水魔法ぐらいしか取り柄がないけど現代知識があれば充分だよね?   作:mono-zo

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第73話 若者を更生させるための決闘。

 

刃物というあまりにも恐ろしい攻撃に……驚きのあまり障壁を動かして飛んできた以上の勢いで弾きとばしてしまった。

 

体が丸いからか3回転4回転と縦に転がってしまった。

 

 

彼から遠く離れた刃物。失念していたがこの国では誰でも持つ最終兵器だった……すごくびっくりした。

 

ナイフは手放しても杖は手放していなかった。よろよろと起き上がってくる彼の足元と左右に合計三発、当てないように水槍を放つ。

 

地面を削って……ちょっと予想以上の威力。

 

土砂にまみれてまた倒れたモーモス。

 

それでも立ち上がってこちらを睨んでくる。彼は魔法を使うまでに発動までに時間があるようだ。

 

 

「まだ続けますか?」

 

 

ほんの少しだけ穴を開けて問いかける。

 

 

「当たり前だ!!!<風よ――

 

 

すぐに障壁を張り直す。彼に出来るのは風を放つことと高速移動のようだ。

 

風をまとって速く移動できるということは武器での攻撃も有効だと考えておくべきだった。

 

 

――――となれば彼が試していないのは……接近しての最大火力、もしくは私の知らないなにかだ。

 

今までの彼の攻撃で、私が傷つくものは一つもない。

 

彼にとっては私の防御魔法を取り払わないとそもそも何をやっても勝てない。

 

 

砂埃が大きく舞い、彼を中心に風が渦巻き―――……私の防御魔法にぶつかった。

 

 

バチャバチャと表面が少し削れる。

 

風の強さが左から右に……彼を中心にうねるように回転して近づいてくる。

 

一度きりの衝撃ではなく風が不規則に当たり続け……更に砂を利用しているのか水に強制的に不純物が含まれてしまって操作がしにくい。

 

だけどこれなら耐えきれる。水は生成すれば良いし、彼が魔力切れとなればそれで勝ちだ。

 

 

 

―――……そんな勝ち方ではいけない。

 

 

 

使いにくくなった水をまとめて彼の頭上にまとめて落とす。

 

私の防御魔法は五層、一層削れたと思って少し希望が見えたような彼に水をかける。

 

上からかけただけ、しかし砂の混じった水が目に入ったのか悶えている。

 

 

「杖なしでもこの距離なら私の魔法も届くんだよ?」

 

 

聞こえてはいないだろうがつい言ってしまった。―――そして、水の腕で足を掴む。

 

以前から水で物を取ったりは出来ていた。近くのものにしか使えないがそれでもこの距離であれば十分届く。

 

 

「   !   !!!    !!    」

 

 

彼ごと私の周りをブンブン振り回したが杖は手放さない、か。

 

諦めたかな?……ドロドロの彼を障壁のすぐ前に吊るすと魔法を使ってきた。放たれた風が彼を掴んだ水の腕に当たって揺らぎ、彼は地面に落ちた。

 

 

杖を手放させて、仕切り直し、また同じように何度でも……と考えたがなかなかしぶとい。落ちるときでさえ杖を手放さず、肘から落ちていた。

 

 

―――なら、プランBだ。幾つか考えていた心を折る方法を取ろう。そのまま両手両足を4本の腕で地面に押さえつけ、防御魔法を解除する。

 

 

 

「はぁっ………はぁっば、ば、馬鹿め<風よ、優美にしてぜウボボォっ?!!!

