メガネって女子力高くない?   作:わかなつ

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十年たってるのに思ったよりUA稼げてて、コンテンツの強さを感じる。


余計なお世話

「犬吠埼さん、この後ちょっといいかな?」

 

 授業が終わり、机に広げられた教科書やノートをカバンに詰めていたところで声をかけられる。

 その声の主は同じクラスの女子の一人。

 確か、美化委員だったような気がする。

 

「いいわよ!困っているなら手を貸すのがアタシのモットーよ!自慢の女子力で、あっという間に解決しちゃうわよ~」

「そんなに大変なことじゃないから…。ちょっと、花壇の掃除を手伝ってほしくて」

 

 ああ、やっぱり委員会のことだったか。

 

「任してちょうだい!そうと決まったら、チャチャっとやっちゃいましょう!」

「待ってよ!軍手とか、道具を取ってこないと…」

 

 困っている人がいるのに、断る理由なんて無かった。

 気合を入れて立ち上がると、そのままの勢いで花壇に向かう。

 そして、その道中の廊下でまたも声をかけられる。

 

「犬吠埼さん!今度のイベントの準備手伝って欲しいのだけど…」

「犬吠埼!応援団の助っ人に」

「犬吠埼!」

「犬吠埼さん!」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 すっかり遅くなってしまった。

 今日は樹を迎えに行って、そのあとに買い物に行かなくてはいけない。

 父も母も大赦に勤めているのだが、それゆえに他の家庭よりも帰りが少々遅くなってしまっている。

 けれど、周りからも両親が四国を守っていることを褒められるのはとても誇らしい。

 だからこそ、両親が安心して帰ってくることが出来るように、アタシは姉として、妹を、家を守っていかなければいけない。

 急ごう。

 樹が一人でどうしているか心配だし、スーパーも混みあってしまう前に早く行かなければ。

 何もなければ、一度家に帰ってから学校の荷物を置いてからにしようと思っていたのだが……。

 今日はセールがあるので、できればたくさん買い物したかった。

 今から帰っていたら、流石に間に合わない。

 仕方ない。

 今日は軽くにして、後はあまりもので何とかしよう。

 そう頭の中で計画を立てながら、樹の通う小学校へ向かう。

 道中で、走り抜けていく小学生たちとすれ違う。

 その様子を見ていると、自らの小学校時代のことが思い起こされる。

 あの男も、その景色の中にいた。

 当時から、どこか他の男子とは雰囲気が違っていたような気がする。

 孤立しているわけでもなく、むしろ、いつも他の男子たちでバカなことやっているのだが、急に達観したようなことを話す。

 確か、この時は眼鏡をかけていなかった気がする。

 半生ぐらいは知っているつもりだったが、意外とそんなことはないことを再確認した。

 

 いつも通り、門を抜けると一つの部屋へ向かう。

 普段から両親が家にいないうちでは、学校にあずかってもらっている。

 扉の前に立つと、軽くノックをする。

 はーい、と先生の声が聞こえてから、すぐにその扉が開かれた。

 

「風さん、いらっしゃい」

「こんにちは、先生」

 

 柔らかい笑顔で出迎えてくれる先生に挨拶を返す。

 私を確認すると、先生は教室の中に向く。

 

「樹ちゃん、お姉さんが迎えに来ましたよ」

 

 私も教室の中を覗き込むと、部屋の奥にいた樹と目が合う。

 そして、笑顔でこちらに駆け寄ってくる。

 倒れないように注意して、そのまま樹を抱きとめる。

 

「お姉ちゃん!」

「おかえり、樹。いい子にしてた?」

「もう、お姉ちゃん。私だってもう年長さんなんだよ?」

 

 あー、うちの妹はほんとにかわいい。

 

「本当ですよ。樹ちゃん、とても頭も良いですし、お利巧です」

「ほら!先生もこう言ってるから!お姉ちゃんは心配しすぎなの!」

「そうか、そうか」

 

 そのまま、樹の頭をなでる。

 

「それより、先生は風さんの方が心配です。いつも血気盛んなので、どこで何をするのか気が気でなくて…」

「ちょっと先生!」

「冗談です。けれど、こうして制服姿の風さんをみているとなんだか成長を感じますね」

 

