ルギア、拾っちゃいました。3   作:じゅに

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第9話 シェイミの力。

 

 

 

 それからは、来る日も来る日も花園の手入れをして過ごした。

 

 最初の数日はもしやバサギリがやってきやしないかと不安で仕方なかった。

 なにせこちとら丸腰だ。

 ルギアは衰弱しきっているし、ミュウツーも昏睡したまま目覚めない。

 もし今襲われたらひとたまりもないだろう。

 

 しかし、意外にも平穏そのものだった。

 いつしか緊張も薄れて、ただひたすら雑草を抜き、近くの川から水を汲んで撒くだけの毎日に、安らぎすら覚えはじめていた。

 

「それはそれとして咲かねえなあ」

 

 川の水で顔を洗いながら小さくぼやく。

 俺もシェイミも手を尽くしてはいるのだが、茶褐色に干からびた花たちは一向に回復する兆しを見せない。

 

 もう雑草はなくなったし、土も充分湿っているのに、あと何が足りないのだろう。

 

「栄養か……? それとも日当たりが悪い……?」

 

 もっとやれることはないかと腕組みしながら頭を悩ませていると、どこからか、か細い悲鳴が聞こえてきた。

 

「たすけて〜……だれか〜……」

 

 声のする方に足を向ける。

 すると、少し下ったところの川べりに、コイキングが力無く倒れているのを発見した。

 

「だ、大丈夫か?」

「ヒッ、ニンゲンっ!?」

 

 コイキングの顔からさっと血の気が引く。

 咄嗟に川に逃げこもうと踏ん張ったが、次の瞬間、思いきり顔を顰めた。

 

「あ、いたたたたっ」

「なんだ、ヒレでも挫いたんか?」

 

 言っといてなんだけどヒレって挫くもんだろうか。

 コイキングは、ひとまずこちらに敵意はないと判断したのか、逃げるのをやめてしゅんと項垂れた。

 

「実はわたし、群れでも相当跳ねるのが上手いのですが、調子に乗って跳ねたら目測を誤り、自らを岸辺に打ち上げてしまったのです……

 そのとき急所をぶつけたようで、にっちもさっちもいかず……」

 

 まな板の上のなんとやら、というわけか。

 それじゃあ川に戻してやってもろくに泳げやしないだろう。

 

「ちっと待ってな」

 

 俺は手近な木に登り、おあつらえ向きに生えていたオレンの実を捥いでやった。

 

「ほい。食えるか?」

「こ、これは……?」

「体力が回復……あー、元気になる食べ物だ。

 食ってみな」

 

 コイキングは俺とオレンを何度も見つめてから、おそるおそる口に含んだ。途端、ぎゅっと目を瞑る。

 

「んぇええ……苦い……」

 

 その道の研究者いわく、オレンの実は数ある木の実のなかでも相当食べにくい味らしい。

 とにかく苦味とえぐみが強いんだそうだ。

 

「がんばれ。飲みこみゃ楽になっから」

「ううう」

 

 背に腹はかえられんと言わんばかりに必死こいて飲み下す。するとたちどころに効果があらわれたらしく、コイキングはぱあっと顔を輝かせた。

 

「お! おおお! 痛みが! 痛みが引きました!」

 

 ずびたんずびたんとその場で何度も飛び跳ねる。俺は苦笑しつつ、「また体を痛めちまうぞ」と諭した。

 

「これで群れの元へ帰れます! 

 どうもありがとうございました!」

「いーっていーって。達者でな」

 

 コイキングはさも嬉しげに尾びれをぷりぷり振ってから、川の中へ潜っていった。

 

 人助けならぬ鯉助け──か。

 昔話の世界なら、後々恩返しに来てくれる展開だが。

 

 俺はついでにそこらの木の実を幾つか見繕ってからシェイミの待つ花園に帰ることにした。

 

 

 〇〇〇

 

 

 花園ではテンションMAXのシェイミが待っていた。

 

「アシタバ! アシタバ!

