水魔法ぐらいしか取り柄がないけど現代知識があれば充分だよね? 作:mono-zo
「ふふ、ははははは」
「ガリアリス様とピュイリー様がなにかしましたか?」
ガリアス達の養育係だったな。王都から届けられた手紙に笑いが止まらず、声をかけられってしまった。
「ガリアスとピュリーだ。誰に聞かれてるかわからんからな」
お見合い大会には他国の人間も来ているし、名前や血筋を起点とした術をかけられてはかなわんからな。俺の名前を入れさせたし問題ないかもしれんが用心に越したことはない。
どちらも精霊の力か成長も早いがまだ子供だ。ピュリは手の甲に火が灯っていることもあってまだなにかされても抗えそうだがガリアスはわからん。
肉体的には大人のような力で周りを振り回しているそうだけど、魔力への抵抗力は危うかろう。
「失礼しました。そちらで呼びなれていますゆえ……」
俺の注意にさっと顔を青くさせたガリアスの元教育係。
むしろ覚えの悪い息子に正しく教えようと教育をしていたのだから少々漏れてしまっても仕方ないだろう。
「かまわん。まぁ、それもあるがフレーミスがな」
いつもなら王都の騎士を困らせている我が子の続報を聞いて笑っていただけだった。
あれだけちゃんとしろと注意したはずなのに、勉強から逃げて困らせるしつまみ食いするわで自由にやっているようだ。
ガリアスからすれば俺の息子だから、弟の息子……シャルトルとは従兄弟になる。
俺のもとにいれば暗殺の可能性もあったし隔離して育ててはいたが……驚くほど王族らしくはない。世情から考えればガリアスはシャルトルとフレーミスに攻撃的であってもおかしくはないはずだが、フレーミスには懐いているしシャルトルとはなんの感情もないようだ。むしろシャルトルは菓子をくれるから良い兄のように慕っているのだとか。
まぁ、攻撃的に振る舞って殺されるよりはずっといい。
ピュリがシャルトルを籠絡するというのは元々無理だと思っていたし期待はしていない。
シャルトルは俺の派閥と縁のあった女性によって女性恐怖症になっているようだった。いや、俺の派閥だけではないことから王都で女性の争いがあったのだろうな。
娘は体こそ大人になりつつあるが、まだ5つだ。シャルトルの相手は難しかろう。
今日の報告はフレーミスだ。
あの小娘、エルフだのドワーフだの、大人の状態で婚約者の筆頭として振る舞っていただのと……毎回やってくる情報がとんでもないのだが、今回ついに貴族院の院長と対決して増殖して殴り倒したとか更に意味がわからなさすぎる。
貴族院院長及び貴族院所属の貴族をどうやって殴り倒した?
貴族院は貴族の統率の役割を担うだけあってオベイロスにはなくてはならない存在だ。王家は祭司の役割があるためどうしても国政をあけることになる。そのため国を治めるのに貴族院や大臣の力はなくてはならない。
貴族院には貴族を統率するだけの力がある。
王家は精霊との契約の機会を与えるため貴族は王家に跪拝する。とはいえ主たる王家は忙しいし、統率が取れなければ国家として綻びが生じる。
だからこそ貴族院がある。彼らは貴族の中でも有力であり、歴史のある真のオベイロス貴族だ。彼らは貴族に貴族としてあるべき姿を教える。精霊と縁を得たばかりの……力を振るいたくて仕方がない貴族をその杖で上下関係を叩き込む。それだけの力を持っている。
その筆頭たる院長を倒したとなれば……フレーミスは貴族院と完全に敵対しただろうし、今後排斥されると見るべきか。
いや、報告では貴族院長のみならず貴族院を殴り倒したとある。で、あれば……もう止めようもないほどの力を持っているのか?
…………もしかすればレージリア宰相の血縁かもしれんな。クラルス女史は素手で岩を握り砕く。ならば……レージリア宰相が二人になったようなものか。最悪すぎるがそもそも「増殖した」とはどういうことだろうか。
最近の報告は本当に酷いものだった。
飛空要塞をハイエルフが襲撃、ガリアスとピュリにつけた腕利きも、他国から来た姫とその護衛もまとめて敗北した。
その後、海を漂流していた飛空要塞をフレーミスが回収。所有はフレーミスとなって…………その報を聞いた時には思わず頭を抱えたものだ。
あれは戦闘にも使えないこともないしあれがあればかなり有利に戦えるはずだった。まだあれがこちらにはあると、こちらの力は健在であると見せつけてから時間をかけて恭順の姿勢を取ろうとしていたのに……とことんあの娘は俺の邪魔をしてくれる。
返せといいたいところだが、そもそも漂流していたわけだしな。
「はぁ……これも『人の世』か」
うまくいかないことばかりだ。
しかもハイエルフのような上位存在に引っ掻き回された。
フレーミスもハイエルフの謎の行動で領城は半壊したそうだし……なるようにしかならんか。
「お疲れのようですね。お休みになりますか?」
差し出された茶を飲み、少しどうするか考える。
しかし、俺はいつから王位に固執していたのだろうか。
死んだ仲間の期待を背負っていたのはあるだろう。
だがこうも状況が悪くなれば、その期待に応えるよりも、死んだ彼らの願いよりも、彼らの家族の安全と平穏、未来を考えないといけない。
そのためにも俺がどうにかするしかない。たとえ歴史に無様な様を刻み込まれ、首を晒されたとしても――――それが皆に支えられてきた俺の……俺だけが出来る責任のとり方だろう。
「しばらく出てくる」
「護衛をお呼びします」
「いつものトケルツェだ」
「かしこまりました」
俺の首が晒されてからの恭順になるのか、それとも勝ち目は薄くなったがシャルトルと内戦になるのか。
いや……もう、争うこともないとは思うが……どうなるかはわからんな。どちらにせよ急ぎではない。
ならトケルツェに行き、あの場で死んだ多くの貴族や甥のために祈ることにしよう。――――せめて、墓ぐらいは作ってやらないとな。
おや、ライアームの様子が?