メガネって女子力高くない?   作:わかなつ

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これがやりたかっただけ。


チャレンジャー?

 

「ついに来たぜ、決勝」

「そんなことより、お前ら知ってるか?うちのチア部めっちゃ注目されてるらしいぞ」

「チア部が、って言うより、とある一人がって感じらしいですけど」

「お前ら、そんな緊張感で大丈夫か?」

「試合中に緊張するよりいいでしょ」

 

 試合前のバスの中で話題に上がるのは、とある一人の女生徒についてだった。

 

「あの子って去年はいなかったよな?一年か?」

「確か二年ですよ。こいつらととおんなじクラスだったはずです」

 

 面倒ごとの気配を察知した俺は、自分に矛先が向かない様に、相手チームのデータに目を落とす。

 

「おい、なに自分は関係ないみたいな顔してるんだ」

「だって、絶対先輩絡んでくるじゃないですか」

「そうとも限らないだろう?で、どうなんだ」

「言った傍から。一応聞きます、どうなんだってなんですか」

「んなもん、気があるのかどうかってことに決まっているだろ」

「かなり目立っているしね。クラスでも人気あるんじゃない?」

 

 どう答えたもんかと悩んでいると、同じ学年のやつが割って入る。

 

「犬吠埼っすか?誰にでも優しくて、面倒見がいいですよ。なんか部活でいろんなところに行ってて…」

「勇者部。今回もそのために助っ人に来たんじゃないですか?」

 

 俺に代わって、丁寧に先輩に説明をする。

 

「そんな細かいことはいいんだよ。お前らがどう思ってんのかはよ言え」

 

 本格的に面倒ごとになったと、答えに躊躇していたところで、一人が少しためらいがちに一言。

 

「俺は、割といいと思ってますよ」

「はあ!?お前、この間は隣の別の女子のこと気になってるとか言ってたじゃねーか!」

「うるせえ!それとこれとは別だろ?」

 

 よし、後はこいつに任せて俺は相手のデータ分析に集中しよう。

 試合前の準備だったら、流石に誰もわざわざ邪魔しようとは思わないだろう。

 肩を叩かれる。

 

「で、お前はどうなんだって。あいつで話が流れると思うなよ?」

「お前、予選ではスタンドからいっつも手を振りあってたよな」

「こいつ、確か犬吠埼と小学校から同じですよ」

「死ね。余計なこと言うな」

 

 結局、何かしら言わないと解放されない奴か、これ。

 …………思案。 

 

「普通に、尊敬できます」

 

 おおっ、と一瞬周りから声が上がる。

 

「すぐに色恋に結びつける。女々しいですよ。…………誰かのために、自分から行動を起こせることって素敵じゃないですか。100の善意で誰かに手を差し伸べるところは、素直に尊敬できます。一人の人間として」

 

 シーンと周りが静まり返る。

 

「なんか難しいこと語るな」

 

 どうやら、お気に召さなかったらしい。 

 

「人が冗長的に語るときは、照れ隠しなんだぜ」

「野球バカが知った口きいてら」

「じゃあ、そろそろ野球バカらしく準備するか」

 

 そうして、皆の話が対戦相手へと移っていく。

 ようやく解放されたと肩の力を抜いたところで、感触。

 背もたれの上から、先輩が手と顔を出していた

 

「今日の登板は先輩ですよ」

「まあ、そういうな。その先輩からのありがたーいお言葉をくれてやろう」

 

 なんだそれ。

 

「お前は難しく考えすぎなんだよ。人間関係ぐらい、もっと衝動的になれ」

 

 人間関係云々はともかく、そもそも部活に性を出している現状で本当に良かったのかと、今でも迷う。

 姉があんなことになり、一人縛り付けられているような中でもっとできることはあるのではないかと。

 大赦の予言では、侵攻が再開するまではまだまだ時間があるとのことだが……。

 いきなり部を抜ければ、それはそれで怪しまれて余計なトラブルを招きかねないし、武にも迷惑がかかる。

 

「そういう性分なんですよ」

「そういうところだぞ。今も」

 

 くつくつと笑う。

 なにが面白いんだ。

 

「ま、そこはお前の長所でもあるからな。今回の指揮も任せたぞ」

 

 バスを降りて球場に入ると、ベンチ裏から上がっていく。

 決勝ということもあってか、スタンドにはこれまでよりも多くの人が入っている。

 不意に背後から鳴り物がなり始める。

 ベンチのすぐ上の応援席では、吹奏楽や応援団など、讃州中学の制服を着た生徒たちが並んでいる。

 もちろん最前線にはにはチア部もおり、見慣れた顔はすぐに見つけることができた。

 当の本人は、こちらを見つけるといつものようにニカッと笑顔を見せて手を振った。

 さっきの話もあって、正直意識してしまう故、気付いていない振りをしたい。

 が、そんなことをしたら、終わった後に何を言われるか分かったものでもない。

 面識のある二年は全員手を振って返し、俺も平静を装いつつ、手を振り返した。

 何となく、周りの視線が刺さる気がする。

 そんなんいいからアップしろや。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 さて、互いのノックなどのウォームアップが終わると、ベンチの前で円陣を組む。

