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「遅いッ!!」
トイレから長い闘いを終え出てきた銀時を出迎えたのはルイズの冷たい言葉だった。
どうやら、ルイズは一時間近く銀時がトイレから出てくるのをじっと待っていたらしい。
「仕方ねぇだろ、怒鳴るなら豆パンに言ってくれや。あいつ根性ねぇんだよ、まだ賞味期限2週間しか過ぎてなかったのにこのざまだぜ」
「あんた馬鹿なの!!そんなのお腹壊すに決まってるじゃない!!」
銀時の言葉にルイズは腰に手をあてきっぱりと言った。
まぁ、確かにルイズの言うとおりなのだが
「全く、なんで平民が使い魔なわけ?しかも、かなりの馬鹿だし」
ルイズは落胆しきった顔でブツブツと呟いた。
そんなルイズと周りをキョロキョロと見ながら銀時は口を開く。
「で?ここはどこなんだ?」
「……あー、もう!!説明してあげるからついて来なさい!!」
銀時の言葉にルイズは少しヒステリックにイライラしながら叫ぶときっぱり言い、自分の部屋へと向かった。
銀時はその後ろをついて行きながら心の中で呟いた。
(なんで苛ついてるんだァ?こいつ)
ルイズの部屋につくとまずルイズはベッドへと腰を下ろした。銀時は辺りを見渡しとりあえず椅子に座る。
ルイズはそれを叱咤することなくじろっと見つめた。そして、偉そうに足を組むと口を開いた。
「で?平民、あんた何が聞きたいわけ」
あまりにも、偉そうなルイズの態度に銀時は少し眉を寄せる。
しかし、ここは状況を掴むためにも友好的にすべきだ。
銀時はそう思うと、ずっと疑問に思っていたことを聞いた。
「平民ってなんだ?」
意外な銀時の言葉にルイズはやはりこいつは馬鹿なのだろうかと思う。
普通はこういう場合召喚されたことなどを聞くものではないだろうか?
「……平民は平民よ。それともあんたメイジなの?」
「メイジ?チョコ?」
銀時の中でメイジはチョコになるのだろう。少し首を傾げて言った。
「あんた、メイジも知らないの!?いったいどこのど田舎から来たのよ!!魔法使いよ!!魔法使い!!」
銀時の言葉にルイズは声を高くあげて言った。
銀時はルイズの言葉を聞き、一瞬キョトンとする。
「へぇー、魔法使いねぇ……ん?魔法使い?え?は?……魔法使いィィィィイ!?」
銀時は驚愕して大きな声で叫んだ。
「嘘ね!!」
しばらく、時間をかけて銀時は自分がどこから来たのかルイズに話した。
しかし、ルイズはあまりにも信じがたい銀時の言葉にきっぱりと言った。
「いやいやいや、嘘じゃないから。俺はそんな嘘つかないからよォ」
「いいえ、嘘よ!!だいたい魔法使いが居ないは、月が一つだは、天人って人じゃない存在がいるは、信じられるわけないでしょう!!」
ルイズの言葉に銀時は確かに自分も反対の立場なら信じられないかもなァっと頭の中で呟く。
しかし、ここは信じてもらわないと困る。
「本当だ!!俺のこの目が嘘をついている奴の目に見えるか」
銀時は、いつもの死んだ目はどこへやらキラキラと瞳を輝かせてルイズの両肩を掴み顔を近付けさせた。
最初に言っておこう。銀時の顔は凛々しく整っている、普段はだるそうな雰囲気や死んだ目に騙されるのだが、それさえ除けばかなりのイケメンなのだ。
実際、記憶喪失になったときあの魔王ことお妙の頬をそめさせたという実績を持つくらいである。
それを、美少女とはいえあまり恋愛経験のないお子様なルイズが食らったらどうなるか少し考えれば分かるだろう。
「ッ!?な、な、な……」
ルイズの顔は面白いくらいだんだんと赤く染まっていく。口はパクパクと開き言葉がきちんと出なくなる。
「な?」
銀時はルイズの発する言葉に首を傾げた。するとルイズは頬を染めたまま銀時の顔を手で押しのけた。
