水魔法ぐらいしか取り柄がないけど現代知識があれば充分だよね?   作:mono-zo

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第66話 学びと研究者たち。

 

新学校生活はなかなか忙しい。案内は終わったがすぐに行きたい講義には行けない。

 

講義の予約には1月ほどかかるそうだ……そもそも在籍している学生の数も多いし、講師側も予定も調整しないといけないのかもしれないな。

 

その間、アーダルム先生の元での勉強をする。この学校は基本的に自由に講義を受けて良いシステムであるが……学校の都合もあるもんね。

 

何千人も在籍してる学生に月に一度の入学と卒業、進学に就職などなど、きっと教務課とか学生支援課とかは大変忙しいことだろう。私達は学校生活に慣れるためにも助かるが。

 

しばらくの間は超基礎的な勉強を一緒にするようでアーダルム先生は「研究に戻りたい」とブツブツ言いながらもちゃんと勉強を教えてくれている。

 

 

―――基礎的な勉強ですら……私には限界ギリギリである。

 

 

「君はとても偏った学び方をしてきたようだね。計算と魔法については既に優秀だが」

 

「商家でお世話になっていたもので」

 

「―――……そうか、まぁここで学んでいくと良い」

 

 

この国には保育園に幼稚園、小学校のようなものは多分無い。だからか個人のレベルにかなり差がある。

 

金勘定をしたことがある従者や商人は計算がそこそこ出来る。しかし全く計算に関わってこなかった人には足し算や引き算どころか数字の書き取りからしている。私はというと計算はこちらの数字で解答しないといけないが基本暗算で出来る。難しくてもアラビア数字で計算し直せばすぐに答えられる。

 

………試験で不正が行われることはあるからか、試験の結果自体が本当に正しいか見極められている気がする。算数の時間、私だけ難しい問題を出されて解いていく。

 

 

「これは高等学校の卒業問題なのだが……フレーミス君は計算に関してはとても素晴らしいね」

 

「ありがとうございます」

 

 

アーダルム先生はどこか私を哀れんでみている気がする。まぁ5歳ほどの女の子が計算完璧ってことは相当商人のもとで勉強していた……いや、「使われていた」と思われているのだろうか?

 

昔の言葉で「十で神童、十五で才子、二十過ぎれば只の人」って言葉があるけど私は推定5歳で安全面から入学、勉強なんてできなくて当然なのに逆に出来すぎて変な目で見られるとは……フリムちゃんも前世ではただの人だったはずなんだけどね。しかし今の私がこの歳でなにかが「ものすごく出来る」と余計特異に見えるのだろう。

 

……いや、私はダメ人間だったな。興味のあることにばかり頭を突っ込んでその分野を調べるのが好きで経済分析なんてことをしていた。

 

人付き合いも興味がなく、お酒も付き合いで飲む程度でタバコもしない。上司には「人生何が楽しいの?」と言われていたが毎日出社して毎日働いて、毎日帰って寝る。その繰り返しで満足していた。

 

周りの流行りがどうとか、結婚がどうとか、出産がどうとか……全く興味がなかったな。偶にふらりと水族館や映画館に行くのは好きだったかな?服も同じようなものを何着も買って着回しているズボラだったし、きっと客観的に見て「何が楽しいのかわからない」と言われても不思議ではない。

 

ただ母さんのご飯が美味しくて、妹たちとテレビを見て、仕事で経済分析して、それがほんの少し楽しくて

 

 

――――あー、母さんたちに会いたいな。

 

 

勝手に出て来そうになる涙を抑えて、勉強に戻る。

 

皆と違って私は「誰でも知っているこちらの常識」を知らない。それと体育のような時間も体格から違うからついていくのがやっとだ。

 

普通に勉強を全くしてこなかった貴族と比べても運動だけはどうしても負ける。

 

私のクラスは推定5歳の私の次が9歳の小柄なリコライ、そして他は全員10歳を超えて最年長は15歳のミリーだ。

 

この年頃の1歳の差は体の成長がとてつもなく違う。美味しいものを食べてそれなりにふっくらしてきたフリムちゃんだがナイスバデーの道はまだまだ遠い。

 

 

私達のグループで貴族組は私以外勉強ができて、残りの皆は勉強があまりできない。

 

リーザリーさんもテルギシアさんは普通に勉強ができるが計算はちょっと苦手そうかな。

 

 

「先生、こういった仕事は配下に任せるものではなくって?」

 

「リーザリー君、税を国に納める時にもしも配下の者が不正をしていれば後に責任を追求されるのは君となる。配下の不正を見抜けなければそれは侮られる要因となる。「計算など必要ないことだ」という貴族は多いが学ぶ機会があるのだから見る目を鍛える良い機会だろう?」

 

「………」

 

「貴族でなくとも計算を学んで損なことはない。日常の買い物でも使えるし、悪しき貴族の不正があれば王城に届け出てやると良い」

 

 

先生の言葉には驚いた。平民階級の人間も学んでいるから革命が起きたりしないのかとかちょっと考えたりもしたけどこうやって平民も学ぶことで貴族の力を削いで国の中で自浄作用があったりするのかな?

 

リーザリーさんはなにか考えていたようだがそのまま計算に戻った。もしかしたら計算自体を良くないものだとでも習っていたのかな?