 先生は、そう感慨深げに言う。

 私だって、もう子供ではないのだ。

 姉として、妹に頼られるようになろうと日々努力しているつもりだ。

 ひとしきり樹の髪を堪能したあと、腕を離して、ランドセルに荷物をまとめてくるように促す。

 

「それにしても、今日は少しお迎えが遅かったですね?」

「学校の方で、少々頼まれごとがありまして…」

 

 すると、見覚えのある女の子が寄ってきた。

 

「あれ?風ちゃんなんで卒業したのに、小学校にいるの?」

「おれしってる!りゅーねんしたんだ、りゅーねん!」

「なにおう!生意気いってるあんた達に、大人の力見せてやるー!」

 

 話に入ってきた男子は、アタシと先生の間を抜けると、廊下の方へ走っていく。

 が、男女の差があるとはいえど、流石に小学生を相手に負けることはない。

 あっという間に捕まえると、そのまま手を引いて教室まで戻る。

 戻った時には、樹が準備万端といった様子で待っていた。

 

「もう、お姉ちゃん!年下相手に追いかけっこなんて!」

「大丈夫よ。流石に本気で殴りかかったりなんてしないから」

「りゅーねんした人、早かった。悔しい」

 

 その言葉通り、悔しそうに俯く少年に対して、手を離すと向き直る。

 

「ふっふっふ、いいか少年。アタシのこの力には、特別な力のおかげなのだ!」

「なにそれ!かっけー!」

「そう、そしてその力を引き出すための方法を君に授けよう」

 

 すぐにキラキラと目を輝かせる少年。

 

「いいかな?特別な力というのは無条件で手に入れることが出来るものではない。つまり、君も毎日鍛えて、いいことをし続ければ、きっとその力が答えてくれる時が来るよ」

「そうする!」

 

 そうして、少年は元気に教室に戻って行った。

 

「ほんと、ついこの間まで私が教えていたのに、立派になったわね」

 

 先生が懐かしむように目を細める。

 

「もう、中学生ですから」

「そうね…。あ、中学生ってことは、やっぱり彼氏とかできたの?」

「そっ、そそそそそんな!」

「え?なに!?もうできちゃったの!?」

「ないですよ!?相手だって、男子はみんな子供っぽくてそんな感じには」

「えー、そう?けど、うちから一緒に行った子いるじゃない?風さん、あの子とは結構仲良かった気がするんだけど」

「アイツは違います!そういう先生はいないんですか!?」

「あっ……、あ、あ、あーーー…。この話は止めましょう。ほら、学生は早く帰りなさい」

 

 何かダメージを負ったらしく、すぐに帰宅を促されてしまった。

 教師は大変そうだ。

 そして、先生に挨拶をすると、樹と手をつないで小学校を後にした。

 

 

 カバンを左手に持ち、右手に人の温もりを感じながらスーパーまで向かう。

 道中には親子連れの主婦らしき人たちや、スーツ姿の帰宅途中の会社員らしき人たちなどが見受けられる。

 いつもより遅くなってしまったため、通勤時間帯にぶつかってしまったらしい。

 念のため、樹とはぐれない様に、つないだその手を再びしっかりと握りなおす。

 

「お姉ちゃん、今日はお買い物に行くって言ってたよね?」

「そうよ。今日は樹にもちゃんと荷物持ちしてもらうから」

「いつもちゃんとやってるもん」

 

 人の波を縫いながら、二人で進んでいく。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「ーーーい」

 

 その中には、学生服を着た人たちもチラホラと見受けることが出来る。

 

「ーーぬーーき」

 

 友人同士での道草を食っている所だろうか。

 

「おい」

 

 できれば、樹には家のことは気にせず、あんなふうに自分の好きなことが出来るようにしてあげたい。

 

「風!」

 

 左手をとられる。

 振り返ると、やたらと大きく膨らんだバッグを背負っている例の男がいた。

 かすかに呼吸音が聞こえる

 わざわざ走ってきたのだろうか。

 

「お前さあ、俺結構声かけてたんだけど」

「え、アタシが悪いの!?」

「犬吠埼なんて珍しい苗字が他にいるわけないだろ」

「なに~?そんなに必死に声をかけてくれるなんて、そんなにアタシに会いたかったのか~?」

「友人が普段はいないような時間帯に、普段しないような行動とってたら気にもなるだろ」

 

