ダイヤのQ   作:ゾネサー

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哲さん世代の背番号16〜18を覚えている人がいたらすごいと思う。14の楠木さんですら引退試合でいきなり出てきた人だと思ってた。


第八話

(ここが青道のグラウンド……)

 

 総当たりのダブルヘッダー第一試合は稲実と青道。神巫は綺麗に整備されたグラウンドを踏みしめていた。

 

「礼!」

 

「よろしくお願いします!!」」

 

 整列の際、御幸と目が合った。何がおかしいのか口元がニヤけている。一礼は返したものの、神巫はそれ以上取り合わなかった。初めて彼と敵対するからには馴れ合いで気持ちを弛緩させたくなかったからだ。

 

「さあ! 声出していきますよ!」

 

「だらぁ! 言われなくても出したるわ!」

 

 後攻の稲実がグラウンドに散っていく。合宿の募る疲れは皆抱えていた。しかしそれは相手も同じだった。

 

(井口さんは完投を指示されている。無駄球は極力使いたくない。この一番は一年だ。初球はまず見てくるだろう……)

 

 以前平野にしたように神巫は最初はコースは問わずに低めのゾーンを狙うテンポ重視のサインを送った。すると井口はいきなり首を横に張った。

 

(監督に言われたはずだ。弱みを見せるな、と。余計な心配はいらねえ!)

 

(……エース争いをしているピッチャーに失礼なサインを出しちまったな。疲れがある時に安易な要求をするのは悪いクセかもしれない)

 

 力のあるピッチャーにするサインではなかったと思い直し、神巫はコースも厳しく要求してミットも限定するように小さく構えると、井口の右腕が振り下ろされた。

 

「シュッ!」

 

(ドンピシャ! ナイスボー……!?)

 

 カァン、と聞き慣れない音が響いた。木製バットの乾いた音と共に弾き返された打球はライト前に落ちる。

 

(初対戦の相手にはアウトコースで様子見してくるよね)

 

「よっしゃー! 春っち出たー!」

 

(嘘だろ!? 140キロ前半……いや、今はそこまで出てないか。だとしてもコースも高さも文句なしだった。随分と思い切りの良いバッティングを……小湊春市、か。要注意バッターだな)

 

 ベース上で赤面ガッツポーズをする小湊を横目で見ていると、右打席には門田が入ってきた。

 

(バントの構えは無し……ね。ランナーは……? 来るなら来い!)

 

「ランナーがいても膝をつけるタイプか……」

 

(構え方変えたみたいだな……。意識も変わったわけだ)

 

「小湊の足なら無理に仕掛けない方がいいですね」

 

「ああ……」

 

「あのー師匠解説を……」

 

「そうだな。右投げの場合左膝をついているとスローイングが遅くなる。左足が軸足になるから、ワンテンポ遅れるんだ。逆に右膝は立ち上がる流れそのままにステップしてスローイングに移れる。それに足が左右に並んでいるより、前後にズレている方が動きやすいんだ。総じて盗塁を阻止しやすい構え方と言えるな」

 

「な、なるほど……右だと強い! というのは分かりました!」

 

「それぞれにあったやり方があるから一概には言えないがな……」

 

(セーフティか!?)

 

 するとグラウンドでは門田がバントの構えに移ったが、ギリギリでバットを引いていた。

 

「ストライク!」

 

(うっ……構わず入れてきたか)

 

 しかし揺さぶりに動じず、井口はインハイへと投げ込んで来ていた。

 

「ナイスボールです!」

 

(こういう小細工を仕掛けてくるバッターにはボール球を費やすもんじゃない。青道はチームバッティングがしっかりしているチームだ。もし切り替えてくるなら……)

 

(アウトロー! 一二塁間に転がすぞ!)

 

 揺さぶりが通じなかったと見るや門田は右方向へのバッティングを敢行してきた。しかしストレートと同じ程度のスピードで少しスライドして逃げるカットボールをバットの先で引っ掛けてしまった。

 

(ゲッツーいけるか。……!)