「打順はいつも通り、投手は当然エースで行きます。先輩、いけますか」

「おう、任しとけ。準決勝は後輩が何とかつないでくれたからな。四回しか投げてないし十分休めたよ」

「攻撃は何かあるか?」

「今回はこっちが先行なので、走塁に関しては、初回からある程度サインを出します」

「バッティングに関しては…」

「いつも通りです。舞台は俺が用意します。全力で打ってください」

 

「しゃいくぞ!」

「「「「オオッー!!」」」」

 

 審判による整列の合図がかかると、円陣が解かれ、相手チームと向き合う。

 そして、試合開始の合図がかかり、互いに礼をしあう。

 それが終わると、アタシたちも応援の準備にかかる。

 アイツは二番バッターということで、ネクストで軽く素振りをしながら相手投手の様子を確認している。

 

「犬吠埼さん、野球部の男子と結構仲いいよね」

 

 右隣からそんな声をかけてくるのは、同じ二年生で隣のクラスのチア部の子だ。

 

「そう?普通にクラスメイトだったらこんなものよ?」

「えー、でもキャッチャーの子とはただならぬ関係性の様に見えますが?」

「小学校からの知り合いだもの。そりゃあ、他の人とはちょっと違うわよ」

 

 他にも、勇者のお勤めに関してもあるのだが、言えるわけもなく。

 

「あ、ほら試合始まるよ!」

 

 一番ショートのアナウンスと共に、一人の選手が打席に向かっていく。

 と、その選手は途中で急に足を止めると、こちらの方にくるりと体を向ける。

 

「HeyHeyHey!Come on ギャラリー!」

 

 スタンドに向けて声をかけ、私たちもその声に合わせて声援を送る。

 すると、相手側のスタンドからも応援の声が沸き上がり、会場の盛り上がりが増す。

 

「相変わらず、すごいわね」

「ね、こっちも引っ張られて声出ちゃうよ」

「そうです。彼は一年生にしてスタメンを勝ち取り、しかも一番でショートという、まさしく天才というべき逸材。今大会の打率は6割を超えています」

 

 今度は左隣の子が解説を始めた。

 ふと、自分の部の後輩たちの顔もつい、思い浮かんでしまった。

 確かに、どこも頼りがいのある後輩がいるものなのだな、と感心してしまう。

 

「相変わらず詳しいねー」

「応援をする以上、選手のことを知るのは当然のことです」

 

 少し控えめにそういう彼女は、チア部の一年生らしく、この大会の間、ずっとアタシの隣で選手について話してくれていた。

 野球のルールとかは知っていたが、どういう選手がいて、どういうプレーが良いとかは良く分からなかったので、とても面白かった。

 そして、その一年生が左打席に入ると、間もなくプレイボールがコールされる。

 と、その直後にパカンと乾いた木の音が響く。

 

「流石ですね。さあ、私たちも声出していきましょう!」

 

 早速ヒットが出たところで、チア部全員で会場を盛り上げる。

 そんな歓声の中、次のバッターが打席に入る。

 二番キャッチャー、……アイツが打席に入る。

 

「あの一番選手は素晴らしいですが、やはりこの人の働きが重要になっています」

「アイツ、そんなすごいの?」

「そうですね…。今大会の打率は2割5分で特別高いというわけではありませんが、チームの司令塔として、そして打線の繋ぎ役としての働きは素晴らしいです」

 

 そうなのか。

 知り合いがそこまで褒められると、ちょっと照れてしまう。

 

「…なによ」

「いやー、犬吠埼さんなんだか嬉しそうで」

「そんなんじゃないから!」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 左打席に入ると、相手キャッチャーから声をかけられる。

 

「お前みたいな非力が二番とはね。繋ぎの二番なんて怖くもないし、何百年前の野球やってるんだよ」

「ご期待に沿えず申し訳ないね。けど、それが俺に任された役割なんで。お宅の投手陣もすごいですね。全試合継投で二失点以内」

「学生野球でも、いまは投手は分業制よ。古田気取り」

 

 今、塁にいるあいつには足がある。

 当然、走っていきたいところだが…。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「ねえ、いつもあの人がやってるアレは何?」

「サインを出しているんですよ。今塁にいる選手は足が速いですから、盗塁を狙っているんだと思います」

 

 確かに、試合を見ているといつも何か仕草をしていると思っていたが、本当に司令塔としてやっているのか。

 改めて試合の方に意識を移す。

 相手投手は、少し止まった後に一球けん制するが、走者は足から帰る。

 

「やはり、向こうも警戒しているようですね」

 

 リードも小さく、どうにも走る気はないように見える。

 そして、相手投手が初球を投げると、ボールがコールされる。

 二球目ストライクを取りに行くも、見逃し、ランナーも動かない。

 

「走らないのかな?」

 

 三球目…、

 一塁ランナーは走りだし、打者はスイングする。

 

「エンドラン!」

 

 リードが小さいならば刺せると、キャッチャーは送球体勢に入ろうとするが…

 打者のスイングはボールのはるか上を通って空振る、そのタイミングでキャッチャーは止まる。

 視線の先のランナーはすでに二塁に足から滑り込んでいる所だった。

 

「yeaa!ナイス盗塁オレ!」

 

 盗塁の成功に合わせて声援を送る。

 四球目、ストライクかどうかギリギリの球を無理やり引っ張る。

 打球は一二塁間を力なく転がり、00はアウトになる。

 が、ランナーは三塁に進塁。

 

