「ここが……、」
デマーの商店。さっき教えてもらった場所が合っているなら、ここのはずだ。
評判が悪いと言っていたが、それを表すかのように店はホコリまみれで、散らかっていた。
だが、
「これだ……!」
ガラスがホコリでくもり、割れ目をガムテープで止めてあるショーウィンドウ。そこにはヒフミが見せてくれたペロロの人形が飾ってあった。値札も見える。90万。言われてた通り高いが、今の私なら買える。
とっとと店に入ってしまおう
「お、おじゃましま~す………」
人が叫んでいるかのような音を鳴らして扉が開く。
「……ん……客か…。」
無愛想な態度で迎える人がいた。おそらく店主だろう。カウンターに姿勢を崩してタバコを吸いながら新聞を読んでいる。毛むくじゃらの顔に猫の耳を持つ獣人。可愛らしいと思いたい見た目なのに、どうしても愛嬌が抱けない。
「なんの用だ…?」
腹の底に響くような声。逃げたくなるような威圧感を孕んでいる。
「あ、あの…あそこに飾ってあるペロロの人形が欲しいんですけど……」
「ああ、あれか………ふぅむ…」
店主がしばらく考え込む
「おいお前…いくら持ってる…?」
「え、ひゃ、百万あります…!ほらこれ…!」
クレジットの入ったカバンをカウンターに置くと、それを見た店主の目がキラリと光った。
「これは…お前の金か…?」
「は、はい!」
「こんな大金……どこで稼いだ……?」
「ちょ、ちょっとした大会で……」
嘘じゃない。あんまり地下闘技大会のスパイダーマンだとかのことを説明したくないから、これくらいの説明でいい
「………ふぅむ。なるほど………」
「……?」
店主はしばらく黙り込んでいた
「110万円だな」
「……へ?」
何言ってるんだ、なんのことだ
「あの人形……110万だよ。これじゃ足りない」
「はぁ!?なんで!?」
急に価格が変わった。横暴にもほどある
「なんでって……俺がそう決めたからだ」
「でも店先には90万円って書いて……」
「そうだな。そこにはそう書いてあるが、俺が今、価格を変えた」
「なっ……!」
この人、やってることがヤバすぎる
「景品表示違反で訴えるか…?
だがな…ここはブラックマーケット。あらゆる非合法が罷り通る。嫌なら帰りな…」
帰る……?ここまで来て…?
「払えない……と言うなら別の方法があるが……」
「…?」
「お前さん……結構稼げる能力があると見込んだ。だから、残り10万くらい難なく稼げるだろう」
「まぁ………」
闘技大会なんて他でもやっていそうだ。そうじゃなくても、この力を使って金を稼げば、残りの10万なんて一瞬でいけるだろう
「金は預かっててやる。商品も他の客に取られないように、バックヤードで取り置きしておいてやる」
店主はカバンをカウンターの下にしまった。
「ちょ…私のお金……かえ」
「次来たときの証明に使いたいから、学生証も出してくれるか?」
「え、学生…証……?」
私を無視して店主は話を進める
「そうだ。学生証を少しだけ預からせてもらう。なに、ちょっとコピーを取るだけだ」
「それは…ちょっと……」
学生証を渡すのは抵抗がある。こんな詐欺まがいの店ならなおさらのこと
「なんだ、そんなにあの人形は欲しくなかったのか?別に構わないが、今日だけで三人はあの人形を欲しがってた。需要はあるんだ。いつ無くなるか分からないぞ。
それに、この百万円も惜しいだろ?」
百万の入ったカバンの持ち手を私に見せつけてくる。もう既に奴の所有物になってしまったように見えてしまう。
「学生証……出せばいいんですね…」
そうだ。10万なんてすぐに稼いで、さっさとここに戻ってくればいい。あの人形があれば、ヒフミが喜んでくれるんだ。きっと。だから早く
「物分かりがいいな」
財布から学生証を取り出した
「はい………これ____」
「ちょっと待ちな」
「?」
誰かが私の手を押さえつけていた。
「デマー…。またお前は騙しを働いて……」
「なんだお前……まだいたのか、クソガキ…」
店主と睨み合う女の子。星形のタトゥーを首筋に入れた金髪の少女。彼女が私の手を掴んで離さなかった
「おいお嬢ちゃん。こいつに学生証を渡しちゃ駄目だ。こいつはここらへんじゃ有名な詐欺師だよ」
「………余計なことを……」
店主はため息をつきながら、私の金の入ったカバンをカウンターの奥にある金庫にしまった
「あ、お金」
「あ〜。お金とられちゃったか。仕方ない。ま、高い勉強代だと思うしかないね」
店の端っこまで連れられた後、私の腕がようやく解放された。
金髪の子は手を合わせて私に謝罪してくる
「ごめんね、急に。
あいつに学生証を渡したせいで犯罪に巻き込まれた生徒を何人も見てきちゃってさ。止めずにはいられなかった」
優しい表情しているが、その目はギラギラと揺れて店主を睨んでいた
「あ、いや。こっちこそ助けてもらったみたいで…」
「お金はともかく、君が無事でよかった。