 どうやら、心配してくれたらしい。

 

「悪かったわよ」

 

 余計なお世話を思わない事もないが、どうやら善意のようだし、素直に謝っておく。

 ………で、この男は今の状況に気づいていないのか 

 

「……いつまで握ってんのよ」

「あ、わり」

 

 指摘された所で、パッと放す。

 ……何となく気まずい雰囲気。

 

「おにいさん、どちら様ですか?」

 

 アタシの後ろに隠れていた樹が口を開く。

 

「え、マジか。俺そんなに印象薄いか?いや、でも小学生が一瞬だけあった年上のことなんて覚えてるわけもないか」

「一人で何言ってんの?」

 

 ぶつぶつと自問自答したのち、自己完結したのか、よし、と姿勢を正すと樹の目線に合わせて膝を曲げる。

 

「改めまして、こんにちは樹ちゃん。おにいさんは君のお姉ちゃんのお友達です。よろしくね」

「…はい」

「ちょっと、うちのかわいい妹を怖がらせないでよ!」

「ええ…、普通に挨拶しただけじゃん」

 

 あまり感触が良くなかったのが響いたのか、意気消沈してしまう。

 そういえば。

 

「アナタ、どうして樹のこと知ってたの?」

「小学校の時、縦割り班で一緒だったことがあるんだよ。お前が妹居るのは知ってたし、苗字見たら流石に気づいた」

 

 アタシの知らない所でそんなことが。

 

「それで、犬吠埼は何故こんな時間に?」

「学校でいろいろ手伝いしてたら遅れちゃったのよ。そのまま樹を迎えに行って、今はその帰り。そういうアナタこそ、こんな時間まで夜遊び?」

「いや、普通に部活帰りだけど」

 

 ああ、それで普段からこの道を通っている中で、珍しくアタシたちを見かけて声をかけに来たと。

 

「これから買い物に行こうとしていたところよ」

「………その荷物で?」

「うっ!」

 

 今のアタシは、片手に樹、もう片方にはカバンとなっている。

 はた目には、これから買い物に行こうという様子には見えないだろう。

 

「大丈夫よ!今日は樹もいるし、そんなに買うつもりもないから!」

「月初めなのに?」

「ううっ!」

 

 なんで鋭いんだこの男は。

 

「しょうがねえなあ、荷物持ち行くよ」

「そんなやたら大きいバッグを背負っている人がそれ言うの?登山家か!」

 

 いかにも重たそうな荷物を背負っている上に、部活終わりの人を付き合わせるのは少し気が引ける。

 

「気にしなくていいよ。いつもこのぐらいだし、今日はバットないだけマシだから」

「大丈夫だって、本当に!いざとなったら、この封印された力を開放して荷物を…」

「え、俺に頼るのそんなに嫌なの?そこそこ付き合い長いだけにショックだわ」

 

 結局、少しの問答の果てに荷物持ちをしてもらうことになり、彼はアタシ達の左手に並んで買い物に向かった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「ねえ、本当に大丈夫?」

「大丈夫だって、むしろ、いい筋トレだよ」

 

 そう言いながら、バッグを背負いつつ、両手に袋を持って歩く。

 

 

「お前は、もうちょっと人に頼れ。そんでありがとうございますって言えばいいんだよ」

 

「おにいさん」

 

 犬吠埼と挟んで間を歩く樹が俺に声をかけてくる。

 

「どうかしたのかな?あ、荷物重ければ変わろうか?」

「大丈夫です!私もお手伝いしたいので。って、そうじゃなくて!」

 

 袋を持ち直し、フンフンと鼻息荒く、やる気を見せている。

 

「おにいさんは……お姉ちゃんのことをどう思っているんですか!」

 

 どう思っているか……どう思っているんだろうか。

 昔なじみ、知り合い、同級生、友人……。

 関係自体は確かに長いのだが、最近勉強をたまに教える位で、特別仲が悪いわけでもなければ、良いというわけでもない。

 どうもしっくりくる言葉が見つからない。

 俺が決めあぐねているのをどう思ったのか、犬吠埼に抱き着くと、俺からかばうように遠ざける。

 

「お姉ちゃんはあげませんから!」

 

 なんだこの生き物、かわいい。

 年下は守備範囲外かと思っていたが、まさか俺にロリコンの気があったのか?

