水魔法ぐらいしか取り柄がないけど現代知識があれば充分だよね?   作:mono-zo

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第9話 貴族と護衛と奴隷のローガン。

 

「あの人達は服が違いますね」

 

「あ?あー……貴族の連れてきてる奴隷だな」

 

「なるほど」

 

 

ここのボロい服を着た奴隷よりも数段マシな服を着ている。酔ったモルガさんに聞いてみるとここの奴隷だけではなく借金で連れてこられたり、度胸試しに出てくる人や金稼ぎのために戦う人もいるらしい。

 

 

「ほら、あーいうのは特別なやつだから覚えておくと良い」

 

 

見るからに平民の服を着ているが兜で頭が見えない……微妙になにか違う気もするが………なんだろうか?

 

 

「あれは多分金が無い貴族か腕試しで来たようなやつだろ、良く見りゃ汗で汚れてないし爪や首がきれいなもんだろ?」

 

「おー、モルガさんは見る目がありますね!」

 

「だろぉ?おーい酒2杯!」

 

 

観察を続けてわかったことも多い。基本は奴隷が闘うし、うちの奴隷が多いが奴隷商人や貴族が配下を戦わせに来たりもしている。

 

勝てば引っ込むものもいるが客席に上がってきて酒を飲まされるものもいる。負ければ食べ残しや骨を投げられたり罵声を浴びせられる。もしくは死ぬ。

 

 

――――気持ち悪さでまだ胃が気持ち悪い。

 

 

「あの、奴隷の管理してるところも見に行きたいんですが」

 

「んー、じゃあ好きに行ってこいよぉ、zzz」

 

 

酒を飲み始めたモルガさんはもう真っ赤だ、賭場はここで終わりか、もう案内しないでもいいと思ったのか、気持ちよさそうにしている。

 

半分寝ながら酒を飲んで楽しんでいるがこういう時の酔っぱらいの邪魔をするのは危険すぎる。

 

 

「モルガさん?」

 

「おるぁ………ここで………おるぁ!ヘタレてんじゃねーぞ!!戦え!!!!たく、ヒック」

 

「わかりました」

 

 

護衛が酒の力で悪漢にジョブチェンジしてしまった。職務放棄かよと思わないでもないがこういうのを止めると暴力がこちらに向かいかねないし……まぁ好きに見てもいいと言われたので関係者用のスペースに逃げる。

 

入ってすぐに私をボコボコにしたのとは違う兄貴さんがいた。

 

 

「お、フリムじゃねーか?」

 

「兄貴さん、こんにちは」

 

「パキスは一緒じゃねーのか?」

 

「今は親分さんの横で仕事してます」

 

 

細い目でにこやかなお兄さん。

 

ラドと呼ばれていた気がするがあっているかわからないし間違って殴られるのも嫌なので無難にお兄さんと呼ぶ。

 

親分さんの横で仕事してると言えば何もしてこないかもしれないが油断はできない、なにせ皆武器は持っているようなチンピラである。

 

 

「親父の?!まぁお前の水は美味かったしな、で、何やってんだ?」

 

「親分さんが賭場で新しいことをするのに「なんか無いか?」って私はここを見学に来ました」

 

「あー、親父は古臭い賭けばっかだからなぁ……一人でか?」

 

「いえ、モルガさんも一緒だったんですが酔って寝ちゃいまして……奴隷のいる場所は好きに見に行けって言われました」

 

「そっか、じゃあ許可出てるってことだな?あぶねーが気をつけてな?お前なんか齧られちまうかもしれねーぞ?」

 

「気をつけます」

 

 

かじられるってどーゆーこと!?って聞きたいが脅かしてからかって来ているだけかもしれないし中に入って進む……すぐにわかった。

 

 

「ゴルルルル」

「何見てんだガキ!!!」

「シャー!」

「いきてっかー」

「指!!指が!!!??」

「うっせーよ!!指ぐらいで喚くなひよっこ!」

 

 

血だらけ汗だらけで荒んだ奴隷たちが檻の中にいる。あまり近づくとあっさり殺されてしまいそうだ。

 

床は血で汚れ、錆びた鉄に、糞尿の匂いもして最悪なまでに不衛生なのが伝わってくる。そんな場所でそのまま寝ていて傷に良い訳がない。

 

傷ついている獣人は歯を剥き出しに威嚇してくるし、他の奴隷も殺意と敵意を向けてくる。虚ろにこちらを見てくるものもいればこちらを気にしていないものもいる。

 

 

彼らは生きていて、感情もあって、同じ人間のはずなのに人間として扱われていない。

 

 

ほんの数m先、檻を挟んで向こう側の人の目が本当に怖くて、檻の反対の壁に後ずさって――――

 

「迷子、ですか?」

 

「ヒッ?!」

 

 

後ろにもいた。禿げ上がって傷が多数見える奴隷の男性、歳は60ぐらいだろうか?服の隙間からよく発達した筋肉が見えるし背丈もあって巨漢のモルガさんとも殴り合えそうだ。

 

首輪もついていて奴隷とわかるが服は他の奴隷よりも良い。

 

 

「あっ、そ、その、えっと」

 

「落ち着いてください。私は貴女を傷つけるような真似はしません、お嬢さん」

 

 

よく見ると外の奴隷と違って荒んだ目をしていない。理知的で「できれば泣かないでほしい」という意思が透けて見える。

 

だけど怖いものは怖いし、対応をどうとってもパキスに殴られていたことを考えるとどんな選択肢を取って良いのかで困って泣き出したくなる。

 

 

「ワたしはフリムデスっ!」

 

「ここで奴隷頭をしております。ローガンです。ご丁寧にありがとうございます。」

 

 

恥ずかしいほど声が裏返ったがローガンさんの丁寧な対応に泣いてしまいそうだ。

 

泣いたって事態が良くならないことは知っている。とにかく挨拶は大事だ。深呼吸してちゃんと話す。

 

 

「い、今、お手すきでしたらお話を聞かせてもらってもよろしいでしょうか?ドゥッガ親分さんの命で来ました」

 

「貴女が?一人で?」

 

「護衛にモルガさんをつけてもらっていたのですが酔っ払ってしまって自由にしていいと」

 

「…………なるほど、こちらへどうぞ」

 

 

すぐ近くに粗末な机に招かれた。ニスも何も塗られていなくて、傷ついていて………所々血が染み込んだような跡がある。

 

椅子を引いて座らせてくれて、ローガンさんは対面の椅子ではなく床に座った。

 

 

「何の御用でしょうか?」

 

 

―――私がそこに座らせていると、人を奴隷として扱い、床に座らせているとわかって言いようもなく悲しくて………今度こそ私の目から涙がこぼれた。

 




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