今回ので移転は終了です。
銀時は学院に帰るとデル公を磨いていた。
「おい、相棒」
「なんだ?ガラクタ」
デル公の声に磨く手を止める。
「ガラクタじゃねぇよ!!……磨いてくれるのはありがてぇけど、アレいいのか?」
デル公の言うアレとは今睨み合ってるルイズとキュルケのことである。銀時がケーキを食べて満足げに帰ってきた後、何故かキュルケは部屋にやってきて銀時に剣をプレゼントしようとしたのだ。今日銀時が壊した大剣と全く一緒のキラキラと宝石のついた剣だ。一体オヤジはあの剣をいくつ作ったんだろうか。
しかし、ルイズはプレゼントを良しとしない。それで今こんな風に睨み合っているのだ。
「馬鹿かァ!!お前んな大きな声で言ったら奴らに巻き込まれるだろうがァァァア!!」
「いや、巻き込まれるって一応相棒が原因じゃねぇか」
銀時の言葉に呆れたように言うデル公。
「うっせぇよ!!だから巻き込まれないよう磨いてんだろ!!銀さんは今忙しいんです雰囲気作ってんじゃねぇかァァァア!!」
「あなたが一番うるさい」
銀時が叫ぶように言うとタバサにきっぱりと言われた。
ちなみにタバサは銀時の隣に座っている。
銀時に一言言うとまた黙々と本を読み始めた。銀時はチラッとタバサを見るとため息をつきルイズとキュルケに目をやった。
「どういう意味?ツェルプストー」
腰に両手を当てて、キュルケを睨んでいるルイズ。キュルケは恋の相手の主人の視線を受け流す。
「だから、ギントキが欲しがってる剣を手に入れたから、そっち使いなさいって言ってるのよ」
正直銀時は欲しがってすらない。どうやら店の主人に騙されたようだ。
「おあいにくさま。ギントキの使う道具なら間に合ってるの。それにギントキも磨いちゃって気に入ってるのよ」
ルイズは銀時が磨いていたデル公を見てきっぱりと言う。銀時が磨いてたのは巻き込まれないためだが、ルイズはそんなこと知らない。
「あら?それはギントキが優しいからでしょう。あなたのプライドを保つために気に入ったフリをしてるのよ」
「何よ。キュルケあんた嫉妬してるのね。現実が見えなくなってるんだわ」
ルイズは一瞬眉を寄せるも勝ち誇ったように言った。
「まぁ、何を言っているのかしら。嫉妬してるのはあなたじゃない。ヴァリエール」
今度はキュルケが勝ち誇った顔をして言った。そんなキュルケにルイズは顔をしからめきっぱり言う。
「嫉妬?なんでわたしが!!」
「だってそうじゃない。ギントキが欲しがってた剣をあたしがなんなく手に入れてプレゼントしたもんだから嫉妬してるんじゃなくって?」
「なっ!?ち、違うわよッ!!ツェルプストーの者からたとえ豆の一粒だって恵んでもらいたくないだけだわ!!そう、それだけ……なんだから」
ルイズは最後声を小さく自分に言い聞かせるように呟いた。
キュルケは一瞬おや?っと首を傾げるも銀時を見つめた。銀時は我関せずといった感じでデル公を再度磨いている。しかしそんな銀時の様子に動じずキュルケはきっぱりと言った。
「知ってる?この剣を鍛えたのはゲルマ二アの錬金術師シュぺー郷だそうよ」
キュルケは熱っぽい流し目で銀時を見つめる。
「ねぇ、あなた。よくって?剣も女も生まれはゲルマ二アに限るわ。トリステインの女ときたら、このルイズみたいに嫉妬深くって、気が短くって、ヒステリーで、プライドばっかり高くってどうしようもないんだから」
キュルケの言葉にルイズはキッと睨みつけた。
「な、何よ!!あんたなんかただの色ボケじゃない!!なぁに?ゲルマ二アで男を漁りすぎて相手にされなくなったからトリステインまで留学して来たんでしょ!!」
ルイズは馬鹿にするよう鼻で笑いキュルケを挑発した。声が震えている。相当頭にきているようだ。
「い、言ってくれるじゃない、ヴァリエール……」
先ほどまで余裕のあったキュルケの顔色が変わった。それを見るとルイズは勝ち誇ったように言った。
「なによ。ホントのことでしょう?」
互いに睨み合い二人は同時に自分の杖に手をかけた。
それまで、じっと本を読んでいたタバサが二人より早く自分の杖をふる。つむじ風が舞い上がり二人の杖を吹き飛ばした。
「室内……」
ボソッと呟くタバサ。どうやらここでやったら危険だと言いたいのだろう。
「なにこの子。さっきからいるけど」
ルイズは杖を飛ばされたこともあり忌々しげに呟いた。キュルケが答える。
「あたしの友達よ」
「なんで、あんたの友達がわたしの部屋にいるのよ」
キュルケはルイズを睨みつけきっぱり言った。
「別にいいじゃない」
ルイズとキュルケは再度睨み合った。しばらくしてキュルケが視線を逸らして言った。
「じゃあ、ギントキに決めてもらいましょう」
「あ?」
銀時はキュルケの言葉に嫌そうに顔を歪ませる。銀時のいた世界では女同士の争いに巻き込まれるとロクなことがなかった。
きっと異世界でも同じだろう。
「そうね。あんたの剣でモメてんだから」
ルイズも銀時を見つめる。
(オイオイオイ、何これ?銀さん忙しいです雰囲気出してたじゃん!!アレか?反応したからいけなかったのか!!)
