水魔法ぐらいしか取り柄がないけど現代知識があれば充分だよね?   作:mono-zo

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第48話 敗北のお披露目通知とマナーレッスン。

 

一週間かけたがリヴァイアス家のセキュリティは突破できなかった。

 

そもそもセキュリティであるからもう誰にも手を出せないような状況の可能性もある。管理者の引き継ぎなんてしてないからね。

 

ただ使えそうなお酒やいくつかの隠し通路は見つけることが出来た。

 

 

「仕方ないですよ。それにフリム様が逃げ込めば誰にもあの屋敷は手を出せませんからこのままでも良いかも知れません。ある意味ではリヴァイアス家の令嬢であると認められた証であります」

 

「そーかなー」

 

「そうですよ」

 

 

セキュリティについては屋敷の地図や中にあったものからあーだこーだと議論が重ねられたがどれもうまく行ってはいない。

 

 

「そういう装置は屋敷の中心部にあるんじゃないか?」

「いやいやウタマイ家ではより美しく歌うことで当主が決まると聞くぞ」

「ここ………やはり当主の部屋になにかあるのでは?」

「やはり厳重な警護というと3階か地下が怪しく思えるのだが」

「えぇい!そちらはフレーミス様が調べたと言っておっただろうが!フレーミス様の言を貴殿は疑うということか!?」

「そ、そういうわけでは」

「糾弾は後にしろ。武器庫の辺りはいかがだろう?騎士家でもないのにここまで広いなど聞いたこともないのだが」

 

 

そのうち鍵がかかっていなくて超高価そうな魔導書や杖や武具がそのまま残っていることがわかったからか………うちに来た中でも欲深そうだった人が何人か死んだ。

 

いつの間にかリヴァイアス家の敷地を流れている水路から死体が上がった。ご近所さんから苦情が入って平謝りである。おかげさまでうちが一枚岩となってないことが貴族社会にばれてしまったがリヴァイアス家の「入れば死ぬ」セキュリティは機能しているという確認だけは出来た。

 

リヴァイアス家を通過していると思っていた水路は水源がリヴァイアス家から出ていることなんかもわかった。

 

 

―――あまり時間をかけすぎてもよろしくはないということでリヴァイアス家のお屋敷は使わずに一番近くのお屋敷でのお披露目がされることが決まった。

 

 

同じ王都にいる人だけではないので1ヶ月前から連絡を入れる必要があるが場所はリヴァイアス家では告知ができない。

 

もしもセキュリティをフリムちゃんが発見して操作できたとしよう。誰でも入れるようになってフリムちゃんに悪意のあるものだけ排除される素敵システムだったりするかもしれない。

 

………しかしその屋敷を使って良いのか?

 

今のところわかっている謎のセキュリティは「血族であるフリムちゃんは入れるが見えないなにかに小突かれる」ことと「不審者は一度壁に阻まれ、その後入れても全員殺されている」の2点だ。あまりにも危険すぎる。

 

 

もしもセキュリティシステムをフリムちゃんが掌握できて「取扱説明書」を見つけたとしても「人が死ぬか死なないか」でしか判別できていないこのシステムに信用はまったくない。

 

なにか一つ間違っていて……「招いた人を皆殺しにしてしまう」ようなものだったらとんでもないことになる。私を支援してくれている人達とお披露目に来た人達が私以外全滅なんてことになれば目も当てられない。

 

ここには信頼できる日本メーカーなんてものは当然無い。製造元のマニュアルも保証もないし、これまでどんなものを作っていたのかなんて言う積み重ねられてきた実績ない。

 

動作性や安全性のチェックを考えると不安すぎるリヴァイアスの屋敷を使うことはどっちにしても出来ないという判断だ………これまでの努力を考えると負けた気がしないでもない。ふぐぅ。

 

 

そんなわけでマナーの授業が入っている。水の魔法が使えるということは自陣の人間には見せることが出来たのだから優先度は下がった。

 

礼儀作法……マナーは国や文化で大分違う。

 

一応敵味方派閥は関係なく人を招待するのだが「貴族本人」「貴族の家族」「代理人」のいずれが来るかで全く意味が違う。

 

日本のビジネスマナーを学んだが会食では一番奥に偉い人を招くとか、ノックは3回2回はトイレだ。用意されたお茶を飲んではいけない。……なんて学んだはずだがそれは正しくもあり間違ってもいる。

 

アメリカとイギリスの知り合いと会ったときにはドアのノックは2回だったし昔は3回こそ正しいと習ったのに、後に別のマナー講習では「3回は正しくなくて4回が正しい」などと言われる始末。

 

マナーにも色々あるが重要そうなものだけは学ばないといけない。

 

私自身が礼儀正しくしているつもりでも「不快にさせる」を通り越して「喧嘩を売る」ようなことだけは無いようにしないと……。

 

 

「本当にそれも礼儀なんですか?」

 

「はい。会場では水はフリム様が出していただいてそれを飲みます。お酒は求められても出してはいけません」

 

「理由は?」

 

「無礼だからです。出されたもの以上を求めるのは無礼ですし、わざわざ家の長が出したものを貶されるわけですから決闘もありえます」

 

「でもお酒出してそれで収まるならそれで良くないのですか?今は周りを刺激したくありません」

 

「………刺激どころか一部の貴族はフリム様を害そうと猛っているものものもいます。ここで弱みを見せてはいけません」

 

「なるほど」

 

 

少し困った顔をしたエール先生。そもそも私は人と争うこと自体が苦手な平和ボケした日本人の一人だ。争う前提で向かってくる人への対処を学ぶのは微妙に拒絶したい気持ちもある。

 

自分では好戦的とは行かないまでもそういう理屈や心構えはあると思っているのだが……やはりこちらの世界では倫理観にズレを感じる。

 

