ダイヤのQ   作:ゾネサー

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調べたらトランプのダイヤが指す季節が夏なんですねえ。びっくり。


プロローグ

「ストライク! バッターアウト!」

 

「惜しい惜しい! ナイススイング!」

 

(ナイス……? 本気で言っているのか?)

 

 ワンアウト満塁というチャンスながらも空振り三振に倒れたバッターをベンチが温かく迎える中、少年は冷たい眼差しを向けていた。しかしチャンスが続く中で雰囲気を壊すような真似もしなかった。

 

「はっはっは。繋ぐ気ゼロの真っ直ぐ狙いバレバレのブンブン丸でしたよ!」

 

「み、御幸てめえ!」

 

「じゃ打席なんで行ってきまーす!」

 

「帰ってきたらただじゃおかねーぞ!」

 

 そんな雰囲気を意に介さないように指摘したのは御幸一也。今でこそ江戸川シニアでは最高学年だが、先輩相手にも物怖じせずに正しいと思った指摘をする彼は少年にとって憧れだった。

 

(俺もいつか、御幸先輩のように……)

 

 相手の得意とする変化球を狙い撃って走者一掃のタイムリーツーベースを放ち、反感を買ったチームメイトのことを黙らせてしまう彼の姿を見て憧れはさらに募るばかりだった。

 結局江戸川シニアは特筆するような成績を残せず、御幸も引退して進学する高校を決める時期がやってきた。

 

「え? 青道ですか?」

 

「そ。礼ちゃんの猛アピールもあったし」

 

「でもあそこはここ数年甲子園とは縁がないんじゃ……」

 

「だったら俺の力で連れて行ってやるさ」

 

「……さすがですね」

 

 伝え聞く形で稲城実業を始めとする強豪校から引く手数多と知っていただけに、少年はその強気な選択に呆気に取られながらもどこか納得もしていた。

 

「じゃ、俺も来年には青道に入ります。今度こそ御幸さんからマスクを奪い取ってやりますよ!」

 

 江戸川シニアでは奪えなかった、正捕手のポジション。御幸を追ってその夢の続きを果たしてみせる、と宣戦布告が放たれた。しかし……

 

「……いや、神巫(かんなぎ)は俺と同じチームに来ない方がいいぜ」

 

「え……。どうして、ですか?」

 

「その理由は自分の頭で考えてみな」

 

(……青道に入ったとしても、俺じゃ力不足だと……言いたいのか)

 

 これが江戸川シニアでの御幸との最後の会話だった。少年は御幸が抜けた穴を見事に埋めてみせ、負けずとも劣らない評判が広がっていた。

 

「いたいた」

 

「あなたは……成宮さん」

 

「ま、知ってるよねそりゃ」

 

 一年生ながら稲実で堂々の活躍を見せている成宮鳴。約束も無しに現れた彼は単刀直入に誘った。

 

「君、うちに来なよ」

 

「また随分と急な……」

 

「嬉しくないの?」

 

「嬉しいですよ。考えておきます」

 

「ありがと。一也が来なかったからさ、代わりを探してたんだよね」

 

「……!」

 

(代わり……どこまでいっても、御幸さんの次だと)

 

 そうして神巫(ゆう)にも高校進学の時期がやってきた。ブレザーに身を包み、左肩にかけた紺色のスクールバッグの位置を右手で調整すると、さらに深く青い髪が揺れる。

 

「上等だよ。見返してやるさ、二人とも!」

 

 神巫は正門に取り付けられた稲実の校章を鋭く射抜くように見つめると、その視線を上げて新たな舞台へと歩を進めてゆくのだった。

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