「相変わらず、いい仕事ですね」

「そうなの?」

 

 右の子がアタシを挟んで左の子に尋ねる。

 

「そうなんですよ。今の場面、まず盗塁が警戒されている中で、一度ないと思わせてから盗塁を敢行。そして、実はさっきの空振りは相手のキャッチャーの目線の高さでわざと空振りしているんですよ。これで目隠しにすることによって、相手に投げさせない様にしたんです」

 

 へえ、そんなに細かいことが…

 

「でも、アウトになっちゃったよ?」

「それはですね、そのあとの球を引張に行くことで、ワンアウト三塁。これで次からは犠牲フライとかの最低限で一点をとれる状況にしたんですよ!」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー 

 

 初回から相手も全力投球だった。

 向こうは今日も継投だろうから、フルパワーで投げ込んでくるし、なんとか先制したいところ。

 

「フンッ」

 

 ボールは高く打ちあがり、センターからレフト方向へ飛んでいく。

 

「若干浅いか?」

 

 スタンドから観客の声が聞こえてくる。

 いや、この距離だったら

 

「この天才を舐めてもらってはいかんのですよ」

 

 センターがグラブを構えて…

 

「ゴー!」

 

 グラブに収まると同時に、三塁からのタッチアップ。

 相手も送球を行うが、捕球体制が良くなかったことで、ボールが本塁に帰ってきたときにはすでにその足は本塁を踏んでいた。

 

「ナイス走塁!当たり前のようにかえってきやがって」

「先輩方がつないでくれたのでね。そこの二人にも敢闘賞をくれてやりましょう」

 生意気言ってんじゃねえ。

 なにはともあれ先制点。

 このまま畳みかけていきたいところだが…

 続くバッターは打ち取られて攻守交替

 

 

 

 俺はいつものようにマウンドで先輩に作戦を伝える。

 

「改めて、基本はフォーシーム、カーブ、カットで。スライダーもよさそうですけど、負担がデカいのでいざという時だけで。カーブの時に肘が緩むのだけ注意していきましょう」

 

 しかし、先輩は俺の話をどこか上の空で聞いていない様に見える。

 そして、それは明らかに一つの物を見ていた。

 

「聞いてます?」

「なあ、石。俺はこの決勝の舞台でなにを思う?」

「日本語大丈夫ですか?」

「そうか分からないか。なら教えてやろう。あそこを見ろ」

 

 先輩が指をさした方向を見る。

 と、その先にはスタンドで応援している犬吠埼がいた。

 

「あそこにチア部がいるだろう?俺が奪三振ショーをしたらどうなると思う?」

「盛り上がるんじゃないですか?」

「そうだ、盛り上がるということはつまり…チラリする可能性がある!」

「みんなスパッツですよ」

「それが良いんだろうが!お前が気になるあの子もいるんじ」

「よっしゃ、行きましょう!今日は次の試合考えなくていいので、初回からフルパワーで行きましょう」

「気になる女子に対する、言い逃れできない反応止めれ」

「冗談ですよ」

 

 ……

 

「「へへへへへへ」」

「じゃあ、配球はさっき言った通りで!」

「おう!」

 

 守備位置に付く。

 

 相手の一番打者が打席に入る。

 出塁率が高く、とにかく塁に出ようというバッティングをしてくる、厄介なバッターだ。

 だが、そこまでパワーがあるということはない。

 力押しで行こうか。

 

 全球ストレートで三球三振。

 最初からクライマックスだな。

 と、先輩の様子を見ると、明らかに味方がいるスタンドの方を見ていた。

 本当にチア目的かよ。

 …俺はマスクとポジションのせいでほとんど見えないのに。

 

 二番投手がコールされる。

 二番強打者理論か。

 投手としても、打者としても超一流。

 大谷翔平かな?

 実際、この選手はこの大会で最強と言っても過言ではないだろう。

 さっきの攻撃でも、先制はしたがヒットは一本しか打てていない。

 打撃もトータルで4割を超えている上にほとんどが長打な以上、敬遠でもいいが…。

 ランナーいないし、勢いをつけるためにもここは勝負していこう。

 初球厳しく胸元のインコースっっ…!

「クソが」

 打球は強烈な勢いで三塁線を抜け、悠々と二塁打になった。

「ドンマイ!ホームランじゃなければいいぞ!」

 

 その後は後続を抑えて、こちらは無失点の立ち上がりで始まった。

 

 

 

 9回表

 結局、初回以降こちらは得点することが出来ず、なんとか粘っていくだけの展開。

 ただ、相手も二番がソロ本塁打を打ったのみで、その後は得点できない投手戦となった。

 現在のスコアは一対一。

 8回裏時点で、こっちのエースの変化球の曲がりは悪くなっていた。

 おそらくは限界が近い。

 ベンチの投手陣も相手に比べたら劣る以上、ここで得点できなければおそらく粘り負けする。

 …ここで点を取るしかない。

 こちらの攻撃は九番からか。

 一発が無い並びが続く以上、とにかく出塁しないと…

 が、九番はあえなく三振に倒れる。

 相手チームの歓声が球場に響く。

 