 

勉強に全く触れて来なかった人にとっては大変だろう。ミリーもそもそも勉強したこともなくペンを持つようなこともなかった。だから1+1のような超簡単な足し算引き算どころか数字の書き取りに苦労している。

 

 

「っ!?また!……はぁ」

 

「ミリー、これ使ってみます?」

 

「良いんですか?」

 

「どうぞ、予備なので」

 

「ありがとうございます!フリム大好き!!」

 

 

ミリーはペキペキと羽根ペンを折ってしまっている。意外と力が強そうだ。筆圧が強いのだろうか?なら、私の動物の角を削ったペン先のほうがまだ書けると思う。文字自体が太くはなるが。

 

思っていた礼儀作法の講義はまだ受けていないが、今は目の前の勉強で精一杯だ。

 

全くやってきていなかった貴族の子弟のように呼び出しや居残り授業を受けることはないがそれでも新しいことを学ぶのは大変だな。

 

 

特に歴史は敵だ。

 

全く知らない地名。全く知らない貴族。全く知らない王様。横文字が頭に全く入らない。田中さん佐藤さん鈴木さん渡辺さん辺りが恋しい。渡辺さんは職場に4人いて困ることもあったけど。

 

 

「ウィーター侯爵家はこうして敗北したわけだな。そして国境線を拡大。『雷鳴』のヴィレセント伯爵率いた精霊部隊によってトライド山脈から奇襲………」

 

 

何となく誰がどうしたのかは分かるが知らない名詞で埋め尽くされるのは覚えきれない。周りの生徒達は知っている話なのかワクワクしているようだが私には全くわからない。覚える気はあるのになかなか難しい。

 

皆が聞き入っているところに私はなんとなくでも要点だけでもメモを取っていく。

 

 

ただ魔法には自信がある。

 

 

「伯爵、火の化け物の魔法が見てみたい」

 

 

テルギシアになにか言われた。ドラゴンファイアーブレスのことだろうか?

 

 

「それよりアダマンタイト製の的を破壊した魔法を説明して欲しい。あの大蛇のような魔法は何だ?」

 

「竜の亜種のようなものです。火の魔法は秘密です」

 

「残念」

 

 

魔法に関してはすでに使えるのなら伸ばす方針らしい。一定以上使える人は指導監督のもとで魔法を使うことになった。苦手だったり使えない人は座学だ。

 

試験会場だったコロシアム形状の練習場。今度は偉そうな魔法使いがいっぱいいる。

 

私とリーザリーさんとテルギシアさんは今回の試験の中ではトップ3の実力だった。他にも数名はこの魔法の授業に来ても良かったのかもしれなかったが、アーダルム指導官によって今回の指導が決まった。

 

 

「えー、集まってくれてありがとう。今回的を入学試験で破壊したフレーミス君………ルカリム伯爵だ」

 

「幼いなぁ」

「ほほう!その杖が噂のリヴァイアス家の反逆の杖かね!?」

「ドゥラッゲンの持ち込んだ杖の元のものだな?……何処にも印はないな」

「ふむふむ、ちょっと採取してもよろしいか?」

「よろしくの、若き賢者よ。『爆炎』の二つ名は聞き及んでおるがこの目で見たい」

「杖の力なのでは?その杖無しでやらせてみてはいかがでしょうか?」

 

周りにいる先生方よりも偉そうな人達。アーダルム先生と同じような高そうなローブを着ている。彼らは一気に詰め寄ってきて色々言われたが正直困惑だ。

 

私自身も髪や目、指先まで観察されている。

 

 

「その、先生?」

 

 

アーダルム先生に助けを求める。

 

 

「彼らは俺と同じ研究者たちだ。フレーミス君の魔法を一目見たいと勝手に集まって来た。同志諸君、杖に触れないように、騎士団が入ろうとしても全員殺されてしまった屋敷から出てきた曰く付きの魔導具だからな」

 

「アーダルム!こんなに近くにあるのに見るだけじゃとな!!?」

「そうよ!こんな興味深いものを前にずるいじゃない!!私もこの子調べたいわ!」

「偏屈研究者が!そんなんだから結果が出ないんじゃないかね!!」

「沼の!こんな面白そうなのに!」

 

 

一応話は通じるようだ。それとアーダルム先生とは仲がいいのか距離が近そうである。

 

 

「じゃあ指導官交代するか?」

 

「………」

「………」

「………」

「ルカリム伯爵、杖無しでの魔法と杖ありでの魔法を見せてもらってもよろしいか?」

 

 

指導官、そんなに嫌なのか?先生は自分で研究をしているって言ってたし、研究から遠ざけられるのは皆嫌なのかもしれない。

 

マイペースなのか、一人はその点に触れずに私の魔法を見せて欲しいと言ってきた。

 

 

「まて、まずは準備だ。リーザリー君、君は的の周りに壁を作りなさい。テルギシア君、君は壁の外で凍傷対策に待機」

 

「わかりましたわ。範囲はどれほどでしょう?」

 

「俺と数人で壁を作るから、ついてきて指示した箇所に魔法を使って欲しい」

 

「はい」

 

 

コクリとうなずいたテルギシアさん。先生についていったリーザリーさん。

 

どれだけ私を危険と思っているのだろうか?壁の範囲が以前よりも広い。観客席には興味があるのか人も見に来ているし……。

 

ずっと座学で肩が凝っている気もしていたしちょっと魔法を使うのは気分転換になる。………エール先生も!自重しますって!?

 




ひょ……コ……自重しますって。
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