 

 

まだ戦意は残っているようだ。口に5本目の水の腕を入れる。

 

魔法の勉強で学んだ。この国の魔法は雑でも発動する。しかし、無詠唱で魔法を使えるのは「高位の術者」や「精霊と契約している人間」ぐらいで通常の魔法使いは喉に魔力を込めて詠唱しなければならないし指先のその先にまで魔力を通す必要がある。

 

私が特異に見られているのはわかっている。なら学園の生徒、しかも入りたての人間が無詠唱での魔法を使えるとは思えない。

 

 

「モーモス、普段の君の行いは目に余ります。皆が君を嫌だと思うほどのものです。わかっているかな?」

 

 

「ウボガァッ!!?」

 

「………」

 

 

質問に答えられないか。塞いだ口だけはやめてあげる。

 

ついでに飲んでしまっている水を吐き出させるために地面に押さえつけるのはやめて、両手両足を持って空中に吊るす。

 

 

「けへっオブェッ……はぁ、はぁ……俺の……何処が間違っている。うぶっ!」

 

「学園生徒としてのあり方、人としての礼儀、平民だからという差別、食堂での立ち振舞い、授業の妨害、先生への無礼……それから――――

「両者そのまま!フレーミス君、これ以上続ける意味はあるのか!?」

 

 

詠唱できないように口を一度閉じさせる。まだまだ言いたいことはあったのだがインフー先生に止められた。

 

審判としては止めるか微妙なところだろう。敗北の条件は「降参する」と宣言するか、杖を自ら投げ捨てる。もしくは戦闘不能状態であるとインフー先生が判断したときだ。

 

私は彼から杖を奪っても勝利にはならないが……インフー先生はもう止めたいみたいだ。戦闘不能と見られるかもしれない、叩き落とすのはやめておこう。

 

 

「この決闘は私の名誉のためでもありますが、私達の教室をより良くするため………それに彼の成長のためでもあります」

 

「……そうか、止めてすまなかった。しかし危険と判断したら止めるからな」

 

 

インフー先生が数歩離れた。続行してもいいということだろう。

 

 

「……モーモス君、私は君を痛めつけたいわけではないのです。君はきっとこれまで色んな経験をして、その常識を信じて振る舞ってきてるんだよね?だけどこの学校では君のやり方は間違っている。そこはわかってる?」

 

「お、俺が、間違っている……だと?」

 

「気がついてなかった?貴方にも侍従がいるんだから気が付かないわけ無いですよね?」

 

「え……あ………」

 

 

ボロボロのモーモスだが少し混乱しているようだ。傲慢な振る舞いをあれだけ注意されていたはずなのに耳に入ってなかったのかな?

 

 

「仮に気が付かなかったとしても貴方の発言で周りの皆が迷惑していたのは貴方自身が気が付かないといけないことです。この学園は貴方の実家ではなく、学園です」

 

「…………」

 

「貴族も平民も学ぶ場所、勿論私も学んでいます。貴方は好きな授業だけ出ていますがそれでは貴方は既に知ってる知識しか学べない。それじゃあここで学ぶことはない。来る必要もありません。授業中に話す貴方はとても邪魔です」

 

「お、俺は、俺が邪魔……で、でも俺が話すのになんでそれが、邪魔??」

 

 

私は彼を叩き潰そうと思っていたわけではない。彼は嫌なやつだが―――それだけではない。

 

彼の、モーモスの振る舞いには努力の面影が見られた。

 

たしかに傲慢であるし平民を使おうとしていた。声も大きく、尊大な態度だ。しかし、きっと彼の受けた教育ではそれが当たり前で、これまでの彼を取り巻く環境ではそれが正しかったのだろう。

 

貴族も平民も、大人も子供も、研究者や騎士も同じ空間で差別もなく居られる場所はこの国でここしかない。「力持つ平民の賢者」がいるなんて思ってもいないのだ。

 

 

環境が人を作るとしたら、彼の中でそれが当然だったのなら?―――まだ治せるかもしれない。

 

 

彼は料理を食べる時、有料の料理を食べた後に食べ残しを平民に渡す。

 

それは「下げ渡し」という貴族的な行為らしい。私のお金でやるあたり微妙だがそれだって貴族的な考えでは「下位の者が気兼ねなく行うことで懐が深く見える」ともとれるとエール先生は教えてくれた。そこまで考えてはいないと思うけどね。

 

