ルギア、拾っちゃいました。3   作:じゅに

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第10話 かふんだんご。

 

 

 

 

 ルクシオを撃退した俺たちは、一旦花園に戻ることにした。

 シェイミの大技・シードフレアは、強力なぶん消耗も激しいようで、明らかにシェイミの顔色が悪くなっていたからだ。

 

 歩くのもしんどそうなので、抱いて連れ帰ることにする。

 

「持ち上げるぞ。よっと」

「う〜……揺らすなでしゅ」

「へいへい。努力しますよ」

 

 吐きそうになりながらも注文は忘れない。

 まったくワガママお姫様め。

 

「……ん?」

 

 花園が見えてきた辺りで、俺はふと足を止めた。

 控えめに咲いたグラシデアの花の前に、雷神ボルトロスが立っているではないか。

 

 なにやらニンマリしている。

 悪いことを企んでいる貌だった。

 

「ボルト! なにしてるんでしゅ」

 

 シェイミの声に振り向いたボルトロスは、音高く拍手しながら破顔した。

 

「ようやった。ようやったなあ! 

 この短い間に見事咲かせたではないか! 

 アシタバ、お主やるのう! 

 では目覚め薬の作り方を教えてやろう。

 こっちへこい、さあ!」

 

 なんだかやけにテンションが高い。

 あんなに喜んでいるあたり、ボルトロスもまた、ジラーチに願いを叶えてもらいたいクチなんだろうか? 

 

 満願成就の能力を有するジラーチに、叶えられない願いなどおよそあるまい。

 雷神とも呼ばれ畏れられるポケモンは、さて何を願うのやら。

 

 促されるまま近づくと、ボルトロスはやけに大きなカゴの実を差し出した。

 

「グラシデアの蜜とこのカゴの果汁を混ぜ合わせ、花粉を混ぜて練り上げろ。その花粉団子がとびっきりの目覚めを与えてくれる」

 

「一輪だけで足りるか?」

 

「案ずるな。火吹き島のジラーチと、お主の相棒を起こすには充分よ」

 

「なるほど」

 

 言いつつも、俺は眉根を寄せた。

 

 火吹き島には、ヒードランに眠らされたポケモンが大勢いると聞いている。

 縁もゆかりも無いけれど、乗りかかった船だ。

 助けられるなら助けてやりたかった。

 

「ええと。できればそのふたりだけじゃなくて、他の被害者も起こしてやりたいんだけど……」

 

「むう?」

 

 ボルトロスは戸惑い気味に顎をさすった。

 

「べつにそんなことする必要はなかろう? 

 赤の他人だろうが」

 

「いやそうだけどさ。

 見捨てるのも寝覚めが悪い話じゃんか。

 せめてあと3本くらい咲かせたいんだけど」

 

「あにぃ!?」

 

 ボルトロスはくわっと目を剥き、激しく両腕を交差させた。特大のバッテンマークである。

 

「いかんいかん! そんなに待てるか!

 これ以上悠長にしとったらあのクソジジイがますます調子づくだろうが!」

 

「……クソジジイ?」

「誰のことでしゅ?」

 

 俺とシェイミは思わず顔を見合せた。

 するとボルトロスはわざとらしく咳をし、無理やり話を変えてきた。

 

「ま、まぁまぁまぁ。

 物事には順序があるということよ。

 慈愛の精神は立派だが、まず目的を果たさねばな? お主とていつまでもここに居たいわけではあるまい?」

 

「それは……まあ、そうだけど」

 

 1日でも早く帰りたい。

 それは揺るぎない事実だし、最大の望みだ。

 

 俺は腰にぶら下げたふたつのボールを見やった。

 

 花を育てている間もルギアの様子は良くならず、1日の大半を寝て過ごしている。

 寝息も細く、きれぎれで、時々苦しそうに呻いていた。

 

 対するミュウツーは、ぴくりとも動かず胎児のように丸まって眠っている。

 あまりにも深い睡眠に陥っているせいで、飲まず食わずの状態が続いていた。

 放っておけば、遠くない未来、夢見心地のまま飢えて死んでしまうだろう。

 

 ……優先順位は、考えるまでもない。

 

