「それにしても90万円ねぇ」
ヒフミが欲しがっていた人形。いくら限定版とは言え高すぎる。そんな大金を学生が用意できる手段なんて………
『優勝賞金はなんと100万円!!!』
「あ、」
ある。さっきマーケットの不良の子が宣伝していた地下闘技大会。そこで優勝できれば、その賞金で人形を買える。
人形をヒフミにプレゼントしたら喜んでもらえるんじゃ……
いや待て。ブラックマーケットの闘技大会だぞ?想像もできないような強敵がいたり、運営の策略で優勝できない様になってるかもしれない
慎重に考えなければ。力があるからって何でも上手くいくわけじゃないんだ……!
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「エントリー完了!!!!!まさか君が来てくれるとはね!!!!!ナハハハハ!!!!」
異様な盛り上がりを見せる観客。血で汚れた金網。目がイカれそうになる色とりどりな照明。
いるだけで気分が悪い
結局、地下闘技場に来てしまった。さっきの不良の子に受付をしてもらって、もう後戻りはできない。
「あの…これって怪我をしたときってのは…?」
「問題ないさ!!!!!!君の反射神経には期待してるからね!!!!!」
「え、」
褒めてくれてるが、これは怪我をした時の対応はないって言ってるようなものじゃ
「まぁ!!!そんなことは気にせずに!!!!そこら辺の適当なマスク取っちゃって!!!!!!」
「は、はい」
言われるがまま、目を引かれた赤いマスクをかぶる。
「ふぅ…少し落ち着く……」
ドシャン!!
リングの方から金網が揺れる大きな音がした。そこで行われていた試合に決着がついたようだった
「おいおい!相手にならねぇヤツばっかりだな!!!!」
「げふっ……いたい……」
異様に肥大化した筋肉を持った子がリングの中心で雄叫びを上げる。対照的に金網に叩きつけられた対戦相手は腹をかばってうずくまっていた。
「ひぇ……」
「またボーンクラッシャーが勝っちゃったのかよ!!!!!これじゃ商売にならないな!!!!!」
金網が上がり、ボーンクラッシャーと呼ばれていた子がリングから降りた
「もっと刺激的な試合をさせてくれよ運営さん!」
彼女はストレッチしながら不満を漏らしている
「う〜〜〜〜ん……そうだな〜〜〜〜〜
……決めた!!!!ボーンクラッシャーを倒した奴にそのまま優勝をくれてやるよ!!!!」
不良の子が叫ぶ。それに呼応するように観客たちも大いに沸き立った
「え、それいいの…」
「盛り上がることのほうが重要だ!!!!!!!ボーンクラッシャーも問題ないだろ?????」
「ああ、問題ねぇ!!!全員ぶっ潰す」
「マジか……」
でも考えようによってはチャンスだ。こいつが連戦し終わったあとに私の試合が回ってくれば、楽に倒せるかも。それも1回の試合でだ
「というわけで、そこのチビ。私とやろうぜ」
ボーンクラッシャーの指が私を指す
「………え?は?」
「おおおっとぉ!!!指名が入った!!!!!早速試合を始めるぞ!!!!!」
運営の人たちに背中を押されて、リング中に追いやられる
「ちょっと…!まだ心の準備が…!!」
「いいからいいから!!!!!リングネームは????」
「へ?」
「リングネーム!!!!試合中に使う名前だよ!!!!!」
そんなの決めてないぞ。とりあえず適当に言うか
「く、蜘蛛ガールで……」
「蜘蛛ガール?????なんかダサいな!!!!」
大声な分、この不良の子が毒づくと結構メンタルにくるな
ガシャン!!!
リング内に両方の選手が入り、金網が閉まった。リングアナウンスのためにマイクに電源が入り、その反響が会場に響き渡る
「まずはコイツ!!言わずもがな最強!!!骨砕きの異名は伊達じゃない!!!ボーンクラッシャー!!!!伊藤マチコ!!!!!」
開場が歓声で揺れていた。黄色い声援と罵倒が入り交じり、最高にうるさい
「そしてこいつに挑もうとする愚か者の名前は!!!!!
