水魔法ぐらいしか取り柄がないけど現代知識があれば充分だよね?   作:mono-zo

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第76話 モーモスの選択。

 

「モーモス君、君はついてきなさい。確認したいこともあるからね」

 

「わかりました」

 

 

インフー先生はモーモスを連れてリグ……侍従さんを尋問しに行って話は終わった。

 

モーモスはやはり不安そうだ。10歳ほどで自分が狙われたか自分が捨て駒にされた可能性まであるのだ。

 

 

「モーモス、気を強く持ちなさい。私は味方です」

 

「……っ!」

 

 

なにか私に言いたかったようだが言葉にならなかったようだ。

 

彼自身は何も命令されていなかったのだと思う。

 

彼が素直に家に帰っても殺されることはあり得る。しかも、モーモスの決闘騒動と侍従の意味不明な行動に関連性があるのかもわからないと言うのに「私へのご機嫌取り」のためにそうなっては――――……あまりにも寝覚めが悪すぎる。

 

 

「実家とどうするかはあなた次第ですが、帰りたくないなら帰らなくても私が支援することを約束します。勿論私についてくるのなら、ですけどね」

 

「………ありがとう、ございます」

 

「貴方の人生は貴方自身のものです。どう決断するかは貴方次第です。………インフー先生、後は任せてもいいですか?」

 

「あぁ――…君は、君も子供なのにとても寛容なんだね」

 

「子供には未来があります。出来る範囲であれば手助けするべきだと思っています」

 

 

 

―――絶対に助ける。そう言えないのが辛い。

 

 

彼が両親をどう思っているかはわからない。手は差し伸べたが……もしも私の敵として私の情報を流したり、私を攻撃するようなら――――決闘と違って今度は容赦なく潰さないといけない。

 

出来ることはやった。これ以上は私にはどうしようもないことだ。

 

……そうわかってはいても彼の事を知ってしまって、そのもしものことを考えれば心苦しくなってしまう。

 

 

「本当に子供か疑わしいほどだな、まるで私のほうが子供のようだ。―――すまない、賢者フリム。どうなるかは彼次第だが彼のために力を尽くす事を杖に誓おう」

 

「……それでは失礼します」

 

 

もしも彼が私に杖を向けたら、今度は戦えるだろうか?

 

情が湧いてしまっている。なのに「自分のために子供を叩き潰す必要性」……そんな想像もしてしまって、吐き気がする。

 

 

「行きましょ。フリムちゃん」

 

「わっ」

 

 

考えているとクラルス先生に抱き抱えられた。そのまま抱えて行ってくれるようで歩き始めたが……。

 

 

「嫌な話ばかり、大人の事情なのにね」

 

「そうも言ってられません。私を狙っていたのかもしれませんし」

 

 

クラルス先生も苦い顔をしてこちらを見てくる。

 

そのまま頬に手を当てられた。

 

 

「……貴女もまだ子供なのにね。私達もできるだけ助けようとは思うけどローブに隠しきれないこともあるわ。―――油断せずにちゃんと生きなさい」

 

 

言いながら、なおも悲しそうな顔のクラルス先生。

 

もしも逆の立場なら私も同じように思うかもしれないな。

 

 

「―――もっと優しいことを言ってあげたかったのだけど、ごめんなさいね?」

 

「いえ、事実ですから」

 

「どうせだからちょっと面白いもの見せてあげるわ。エール、やっぱり向こうから出るわ」

 

「わかりました、良い考えかと」

 

「向こうになにかあるんですか?」

 

 

踵を返して別の道を行き始めたクラルス先生、向こうになにかあるのかな?

 

 

「ここが地下なのは火の研究者に火はつきものだからでね。全部水で流せるようになってるのよ」

 

「え?あ、はい?」

 

 

少し天井をチラリと見てからいたずらっぽく笑みを浮かばせたクラルス先生。

 

 

「部屋やこの廊下も、いざというときは水は上から落ちて来る。そして流れた先にあるのが―――ここよ」

 

 

なにかの防火システムが有るのだろうと天井を見ていると天井のぽっかり開いている、すり鉢のような行き止まりについた。規模は小さいが鉱山の露天掘りのようにも見える。

 

段差を降りて一番底を見るとなにか紋章……?魔法陣らしきものが設置されている。

 

地下にある施設で火災の発生時に水がどうというのはなんとなくなにかの防火システムということがわかるがこれはなんだろうか?研究物をどうにか消火して、更にここに水が集まると………重いものも一緒に流れてくると人は危なくないかな?