完璧美淑女に見えるエールさんでもスカートの中に杖とナイフを持っているし意識が違う。お風呂で確認した。

 

 

礼儀作法は強敵であった。

 

 

真っ直ぐ歩く歩き方だけでもビシビシ言われるしドレスでの優雅な振り返り方に廊下の角の曲がり方、目下の人間への叱責のやり方、決闘の方法、杖の褒め方、領地貴族と法衣貴族への嫌味と褒め方、喧嘩の売り方にナイフの刺し方………。

 

 

「こう、刺したと同時にグリっと回すのです」

 

「……はい」

 

 

私の考えていた授業内容とは違いすぎる。

 

今は年齢的に身長が合うものがいないためダンスなどもない。お茶会も今のところなし、当主であるから毒の可能性があるお茶会への参加は何があっても断ることが決まっている。

 

エールさんが物騒なのかと思ったが「ナイフの刺し方」なんて親分さんもバーサル様も言っていたように誰でも知ってる常識らしい。所持が許されているナイフがあるから当たり前なのだとか………使う日が来ないと良いんだけど。

 

礼儀作法や振る舞いというものは自分がより美しくより正しくするだけではなく、悪意に気がつけるようになる。想定される悪意の晒され方やよくある毒殺方法、更には反撃の仕方までセットで教えてもらう。

 

 

…………今の私には必要なのかも知れない。いざという時に何も知らないよりは良い。生きるためには必要かもしれないから学ぶが、こんなにも学習意欲がわかないのはなんでだろうか?

 

 

しかし基本的な礼節は同じなのは助かる。名前を間違えてはいけない。領地を間違えてはいけない。家名を間違えてはいけない。派閥を間違えてはいけない。両親を貶めるようなことはしてはいけない。クチャラーは罪。すぐに分かる嘘はついてはいけない。失言は避ける。身体的特徴を揶揄してはいけない。約束を違えてはいけないなど理解できる部分も多い。

 

喧嘩を売る時に誰もいないところで売るか。満座の中で行うかなどの違いとか、王様の前で行う意味とかも教わる。

 

 

「エール先生!そろそろお茶にしましょう!」

 

「わかりました」

 

 

逃げたい訳では無い。ただフリムちゃんが年齢の割りに優秀すぎるからエール先生もマンツーマンで歯止めが効いていない。リヴァイアス家のお屋敷探索も続けているし、マナーの練習もあってヘトヘトだ……しかも休憩を挟まずに次の講師達が来る。

 

バグバル・ マークデンバイヤーは財務に付いてや派閥の懐事情についてを、キエット・マークデンバイヤーは派閥の上手な動かし方と現在反抗的だったり見込みの有りそうな人間についての報告を。バーサル様はミニチュアで各領地の家紋や特産品に付いてを教えてくれる。推定5歳がやるには詰め込み過ぎであるように思う。

 

 

特に戦闘力に乏しいと思われている水属性のフリムちゃんは喧嘩を売られて決闘する可能性もあるから念入りにいろんなパターンの喧嘩の売られ方を教えてもらえる。思ってた礼儀作法に決闘は入ってなかったはずなんだが皆ガッチリ教えてくれる。

 

 

――――結構物騒だし私も少し用意しておくかな。

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

人生、何があるかわからんもんだ。

 

まさか俺が貴族になるなんてな……。息子共は俺が親父に受けたような仕打ちを受けさせまいと思っていたが、何もしなけりゃ何もしないでうまく育ってなかった。

 

ミュードとトルニーはまだマシだが他の息子共は礼儀どころか口の聞き方もなってない。俺には兄貴共がいて兄貴共を見て育ったが運が良かっただけだったのかもな。

 

レルケフとパキスはフリムを害したこともある。残りの三人、アレイとコルコトはまだ商売に携わっているだけあって少し鍛えればぎりぎり使えそうではあるが貴族相手には使えない。ゴッフは何をしていることやら。

 

手元のガキどもは全員教育を受けさせているが……子供に教育なんて必要ないし父親も必要ないと思っていたがなんでこんな事になったんだろうな。

 

 

「ドゥッガ……」

 

「ドゥラッゲン子爵、如何した?」

 

 

こんなに小さな男だっただろうか?こんなに歳をとっていただろうか?土の力を全く使えない俺を何度も叱責して棒で叩き、最後にはこの顔の傷をつけたこのクソ親父は………。

 

出来の良かった兄貴は俺をかばってくれて一緒に立ち向かってくれたが。親父は俺みたいなのがいると足を引っ張ると言って本当に酷い目にあった。

 

バーサーは学校を卒業してすぐに俺を探してくれたし俺の手助けをしてくれた。フォーブの兄貴も騎士団で忙しいだろうに親父をぶん殴ったそうだ。

 

俺ももういい歳だしそろそろ孫も出来るが今でも子供の頃を思い出してしまう。

 

最悪の敵、何度もぶっ殺したくなった相手………。

 

だが―――

 

「糞親父、テメェのことは恨んでもいるしぶっ殺したいがこうなったら付き合いもいるだろう」

 

「………そうか」

 

「チッ、そうかってそれだけかよ」

 

「そうだ。すまなかったな」

 

 

手が出そうになって、思わず少し前に出てしまったが堪える。こいつを殴って、それでどうなる?俺の立場が悪くなるだけだ。

 

親だからこそ、ここまでムカつくなんて思ってなかった。

 

それでも話さないといけない。バーサーや本家と俺は仲が悪いわけじゃないがフリムと俺やバーサーが繋がってる以上、いつかは話し合わなきゃならなかった。

 

 

「で、要件は何だ?」

 

「――――をうちに貰いたい」

 

「はぁ?」

 

 

………………思っていた話とは全然違ったし、意味も分からなかった。

 




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