……………えーっと…蜘蛛ガール……
やっぱりこれ、ダサすぎる…………。ふむ……」
不良が少しだけ考え込んだ後
「地獄からの使者!!!!スパイダーマン!!!!!」
ウソだろ。あいつ勝手にリングネームを変えやがった。なんだよ『マン』って。それじゃ男じゃないか
ていうかさっきから罵詈雑言を観客席から浴びせられている。死ねだとか、くたばれだとか。ここで言われた悪口を集めたら悪口の国語辞典を作れそうだ
「はぁ……幸先わる…。」
「さぁ!!!両者見合って!!!試合開始ィ!!!」
ゴングが鳴らされた。と同時にボーンクラッシャーが突進してきた。
「ぐっ……!」
吹き飛ばされてそのまま金網に叩きつけられた
「どうだ。効いただろ?」
「うん…すごく痛い………目覚ましに使ったら快適に目覚められそう…」
冗談を言いながら立ち上がる。不思議とおちゃらけた気分になってきた。そうでもしないとやってらんない。
「チビのくせに強がってんじゃないよ…!」
彼女の渾身の力が込められたパンチ。迫りくるそれを避け、彼女の腕を踏み台に顔面に蹴りを入れてやった
「ぐおっ!?」
「まだいくよ!!」
よろめいた彼女の顔面を連続で殴りまくる
「ほらほら!!このまま殴り続けるよ!」
「グフッ……くそぉ…!」
最後に土手っ腹にパンチをかまして金網まで吹き飛ばす
ドシャン!
と響き渡り、彼女は倒れ込んだ。
「クソ…!!チビのくせに………!!まだ終わってねぇぞ……!!」
即座に立ち上がりこちらに向かって全力で走ってくる。
「まだ殴られ足りないの?もう飽きてくるでしょ」
「黙れ!!!」
ボーンクラッシャーの走りの勢いを乗せたパンチ。それを無視し、彼女の両足に糸をかけて、そのまま股の下をくぐり抜けた
「なんだ!?」
彼女がこちらに振り向こうと、そうしようとしたところを狙って殴った
「かはっ………!」
見事に顎に入った。足の力が抜け、そのまま倒れ込むボーンクラッシャー
「バイバイ……えーっと…ポップコーンランチャー…だっけ?」
倒れたままの彼女に手を振り、楽勝といった雰囲気でリングの出口に向かった。
余裕ぶってるが、内心ビビって手の震えが止められていない。
「え…う……うお…うお…う…うおおおおおお!!!!!!!!
マジかよ!!!!!!なんと!!!なんとなんと!!!!スパイダーマンの勝利!!!!!!さっき適当に決めたルールによって優勝者もスパイダーマンで決定だ!!!!!!」
「スパイダーマン!!スパイダーマン!」「スパイディ!!スパイディ!!」
実況も観客も沸き立つ。歓声とフードとドリンクが会場を飛び交っていた。罵声は一つも聞こえない
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バックヤードにて
「はいこれ!!!優勝賞金!!!!」
カバンに入った大量のクレジット。机の上にどっしりと置かれた
「うわぁ…すごい…!ホントにいいの?」
下まで漁っても、全部本物のクレジット
「もってけ!!!!あんたのおかげで大いに盛り上がったんだ!!!」
「へへへ…ひゃくまん……」
浮かれた気分でカバンを手に取った。
「あ、そうだ。デマー商店ってどこにあるか知らない?」
ヒフミが言っていたペロロ人形が売っていたという店。場所だけでも聞いておきたい
「デマー商店????知ってはいるけど……あそこは辞めたほうがいいと思うなぁ…ボッタクリを超えたボッタクリで有名だよ????」
「大丈夫。場所だけでも教えてよ」
「う〜〜〜〜ん。わかった。でも気をつけるんだぞ」
地図で店の場所を教えてもらった。ここから案外遠くない。今日中に目的の品が買えそうだ
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「さて、お金が勿体ない気がするけど、早速買いにいこう」
闘技場を出て足早にデマー商店へと向かった。
「ヒフミ、喜んでくれるかな」
伊藤 マチコ
異名 ボーンクラッシャー。とても力が強く、頭が悪い