「あ、あ、あ、あんたち、近過ぎよ!!は、離れなさいよ!!」
「ちょっ、分かったから押すなって」
グイグイと力いっぱい押してくるルイズに銀時は一旦離れた。そして、離れると不思議そうに聞いた。
「お前、なんで顔赤いんだ?」
「う、うるさい!!と、とにかく……一応信じてあげるわよッ!!」
銀時の言葉にまだ頬の赤みが取れないまま、ルイズは叫ぶように言った。
とりあえず、一応は信じてもらえたようだ。
ルイズは、自分を落ち着かせるように深呼吸をすると平常心を保ち銀時を見つめた。もう、銀時の真面目モードが終わっているのでドキドキすることはなかった。
「つまり、あれね。あんたは異世界から召喚されてきたということね」
「まぁ、そういうこと……で?召喚とか魔法っていったいなんなんだ?」
首を傾げる銀時。そんな銀時を見て仕方がなさげにルイズが口を開いた。
「仕方ないわねぇ。説明してあげるからありがたく思いなさいよ」
ルイズは大袈裟にハァァっとため息をつくとゆっくり説明を始めた。
「この使い魔召喚『サモン・サーヴァント』によって使う魔法の系統が決まるの『火』『水』『土』『風』…そして失われた系統『虚無』…。すべての魔法が生活に密接に関係しているのよ。そして……で……」
ルイズがペラペラと喋るが銀時にはよく分からないっというか興味がないので右から入って左に抜けるといった感じだ。
「ちょっとあんた聞いてるの?」
銀時のあまりの反応の無さに説明を一旦やめて尋ねてみる。
「あぁ、聞いてる聞いてる」
「ほんとうに聞いてた?」
「あぁ、聞いてる聞いてる」
「ほんとうのほんとうに聞いてた?」
「あぁ、聞いてる聞いてる」
「……私は可愛い?」
「あぁ、聞いてる聞いて……あれ?」
銀時は言葉の異変に気付くがもう遅い。ルイズからは黒いオーラが立ち込め、右ストレートを銀時の顔目掛けて打ち込んだ。
「ちょ、ちょっとまっ……ひでぶゥゥっ!!」
「ったく、せっかくこのわたしが説明してあげてるんだからきちんと聞きなさい。次は殴るわよ!!」
「いやいやいや、殴るわよってもう殴ってんじゃん!!力の限り右ストレート打ち込んでんだろうがァァァァァアア!!」
「何?なんか文句あるの?」
銀時の言葉ににっこり微笑み黒いオーラを増すルイズ。
「いえ、なんでもありませんお嬢様」
(や、やべぇ……やべぇよ。一瞬お妙並の黒笑顔だった。逆らったらヤバいオーラただ漏れじゃねぇか。もうほんと、銀さん家に帰りてェェエ!!帰って定春で癒やされてェェエ!!)
「全く、せっかく顔は良いのに頭が残念だなんて……」
銀時の言葉にルイズは聞こえないよう小さくボソッと呟き再度説明を始めようとする。その様子を見て銀時は止めた。
そう、力の限り……また殴られてるのは極力遠慮したい。
「あー、待て待て。説明はもう良い……それよりも俺を元の場所に戻してくれねぇ?」
「そんなの無理よ。元に戻すなんてできないわ!!『サモン・サーヴァント』は呼び出すだけだもの」
「……やっぱり戻れねぇのか」
ルイズの言葉に意外にも銀時は冷静に呟いた。なんとなくだがそういう予感がしていたらしい。
「あら?意外と冷静なのね」
「まぁ、こういうトラブルは慣れてるからよォ。こういう時はなんかのイベントをクリアすれば帰れるのがRPGの基本だしな。で?俺は何をすればいいんだ?」
「もちろんわたしの使い魔よ」
尋ねる銀時にルイズはきっぱりと言った。
「使い魔……そういやァ最初から度々と言ってたな。でもよォ、使い魔ってなにすんの?」
流石銀時、トイレに行きたくても一応聞いていたようだ。
「まず、使い魔は主人の目や耳になる能力を与えられるわ」
「あ?つまりどういうことだ?」