 

 しかし稲実にとってはアンラッキーなことにボテボテの打球はファースト、セカンド、ピッチャーの間の処理が難しいトライアングルへと転がっていた。

 

「ファースト!」

 

「……!」

 

「二塁は無理です! カバーの井口さんに!」

 

「……セーフ!」

 

「門ー! ナイランー!」

 

「コヨーテだ! 門田先輩はコヨーテっぼいんだ!」

 

(あんなスムーズにカバー入れるものなんだ……)

 

 難しい打球だったが指示が出されるとファーストがカバーに入ったピッチャーに合わせた。見事な連携だったものの、ここはランナーの足が勝りノーアウトランナー一塁二塁となる。

 

(今度は構えてきたか……)

 

 右打席に入った田中はサインを受けてバントの構えをしてきた。先程の打ち取られた打球を見て強攻策では来ないと見て、稲実も動く。

 

(したきゃやればいい。やれるものなら!)

 

(ファーストがチャージしてきたか……!)

 

 アウトローにストレートが投じられるとファーストがチャージをかけ、続いてピッチャーも前に出てきた。

 

(ならこっちだ!)

 

(くっ。外のボールを三塁線に……!)

 

 やや強めながら打球は三塁側へと転がされた。ピッチャーが届かないボールにやむを得ず前に出たサードが一塁カバーに入ったセカンドに合わせ、バッターランナーはアウトになる。

 

「膝を使って……もっとこうっすよ!」

 

「………」

 

(矢部さんまで前に出す訳にはいかなかったし仕方ない……切り替えていこう)

 

「内外野定位置! 前進せずそのままでいきましょう!」

 

(四番相手だが……井口さんのボールは回転数の少ない重たいものだ。これから投げるボールで外野を越すことはないだろう)

 

「ボールツー!」

 

 すると低めに僅かに外したストレートが二球連続で見送られた。

 

(んー……落ち着いてるな。これはどうだ?)

 

(ゴロゴーの指示は出てるが……難しい球に手を出して助けはしない)

 

「……ボールスリー!」

 

 ストレートと同じような軌道から利き手側に沈むツーシームで誘うも、バッターの山崎はこれも見送ってきた。

 

(ま、しゃーなしか)

 

 四球目ははっきりと外し、フォアボール。これでワンナウト満塁となった。内野は中間守備へと変わっていく。

 

「なんでさっきは内野を前進させなかったんだろうな」

 

「立ち上がりに連打を食らいましたし一点は覚悟してたんでしょうね。ボール球ですから定位置なら釣られて転がせばヒットも難しいでしょうし、打球次第では還れない。それに点を取られてもツーアウトで次は一年の降谷だから切れると踏んだんでしょう」

 

「……よろしく」

 

「お手柔らかに」

 

(五番に入ってるってことは長打力があるのかもしれないが……四番よりはやりやすいだろう。井口さん、絶妙なの頼みますよ)

 

「シュッ!」

 

(高め……!)

 

 今日は投げられないこともあってうずうずしていた降谷はあっさり真ん中高めの釣り球に手を出してしまった。

 

(それでも外野に持ってくか……ギリギリだな)

 

「バックホーム!」

 

「ゴー!」

 

 ほぼ定位置でレフトが捕球すると同時に小湊がスタートを切った。マスクを上げた神巫は立ち位置はそのままに足の向きを一塁側へと変える。

 

(右に逸れた? なら……!)

 

(ランナーを追うな! ベースに落とすんだ……!)

 

 ワンバウンドしたボールを腰の高さで受け取った神巫はそのまま腰を落とすようにして体勢を戻した。そして小湊の伸ばした手の上にミットが落とされる。

 

「セーフ!」

 

「くっ……!」

 

 伸ばした手が届く前にミットを落としたかったが間に合わず。左に回り込む、というよりは左側にそのまま滑り込むように伸ばした手がベースに触れる方が早かった。立ち上がった神巫がランナーを確認すると、低い送球に二塁ランナーはスタートを自重していた。

 

「しゃー! さすが春っち!」

 

「降谷もよく打ったぞ!」

 

(……。詰まらされた)

 

「納得いかねぇか?」

 

「いきません」

 

「ま、そう容易くはいかねえよ。それでも先取点挙げて、チャンスが続くんだ。いいんじゃねえの?」

 

「……次はヒットを打ちます」

 

「ったく」

 

 一年生二人が絡んだ得点だけに盛り上がる相手ベンチを横目で見ながら、神巫は頭の中を整理していく。

 

(井口さんはいわゆる伸びで錯覚させるようなピッチャーじゃない。しかしそれなりに外したボールだ。一年にここまで持っていかれるとは……球威も思ったより落ちてるな。もう少し懸念していればこの失点は防げたか……?)