「すまん。最後を後輩共に託すことになるとは。情けないよ」

「先輩は守備で貢献してるのでモーマンタイです。いいから、9回の守備までにはそのメンタル戻しといてください。アレと二遊間合わせられるのはあなただけです」

 

 ネクストの中から声をかけて、その背中を見送る。

 しかし、まずいな。

 このままだと勢い持ってかれるぞ。

 味方全体に嫌な予感が漂ってきたところ。

 

 一閃

 

 パカンと木の音が響く。

 白球が宙を飛ぶ。

 歓声を伴って、そのまま、伸びて、伸びて、伸びて

 

 あと少しの所で届かず、フェンスに強烈にぶつかる。

 勢いを落とさず一塁を蹴ると、二塁に到達する。

 

「HeyHeyHey!試合終わってねえぞ!」

 

 頼りになる後輩だな。

 さて、状況はワンアウト二塁、ランナーは俊足、相手の投手も少々疲れが見える、左、この後のバッターはここまでヒットなし。

 

「ップー……」

 

 俺が決めに行くしかないか?

 いや、バントで後に託す選択も…。

 

 

「おーーーい!」

 

 

 うおっ、なに!

 

 

「ファイトー!」

 

 

 ………その声が、誰の声であるか、など分かり切っているのだが、思わずスタンドの方に振り返る。

 やはりというべきか、犬吠埼が前のめりになってこちらに声援を送っている姿が見えた。

 ……

 

 あのさあ、俺の打率2割5分下回ってんだぜ?

 誰がどう見ても非力な繋ぎ役で、試合を決めるバッティングするタイプじゃない…

 

 

 けどさあ…

 

 

 かっこつけたくなっちゃうじゃん?

 

 

 女子にこんだけ応援されたらさあ!

 

 

「っしゃあ!やったるで!お前ら声出せ!」

  

 スタンド、ベンチ、球場全体に向けてを煽りを入れる。

 素振りで気合を入れる。

 歓声を背中に受けながら、打席に入ると礼をする。

 

 さて、こうして打席に入ってきた以上、相手は当然守備を後ろに下げるよな。

 こんだけ熱血根性展開になったら、お前らも燃えるよな。

 初球ストレート。

 

 

 ありがとうございます。

 

 

 俺はバットを体の前に差し出した。

「バントかよ」

 相手キャッチャーの漏れ出た声が聞こえる。

 狙うはキャッチャー、ピッチャー、サードの間。

 バットとボールが当たるタイミングで、全身を使ってボールの勢いを殺す。

 こつん

 

 勝負はここから。

 味方の歓声も、試合展開も、打席の前の素振りも全て利用した不意の選択しに相手の反応が遅れる。

 

 一コンマ

 

 キャッチャー、ピッチャー、サードが前に出るが、誰がとるかで一瞬迷う。

 

 一コンマ

 

 三塁のカバーでサードは一瞬迷う。

 ピッチャーは左でキャッチャーが右な以上、三塁方向の打球処理に一瞬遅れる。

 

 一コンマ

 

 キャッチャーがとって反転、一塁に転送しようとする。

 

「三塁回ってる!」

「チッ」

 

 一塁送球に一瞬躊躇する。

 

 一コンマ

 

 ファーストは一塁でのアウトを諦めて、捕球後に本塁でのアウトに切り替える。

 

「一塁回ってる!」

 

 バッターは一塁を蹴って、二塁に向かう。

 ファーストに、二塁でアウトを取る選択肢が生まれる。

 

 一コンマ

 

 しかし、諦めてそのまま本塁に送球する体勢。

 キャッチャーがバント処理に行った以上、ピッチャー本塁のベースカバーに入る。

 キャッチャーとピッチャーが交差する位置。

 バント処理からのベースカバーで一瞬遅れる。

 

 一コンマ

 

 ファーストの送球を受け取り、ランナーにタッチしにいくが、本職とは違う動き。

 

「ナイス時間稼ぎ」

 

 本塁に勢いそのままにヘッドスライディングする。

 本塁に巻き上がる砂煙。

 審判の判定は…

 

 その手は横に広げられる。

 

 セーフ

 

 手首だけで相手のグラブを避けると、その手の中指のみでベースに触れていた。

 

「yeaaaa!スーパーヒーローオレに盛大な拍手を!」

 

 ……

 

「うおおおお!」

 

 一瞬の静寂の後、歓声と共に再びスタンドから歓喜の声が轟く。

 

「ナイス走塁だよ馬鹿野郎!」

「生意気なギャンブルしやがって!」

 

 一年がチームメイトたちにもみくちゃにされる。

 

「俺の働きは当然です。それより、この歓声はあの人の物ですよ」

 

 

 俺はバッティンググローブとプロテクターを外しながら空を仰ぐ。

 ああ、うまくいった。

 良かった

 あいつ、サイン出していたとはいえ、なんであそこで一瞬の躊躇もないかね。

 ブラフにあそこまでの効果あるとはな。

 犬吠埼の声でちょっとだけ冷静になったわ。

 ベンチの方に視線を向ける。

 そこではチームメイトが返ってきたランナーを手荒い歓迎で迎えている中、こちらにも手を振っている。

 少し上に向ければ、犬吠埼がこちらに向けて拳の掲げていた。

 なんだよそれ。

 チアの応援しなくていいのかよ、とか、この後あの馬鹿どもに問い詰められることになる、とか

  