 はやく! はやく来るでしゅ!!」

 

 興奮しきった面持ちで、俺の背をマジカルリーフで押してくる。

 

「何よ何よなんなのよ。どーしたってんだ」

「これ! これ!」

 

 語尾のでしゅも忘れて一点を示してきた。

 何気なく視線を走らせ、絶句する。

 

 そこには、たった一輪ではあるけれど、瑞々しさと鮮やかな色を取り戻した花がちょこなんと風に揺れていたではないか。

 

「よ、甦ってるー!?」

「そう! そうなんでしゅよ!」

 

 シェイミは意味もなく同じところをぐるぐる回りながら歓声を上げた。

 

「ようやくミーの祈りが実ったんでしゅ!

 ここからどんどん甦ること間違いなしでしゅよ!」

 

 狂喜乱舞、有頂天とはまさにこのことで、ここに辞書編纂者がいたら例文として今のシェイミを書くだろう。

 

 俺はといえば、唯一復活した花をまじまじと見つめていた。

 

(この色……この花弁……うん、間違いない。

 これは、グラシデアだ)

 

 セキチクシティのサファリゾーンに生えていたものと全く同じ花。

 

 俺の脳裏に、この花の由来や伝説が去来する。

 ────もし。

 この枯れた花たちが全てグラシデアならば。

 何ガロン水を撒いたって復活するまい。

 

 これは、ある感情(きもち)を糧にして咲く花なのだから。

 

(ありがとうを伝える花……

 てっきり道徳的な花言葉をつけたがる大人たちの趣味だと思ってたけど、まさか()()()()()()()の意味だったなんてよぉ)

 

 いきなり1本だけ咲いたのは、さきほど助けたコイキングから礼を言われたからだとすれば、辻褄も合う。

 

 俺は静かな声で呼びかけた。

 

「……シェイミ」

「ん? なんでしゅ」

「この花を全部元気にする方法、分かったかも」

「ほんとでしゅか!?」

 

 シェイミがしゅたっと俺の足元に寄ってきた。

 

「なんでしゅか、何をすればいいんでしゅか!?」

 

 俺は一度大きく深呼吸してからシェイミの瞳を見据え、言った。

 

「今日から毎日、困ってる誰かを助けるぞ」

「…………は?」

 

 シェイミの目が、点になった。

 

 

 〇〇〇

 

 

「ありがとうの気持ちがこの花を咲かせる……でしゅか?」

 

 俺の説明にシェイミは小首を傾げた。

 半信半疑らしい。

 俺は根気強く説得を続けた。

 

「おう。水や土を与えるだけじゃ足りねぇんだよ。

 現に、今までウンでもスンでもなかったのに、いきなり一輪復活したろ? さっき怪我したコイキングを助けてお礼を言われたからだと思うんだよな」

「むー……」

 

 シェイミの頬がぷくっと膨れた。

 

「ミーの祈りだけじゃ足りないっていうんでしゅか。

 欲しがりな花でしゅねえ。

 ホシガリス……いや、ヨクバリス級でしゅ!」

「……というか、先代はそういうの教えてくれなかったんか?」

 

 めちゃくちゃ大事な要素だと思うんだが。

 すると、シェイミは俄に顔を曇らせた。

 

「……ママはお世話の仕方しか教えてくれなかったでしゅ。丹精込めて手入れをすればきっと応えてくれるって、それだけでしゅた」

「……そっか」

 

 どこかで口伝の内容が途切れたり変わってしまうのは人間の世界でもままある話だ。

 ましてそれが、“感謝の気持ち”などという甚だ曖昧で目にも見えないものならば、伝承が上手くいかないのも仕方あるまい。

 

