水魔法ぐらいしか取り柄がないけど現代知識があれば充分だよね?   作:mono-zo

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第71話 問題児参入。

 

「しっかり掴まってください、時間もありません」

 

「はい」

 

 

学園内に侵入した私へのお客様、もとい不逞の輩は秘密裏に引き取ることが決定した。きっとキエットやドゥッガが厳しく調べてくれるだろう。

 

鐘の音で授業が終わったことを知り、今度は何故かエール先生に抱き抱えられて高速移動をしている。クラルス先生に抱き抱えられた時に視線を感じたし……実は抱きかかえてみたかったのかな?

 

エール先生は弾丸のようにものすごい速さで移動し……あっという間についた。

 

降ろされるとなんとなく人肌の暖かさが心地よかったのにと謎に寂しくもなる。移動中は「ひとってこんなにはやくいどーできるのかー」とぼうっとしていたのだが、揺れすら感じることもなく教室の前についてしまった。

 

アーダルム先生が教室のすぐ前の廊下にいた。

 

 

「大丈夫だったか?」

 

「お気遣いをありがとうございます。彼らはうちで引き取ることにしました」

 

「そうか」

 

 

多分「ぶっ放しても構わん」というのは不審な輩がいたらということだったのかもしれないな。

 

それはそれとしてもうすぐまた鐘がなるはず、一緒に教室に入る。

 

 

「だからあんたの席じゃないって言ってんでしょうが!」

 

「ふん!何を言っているのだか?この席は教室で一等良い席である!ならばこの俺にこそふさわしいに決まってるじゃあないか!――――……ふっ、やれやれ、そんなこともわからんとは」

 

 

丸い、緑の髪の凄く太った少年。凄い太っている。服は何か大量のレースがフリフリしている。

 

教室は彼を中心になにかもめているようだが……彼の顔はまだ見たことがない。2週間と少しだけど彼のような特徴的な人を忘れるわけがない。

 

同期ではないのなら先輩なのかな?

 

 

「そもそもあんたは何処の誰よ!」

 

「人に名乗らせようとは……礼儀を知らないのかね?いや………ふっ、これが男の嗜みか、美しきタロースの令嬢よ。俺はモーモス・ユージリ・バーバクガス・ゴカッツ・ニンニーグ・ボーレーアス。北西に領地を持つ誉れあるボーレーアス本家長子である。お見知りおきを――――麗しの花よ」

 

 

名前の長いモーモスにんにく?くんは仰々しくリーザリーさんに手を差し出して頭を下げた。

 

手の甲にキスではなく握手の体勢だ。太ってはいるものの一目で見て分かる美しく完璧な所作だ。礼儀として手を取るぐらいならあるはずだが、私が教室に帰って来る前に二人にはなにかあったのだろうか?……リーザリーはその手を取ることはなかった。

 

 

「ふん、私はタロース……リーザリー・ローガ・レンジ・タロースよ、覚えておきなさい」

 

「ふっ、なるほどな……リーザリー、君こそがこの俺の最大の好敵手か、よかろう。隣の席に座ることを許す」

 

「そもそもそこは貴方の席じゃないって言ってるのです!もう!」

 

 

何だかもめている。彼が座ろうとしている席は私の席だったはずけど私の席じゃなかったのかな?

 

なにを問題に言い争っているのだろうか?

 

 

「あー……モーモス君、君は前に来なさい。……今のうちに席に」

 

「はい」

 

「お前、そこは俺の席だ。どけ、ちび」

 

「いやここ私の席なので」

 

 

席から立ち上がって前に出ようとするモーモス・にんにくを避けて座るとどけと言われた。

 

一応アーダルム先生を見る。

 

 

「そこはフレーミス君の席だ。それよりも君が遅れた訳を話しなさい。この教室の皆にもわかるように」

 

「なるほど、俺はモーモス・ユージリ・バーバクガス・ゴカッツ・ニンニーグ・ボーレーアス。先生は何処の家の方で?」

 

「アーダルムだ。家名はない」

 

「何だ平民か。……俺はモーモス・ユージリ・バーバクガス・ゴカッツ・ニンニーグ・ボーレーアス!風のボーレーアス家長子である。この身から溢れ出る貴さから恐縮してしまうかもしれないが気兼ねなく話すが良い!!」

 

 

モーモスなんとかボーレーアスか……名前が長い。

 

彼はものすごい自信家のようだ。しかしどう見ても試験の時にいたような子には見えない。

 

袖のひらひらレースは膝まであるし、全身鳥の羽根のようにレースまみれである。こんな特徴的な子を見逃したりはしないはずなのだが……。

 

 

「それで、入学が遅れた理由は?」

 

「おっと、拍手がないと思ったらそういうことか、俺は試験後領地に戻ってボーレ―アスの精霊を祀らねばならなかったからな……。ふっ、仕事があるがゆえ、入学が遅れてしまったのだ。許せ」

 

 

アーダルム先生もだけど教室の全員がなにか疲れている。

 

ちょっと変わった子だけどどうかしたのだろうか?