「わかった。薬を作るよ」

 

「おうよ」

 

 ボルトロスはどこかほっとした顔で頷いた。

 

「……ところで、なんでコイキングを抱えとるのだ」

 

「……あ」

 

 忘れてた。

 シェイミと一緒に連れ帰ってきてしまっていた。

 すぐに近くの川に放流に行こうとしたが、他でもないコイキング自身が待ったをかけた。

 

「火吹き島の眠り病の話はわたしも小耳に挟んだことがございます。お薬を作る場面をぜひこの目で見たいと存じますが、よろしいでしょうか?」

 

「いいよ。減るもんじゃなし。

 だけど陸の上に居続けて平気か?」

 

「ご心配なく。今は肺呼吸に切りかえてますので」

「そんなんできんの!?」

 

 ポケモンの力ってすげぇ……

 

 

 ○○○

 

 

 それから1時間ほどで団子が完成した。

 花粉集めに難儀するかと思ったが、シェイミが仲介してくれたおかげで、近くにいたビークインが快く渡してくれたのだ。

 

 ビークインに礼を言い、シェイミにも頭を下げる。

 ところがシェイミはふくれっ面で抗議してきた。

 

「気持ちが籠ってないでしゅ。嘘でしゅね」

「いやなんでだよ。してるって」

「ならもっとちゃんと感謝するでしゅ! 

 お花が咲いてないでしゅよ!」

「ええ!?」

 

 慌てて振り向く。

 確かにシェイミの言う通り、グラシデアは枯れたままだった。

 

(あれ。おかしいな? 

 ほんとに有り難いと思ってるんだが……)

 

 誰かに見られていたら復活しないとかいうルールでもあるんだろうか。

 人間の気持ちじゃダメとか? 

 

 何度ありがとうを言ってみても、一向に咲く様子は見られない。

 

 シェイミが地団駄を踏み始めた。

 

 いかん。口先だけだと疑われているっ。

 このままだとシードフレアが飛んできかねない……! 

 

 戦々恐々としながら咲いてくれと念じている横で、ボルトロスがふーむと唸った。

 

「そもそもなんでこいつらは枯れたんだろうなあ?

 本来、1年を通して咲く花ぞ。

 アホウ鳥*1の颶風にもびくともせんほど丈夫だ。

 なのに一斉に萎れるとは、全く不思議だわ」

 

 俺は弾かれたように顔を上げた。

 

「一斉に……しおれた?」

「おう」

 

 蜜を搾ったグラシデアを掌の中で弄びながら、ボルトロスはしきりに首を捻った。

 

「4ヶ月ほど前だったか。

 示し合わせたようにぱたーっと枯れおったのよ。

 小娘がそれはもう気も狂わんばかりに嘆いてなあ」

 

「余計なことは言わなくていいでしゅ!」

 

 シェイミのマジカルリーフがボルトロスに突き刺さる。ボルトロスは「がはは」と豪快に笑い飛ばしたが、俺は全く笑う気になれなかった。

 

 4ヶ月前。

 それはまさしく、俺が来た時期と一致する。

 

 まさか、と胸の中に暗雲が立ち篭めた。

 言い知れぬ不安が動悸を打つ。

 

 SFなんかではお決まりの展開だ。

 本来居るはずのない存在が何かの拍子に紛れこみ、世界に悪影響を及ぼすというのは。

 そして大抵、そうしたイレギュラーは排除する方向に話が進む。

 

 存在を消すか、元の世界に返すか。手段は様々だが、()()()()()()()ほど難解かつ複雑なのが定石だ。

 

 俺の思考はこの黒曜のオヤブンへと飛躍した。

 

 バサギリ。

 あいつは、人体で言う白血球のようなものなのではないか? 

 何らかの方法で俺という異物(ウィルス)が入り込んだことを知り、潰すためにわざわざ群青まで追いかけてきたという推理が成り立ちはしないか。

 

 ……一連の考えに根拠はない。

 たまたま俺が来たタイミングと花が枯れたのが同時だっただけの可能性もある。

 繋がりなんてないのかもしれない。

 

(……なんてな)

 

 無関係だって? 