 

「ちょっと、なにニヤニヤしてるのよ」

 

 咄嗟に手で顔を隠そうとするが、両手が塞がっていることに気づき、顔を背けるに留まる。

 ジト目でその指摘は止めてくれ。

 本当にその気があったみたいじゃないか。

 いや、これは父性ってやつだった。

 ついつい守ってあげたくなるような、決してやましい気持ちでは無い。

 

「やっぱり、うちの妹を狙ってたんじゃない!守備範囲外とか言って、実物を見たらこの魅力に抗えないのよ!」

 

 その妹と同じように、互いにかばい合う。

 仲良しか!

 

「いいから行くぞ!遅くなったら親御さん心配するだろ」

 

じゃれ合っている二人よりも少し前に出て、帰宅を促す。

 結局、周りの邪魔にならないように気を付けながら、三人で横に並んで歩いて行く形になる。

 

「危な」

 

 狭い道に入り込んでいく所で車とすれ違うのが見えたので、二人を庇うように歩道側に寄せる。

 四国しか行くとこなんて無いのに、なにを急ぐことがあるのか。

 呆れながらも、テールランプが小さくなっていく様子を見届ける。

 

「一体全体、なにを急ぐことがあるのかね」

「分かったから、ちょっと……」

 

 振り返ると、まさしく目と鼻の先に犬吠埼の顔があった。

 

「っ…!近いわよ…」

「と、わり」

 

 咄嗟に離れると、樹ちゃんが無事であるかを確認する。

 すると、犬吠埼の横からしがみついており、無事であることに一安心。

 両手の荷物を持ち直してバランスを確保すると、誰がという訳でもなく再び歩みをすすめはじめ

 ……ヤバ

 安全のためとは言え、いきなりあの距離は流石にキモいと思われてもおかしくないか。

 

「ね、ちょっと」

 

 後ろから背中をつつかれるのだが、気恥ずかしくて振り向くことを躊躇してしまう。

 

「いいから」

 

 何回か声をかけ続けられるたびに声だけで返事をしていたのだが、いつまでも無視するわけにはいかないと思い返し、できるだけ目線を合わせない様に、慎重に振り向く。

 と、俺の視界に映ったのはニヤニヤとした随分と楽しげな笑顔だった。

 

「なに?同級生の女の子を至近距離で密着して緊張しちゃったか~?」

「いうほど密着してもないだろ」

「緊張したのは否定しないのかな?」

 

 ちくしょう、思わぬところで隙を見せることになるとは!

 これ以上何か言っても、墓穴を掘る予知しか見えない。

 だが、何も言わなければ言わないで、その質問に対して肯定することに他ならない。

 八方ふさがり、四面楚歌、今の四国と同じ状況。

 どないせいっちゅーねん。

 

「そうか、そうか。やっぱり、このアタシの女子力を前にしちゃったらしょうがないわよ!」

 

 嬉しそうにこちらを覗き込んで、表情を窺ってくる。

 ……まあ、本人が喜んでいるのであれば余計なことを口にする必要もあるまい。

 と、樹ちゃんが俺と犬吠埼の間に体ごと滑り込ませる。

 

「やっぱり、お姉さんのことを狙っているんですね!」

「樹、ありがと。けど大丈夫よ!お姉ちゃんはそこいらの男に負けるほど柔じゃないから!」

「両手が塞がってる相手に好き放題言いすぎだろ!」

 

 そんなこんなで三人で並んで歩いていくと、やがて犬吠埼のマンションが見えてくる。

 マンションの入り口の前にたどり着いたところで、犬吠埼は足を止める。

 そして、こちらに向き直って空いている方の手を差し出してくる。

 

「え、何?」

「ここまででいいから、荷物渡して」

「ここまで来て?」

「ここまで来たらもう大丈夫よ」

「だが断る」

「なんでよ」

「逆になんでだよ。犬吠埼の部屋って上の方だったよな?遠慮しなくていいから、さっさと行こう」

 