 

 

「それでアーダルム、俺の席はあそこだと思うのだが違うのかね?」

 

「………………今期の試験で魔法において一番の成績のものが中央前の席という伝統だな。今回はフレーミス君、君は前回だろう?1月半も入学が遅れたのだから」

 

「なるほど?では何処に行けば良い?」

 

「フレーミス君、任せた。すぐに授業を始める。モーモス君、席につくように」

 

 

ゴーンゴーンと授業の鐘が鳴る。

 

「―――……様だろうが、まぁいい、何処に座ればいい?」

 

「ではリコライ。すこしつめてもらえます?」

 

「は、ハい!」

 

 

猫背でいつもオドオドしているリコライだけどなかなか治らないようだ。

 

この教室の席は四人がけだ。私達の席は右からミリー、私、リーザリー、テルギシアの順で後ろの階段の上の席がリコライ、ダーマ、ミキキシカとなっている。階段があるから私の杖が大きくて後ろの席から前が見えないということもない。そもそも4人がけの席なのだからそこに一人増えても問題はないはずだ。

 

 

「いやいや、貴族であれば前の席が当たり前だろう?」

 

「そう言われても、この席は学校側が決めたものです。空いている席に行くのは当たり前ではないでしょうか?」

 

 

他の教室では切り株のような丸い机でグループで授業ということもあるがここは指定された席だ。

 

 

「授業が始められない。君一人のために全員が授業が開始出来ないでいる。話は授業後にしなさい」

 

 

モーモス君は憎々しげにアーダルム先生を見たが、他の生徒を一瞥してからドスドスと階段を上がった

 

丸い体に服全体がレースが付いていて何だか面白い見た目だが不機嫌さが隠しきれていない。

 

まぁ私は大人の女だし、拷問なんてものを見た後なので可愛く見えるぐらいだ。

 

 

――――そう思ったのはほんの僅かな時間だった。

 

 

「リコライだったな?君は何処の家のものだ?」

 

「ぼ、ぼカァ平民、デす!」

 

「何だ平民か。この教室について教えろ」

 

 

後ろの話し声が聞こえる。

 

アーダルム先生の声を邪魔するかどうかと言うぐらいである。アーダルム先生の表情も曇っているが注意はしない。そんなに風のボーレーアスはビッグネームなのかそれとも注意するほどの音量ではないのか。

 

 

「なに?つまり、ルカリムなのか、あのちびは?」

 

「なんだ、出来たばかりのルカリム?何だ、分家か……」

 

「勉強?この程度もわからんのか?俺はとっくに学んだ後だ。聞く必要もない」

 

「ふん、あの歳で魔法は強いのはそこの杖のせいか、実力でもないのか」

 

 

授業を聞きたいのに、嫌でも聞こえてくる話し声。こういうマナー違反はやはり嫌なものだ。

 

リコライは抑えた声で何を言ってるかわからないがモーモスの声は大きい。アーダルム先生の声を微妙に邪魔するかなぐらい。

 

アーダルム先生も気がついているようだが、それ以上大きな声にもならず授業は終わった。

 

 

「ルカリム家のフレーミスだったな?その席を俺に譲るべきだろう?」

 

 

迷惑な人だなと思っていたし絡まれたくはなかったが授業が終わってすぐに絡まれた。

 

 

「いやです」

 

「ならここは貴族らしく魔法で決めないか?」

 

「面倒です」

 

「ならさっさと席を譲るが良い。そこはこの俺にこそふさわしい」

 

「アーダルム先生、この学園ではこういうときどうすればいいでしょうか?」

 

 

フリムちゃんは席なんてどうでもいいのだが……こうも言われると嫌だと返したくなる。

 

面倒事はゴメンだと言わんばかりのアーダルム先生は教室から出ていこうとしていたが呼び止めた。

 

 

「教師が決めることもあるが……良いんじゃないか?魔法の力比べや決闘で決めることもある。二人は素晴らしい魔法もあるわけだしな。それとも挑まれて受けないのか?」

 

 

挑まれて受けないのか……侮られるのも確かに良くない。舐められれば危険が舞い込むことがある。

 

この国にはSNSもテレビも新聞も無い。情報の伝達は人から人が基本。噂には背びれに胸びれ、尾びれまでつく。

 

しかし、だからといって、この丸っこい子に怪我させるのもな。

 

 

「わかりました。でも怪我させちゃいますよ?」

 

「ふふっ、水ごときが風の寵愛を受けたこの俺に怪我?はははは!杖に頼って合格した小娘が?!はっはっは「ぶちのめしますよ?」

 

「ふはははっ、やれるものならやってみるが良い!アーダルム!決闘だ!!」

 

 

私が笑われたという事実を消すためにも強い言葉で止めようとしたのだけどそのまま笑われた。

 

 

「いいだろう。フレーミス君の座席をかけての決闘だな……3日後、修練の時間にやりなさい。それまでは二人は争いを起こすこともなく静かに正々堂々と過ごすこと」

 

 

微妙にアーダルム先生からモーモスに注意されている気もするがモーモスは全く気がついていない。

 

 

「ふふ、せいぜいその杖を磨いておくが良い。この教室は高貴なる『旋風』のモーモスが率いるのがふさわしいだろう」

 

「言葉ではなく実力で示してくださいね」

 

 

アーダルム先生からも口では言わないが視線が「やってしまえ」と言っている気がするが?

 

怪我させないように決闘する方法って何かあるかな。

 




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