 

「神巫! 切り替えるぞ!」

 

「……! は、はい!」

 

(井口さんはさすがに場慣れしてるな。……浮ついてるのは俺のほうか。ピンチはまだ続いてるんだ。これまでよりこれからのことだろ)

 

「内外野少し下がってください!」

 

(次は三年生だ。ツーアウトになった以上、長打での二得点は要警戒。あまりデータのないバッターだし、臨機応変にいこう)

 

 ツーアウトランナー一塁二塁と変わり、右打席には楠木が入った。その初球。アウトハイに投じたストレートが外に外れると、これは目で見送られた。

 

(スイングに入る様子も無し。積極的に振る感じではないか)

 

(早打ちが多めで今日の井口のコントロールがいまいち掴めない。ワンストライクまでは見よう)

 

 続くアウトローのストレートも見送られ、ワンボールワンストライクとなる。

 

(ボールそのものの質が落ちるのは仕方ない。それでも井口さんは疲れを感じさせないピッチングをしてくれてる。これだけコントロールが纏まっていれば)

 

(際どいコースに決めてきたな。失点の動揺も無しか。なら振っていかないと)

 

 三球目もアウトローへのストレートだった。これにバットが振り出されるものの、僅かに低めに外したボールの上を振ってしまいツーストライクとなった。

 

(ボール球も積極的に使っていけるし、振らせにいくこともできる。投球の幅がぐんと広がるな)

 

(振らされちまった。けどタイミングは掴めた……。追い込まれたし単打でもいい。門なら還れる! 追加点挙げるぞ!)

 

「……外野! 定位置に!」

 

「……!」

 

 すると追い込んだところで神巫は下げていた外野を元に戻した。

 

「相変わらず表情よく見てんなー」

 

「表情……ですか?」

 

「キャッチャーは見てるもんよ。意外と分かるもんだぜ? 少なくともバッターが強気か弱気かくらいは」

 

(カウントに余裕はあります。際どいところ狙ってみましょう。外れても大丈夫です)

 

(……変化球じゃなく、ここもストレートか。タイミングはまだ合ってないし、合わされるよりはいいかもな。何より……一番の武器で勝負できなきゃ仕方ねえ!)

 

「シュッ!」

 

(内かよ!?)

 

 膝下に投じられたストレートに反応が遅れつつも楠木はセカンドの頭上を意識してバットを振り切った。しかし下がり目の位置にいたセカンドが二、三歩下がってから余裕を持って捕球し、その上を越すには至らなかった。

 

「ナイピ!」

 

「ここからここから!」

 

(青道は投手が弱い代わりに打撃がヤバいとは聞いてたが……主力を温存してここまでとは)

 

 140キロ近いボールに当然のように対応してくる打線は初めてで、プレー中は表に出さなかったもののプレッシャーがかかり続けていた。ベンチに戻ると、思わず息が吐き出される。

 

「神巫。悪くないリードだったぞ」

 

「井口さん……」

 

「この調子で最後まで頼む」

 

「……はい! 任せてください!」

 

 そんな彼を気遣うように井口が肩に手を置くと、言葉をまっすぐに受け止めて力強く返していた。

 

(キャッチャーがピッチャーに支えてもらうのは情けなくもあるが……。ともあれピッチャーに気持ちの余裕があるのは有り難い。辛抱強く投げてくれるだろう)

 

 裏の攻撃はサイドスローの川上を上手く捉えきれず得点を挙げられなかった。そして二回の表、七番バッターが右打席へと向かっていく。

 

「樋笠! ボールよく見ていけよ!」

 

「一点で満足するな! 取れるだけもぎ取れ!」

 

「シュー!」

 

「……シュッ?」

 

 すると向かい合った樋笠と井口が特徴的なアヒル口を突き出しながら、同時にこう思った。

 

((キャラ被ってね!?))

 

 出会ってはいけない二人が出会ってしまった——。




シュシュシュシューン
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