 そう考えるほうが無理がある。

 明らかに、俺のせいで枯れたんだ。

 

(……ごめんな、シェイミ)

 

 俺は口の中に苦いものを感じながら、心の中でそっと謝った。

 

 俺が来なけりゃ、シェイミが傷つくこともなかったんだ。……ブニャットだって。

 

 人知れず拳を握りしめる。

 

 一刻も早く、元の世界へ帰ろう。

 これ以上、誰かが犠牲になる前に。

 

 

 ○○○

 

 

 ボルトロスが話していたとおり、団子の効果は覿面だった。

 

 揺さぶろうが叩こうが何をしても起きなかったミュウツーが、ほんの1口齧らせただけでぱっちりと目を開いたのだ。

 

 何日かぶりに紫苑の瞳に見つめられて、俺は涙ぐみそうになった。

 

 ミュウツーは口をぽかんとさせて、俺の名を呼んだ。

 

「……アシタバ」

「おう。おはよう、ミュウツー(カタリベ)

「ここは……どこだ? 

 あのマグマのポケモンはどこに?」

 

 途端、ミュウツーが激しく咳き込んだ。

 無理もない。水分も摂らずに眠り続けてたんだ。

 喉がカラカラだろう。

 

「まてまて。ゆっくり説明すっからさ。

 ひとまず飯にしようぜ」

 

 ミュウツーは、背後のシェイミとボルトロス、そして俺が抱いたコイキングを交互に見やりながら、戸惑いがちに頷いた。

 

 

 

「……そんなにも眠らされていたのか、ワタシは」

 

 木の実だけの簡素な食事を終え、火吹き島でのバトルから今日までの経過を聞かされたミュウツーは、己の不甲斐なさを恥じるように項垂れた。

 

「いやいや、あんな強烈なあくびカマしてくる奴なんて普通居ねぇからさ。お前さんは悪くねえよ。

 さすがヒードラン、伝説級なだけあるわ」

 

 昔読んだ神話じゃあ、身体の溶岩を流しこんで町を一晩で焼いたり、どんなに峻険な山も十字のツメを食い込ませて登頂し噴火させていた、なんて記述があったが、あくびの件は記憶にない。

 

 書いといてよ。昔の人。

 

「もう一度挑んでも、あくび対策をしてなきゃ二の轍を踏むだけだ。さてどうすっかな……」

 

 すると、意外な方向から助け舟が来た。

 ボルトロスだ。

 

「その点は案ずるな。儂の電撃を大地に巡らせておけば眠気なぞ吹っ飛ぶだろう」

 

「……なるほど。電撃領域(エレキフィールド)を展くってわけね」

 

 俺はぱちんと指を鳴らした。

 エレキフィールドにはそこに立つ者の神経を昂らせ、活発にする作用がある。

 確かにそれなら欠伸を喰らっても昏倒せずに済むだろう。

 

 あのヒードランもボルトロスの電撃にはすぐに逃げていたし、これ以上ないぐらい心強い味方だ。

 

「あんたが居れば百人力だよ」

「ふふん。まあそれほどでもあるがな」

 

 得意げに胸を逸らしていたボルトロスだったが、不意に顔を強ばらせた。

 

 憎悪剥き出しの視線を俺の後ろに注いでいる。

 

 隣に腰を下ろしていたミュウツーが俺を抱き寄せるより早く。誰かの手が、ぽんと肩に乗っかった。

 

「いかんな。いかんぞボルトロス。

 我々がニンゲンに肩入れしては世の理が乱れるだろうに」

 

 呆れ半分、憐れみ半分の声色で諭す誰かに、ボルトロスは舌打ちで応じた。

 

「うるせえな。

 テメェにゃ関係ねえだろ、ランドロス!」

 

 刺々しい物言いに、俺の肩を抱いたまま、ランドロスが苦笑したのがわかった。

 

 

 

 

*1
後から知ったがトルネロスのことを言っていたらしい




というわけで10話。
無事ミュウツー目覚めました。やったね。
はやくルギアも元気にさせてあげたい。

そして枯れた原因……というか元凶判明?
またしてもアシタバのせいみたいです。
可哀想……

次の更新少し遅れるかもです。
なるべく頑張ります!

よければ感想高評価おなしゃ!
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