水魔法ぐらいしか取り柄がないけど現代知識があれば充分だよね?   作:mono-zo

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第43話 とんでもない拾い物。

 

水瓶に水を注がせてからフリムも部屋から追い出した。

 

 

廊下にいるアホどもには部屋に入らないように言って―――よく考える。

 

 

確かにあの娘は髪で分かるぐらいに力の有りそうだとはわかったが、まさかルカリム家の縁者……いや、後継者になりうる存在だったとは。

 

王様だか宰相だかの狙いは悪くない。王が決まって王の派閥につきたい貴族は山ほどいるだろう。王の派閥も元は派閥もない小さな勢力だったが宰相が他国との戦争を抑止するために中立をやめて支援を決めた。今では立派な勢力である。

 

王の敵の勢力の中にもこれ以上の戦いを望んでいない貴族は多いはずだ。そいつらの行き場を作るのに『水の名家の血を引くルカリムの御令嬢』がいるのならごっそり引き抜けるかも知れない。

 

フリムを「飾り立てて担ぎ出す」のと「フリム自身が身を立てる」のでは全く違う。しかし、フリムがその形で身を立てるのなら裏で金や人を出す支援者がいたほうが良い。誰かに取り込まれにくくなる。そこにちょうど、俺がいる。

 

 

――――こんな機会はもう二度と無い話だ。

 

 

フリムはおそらくルカリムであれば男爵……いや子爵となれる。うまく行けば伯爵だ。

 

そして俺は最初の支援者として子爵か男爵を狙える?

 

貴族となるためには何代も功績を積み重ねるなりはしなきゃならんものだが俺は一応ドゥラッゲンの出であるし平民上がりよりかは受け入れられやすい筈だ。

 

 

外で待たせてる情報屋を窓から入らせる。

 

 

「とんでもないことになってますね」

 

「さっさと寄越せ」

 

「はい、しかしフリムと呼ばれる少女については情報操作でもされているのか酷いものでした」

 

 

――――――………何だこりゃ?

 

王宮に暗殺集団が現れた際の混乱、フリムという少女はたった一人で10人を超える二つ名付きの精鋭部隊を一蹴。四属性使い、竜、賢者、神などというとんでもない二つ名が囁かれている。その姿は絶世の美女で王をたらしこんだとか実は老人だとか………めちゃくちゃだな。

 

 

「くくっ」

 

 

フリムの口から出た話とは違うがこんなの言っても信じないと思ったか?それともフリムも知らなかったか?あれが絶世の美女?男か女かもわからん体つきでそれはない。ちょっと笑った。どうするか今すぐにでも考えなきゃいかんのにな。

 

アホみたいな情報の中に1つ目に引くものがあった。

 

フリムは貴族に大量の貢物をされたというのに雇い主への忠義があるからとその贈り物をそのまま返そうとしたのだとか。

 

 

胸が熱くなる気がする。

 

 

これがモルガみたいなアホな部下だったら首にしても良いんだがフリムは突拍子のないところはあるものの常に俺の役に立とうとしてくれた。

 

奴隷を人として扱って接しているのは性根が優しいのだろう。部下のしつけ一つで目をそらしちまってるからやりにくくてかなわん。息子共の前なら容赦なくぶっ殺せるが流石にこんなチビの前だとやりにくい。

 

貴族のもとにいればここよりかはマシな生き方ができるだろうに―――それよりも俺の元を選んだか……『忠義者』のフリムか。

 

 

王と宰相は日に一度は必ずフリムの見舞いに行っていたと書いてあるほどだからやるとフリムが決めたなら最低でも裏からの支援があるはず。

 

 

だが今の王は周りの国に攻め込まれないだけでも必死なはずだ。ライアーム殿下の方が派閥は大きい。それだけではなく王は傘下の貴族の支持が完璧ではない。他国に取り込まれているものもいるはず。

 

そもそも『暗殺集団が城に現れた』それだけでこの勢力がいつ崩れるかもわからないとわかる。このままいきゃこの国の王はあっさり終わりかねない。それにつられて俺も兄貴共も終わっちまうかもしれん。

 

王が負けようとも二人ぐらいなら守り通せるかもと思っていたがライアームについ先日ついたタロース家がドゥラッゲン家と仲が悪い。ライアームが勝ち、政権をとれたのならドゥラッゲンに関わっていた俺も危ないな。

 

 

「お前はどう思う?」

 