 そうして、俺は犬吠埼の横を通り過ぎてマンションに入っていく。

 二人も後に続いてくることを確認してから、エレベーターのボタンを押す。

 横に付けてくる犬吠埼の様子を横目に確認すると、どうもそわそわしていて落ち着きがないように感じた。

 一体なぜそんなにも俺を帰らせたいのか考えるが、特に嫌われているわけでもなさそうだし、心当たりもないので諦めてランプの数字が減るのを眺める。

 やがて、時代が止まったようなチーンという音を立てて、エレベーターが到着したことを告げる。

 「開」の文字が刻まれたボタンを長押ししながら、先に乗り込むように二人に伝える。

 俺が後から乗り込むと、犬吠埼は自室がある階のボタンを押し、エレベーターがガタンと音を立てて動き出す。

 特に話すこともなく、ボーッとしているわずかな間ののちに、軽く突き上げられる感覚を覚える。

 扉が開かれ、犬吠埼がボタンを押している間に樹ちゃん、俺、犬吠埼の順番で降りると、部屋に向かう。

 廊下からにはそれぞれの部屋からの光が差し込んできており、どこの家庭も団欒を楽しんでいる空気が伝わってきていた。

 犬吠埼がある扉の前に立つと、そのままドアノブを引いた。

 俺は手前で待っていたので中の様子は分からないのだが、誰かが部屋の奥から向かってくる気配を感じた。

 

「おかえりなさい!風!樹!」

 

 そして一人の女性が顔を出したかと思うと、二人をまとめて抱きしめる。

 やはりというべきか、その女性は犬吠埼を成長させて落ち着きを持たせたような印象だった。

 

「お母さん!買い物落ちちゃうから離して!」

「あら、ありがとうね。早く冷蔵庫に入れちゃわないと……あら?」

 

 目が合う。

 とっさに頭を下げる。

 

「あら、あらあらあら」

 

 少し驚いたような表情を見せたのち、どうも嬉しそうにしながらも犬吠埼の肩に手を置いた。

 そして、しっかりと目を合わせる。

 

「風?連れ込むなら、ちゃんと家に誰もいないことを確認してからにしなさい」

「親が中学生の娘に言うことじゃなくない!?」

 

 二人で盛り上がっているところで、俺と樹ちゃんは置いてけぼりでどうしたもんかと顔を見合わせる。

 が、自分しか間に入ることが出来ない事を悟ったのか、樹ちゃんが犬吠埼母の足に抱き着く。

 

「お母さん!お姉ちゃん!人前でみっともないよ!」

「あら、ごめんなさいね。樹は先に入って手を洗ってきなさい。……そして、アナタは買い物に付き合ってくれたみたいね?ありがとう、重くなかった?」

「いえ、筋トレが物足りなかったのでちょうどよかったくらいです」

 

 玄関の前に行くと、両手に持っていた買い物袋を渡した。

 犬吠埼母は荷物を受け取ると、俺の顔をまじまじと見る。

 

「お母さん、どうかしたの?」

「部活終わりなので、ちょっと砂とか付いてて。すいません」

「あら、いいのよ。スポーツ頑張ってる男の子、素敵だと思うわ」

 

 はあ。

 知り合いの母親にそこを褒められても、なんと返したらいいのか…。

 

「お母さん!あんまり娘の友人にそういうのやめて!」

「なに?風ちゃん照れちゃっているの?最近はどうにも大人びてきて来たから、そういう反応は久しぶりね~!」

 

 はて、向こうだけで盛り上がり始めてしまった。

 どうしたもんかな。

 とりあえず、犬吠埼も樹ちゃんもきっちり送り届けたし、買い物も預けた。

 わざわざここにとどまる理由もない。

 

「では、俺はそろそろ失礼します」

「ちょっと待ちなさい。せっかちさん」

 

 頭を下げて、エレベーターに向かおうとして体を反転したところで呼び止められる。 

 

「どうかしら?良かったらお夕飯食べてく?」

「いえ、さっきも言いましたけど汚れてますし、姉が家で待っていると思うので、今日は遠慮しておきます」

「家族を出されると、流石に強く引き止められないわね」

 

 う~んと、首をかしげて思案している様子。

 俺はスマホを取り出して、画面が移す数字を確認する。

 

「…十分くらいならいいですよ」

「あら、子供に気を使われちゃった」

「お母さん?」

 