ステーキがあったとすれば一人一枚で充分なステーキを一人で4枚をとって、そのうち3枚食べて残り1枚をリコライに渡していた。

 

「肉ばかり食べるな」「値段ではなく栄養バランスを考えろ」「人数分を考えろ」とか「私のお金から出てるんだぞ」とか言いたいところだ。ただ、食べかけの歯型の残るような肉を渡してはいなかった。

 

リコライは彼に気に入られたのか彼の質問に緊張しながらも誠実に答えていたがそれに対して言葉は悪くても暴力や魔法を使うことはなかった。

 

勉強にしたってリーザリーさんやテルギシアさんが苦労している勉強でも全く苦労していない。それは、それだけの勉強をしていたということになる。

 

 

決闘の前に階段から転けそうになった彼の首筋、首のレースがずれて薄っすらと傷の痕が見れた。

 

 

貴族は教育のために背や腕を叩かれるそうだが―――きっとそういうことなんだと思う。

 

 

好きなものを好き放題食べる。人の迷惑を考えない。平民を差別する。私をちび呼ばわりする。それとは別にいつでも背筋は正しているし、食事のマナーは完璧、勉強も算数以外はほぼ完璧。―――きっと彼なりの努力があったはずだ。

 

 

努力できる人間である。それでもここでの常識や振る舞い方を知らないだけなのかもしれない。

 

私がやったんだが既にボロボロの彼もまだ10歳ほど。更生の機会はあるはずだ。

 

 

「貴方にも貴方なりの努力があったのでしょう」

 

「お、お前に俺の何が分かる!!?

 

「勉強も礼儀も出来ているのはそれなりの努力をしたのでしょう。しかし、ここでの貴方の振る舞いは間違っているものも多くあります。ここは学び舎です、一緒に学びませんか?」

 

「――――……俺はお前を利用して目立とうとしていたのにか?」

 

「はい、それとも勝者の言に従えませんか?」

 

「いや、まだ俺は……」

 

 

水龍を三体、彼の目の前を漂わせてみた。

 

 

「――――いや、参った。降参する」

 

「勝者!フレーミス・タナナ・レーム・ルカリム!!」

 

 

杖を離して降参を宣言したモーモス。あれだけ傲慢で、怒り狂っていたはずなのに、もう私を見下すような嫌な表情はなく、何処か晴れやかだ。

 

 

「これから導いてくれますか?フレーミス様」

 

「………まずは駄目なところを、貴方が成長できる部分を皆から真摯に聞きなさい、そこからです」

 

「わかりました」

 

 

水や砂がレースの至る所に付いた彼はとても汚れているが、何処か子供っぽさがでてきている気がする。

 

リーザリーたちが来て……聞いていたのかすぐにこれまでの悪行への説教が始まった。

 

 

「ここは学校で皆学ぼうとしてるんだから喋って人の邪魔しない!うるさくて聞こえない時があるのよ!!」

 

「わかった」

 

「汗臭い!お風呂入りなさい!!」

 

「うっ……わ、わかった」

 

「先生は賢者よ!ちゃんと敬って―――

 

リーザリーにボロクソにこき下ろされている彼だがそれでも一つ一つ聞いている。

 

―――きっと彼は大丈夫だろう。学び方を知っていて、人の言葉に耳を傾ける事ができている。

 

パキスは学び方を知らず、学ぼうという意欲もなく、人の話を聞かない。彼は私にはどうしようもなかったが……今はどうしているのだろうか?彼も10歳ぐらいかな?モーモスと同じぐらいだし、更生していてほしいが。

 

やはり、フリムちゃんはフリムの幼い頃の知識も少しはあるが現代日本の成人女性の意識もある。子供に囲まれていると大人としてなのか少しは心配してしまうな。

 

 

「フリムは容赦ないね?」

 

「ほんと、伯爵は怖い」

 

「え”っ?!!」

 

 

ミリーとテルギシアに一言言われてしまった。できるだけ怪我させないようにしたはずなのになんでぇ!!!??

 




書籍やコミックまで見てくれるってぇ!?
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