「私に意見を聞くなど珍しい。……そうですね。馬鹿げた案だとは思いますが大賢者フリムは貴族の中で持ちきりの話題となってますしドゥッガ様が貴族になられるには二度とない好機かも知れません。しかし危険すぎるのも事実。金だけ渡しておくのはいかがでしょうか?」

 

「だめだな。俺より金を持ってる貴族はいる。やるなら注ぎ込まなきゃ成立しねぇ」

 

「捨て駒に思っていた一人ぐらい放逐してしまえばそれで終わり。それもお忘れなきように」

 

「わかってる」

 

 

理屈ではわかっている。しかしそれをやれば王とフリムが何らかの形で懇意にしているのなら俺は貴族にはなれない。ここでこれ以上大きくは成れないし目をつけられるだろう。

 

難しいな。……もしかすれば俺たちは何もしないでも時間が経てばライアームが病死でもするかもしれない。だから「賭けない」という賭けもある。

 

しかしそれには惜しすぎる。

 

貴族と平民ではやはり差がある。客の貴族共には魔法の使い手もいて……どうしたって悔しい思いをすることもある。何処にでも魔法を使えるものはいるが「貴族の子飼い」と「商人の子飼い」ではこの点が違いすぎる上に今は貴族共が大金を使って家を守るべく在野の魔法使いを集めてしまっている。

 

アホな貴族一人に脅かされることもあるこの賭場では何もしないでも潰れる可能性はある。

 

 

「フリムの魔法でなぜ『大賢者』なんて馬鹿な呼ばれ方をしたんだ?」

 

「一人で四属性魔法を使ったという報告があります。それも複数から」

 

 

水はいつも使ってるから知ってるが、火と土と風?あいつが俺に力を隠していた?

 

聞くと確実に火の名家の長ほどの火を使った形跡があったのはその目で見たと。後の訓練でも爆破系の魔法を使っていたと確認もしたそうな。

 

風は猛烈な勢いで空から陛下ごと飛んできたのだとか。土は掃除で綺麗になってたから上等な土系統魔法が使えると言われている。それは多分バーサーか糞親父だろうな。もしくは本家のオーク親父かクライグ。フリムが使えるなら自分で割れた水瓶を直していたはずだし、そもそも魔導書を読む前だと水を出せるだけだったフリムにそんな力があるならパキスに負けるのがおかしい。

 

 

「鍛錬場の頑丈な壁に亀裂を作ってましたし、水魔法だけでも大したものです。契約前の魔法使いでこれなら数年後には国を代表する魔法使いになると言われています」

 

 

なら、さぞ勧誘も多かっただろうに俺への忠義で贈り物を突き返そうなんて危険な真似をしたってのか。

 

もらっておけば良いものを。

 

 

「くはは」

 

 

ガキのくせに―――――殺しちまうには惜しくなる。

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

情報屋に金を渡して出て行かせ、一人でよく考える。

 

俺には4つの道がある。

 

一つ、フリムを殺してライアームに持っていく。

これは無い。現王に不興を買うしフォーブリンの兄貴に殺されるかもしれん。

だが全部捨てて逃げ切れればライアーム殿下に莫大な褒美をもらえるはずだ。

 

一つ、フリムをほっぽりだしていつも通り。

もしもまた戦争が起きればどっちが勝ったとしても生き残れる道でもあるかも知れない。石の奴らだって名前を剥ぎ取られた俺になら慈悲を与えるかも知れない。

 

一つ、フリムを支援するが最低限金だけ出す。

王が本気ならそれだけでも人は集まるだろうがライアームの勢力には恨まれる。貴族になれるかはわからない。

 

一つ、フリムを全力で支援する。

今なら貴族にもなれる。ここにある金・人・土地全部使って……借金もして支援すれば貴族になれる。だがライアームとは完全に敵対する。

 

 

このまま何も起こらずライアームが負けるだけかも知れない。戦いは起こらないかも知れない。他国からの侵略も無いかも知れない。―――だが「それはない」と俺の勘が言っている。

 

…………ここで考えても埒が明かんな。最後にフリムを見て決めるか。

 

 

「フリムちゃーんこっちもー!」

「水美味しいわー!もう王宮なんていかないでずっといてよー!!」

「おかえりー、待ってたよー!!」

 

 

賭場の水を入れているフリム。うちのもんには好かれているな。

 

……これに賭けるのか?こんなちんまくて弱そうなのに。

 

 

「親分さんどうかしましたか?」

 