てか君、ブラックマーケット初心者でしょ?」
「え、まぁ、はい。今日初めて来ました…」
「初めて!?よっぽどアレが欲しかったんだ。ははは!」
私の肩を叩きながら豪快に笑い散らかした。
「じゃあ初心者の君に、ここで買い物するときの基本を教えてあげる。
『店側に所持金を絶対に見せるな』だよ
ブラックマーケット全体がだいたいそうだから、これだけは覚えておくといい」
「あ、そうなんですね…私最初っから間違ってた…」
「はは、ここ以外じゃ覚えなくていいからね。じゃ君はさっさと帰りな。ここにいるべきじゃない。
あと、これあげるよ」
「へ?」
彼女から何か投げ渡された。それは札束だった。それも10万ほどはありそうな
「これは…?」
「さっき、ヤツからくすねた」
クスクスと笑いながら店主を指さす。
盗んだってことか?あんまりそういうのは受け取りたくないけど…さっきは店主からお金を盗まれたからな。受け取っておくか
私が貰ったお金をポケットにしまっていると、
彼女の方はポケットから何かを取り出してカウンターへと歩き出していっていた。
「……?!」
それはなんと、銃だった。見たこともない仕組みで巨大化し、彼女の体躯の二倍ほどの大きさになっていた。
「おん……?なんだお前……」
店主が気がついた時にはもう遅かった
「フンっ!!」
店全体に響き渡るような振動。巨大な銃から放たれた巨大な弾丸が金庫に大きな穴を開けた。そこから漏れ出た大量のお札が雨のように降り注ぐ
「なに、なにやってんですか!?」
「私の名前はショッカー。ここに強盗しに来た」
「はぁ!?」
強盗!?ショッカー!?止めたほうがいいのか?
そういえばヒフミが言っていた最近出没した強盗ってもしかして…
「……………」
彼女が黙ったまま袋に札束を詰めていく。
「やめろ!!お前!!」
店主が止めようとしても彼女は構うこともない。
あらかた札束を拾い終えたショッカーは、天井にエネルギー弾を放ち、大きな穴を開けた。
「じゃあね、次からは詐欺に気をつけるんだよ。
…………あと強盗にもね!」
銃口が下を向き、エネルギーが充填され始める
「おい!!こいつを止めろ!!」
止める…私が、この店主のために……?それは何だか癪だ。
やっぱり私の知ったことではない
「おい、何してる!ガキ!!早く!」
バコン!!
ショッカーの銃口から放たれたエネルギーが彼女を上空に押し上げる。
「ヤバ…!」
衝撃波が店の壁ごと崩壊させて、私と店主は吹き飛ばされた。
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「………大丈夫…?」
瓦礫を持ち上げ、埋まっていた店主を引っ張り出す。
「クソ!お前のせいだぞ!!ゴホッ…!ゴホ…!」
まぁ、そうだろう。私ならショッカーを止められただろう。この店が崩壊することもなかっただろう。
けど別にそうなったところで後悔してない。こんな店が潰れようと私の心が悲しむことはない。
「責任を取れ!」
「知らないよ。あんたが恨まれるようなことをしてたのが悪いんだろ?」
バコン!!
バコン!
「…!」
さっき聞いたショッカーの銃の音。何発も聞こえてくる。もしかして銃の反動で飛んで移動してるのか?
「あんなのが何発も地面や建物に撃ち込まれたら………」
私はとんでもないヤツを見逃したんじゃなかろうか
「追いかけないと………」
「おい!ガキ!待て…!」
「二度と来るかこんな場所!」
制止する店主を置いて、全力で駆け出す
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人目が無さそうな場所でマスクを被り、糸を使って飛び上がった
「どこいった…あいつ………。……あ…!!」
さっきの地下闘技場。ショッカーの弾丸のせいだろうか、地上にあった事務所が崩壊している
「くそ…!あいつ…!」
急いで飛んでいった。誰かが埋もれてしまっているかもしれない。
「誰か!!!!!助けてくれ!!!!」
「…!」
この声は、あの不良の子だ。
急いで声がした場所の瓦礫をどけた。
「大丈夫!?」
「お!?!?スパイダーマン!!!!助かった!!!!」
彼女は瓦礫から這い出て、すぐに立ち上がった。
よかった。元気そうだ。
「何があった?」
「ヤバいヤツがヤバい銃を持って空を飛んでたから、見惚れてたんだ!!!そしたらこの建物にドカン!!!!と打ち込みやがって!!!!このザマだ!!!!」
「そいつ!どこいったの??」
「え〜〜〜????多分あっちだな!!!!!」
彼女が指さした方向。確かに道路や建物に穴が空いている
「ありがとう…気をつけて!」
「おう!!!!!また来いよ!!!!」
「前向きに検討しとく。またね!」
建物に糸をかけ、全速力で飛んでいく。
ショッカーは移動のために弾丸を撃っているに過ぎない。
だからこそ、これ以上、あいつを放置するのはマズイ