銀時は頭を抱えた。もう声を出したことを後悔している。ルイズとキュルケからは考えてるように見えるのだが……
(それにしてもどうするよ俺……大体どっちもいらねぇし!!いや、けどそんなこと言ったらヤバい気がする!!どっちだ?どっちが正解だ?いや、剣で考えるからダメなんじゃねぇ?仮にパフェをデル公とケーキをキュルケの剣と考えどっちを選ぶかというと……そ、そうか!!)
銀時の考えはきまったようだ。顔を上げこれしかないと声高々に言った。
「もちろん両方ともだァァア!!」
銀時の言葉にルイズとキュルケは顔を見合わせ二人で銀時を蹴った。銀時は床に転がりながら思った。
パフェとケーキじゃなく団子と宇治銀時丼で例えれば良かったっと……正直自分の好物に例えた時点で間違いなのだが
「ねぇ、ヴァリエール」
キュルケはルイズに向き直った。
「なによ」
「そろそろ、決着をつけませんこと?」
「そうね」
「あたしね、あなたのことだいっきらいなのよ」
「あら、わたしもよ」
「気が合うわね」
二人はそう言うとウフフっと笑い出す。はたから見るとかなり不気味だ。一通り笑い終わると二人は同時に怒鳴った。
「「決闘よ!!」」
巨大な二つの月が、宝物庫のある魔法学院の塔の外壁を照らしている。二つの月の光が、壁に垂直に立った人影を浮かび上がらせていた。
土くれのフーケであった。長い青髪を夜風になびかせ悠然と佇む様に、国中の貴族を恐怖に陥れた怪盗の風格が漂っている。
フーケは足から伝わってくる壁の感触に舌打ちをした。
「さすがは魔法学院の壁ね……物理衝撃が弱点?こんなに厚かったらちょっとやそっとの魔法じゃどうしようもないじゃない!!」
フーケは腕を組んで悩んだ。強力な『固定化』の呪文がかかっているため、『錬金』の呪文で壁に穴をあけるわけにもいかない。フーケがしばらく考えていると誰かが近づく気配を感じた。とんっと壁を蹴り、すぐに地面に飛び降りる。地面にぶつかる瞬間、小さく『レビテーション』を唱え華麗に着地する。それからすぐに中庭の植え込みに消えた。
中庭に現れたのは、ルイズとキュルケとタバサ、そして銀時である。
「じゃあ、始めましょうか」
キュルケが言うと銀時は呆れたように言った。
「オイオイ、お前らほんとに決闘なんかする気かよ」
ルイズもキュルケもやる気満々で頷いた。
「ったく……危ねぇぞ」
ため息をつく銀時にキュルケは少し考えた。
「確かに……怪我するのはいやね」
「そうね」
キュルケの言葉にルイズも頷いた。タバサがキュルケに近づいて銀時を見ながら何かを呟く。
「あ、それいいわね!!」
キュルケが微笑みルイズにも呟いた。
「え?……けどそれは」
ルイズは銀時をチラッと見ると眉を寄せた。
しかし、そんなルイズにキュルケがバカにしたように鼻で笑う。
「あら?自信ないの?」
「なっ!?そんなことないわよ!!いいわ、やってやるわよ!!」
ルイズも何やら賛成したようだ。三人は一斉に銀時の方を向いた。銀時は眉間に皺を寄せる。とても嫌な予感がする。
「いやいやいや、え?何これ?え?ちょ……べ、弁護士呼べェェエ!!」
銀時は叫んだ。しかし誰も返事をしてくれない。塔の上から銀時はロープで縛られ、吊され、空中にぶら下がっている。
はるか地面の下に、キュルケとルイズの二人の姿が見える。夜とはいえ、二つの月のおかげで思った以上に視界は明るく目の良い銀時には二人の顔まで見えた。塔の屋上には、ウィンドドラゴンに跨ったタバサの姿が見える。風竜は二本の剣をくわえているらしくギャンキャン喚くデル公の声が聞こえた。
キュルケとルイズは、地面に立って銀時を見上げている。ロープに縛られ、二人は上から吊された銀時が微かにゆらゆら揺れているのを確認した。
「いいこと?ヴァリエール。あのロープを切って、ギントキを地面に落としたほうが勝ち。勝った方の剣をギントキは使う。いいわね?」
「わかったわ」
ルイズは銀時を見上げながら硬い表情で頷いた。
「使う魔法はとりあえず自由。あたしは後攻にしてあげるわ。ハンデにいいでしょ」
「ええ」