「なかなか信じられないと思うけどさ。

 お前さんも誰かから感謝されればきっとほかの花も咲くよ。ひとまず、散歩にでも行ってみないか?」

「……そうでしゅね。

 ここで悶々としてても、埒が明かないでしゅし」

 

 そうして俺たちが足を向けたのは、花園の近くにある森だった。

 

 中央には泉が湧いており、コリンクの群れが楽しそうに水浴びをしている。

 

 溺れたり足をくじいたりして困っている者はいないか目を皿のようにして探していると、コリンクたちがきゃんきゃん鳴き始めた。

 派手に水飛沫を上げながら赤い魚を追いかけ回している。

 

 魚が叫んだ。

 

「たすけてくださぁああい!」

 

 俺は思わず半目になった。

 

「……まさかさっきのコイキングか?」

 

 同一人物……というか同一魚をまた助けても花は甦ってくれるだろうか。

 なんとなくそれは認めてもらえない気がする。

 

 とはいえ、見かけてしまった以上見殺しにするのも気が引けるので、シェイミのマジカルリーフでコリンクたちを追い散らしてもらった。

 

「はぁ……はぁ……

 ……ややっ? もしやさっきの御方では? 

 あぁあ天の恵みとはまさにこの事、一度ならず二度までもお救いくださるとは。

 ありがとうございます、ありがとうございます」

 

 ぺこぺこぺこりと、魚の体が許す限りコイキングが頭を下げてきた。

 シェイミが低い声で毒づく。

 

「この魚をピンチに放り込んで助けまくれば最短で復活しゅるのでは?」

「やめたれ」

 

 あんまり非人道的すぎるでしょうが。

 ボソボソ言い合っていると。

 唐突に、鋭い殺気がうなじを刺激した。

 考えるより先に横に飛ぶ。

 

 

ジュバァッ!  

 

 

 今まで居たところに立っていたブナの木が、電撃を喰らい、焼け焦げてしまった。

 

「グァルルルル……」

 

 背後に、鬣を逆立て威嚇するルクシオ2体。

 どうやらコリンクたちの親らしい。

 我が子をいじめたと怒り心頭の様子だ。

 

 シェイミの毛並みが針のように鋭く尖った。

 

「な、な、な、なんなんでしゅかヤツらは……

 どうしてブナの木をこんな目に……っ」

 

 その震えはわずかな恐怖と、強い怒りから来ているらしい。彼女にとって、植物を粗末に乱暴に扱われることは身を切られるより辛いのだろう。

 

 シェイミが眦を釣り上げ、ルクシオたちに向かって吠えた。

 

 

「お仕置きでしゅわ!」

 

 

 その一瞬の光景を、果たしてどう説明すればいいものやら。

 

 周囲の下生えや(くさむら)が、凄まじいエネルギーを纏って渦を巻くや、呆気にとられているルクシオたちを瞬く間に包み込んだのだ。

 

 そして。

 

 

「シードフレア!!」

 

 

 雄叫びとともに、渦が弾け飛び。

 後には、完全に気を失ったルクシオだけが残されていた。

 

 シェイミは面白くもなさそうに鼻を鳴らした。

 

「……ふんっ。

 草木を愛さないものにふさわしい末路でしゅ」

 

「…………」

 

 俺は硬直したコイキングをぎゅっと抱きしめながら、心の中で固く誓った。

 

 こいつだけは、怒らせないでおこう、と。

 

 

 

 

 

 




というわけで9話。
枯れた花の正体と咲かせ方判明の巻。

敬語コイキングは作者の趣味です。
ぽっと出のキャラですが割とお気に入り。
仲間にしようか検討中。

ルクシオ戦も少し書こうか迷いましたが書きたいエピソード溜まってるので瞬殺しちゃいました。
どうしてヒスイのコリンク族は満遍なく殺意が高いのでしょうか。
あとパラス。
毒撒き散らしながら追いかけるのやめてクレメンス。

次回は向こうに置いてきた彼らにスポットを当てます。

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