。
ただ、王都の貴族としては全体的に満足な状況となった。
この国の王が……ヘタレなシャルルが頑なに女性を避けてきたのに女性との触れ合いを良しとしているのだ。
ナンナや何人かの女性と踊って、それらが貴族の目にも成果として写ったのだろう。
貴族は自分達の派閥の筆頭であるシャルルに世継ぎがいなければ将来ライアーム、もしくはガリアス君かピュリちゃんという敵対する派閥が王位を継ぐことになってしまう。そうなれば今の役職はすげ替えられてしまう。
王都の貴族にとってはシャルルに相手がいることは自分の役職の安定に繋がる。できれば自分の娘や派閥の人間が王妃になってくれる方が嬉しいだろうけどね。それでも王都の貴族はお見合い大会に対して一定の成果が見れたわけである。授業参観の子供と保護者を見ている気分だった。
……そもそもシャルルの周りにこれまでいた女性が悪すぎるのが問題だったんじゃといいたい。爪に毒を塗って襲いかかってきたり、心配してきたかと思えば襲いかかってきたりなどなど。
しかし「触れ合ってダンスした」程度で喜ぶあたり、これまでシャルルがどれだけ難攻不落だったのかよく分かる。踊っただけであってシャルルと御令嬢方の仲が良くなったかは不明なのに……。
私にとってもシャルルという保護者に相手がいるのは嬉しく思えるし、お見合い大会という行事で成果が出たようにも実感できる。
ナンナは普通に踊って、最後振り付けを間違って自国の振り付けっぽくなってしまった。踊っている間は堂々としていたのにそのミスにすぐ気づいたのか耳まで真っ赤になっていた。ミンテーさんは身長差で若干うまく踊れていなかった。聖女ヌールーなんて昼間かってぐらい発光していたのは意味がわからなかったな。
シャルルはもう貴族たちの圧からか政治的要因からか、お見合い大会に参加している自国他国の令嬢を問わず何十人と踊って疲労困憊になっていた。ぜひそのまま何人かとお近づきになってもらいたいものだ。ハーリューとも何故か踊っていたがあれは多分遊ばれていたな。
私も時間があったしピュリちゃんやリュビリーナ、ミィアと踊ったりもした。謎にポヨ大臣やプラー、ローガンなどなど雰囲気につられて楽しく踊った。子供状態だから色気なんて無く、身長差もあって子供扱いのダンスになってしまったがそれでも楽しかった。
シャルルと精霊達とのダンスが成功した段階でもう後は自由時間だったし楽しんで……おおまかにしてうまくいって帰ったはずだが――――――――そんな私は今絶賛拐われてピンチだ。
「キュクルルルル!」
「おーろーしーてー……」
「クルルル!」
リューちゃんが拗ねた。
既に大型犬から小さめの馬ほどはありそうなサイズに成長したリューちゃん。お祭りなのに参加できなかったことに対して盛大に拗ねて私の服を噛んで飛行している。
いや、ごめんって。
ダンスにはリューちゃんの参加も考えたのだけどシャルルが「過激な精霊教徒もいるかもしれない」って言うから貴族の暴発を防ぐためにも部屋で待機してもらったのだけどそれが不満だったらしい。
子供状態の私の筋力では太刀打ちできず、猛烈な勢いで外に拉致された。
ジュリオン達は後ろでついてきているが無理に奪えば私が怪我をするかもしれないため強硬手段には出てこない。結果、私を先頭に後ろではマラソン大会のようなことになっている。範囲は城を超えて王都中だ。
騎士も出動して大騒ぎになったがリューちゃんを前にすれば竜も空を飛ぶ騎獣も動きを止めるし、追いかけることは出来ても止めることは出来ないようである。
悲しげだったリューちゃんだったが途中からは遊んでいると判断したのか……そのまま半日ぐらいは私は捕まったまま連れ回された。途中苦しかったから苦情を申し立てた結果背中に乗せられた。
最終的にリューちゃんは満足したのか、何処かの丘で降ろされて昼寝となった。私はしがみつくだけでへとへとになった。
地面で横になったリューちゃんのお腹で寝ていると、うちの人間やシャルルの騎士が追いついてきて野営のようなものが始まった。
夜会のダンスはもちろん夜だったし、その後深夜に部屋に帰ってから王都中リューちゃんに捕まって逃亡劇が始まって半日……もう昼だ。
追いかけてきていたうちの人員や貴族や騎士はもはや疲労困憊で……もう鎧姿のまま寝ている人までいた。
「静かにしろーリヴァイアス侯を起こすなー」
「疲れた……」
「肉焼けたぞー」
「ゴゴゴゴ……シュー……ンゴゴゴゴ……シュー……」
「運動不足だ」
「誰か水出してくれー」
昨日の夜会のために皆準備を頑張っていたし、その前の失踪者事件の調査も終わっていなかったことから疲れも溜まっていただろう。しかも皆侯爵である私のピンチに本気で追いかけてきていた。
リューちゃんは竜騎士だろうと風の魔法使い相手でも凄まじい逃げっぷりだった。
改めてリューちゃんを見て……初めて会った時の子トカゲのサイズの弱々しい印象はないな。大きな卵から生まれた小さなトカゲって記憶がまだ残っているから私には可愛い存在だけど……大きくなったものだ。
竜王の子供らしくたまに知性を見せる部分もあるけど、まだまだ子供かもしれない。どこまで大きくなるんだろう。
「めっ」
周りに人がいることに気づいているのだろう。起きてちらりとこちらに鼻先を向けてきたので手のひらでペシッと叩いておいた。
体表も頑丈になったし、今の私は子供モードだから触れ合うにしても力が足りてないしね。
「ルルル」
痛いとか反抗的なものではなく、「もっと」としてきているようなのでもう少しベシベシとして……そのまま撫でておく。
リューちゃんは反省してはいなさそうだけど満足はしているようである。もうちょっと寝よう。
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しばらくして起きてご飯を食べた。
お見合い大会や行方不明事件、果てはリューちゃんによる騒動など色々あったが……何故か今はゆったりと休める時間になっている。
私考案の焼肉のタレセットは大いに役立っていた。肉とたれの焼ける食欲のそそる香りが鼻腔をくすぐってくれた。
無理に私を起こして大人しくなったリューちゃんの勘気に触れればまた追いかけっこが始まりかねないし、近くにいても起こさなかったのもわかる。
この場には外国の姫君やその護衛とかもいないし、オベイロスの貴族ばかりで気を張るような場でもないからかいつもより皆気が抜けている気がする。リラックスして肉を焼いていた。
薄暗くなるまでゆっくり休んで帰ることになったが……何処かから「騒動の中心はいつもリヴァイアス侯だ」「上位存在に振り回されて可哀想に」などとちょっと聞こえたり憐れんだ目で見られもした。オルカスにしばかれた貴族からもだ。げせぬ。
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