 きれいなタイムリーでもなければ、豪快なホームランでもないけど、少しはかっこつけられただろうか。

 

 そして、俺も答えるように拳を掲げた。

 

 

 さて、なんとか勝ち越しはしたわけだが、攻撃はまだ続いている。

 ここで、ピッチャー交代。

 それと共に、三番が打席に入る。

 

「なんかあいつの独壇場みたいな雰囲気だけど、このままで終わると思うなよ?」

 

 交代際の初球を振り抜く。

 バッターはそのままゆっくりと歩きだす。

 白球は高い放物線を描いて、そのままバックスクリーンへ飛び込んでいった。

 

「これで三打点。今日のヒーローはお前じゃないから」

 

 再びの歓声の中、ダイヤモンドを一周した

 

 

 

「この試合は後輩たちのおかげで勝てたよ」

「先輩たち、ノーヒットでしたもんね」

「一年、気を遣え。守備で一失点に抑えたからいんだよ」

「その前の試合では打ちましたし、誰も文句ないですよ」

「それより、完璧なホームランだったな!マジで!」

「そっちスカ?俺の神走塁じゃないんですか?」

「ばかやろ、あの場面でのバントの方がやばいって!」

「転がした位置も最高でしたね」

 

 帰りのバスの中。

 先ほどの試合の熱も冷めやらぬまま、俺たちは思い思いにこれまでの試合について語っていた。

 その中心になっているのは、当然、この試合の得点についてのことだった。

 他にも、皆それぞれ達成感に包まれているようで、満足そうだった。

 9回のバントについても話には上がるのだが、当の俺の中にあるのは達成感ではなく、安心感だった。

 あの場面、普通なら、いつもの自分だったら、確実に送って後ろに託していた。

 けれど欲張った。

 この試合で打てていなかった味方を信頼できなかった。

 それより前の試合では信じていたのに。

 それより

 何より

 あの試合だけでも

 あの瞬間だけでも

 チームよりも一人の声を優先した。

 

「はああああああ」

 

 大きく、大きく、わざとらしくため息をこぼす。

 

「おい、なんで勝ったのにそんなに不満そうなんだよ」

 

 そんな姿を見たチームメイトの一人が詰めてくる。

 

「いや、ちょっと調子に乗ったと思って」

「たかだか一打点程度で何言ってんだよ。今日のMVPは一試合三打点の俺だからな!異論は認めん!」

「なんでそんなに強調してくる」

「そりゃ、もう、あれよ」

「あれってなんだよ」

 

 聞き返してみるも、言い淀む。

 自分から突っかかってきておいて、どうしてそうなる。

 その後も、しばらく身振り手振りで何かを伝えようとしているのだが、いかんせん言葉があやふやで、何が言いたいのかよく分からない。

 なんなんだ、こいつは

 容量の得ない会話に退屈になった俺は、なんとはなしに窓の外を眺める。

 立ち並ぶ家が、順番に右から左へと流れていく。

 その隙間から、黄色の光が漏れ出している。

 

 歓声と熱気の中で、はっきりとスタンドに見えたのは、あのはつらつとした笑顔。

 

「はああああああ」

「よし、俺は言うからな!」

 

 再び漏れ出したため息に、かぶさる威勢のいい声。

 ようやく、何を伝えたいのかまとまったのか。

 

「おい、人が覚悟を決めたのにその態度はなんだ」

「知らん。いいからはっきり言え」

 

 どうせそこまで大したことではないだろう、と冷静だった心は、次の言葉ですぐに崩された。

 

「俺、犬吠埼に告る」

 

 は?

「「「はあああああああああ!?」」」

 

 今の心情を代弁するような声が、バスの中に響く。

 

「おまっ、マジで言ってんの?」

「マジです!」

「え、いつ?いつ行くん?」

「絶対言いませんから!あんたら、絶対邪魔しに来るでしょ!」

「あったり前だよなあ!?」

「あーっ!今言うんじゃなかった!」

 

 俺の心が元に戻って行く間もなく、隣の男に怒涛の質問が浴びせられる。

 

「え、なんで、いま、言ったん?」

 

 それでも、冷静を装うようにできるだけ努めながら、ゆっくりと言葉を紡いだ。

 

「いやあ、さっきも言ったけど、俺、今日三打点じゃん?」

「そうだな」

「先制点と決勝点をとったわけじゃん?」

「勝ち越し点は俺だけどな」

「俺が今日の試合で一番活躍したわけじゃん?」

「オレの走塁のおかげですよ」

「お前ら、いったん黙ってろ」

 

 先輩に諫められられると、大人しく黙り込んだ。

 一拍置いて、

 

「今日の活躍で自身がついた!俺はこの勝負も勝ちにいくぞおおお!」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 大会が終わってから数週間後。

 

「えー?同年代の男子ってなんか子供っぽいじゃない」

「年上がご所望で?」

「そうよ。この間だって、なにで盛り上がっているのかと思ったら、エッチな話で盛り上がってたし!やっぱり、スマートにエスコートしてくれる人が良いわよね」

「俺、一応年上だけどな」

「たった半月ぽっち、誕生日が早いだけじゃないの」

 