「じゃあ、お先にどうぞ」
ルイズは杖を構えた。屋上のタバサがロープを揺らし始める。銀時は左右に揺れる。ちなみにこの間も銀時は文句を言っていた。
『ファイヤーボール』等の魔法の命中率は高い。動かさなければ、簡単にロープに命中してしまう。
しかし……命中するかしないかよりもルイズには問題があった。魔法が成功するかしないかだ。
ルイズは短くルーンを呟く。失敗したら……銀時はキュルケが買ってきた剣を使うことになる。それは絶対に嫌である。呪文詠唱が完成すると気合を入れて、杖を振った。
しかし、杖の先からは何も出ない。一瞬遅れて銀時の後ろの壁が爆発した。
「オィィイ!!殺す気か!!殺す気なのか!!」
爆風で身体が揺れながら銀時は叫んだ。しかしルイズは気にせずロープを見た。塔の壁にはヒビが入っているのだがロープはなんともない。
キュルケは腹を抱えて笑った。
「ルイズ、ロープじゃなくて壁を爆発させてどうするの!!器用ねぇ。あなたってどんな魔法も爆発させるんだから!!あっはっは」
ルイズは悔しそうに拳を握り締め、膝をついた。
「さて、あたしの番ね……」
キュルケは、狩人の目で銀時を吊るしたロープを見つめた。タバサがロープを揺らしているので狙いがつけづらい。
それでもキュルケは余裕の笑みを浮かべた。『ファイヤーボール』はキュルケの十八番である。
杖の先からメロンほどの火球が現れ、銀時のロープを燃やした。その瞬間タバサが杖を振り銀時に『レビテーション』をかけた。そのおかげで銀時はゆっくりと地面に降りてきた。
キュルケは勝ち誇ってきっぱりと言った。
「あたしの勝ちね!!ヴァリエール」
キュルケは大声で笑った。ルイズは勝負に負けたのが悔しいのかしょんぼりと座り込み、肩を落としている。
そんな二人を見て銀時はキレた。もうぷちんっと……
「あ、あいつらァァアふざけんな!!」
低い声を上げ、声と同時にロープを引きちぎる。ドスドスと効果音が出そうな雰囲気で二人に近付く。
そんなこととは知らず、キュルケは嬉しそうな表情。
ルイズは悔しそうな表情で銀時をむかえ入れた。
「ギントキ!!あたし勝ったのよ!!」
銀時は嬉しそうに言うキュルケと悔しそうなルイズに拳骨を落とした。ガツンと鈍い音が響く。
「「いたぁっ」」
二人は叩かれた頭を抱えてしゃがみ込む。
「二人ともそこに正座だァァア!!」
ビシッと地面を指す銀時にキュルケとルイズは正座した。銀時からは逆らえないオーラが放っていたからだ。
「いいか!!喧嘩ってもんはよォ。テメェ自身で土俵に上がって、テメェの拳でやるもんだ!!人様(俺)に迷惑かけてんじゃねぇぇええ!!」
銀時の言葉にいつの間にか近くにいたタバサは少し驚き、デル公は楽しそうに笑った。
「ぶっひゃひゃひゃ、流石相棒だ!!主人に拳骨と説教くらわす使い魔なんて初めて見た」
そのときである。背後に巨大な何かの気配を感じて銀時は振り返った。
「え?……な、なんだありゃ」
巨大な土ゴーレムがこちらに向かって歩いてきている。
「きゃぁぁぁああ!!」
銀時の言葉に顔を上げたキュルケは悲鳴をあげて逃げ出した。
「え?何よアレ。」
銀時とキュルケの言葉にルイズも顔をあげてゴーレムを見た。
「とりあえず逃げるぞ!!」
銀時はルイズを抱き上げるとその場から急いで逃げた。後ろからはガラガラと塔が壊されるような音がする。
銀時は安全地帯。
タバサの使い魔ウィンドドラゴンの背に移動すると魔法学院の城壁をひとまたぎで乗り越え、ズシンズシンと地響きを立てて去っていくゴーレムを見つめた。
「あいつ、壁ぶち壊してたけど……あそこ何があるんだ?」
「宝物庫」
「あの黒ローブのメイジ、壁の穴から出てきたときに、何か握っていたわ」
タバサがボソッと呟いた。それに加えてルイズも言った。
「ってことは泥棒か。ずいぶん派手な泥棒だな」
そのとき、歩いていたゴーレムは突然ぐしゃっと崩れ落ちた。巨大なゴーレムは大きな土の山になる。四人はウィンドドラゴンから地面に降りるも土の山以外何もない。そして、乗っていた黒ローブのメイジの姿も消え失せていた。