 どこかいつもと違う雰囲気を嗅ぎ取ったのか、犬吠埼は自身の母に一言尋ねる。

 すると、犬吠埼母は少し腰を下げて犬吠埼と目線を合わせると、諭すように言った。

 

「風、先にお夕飯の準備しておいてくれない?」

「…お母さん、変なこと言わないでよ」

「分かったから、樹のこと、ちゃんと見ていおいてね?」

 

 そして頭を軽くなでる。

 その言葉を聞くと、犬吠埼は靴を脱いで玄関に上がる。 

 そして、こちらを振り向くと小さく手を振って、

 

「じゃ、また明日ね!今日は助かっちゃった!」

 

 笑顔につられて俺も手を振り、また明日、を伝える。

 犬吠埼はゆっくりと扉を閉めると、マンションの廊下は静寂で包まれた。

 犬吠埼母は、少しお茶目に両手を顔の前で合わせる。

 

「ごめんね?ちょっと時間貰ってもいいかな?」

「まあ、いつもそこそこ遅い時間なんで」

 

 今更、多少遅れても大して変わらないだろう。

 

「……アナタ、お姉さん共々大赦の関係者よね?」

「なんかこっちが隠してたみたいな口ぶりじゃないですか」

「あら、ごめんなさい。別になにかを問い詰めようってわけじゃないの」 

 

 俺は心外だと不満をあらわにすると、すぐに申し訳なさそうにフォローを入れる。

 次に俺の耳に飛び込んできたのは、余りに斜め上の質問。

 

「アナタは、うちの風のことどう思ってる?」

 

 なんだその質問。

 新手の死刑宣告か?

 いや、質問の意味は分かる。

 分かっているのだが、親が聞いていいことではないだろ。

 どうこたえるのが正解なんだこれ?

 

「あ、もしかして樹の方だった?」

「良く分からない男に、そんな簡単に自身の娘を勧めていいんですか?」

 

 思わずツッコんでしまったが、ウフフと笑みを浮かべたままで、何も言葉を返さない。

 一体何があるのかと探ってみようにも、向こうから切り出してもらわないと、どうにもならない。

 

「アナタにお願いがあるのよ」

「はあ、お願い」

 

 どうも、さっきから人払いをしたりと重要そうな話をする雰囲気を出しつつも、要領を得ない話に、オウム返しをするしかない。

 

「そのうち分かるというか、思い知らされるというか。……勇者の話だからはっきり言えないのだけれど」

 

 でたよ。

 大赦の大人共はすぐにはぐらかして、確信的なことはほとんど言わない。

 

「ごめんね。大赦の大人たちは信用できないと思うけど、だからこそ君にお願いしたいの」

 

 どうやら君はうちの子を悪く思ってないみたいだし、と続ける。

 

「あの子たちはきっと大きな試練にぶつかることになるわ」

 

「でも、どこかで折れてしまうかもしれない」

 

「まだ中学生の女の子なのよ。だから、ちょっとでも気にかけておいて欲しいの」

 

 廊下から外に繋がる手すりに肘をかける。

 

「特に風のこと」

 

「それは、なぜ」

 

 フフッと漏れ出したのは、我が子を愛し、慈しむもので。

 

「あの子、自分は姉だからって張り切っているのよ。最近」

 

「姉とか関係なく学校でもそんな感じですけど」

 

「そうでしょうね、自慢の娘よ。だからこそ、まじめで、優しいから、背負いすぎちゃうのよ」

 

「あの子には、寄りかかれる人が必要なのよ」

 

 一息。

 お願いは全て伝え終わったことで、廊下はまた静寂に戻る。

 

「俺よりふさわしい人がいると思いますよ」

 

 突拍子もない話に、突いて出た言葉はそれだった。

 我ながら情けないと思う。

 けれど、犬吠埼母はその心境を知ってか知らずか、意に返さず答える。

 

「女の子は二人だけの秘密、みたいなものに憧れるのよ?アナタは理想の人になると思うわ!」

 

 そのお願いには簡単に答えられるほどの自信はまだ持ち合わせていない。

 が、誰かのためにと行動している彼女の恥にならないようにはしたい、とは思う。

 

 

 




サンプル少ないとはいえ、思ったより評価高くてびっくりしてます。
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