「いや、決めかねててな。王宮で使ったっていう魔法見せてみろ」

 

「わかりました」

 

 

水の魔法なんか弱いもんだ。きっと見てしまえば担ぐ気は失せてしまう。

 

―――……それでも確認しておかねばならない。

 

こいつを担ぐにしろ、どうするにしろ。それだけの価値が本当にこいつにあるのかを。

 

 

何処でやるかとなったが外でやることになった。夜の暗い中、屋上で……賭場の客を追い出すのも良くねぇしな。

 

 

「本気でやれ本気で」

 

「ダメです。多分この魔法を本気で使ったら賭場が吹っ飛んじゃいます」

 

 

水でそんな事ができるわけ無いのに何を言っているのか。

 

松明を屋上に立ててフリムが水の玉を遠くから浮かせている。松明ぐらいなら消せますよってことか?

 

拳ほどの水を10ほど、それにいくつかの大きな水玉を苦もなく作って浮かせているフリム。

 

 

「小さいのからやっていきますね。しっかり盾持ってください――――……行きます」

 

 

緊張させた面持ちで小さな水の玉を浮かせて遠くの松明に近づけるフリム。盾は持ってきたが松明を消すだけでここまでされると興ざめも良いところだが……フォーブの兄貴が膝をついて盾を肩に当てていて、過剰なほどに本気の構えだ。

 

 

「ちゃんと構えろ、死にてぇのか?」

 

 

フォーブの兄貴の言葉に俺もバーサーも顔を見合わせて同じように真似をする。

 

ふよふよと浮いた水が近づくと――――バウと聞いたこともない音を立てて……水の玉が爆発した?!!

 

ほんの軽い衝撃が盾にふれる。倒れた松明を立てに戻しに行ったフリム。

 

何が起きたのかわからないとバーサーと顔を見合わせる。

 

 

「あの、フォーブリン様。結構な音がするのですが続けてもいいでしょうか?」

 

「後で謝りに行く必要があるが、もう少し派手に行け」

 

「えぇ……どれを近づけるかフォーブリン様が決めてください」

 

 

先程の大きさの水の玉なら10ほどあるがいくつか大きな玉もある。俺よりも大きな水の玉まで同時に作り出して浮かせているフリム。フォーブの兄貴はそこそこの大きさのものを選んだ。

 

フリムは他の水は別の場所に飛ばして消した。選んだ玉は一抱えはあるだろうか?

 

 

「なにか壊れるかも知れませんよ?」

 

「構わん。俺が責任を取るからやれ」

 

 

水の玉を浮かせるフリム。今度はフォーブの兄貴の盾の影に隠れ、更に俺たちを包むように水の壁を作り出した。

 

見えにくいが……それよりもフリムは何も唱えずにこれを行っている。精霊とよっぽど相性が良くないとこんなことは出来ない。しかも水の玉はそのまま飛んでいっている。

 

呆気にとられているうちに水の玉が松明に近づき――――………水の膜は吹っ飛び、激しい音を立てて王都の夜は一瞬火に包まれた。

 

尻餅をついた俺とバーサー。とんでもない衝撃で。松明があった場所は横の壁がえぐれている。

 

 

それと……

 

「火がついちゃった!?消火ァァアア!!!」

 

 

屋上は洗濯を干すのに使うひもや棒切れがあってそれに火がついていた。フリムは水をドバドバかけて消火に走り回っている。

 

 

「………とんでもねぇな」

 

「クハハハハハ!何だあれ!?なんなんだ!!ハハハハハ!!!」

 

「誰か城に使いを出してくれ。あー、絶対俺怒られる」

 

「怒られてこい」

 

 

建物の周りからは何が起きたのかと人が出てきている。

 

あれ程の力があれば人は集まる。賭場ごと吹っ飛ぶかもしれないなんて言ってたがあの水玉を作るのにフリムは苦もなくいくつも作っていた。冗談じゃなかったようだ。

 

 

 

 

―――――悪くねぇ賭けだ。

 

 

 

 

「決めた。俺はこいつに賭けるからな」

 

「貴族共は簡単には行かねぇぞ」

 

 

バーサーの反対も分かる。それでも、今のよろしく無い状況だからこそ当たった時はデカくなるもんだ。

 

 

「わかってるっての」

 

「ただまぁ―――……反対した俺が言うのも何だがなかなか悪くない賭けかもしれんな」

 

「それと屋上直してから帰れよ?」

 

「………」

 

「返事は?」

 

「……………おう」

 

 




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