 授業終わりの教室で、いつものように俺たちはだべっていた。

 互いに部活が始まるまでのつかの間の休息の時。

 ここだけを切り取ってみてみれば、今にもこの世界が終焉に向かっていることなど誰も信じられないだろう。

 当の自分たちですらそんな気配を感じることもなく、本当にあの化け物がまた来るように思えないのだから。

 そうして、自分の机の木目が少しずつ見えてきたところで、隣にいた犬吠埼は立ち上がって荷物を肩にかける。

 

「なんか急いでる?」

 

 野球部はチームプレイゆえに集団行動を強制されるため、基本的に部活の開始は全員がそろってからなので、それまではまだ時間がある。

 一方の勇者部は、例の条文以外に対してしばりつける決まりがあるわけでもないので、いつも俺が先に出ていくところで別れることになるのだ。

 そんなわけで、珍しく俺を置いて先に教室を立とうとする犬吠埼に投げかける疑問は当然のものだと思うのだが。

 その相手はそのまま背を向け、そそくさと立ち去ろうとしていた足を止めて、ゆっくりとこちらの様子を窺うように振り返った。

 その表情はどこか気まずそうにしており、何かを口に出そうとするもすぐに飲み込んだりと、開閉を繰り返している。

 ……怪しすぎる。

 前に夜中に一人で取り残されたときも思ったが、この昔なじみは隠し事が下手すぎる。

 その時も、明らかにおかしな挙動をしていたし、お化けが怖いと言われて何事かと……。

 ともかく、隠したいことなのであればこちらから無理に引き出そうとするものでもない。

 彼氏彼女というわけでもないのだから、自分に問い詰める権利などないだろう。

 まあ、正直なところ心当たりしかないのだが……。

 あの馬鹿、何回目だ?

 あまりしつこくするのは、普通にキショいから止めとけと言っておこうか。

 犬吠埼の言葉を待ちながら、一人脳内で遊んでいると、ようやくその口から音が鳴った。

 

「ごめん、言えない」

「……やましいことでも?」

 

 先ほど、自分で問い詰める権利などないと言っておきながら、つい出てしまった。

 一体どうしてだろうか。

 心当たりもある。

 わざわざ聞くことではない。 

 無粋であることは頭では理解しているのだが、なぜか聞き返してしまった。

 その自己矛盾と、犬吠埼が隠し事をしているという事実が相まって、奥歯に食べかすが挟まったような、何とも言えない不安が沸き上がってくる。

 

「……そうじゃないの」

 

 そんな俺の内心は知る由もなく。

 犬吠埼はこちらの目をまっすぐに見据える。

 

「やましいとか、なにか罪になることじゃなくて。これは、本当にアタシが自分でしっかりと結論を出さなくてはいけない事だから。ちゃんと相手の気持ちに向き合って、自分の答えを出さなくてはいけない事なの」

 

 その本当に言葉が示す通りに、その目は真剣そのものだった。

 先ほどの態度に現れていたものとは大違いで、まっすぐとした瞳でこちらを貫いてくる。

 どこか、自分の不安と、迷いと、黒い感情まで見透かされているような気がする。

 背筋が凍る。

 自分だって、犯罪を犯したわけでも、やましいことをしたわけでもないのに、気まずさを感じて目をそらしてしまう。

 先ほどまで、隠し事をしていそうな犬吠埼をこちらが探っていたはずなのに、逆にこちらが追い込まれているような状況になってしまったような気がする。

 そんな俺の内心の焦りなどいざ知らず。

 

「それじゃ!あんまり相手を待たせるわけにもいかないから、お先に失礼!」

「ああ、うん」

 

 はつらつとした笑顔を見せると、振り返って教室の扉へ駆けていく。

 その背中を見て、つい手を伸ばしてしまうが、それは届く前に範囲から外れ、触れることはない。

 諦めて自分もさっさと荷物を片付けようと、体を動かそうとしたとき。

 犬吠埼は扉の前で立ち止まると、くるりと体を回して、こちらを窺う。

 再び目が合ったことを確認すると、また笑顔を見せて

 

「部活がんばにりなさい!お互いに!」

 

 そう言って軽く手を振って教室を出ていった。

 対して、ただその返事として手を振り返すことしかできず、なにか言葉にしようにも

 

「ああ…」

 

 と情けない声を出してその背中を見届ける事しかできないのだった。

 ………

 

「あああああ!よいしょお!」

 

 気合を入れると、その奇声に教室に残っていたクラスメイト達の奇怪なものをみる視線が突き刺さるが、今更気にしない。

 勢いよく立ち上がると、そのままになっていた机の上の残りの荷物をまとめてカバンに詰め込み、教室を駆け出した。

 

 

 部活終わり。

 今日は一週間中で練習時間が短い日。

 空もまだ明るく、青い光が差し込んでくる時間だった。

 今日の部活も問題なし! 