「つまり、使い魔が見たものは、主人も見ることができるのよ。……でも、あんたじゃ無理みたいね。わたし、何にも見えないもん!!」
「ふぅーん、つまり使い魔を使って覗きをするってわけか」
「ちょっと、その言い方なんか嫌なんだけど」
少し不機嫌そうに言うルイズ。
「それから、使い魔は主人の望むものを見つけてくるのよ。例えば秘薬とか必要な材料をね」
「秘薬って?」
「特定の魔法を使うときに使用する触媒よ。硫黄とか、コケとかそんな感じの……でも、あんたそんなの見つけてこれないはね。秘薬さえ知らないし、例え教えても覚えそうにないもの」
「あぁ、無理だな。ってか俺、何もやることなくねぇ?」
銀時は呟いた。ルイズは苛立たしそうに言葉を続ける。
「そして、これが一番なんだけど……使い魔は、主人を守る存在でもあるのよ!!その能力で、主人を敵から守るのが一番の役目!!……でも、あんたじゃ無理そうね」
「いや、そうでもないぜ。こうみえても腕には自信があるからよォ」
ルイズの言葉をやっと否定しきっぱりと言った。
そんな銀時にルイズはボソッと呟く。
「ふぅーん。顔だけじゃないのね」
「顔?」
銀時は首を傾げて聞き返す。すると、ルイズは慌てたように言った。
「な、何でもないわ!!とりあえず普段は洗濯。掃除。その他雑用をやってもらうから」
ルイズの言葉に銀時は一応頷いた。しばらく世話になるのだから、少しは働いてもいいかと珍しくそう思ったのだろう。
「さてと、そろそろ眠くなってきたわ」
ルイズはあくびかみ殺した。
「そういえば、俺はどこで寝ればいいんだ?」
ルイズは、少し考えると床を指差した。
「何?ペット感覚?」
「しかたないでしょ。ベッドは一つしかないんだから」
ルイズは毛布を一枚投げてよこしながら言った。
それから、ブラウスのボタンに手をかけ、外していく。次第に下着があらわになった。
「オィィイ!!何やってんの?お前何やってんの!!」
銀時が慌てた様子で言った。しかしルイズはきょとんとしている。
「寝るから、着替えるのよ」
「俺のいないところで着替えろよ!!」
「なんで?」
「いやいやいや、なんでじゃないだろ。俺はそんなみだらに男の前で着替える子に育てた覚えてありません!!」
「いや、あんたに育てられた覚えないし……大体男?誰が?使い魔に見られたって、なんとも思わな……」
そこまで言うとルイズはハッとした。
そういえば、この使い魔は顔だけは良かったのだ。貴族のルイズだって先ほど少しドキドキしたくらいに……
そう思うと、いくら使い魔とはいえなんだか恥ずかしくなってくる。
(落ち着くのよ、わたし……あれは使い魔!!男じゃないもの!!)
ルイズは心の中でそう思うも、身体は正直である。見られないようにブラウスをきつく合わせた……いまさらかなり遅いと思うが……
そして、枕を掴むと銀時の顔めがけてぶん投げた。
「ジロジロ見るなァ!!」
「ぶっ……」
見事枕は銀時の顔に命中。まぁ、無駄にデカい貴族の枕なため避けられなかったのだろう。
その間にルイズは急いで着替えを済ませた。
「いっっ、ったく……いきなり枕投げるか、普通」
銀時が眉を寄せるとルイズはプィッと顔をそらした。
「うるさいわね、あんたの顔がいけないのよ!!」
「は?」
銀時はわけ分からないといった感じに首を傾げる。ルイズはそんな様子を見てこれ以上、失言をしないように毛布へと潜り込んだ。
そんなルイズの様子を見て銀時はため息をつく、そしてそういえばと言った感じに聞いた。
「そういや、お前名前……ってもう寝てるのかよ!!」
銀時がベッドの方へ顔を向けるとすでにルイズは夢の中。神楽並みに寝付きの良い子だ。
銀時はため息をつくと毛布を引っつかみ頭からかぶって横になった。
こうして、銀時の異世界1日目は終わった。