 

 

「水と研究者はここに流れ着いて……あの陣で人は逃げることが出来るの」

 

「何処にですか?」

 

「上に、ねっ!!」

 

 

魔法陣に向かってダッシュしたクラルス先生。すり鉢の底までは10メートルはあるだろうか?衝撃に備えてクラルス先生の服を掴んでギュッと体を丸めると――――その印を彼女が踏み、一気に体が浮き上がった。

 

 

「おぉ!?」

 

「緊急用だからあまり使っちゃ駄目なんだけどね」

 

「い、良いんですか?!」

 

「生徒はダメね。まぁ便利だから使う生徒もいっぱいいるけど」

 

 

ちらりとエール先生を見るクラルス先生。

 

それよりも私は怖くて仕方ない。命綱無しで地下から一気にビル数階の高さだ。

 

別の研究棟、塔のような高さのそれよりは位置は低いが、それでも何もなしで落ちれば死んでしまいそうだ。広大な学園を見渡せるし、安全とわかっていれば楽しいのかもしれないけど怖い。

 

「学園が一望できるし、面白いんだけどね……インフーといえばあそこの建物にもよくインフーはいるわよ」

 

「何の建物ですか?」

 

「孤児院ね。この学園には政治的に出られなくなった子もいっぱいいるから……。インフーは正直研究者としてはこの学園一駄目なんだけど子供好きでね。この学校で育った子たちもそこそこ大きくなってきてるし、あんなのでも慕われてるのよ」

 

 

そう言えば私とモーモスとの決闘でも気にかけてくれたのは私が子供だからなのだろうか?

 

研究者としては評価されていないようだが……。いや、それにしても孤児院まであるとは、この学園は広いな。

 

 

「子供が好きなんですね」

 

「そうなのよ。地方から来る横暴な貴族の子弟の矯正もあそこでやっててね。あの無駄な研究は趣味みたいなものよ。人には向き不向きがあるっていうのに……変わり者よね」

 

 

インフー先生への愚痴は酷い。

 

学園内で産まれて外に出られない子供たちはあの建物で育つらしい。インフー先生はそのような子供を育て、学園内に来る不審人物を排除し、貴族の子弟を矯正する。そしておまけに研究もしている……と。

 

他の研究者は研究費用を自ら稼いだり、支給されるために必死に成果を出している。なのにインフー先生は「研究の成果」ではなく「学園に対して別の形で貢献」することによって研究資金をもぎ取って…………そのお金で毎回成果の出ない駄目な研究をしている。だから一言も言いたくなるとグチグチ言われた。ちなみに研究棟も既に6回も燃やしたそうだ。

 

 

「じゃあユース老先生は?」

 

「あの爺?そうね。研究を研究している……いえ、研究の結果を実証するのが好きな実力派の嫌われ者よ。『過去』なんて二つ名で呼ばれてたりもするわ。裏で自分の研究してるみたいだけどね」

 

 

ユース老先生は古今東西の研究結果を「それがあっているのか」を自分の手で検証しているようだ。

 

研究者が「こういう結果があるんですよ」と発表するとユース老先生が首を突っ込んで「そのデータは正しいのか」と調べたりもする。

 

故に一部の学者からは蛇蝎のごとく嫌われているのだと。研究結果を調べられ、間違っていればその研究者の面目は丸つぶれだ。

 

正しくても間違っていても公表する。この学園内のご意見番でもあるそうだ。

 

良い人材だと思う。研究結果はできる限り同じ条件や同じ機材を使うが結果がばらつくのはよくあることだ。数学じゃないんだから必ず同じ結果になるとは限らないが……研究データの積み重ねとなるはず。

 

過去の資料や研究の裏付けを好んでするなんて珍しい。自分の研究というのが何をやっているのか気になるところだ。

 

 

「暇になったらいつでもおいでなさい。―――あ、いやこれから忙しくなるのか」

 

 

 

―――ん?学業のことかな?