 同級生の外野手の一人がやたらと呆けたような顔をしていたこと以外は。

 そんなわけで、他の部員もそいつのことに気がとられて練習に集中しきれている感じもなかったので、早めに終わったのはちょうどよかった。

 果たして、二人の間でどんな結論を出したのかを話そうとはしていないが、チームメイトと話している様子を見ると、落としどころは見つけられたらしいことは察することが出来た。

 練習着から着替えて荷物をまとめると、校門へ向かう。

 ……間がいいのか悪いのか。

 そこにはきれいな髪をなびかせた犬吠埼が壁に背を預けている様子がうかがえた。

 スマホを片手に誰かを待ち望んでいるようすで、

 ……あっ

 あーーー……

 そういうことね…

 そこに落ち着いたのか。

 正直、そこに行くのはちょっと、いや、かなり意外だな。

 男子は子供っぽいから無理とか言ってたような気がするけど、まあそういうものではないか。

 と、いうわけで、ここは自らの気配を消して邪魔にならない様に…

 

「おい」

「ぐえっ」

 

 背中に背負っていたカバンを掴まれると同時に、息が詰まる。

 カエルのような声というものを、自分の口からきくことになるとは思わなかった。

 

「やめて、やめて。締まってるから」

「試合が終わって、緩んだメンタルにはちょうどいいんじゃないの?」

「……見てたんかい」

 

 そっちの活動もあるだろうに。

 というか、わざわざそういう惚気を聞かされるのもやめて欲しいのだが。

 どういう反応をしたらいいのか分からんのだが。

 

「で、何の用でしょうか」

 

 腕を後ろに回すと、カバンを引っ張るその手を軽く二回叩く。

 ようやく満足に酸素を味わうことが出来るようになると、その手が離されたことが分かる。

 そして向き直ると、犬吠埼の表情は想像していたものとは異なり、なぜか不満そうだった。

 なぜに。

 

「この後、時間ある?」

 

 先ほど放したはずの手は、服の裾を掴んでいた。

 ……一体どういうことなのか。

 二人の様子を見たところ、全て円満な落としどころを見つけたものとばかり思っていたが……。

 そういうわけでもないらしいな。

 ……まあいいか。 

 

「愚痴になら高くつくぞ」

「レディに払わせる気?」

「俺は男女平等主義なんでね」

「信念のためなら、目の前の少女の涙を拭うこともしないのね」

「冗談だよ。慰めになるかは分からないけど、ぜひとも同行させてくれ」

「じゃあ、決まり!」

 

 そう言うと、犬吠埼は裾に掛けていた手で俺の手を取り、その髪をなびかせながら駆け出した。

 先手を取られてしまったことで、犬吠埼が足を取られない様に何とかついていこうと、俺も駆け出した。

 

 

 やがて、足を止めた家屋の看板には、「かめや」の文字があった。

 いつも通り、その木造の扉を開けるとおばちゃんが忙しそうに働いている様子を窺うことできる。

 いくつかの空いている席の中から、向き合って座ることのできるものを選んで椅子を引いた。

 改めて、周りに並んでいる他の席が空いていることを確認すると、座る席の隣にある別の椅子に荷物を置く。

 おばちゃんが二杯の水を盆にのせて持ってくる。

 こっちに来てからさんざ通ってきていため、メニュー表などをわざわざ見なくても注文は決まっている。

 と、いうことでその場で注文をする。

 

「肉ぶっかけにかしわ天で」

「アタシはかけうどんに、えび天とさつま天と…ちくわ天でお願いします」

 

 おばちゃんは注文のメモを取り終えると、軽く礼をして再び厨房へ引っ込んでいった。

 ようやっと落ち着いたことを確認し、机に置かれたコップを手に取ると、一息に飲み干した。

 向かいの少女の様子を見ると、同じようにコップの中身は空になっていた。

 

「食べ過ぎじゃないか?」

「アナタだって肉の上に天ぷら頼んでいるじゃない」

「俺は運動してきたからいいの。タンパク質採らないと筋肉はつかないからな」

「じゃあ、アタシだって問題ないわ。食べたものは全て女子力に変換されるから!」

「それ、出すの俺なんですけど」

「アナタも大赦からそこそこもらっているんでしょう?ここは甲斐性を見せなさいよ」

 

 ふむ。

 どうやら、体事態は健康そうだし、軽口を叩けるくらいには精神面でも問題はなさそうだが…。

 どう切り出したものかな……。

 

「で、ちょっと長くなるんだけど、いいかな?」

「ん?ああ、そうね。そのためだけに来たんだし、そうなるか」

 

 こちらから、どのように話をしようかと迷っていたが、向こうから誘ってきたこともあり、犬吠埼の方から切り出してきたのは助かる。

 そんなわけで、犬吠埼はこれまでの経緯を語り始めた。

 