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

その日の内に、私の住む高位貴族用の女子寮にモーモスは来た。

 

 

「俺はルカリム伯爵閣下にこれまで無礼を働いてきました。そんな俺が世話になっても本当に良いのでしょうか?」

 

「もちろんです。ただ、立場上貴方が敵対するのなら容赦はできないです」

 

「………」

 

 

厳しいことを言ってしまって胸が痛い。

 

彼からすればこれまで育った環境、親や友人達との決別になるかもしれない。

 

それでも、甘くは出来ない。

 

 

「これまでどんな待遇を受けてきたのかは知りません。……しかし、我が家は人手不足、有能な魔法使いの受け入れはしているのですよ」

 

 

出来ればこの子と敵対したくはない。威厳は保ちつつも勧誘しよう。

 

うちでいつか将来のために「保護」という形にも出来るが、どうせならこの子のためにも学校に残らせて将来の選択肢が増えるようにしてあげたい。

 

 

「私は部下を、仲間となったものを出来得る限り護ります。モーモス、貴方がうちに来るというのなら部下として、仲間として遇しましょう」

 

「では、今後この身は伯爵閣下の物。存分にお使い、くださいマッ、せ……!!」

 

 

膝をついて頭を下げたモーモス。

 

実家との決別は……苦しいものだろう。涙が落ちるのが見える。

 

 

「ありがとう。でもね、モーモス。私は物ではなく仲間と言ったのよ?貴方は物じゃない」

 

「そんな、俺、いや、私にそんな勿体ない………」

 

「手を取って立ち上がらせたいところですが、私の小さな手では私が転けてしまいますね。魔法で立ち上がらせられる前に立ちなさい」

 

「これからよろしくお願いしま…す!」

 

 

袖で強引に涙を拭ったモーモス。

 

実家に戻ると危険かもしれないし、うちから侍従を出すことにしよう。

 

脳裏で「これで風魔法を使える男の子と、もう一人私の近くに付けられる」なんて一瞬で考えに至ってしまう。モーモスの気持ちなど無視してこういうことを計算してしまう自分にも、こんな事になるしかなかった世の中にも嫌気が差す。

 

 

そんなわけでうちから臨時で一人出すことになった

 

彼にはミュードがつけられた。よくわからないがドゥラッゲンがどうのと言っていたし政治の匂いがする……まぁ、いいけどね。

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

色々あったが学生にとって1ヶ月なんてあっという間だった。

 

何度か氷室に氷を補充しに戻り、ユース老先生の研究を見に行きたかったが今は別の仕事で忙しいようで会えなかった。クラルス先生には水をたくさん売った。

 

学校の授業はなかなかに難しいがやりがいはある。放課後に補講でアーダルム先生に教えてもらう。

 

モーモスはアーダルム先生がなにか言ったのか、インフー先生の傲慢な貴族子弟矯正コースに足繁く通っているようだ。

 

 

「大丈夫ですか?」

 

「過去の自分はあれほど酷かったのかと……見るに耐えないですね」

 

 

王都近辺の貴族子弟は身分差をよくわかっているが地方領主はの中には「精霊に認められたのは我ら一族こそ、この地の王である」などとして奢り高ぶっている者が一定数いるらしい。

 

モーモスの話によるとそんな地方領主のもとで育った人は……モーモスが可愛く見えるほどに傲慢であるようだ。

 

彼らは「平民なんて好きに奴隷にしてしまえばいい」とかインフー先生に向かって「金で卒業させろ」と言ったり、通行人への魔法攻撃を遊びで行ったり……なんて輩もいるらしい。賊かな?

 

モーモスはまだマシな方だからインフー先生の矯正教室に送られなかったけど微妙なラインだったから普通に授業は受けていた。今では補講の時間に自主的に参加している。

 

本当に酷い子は……牢獄のような生活をしているようだ。

 

 

「まぁ水でも飲んで疲れを癒やすと良いです」

 

「―――ありがとうございます」

 

 

ま、まぁ、学ぶものがあるのならそれで良いんじゃないかな?

 

彼にとって私のもとに来るという選択肢が正しいかはまだわからない。

 

それでも、できれば彼の未来に幸あればと……お姉さんとして祈ってしまう。私のほうが年下のはずなんだけどな。

 




悪魔「3つの願いを叶えてやろう、お前の魂と引き換えにな」

僕「1つ目の願いは『作家として嬉しいもの(評価・感想・FA・レビュー・推薦・書籍化コミカライズアニメ化グッズ化実写映画化ゲーム化パチスロ化・読者の幸福・印税・支援物資・自作品のコスプレ画像などなど)全部おくれ』、2つ目は『悪魔さんの消滅』で」
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