 大会が終わってから数週間後、今日から数日前のことから話は始まった。

 その日、犬吠埼は放課後に学校の屋上に呼び出されたらしい。

 そこで野球部のあいつはその思いを伝えたということ。

 それに対して、犬吠埼はたびたび言っていたように同級生の中学生男子は子供っぽくてタイプではない、と一度は断った。

 しかし、それでもあいつはそこで引き下がることはなく、その後も放課後に呼び出しては何度も思いを伝えてきたんだと。

 そこまでは、まあよかった。

 引っかかる所がないわけではないが。

 主に相手の方で。

 で、ここからが問題だった。

 その後のある日、また誰かに呼び出されたらしいのだが、その日は少し違っていたそうな。

 放課後に待っていたところ、そこにやってきたのは一人の少女だったのだ。

 で、余りにも普段とは違う雰囲気に、その時に何を言われるのかと戦々恐々としていたところ、その口から零れ落ちたのは、この数日でさんざん聞かされた言葉だった。

 当然、犬吠埼は困惑した。

 流石に、女子から思いを伝えられることは想定外であった上に、当然、守備範囲外であったため、ここは素直に断ろうとしたのだ。

 が、ここで面倒なことになった。

 自分以外に呼び出される犬吠埼を見て、別の男の影を感じたのか、先ほどまでの話を聞いていたらしい野球部の男子が乱入してきてしまった。

 そこで何が始まるのかと思えば、まさかの犬吠埼の取り合いが始まった。

 互いに、自分の方が魅力を知っているのだの、こういう関係性だっただの、当の本人を置き去りにして口論は白熱していった。

 その場では、犬吠埼自身はどうしようもなくなってしまったものの、なんとか二人の間を仲裁してその場は収めることが出来たらしい。

 ここまででもすでにおなか一杯になる話なのだが、ここで終わらなかった。

 そこからまた数日後、

 放課後になると、再び屋上に呼び出された。

 丁度いいと、ここできっちり二人ともに断り、完全に水に流して関係を戻そうと、気合を入れて向かった。

 が、そこで待っていたのはやたら仲良さげにしている二人だった。

 一体何があったのかと訪ねたところ、二人は犬吠埼の魅力を互いにぶつけ合う内に、意気投合してしまい、関係を持つようになったのだという。

 

 そんな、一見意味不明な話を大人しく聞いていた。

 

「だっははははははは!」

「笑うな!」

「いや、だって……はっ、ようやくモテ期がきたと思ったのに……、結局、いちゃつくダシに使われて…ふはははは!」

「言い方ってもんがあるでしょ!せめてそう………」

「……うん、思いつかないなら無理しなくていいぞ」

「……そう、恋のキューピッドとか!」

 

 なにがどうしてこうなったのか、とグチグチと恨み節をこぼしていると、注文していたうどんが到着した。

 運動部をやっている自分の丼から衣がはみ出しているのは誰でも理解できると思うのだが、問題は向かいに置かれた方だ。

 なぜかこっちと同じくらいに黄色が見えているのにも関わらず、追加で別皿にも大きな塊が置かれているのだ。

 これだけなら、たくさん食べる女の子というだけなのだが、彼女はここからさらにおかわりを当然の様に追加するのだから恐ろしい。

 そこそこの収入があるとはいえ、満腹になる代わりに、財布は空腹になってしまう。

 ……財布に入っているよな?

 足りる?

 戦々恐々としながら、テーブルの下で懐の具合を確認する。

 そんな俺の心境などつゆ知らず、テーブルの上からは手を合わせる音の後に、うどんを啜る音も聞こえてくる。

 おごられるんだから、せめて待ってくれと思わないでもないが、やけくそ気味に麺を口に運ぶ姿と、悔しさと二人を祝福しないといけないという複雑な感情が入り混じる表情を見ると、流石に同情してしまい、糾弾する気も失せてしまう。

 

「計画性の無いやけ食いは肥えるぞ」

「はい、デリカシー!そんなんだから、アナタはモテないのよ!」

「あっけなく振られたくせによく言う」

「違いますう!そもそも振られてないし!一度も告白すらされたこともない人に言われたくないもんね!」

「お?たかだか一度だけで、もう恋愛強者ぶっているのか?」

「はい負け惜しみー!アタシは告白された!アナタはない!アタシの勝ち!なんで負けたか、明日までに考えといてください」

 

 ちきしょう!

 流石に何も言えねえ!

 と、いうことで、仕方なく大人しくうどんを啜る作業に戻った。

 それを見て、向こうも同じようにうどんに集中するようになっていった。

 

「ていうか、告白断ったんだな」

「なんで?」

「いや、普段からあれだけ女子力だの、恋愛マスターだの言っているし、わざわざ断る理由もなさそうだし」

「なに?アタシはそんなに尻軽だと思われてたの?心外」

「そうじゃなくてさ、経験だと思って付き合ってもおかしくないのになーって」

「……言ったでしょ。相手の気持ちには真摯に向き合って答えを出すのが礼儀じゃない?」

 

 ……真面目か。

 まともな過ぎて何も言うことがない。

 それに、あんまりこういう言い方は好きではないんだが、らしいな。

 けど、なんかしっくりこないんだよな……。

 

「じゃあ、他に心に決めた人がいるとか?」

 

 箸を動かす手が止まる。

 自分でも、結構踏み込んだ質問だが……。

 目線を右上に移して、しばし考えるような仕草をした後に返ってきたきた答えは。

 

「さあ、どうだろうね?」

 

 動揺を見せず、果たしてなんでもないことのように告げた。

 どこか含みのあるような口ぶりに、さらに詳細を根掘り葉掘り聞いてみたいような気がしたが、

 

「いや、やっぱいいや」

 

 これ以上は、踏み込んだらもとに戻れなくなるような気がして、その先を続けることはできなかった。

 

「それよりさ、そろそろ侵攻について真面目に警戒しないといけない気がするんだが」

「……うん、そうだね」

 

 あからさまに話をずらしたことを犬吠埼も察していたようだが、どう思ったのかは分からないが無視してそのまま話はバーテックスがいつ来るかという話に写っていった。

 

「………意気地なし」

 

 途中の小さなつぶやきが伝わることはなかった。

 




樹海の記憶を見て思いついた。時系列間違ってたら申し訳ない。
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