ルギア、拾っちゃいました。3   作:じゅに

14 / 64
第11話 打倒ヒードラン(前)。

 

 

 

 

 枯れ果てたグラシデアの園の真ん中で起きた、二柱の神による奇妙な対峙は、周囲の野生ポケモンを遍く逃走せしめた。

 

 微風すら吹かない殺伐とした静寂が満ちる。

 

 雷神ボルトロスがぎりぎりと歯ぎしりしながら、俺の肩を掴む豊穣神ランドロスを睨めつけた。

 

 傍らのミュウツーは、病み上がりなうえにいまいち状況が飲み込めておらず、ほとんど棒立ちの有様だ。

 

 シェイミは怪訝な顔をしながらランドロスを見上げている。時々こちらを見やるのは、俺の腕の中にいるコイキングを案じてのことだろう。

 可哀想にこの魚は、紐を引けば震えるおもちゃのようにガタガタ怯えっぱなしだった。

 

 俺は相棒に向かって、懸命に《動くな》と念じていた。

 背後を取られているせいでランドロスの顔も拝めていないが、肩に触れる掌の厚さと雰囲気から、尋常でない強さの持ち主であることはひしひしと伝わってくる。

 

 ランドロスはただ立っているだけなのに、あまりに強烈なプレッシャーを感じて、呼吸(いき)をするのも覚束無い。

 脂汗と冷や汗が滝のように背中を滑り落ちていく。

 肩を握られていなけりゃ、膝から崩れ落ちて胃液を吐き散らしていただろう。

 

 たのむ。

 頼むから。

 誰もこいつを、刺激しないでくれ。

 

 そんな空気をものともせず口火を切ったのは、やはりというか案の定というか、怒り心頭の雷神だった。

 

「何しに来たんだよテメェは」

 

 剣呑極まる口調である。

 対するランドロスはのんびりした声で、しかしどこか人を食ったような口ぶりで応じた。

 

「無論お前の愚行を止めにだ、我が同胞よ」

「あァ!? 愚行だと!?」

 

 大気に火花が散る。

 ボルトロスの怒気が小さな雷と化して迸っているのだ。可哀想に、コイキングはバチッと弾ける音を聞いただけで失神してしまった。

 

「俺様の何がダメだってんだ、言ってみろ!」

「そうやいやい喚くな。話もできん」

「…………っこの野郎……っ!」

 

 雷神の白い鬣が逆立った。

 双眸が眩い光を放ち出す。

 俺達もろとも大技を仕掛ける気だと気づいたミュウツーが間に割り込んだ。

 

「よせ! 止めろボルトロス!」

「どけや小僧!」

 

 咆哮し、ボルトロスが右手を振りかぶる。

 やにわに空が翳った。

 凄まじい速度で、とんでもない量の雷雲が天を覆っていく。

 

 轟く雷鳴。

 不穏な稲光。

 そして。

 

 

ずがしゃぁあああん! 

 

 

 情け容赦のない霹靂(へきれき)が、俺たちに降り注いだ! 

 

「〜〜〜〜〜〜っ!!」

 

 何も見えない。

 何も聞こえない。

 

 腹の底までひっくり返りそうな轟音と衝撃が全身を貫いた。

 

 ────だが。

 

「まったく、気短(きみじ)かじゃの」

 

 ランドロスの呟きだけは、なぜかすっと耳に入ってきた。

 

「……え」

 

 おそるおそる目を開けると、俺たち全員を土の繭が包んでいた。これがあの凄まじい稲妻を完全に防いでくれたらしい。

 

 俺はこの現象に心当たりがあった。

 

「大地の、力……?」

 

 大地の(エレメント)に働きかけ、意のままに操る技だ。

 

「おう。よぅわかったの」

 

 ランドロスが指を鳴らすと、繭がしゅるりと解け、ただの土に戻った。

 そして、ボルトロスに呼びかける。

 

「とまあこんな風にお前の攻撃は通らん。わかっておっただろうがな。あまり駄々を捏ねてくれるな同胞よ。こちとら話をしに来ただけなのだ」

 

「…………!」

 

 雷神の殺気がいよいよ強まる。

 

 多分、説得しているつもりなのだろう。

 だが、その態度が、その物言いこそが、相手の怒りを煽っていることまでは気づいていない。

 

 よく言えばおおらか。

 悪く言うなら無神経。

 

 ランドロスとは、そういうタイプの神らしい。

 

(なるほど……

 こりゃボルトロスがキレるのも無理ねえな……)

 

 タイプも性格も相性が悪すぎる。

 喧嘩するなってほうが無茶だ。

 とはいえ、巻き込まれるのは御免蒙りたい。

 さっきはランドロスが気まぐれに助けてくれたが、ふたりが本気でぶつかったらこっちは影も残るまい。

 

 ボルトロスが二撃目を放つ前に、俺はミュウツーに目配せした。

 

「──!」

 

 意を察したミュウツーが俺の腰に手を回し、ついでにシェイミも抱えてテレポートを発動させる。

 

 かくして俺たちは、ほんの一時かもしれないが、窮地を脱したのだった。

 

 

 ○○○

 

 

 ミュウツーが瞬間移動(ジャンプ)先に選んだのは花園から山ひとつ越えたところにある泉だった。

 周囲一体を鬱蒼と茂った森に囲まれて、俺たちの頭上も野放図に伸びた枝が覆っている。

 これなら、すぐに見つかる心配もなさそうだ。

 

「最高の隠れ家だな。さんきゅ、ミュウツー(カタリベ)

 

 ミュウツーは油断なく目を配りながら言葉を返した。

 

「さきほどの……ランドロスとかいう者が来た時に周辺を透視したところ、ここが最も具合が良さそうだと見当をつけたのだ」

 

 俺は頬が赤くなるのを感じた。

 あのとき、ミュウツーは立ち尽くしていたわけじゃなくて、安全な場所を見繕ってくれてたのか。

 冷や汗かいて硬直してただけの俺とは雲泥の差だ。

 

(……てか、トレーナーの癖に情けなさすぎるだろ、俺)

 

 もう一度、今度は深々と頭を下げた。

 

「本当にありがとう。命拾いした」

「私からもお礼を言わせてください……」

 

 胸元から死にそうな声がした。コイキングだ。

 たったいま蘇生したらしい。

 

「私たちはみな電撃に弱く……ボルトロス様ほどの技を食らったら生きてはおれませんでしょう……

 九死に一生とはまさにこのこと……あなたは大恩人にござります」

 

 そう言うコイキングの瞳から、涙がポロポロ溢れて止まらない。

 俺はそっと泉に下ろしてやった。

 慣れない肺呼吸しながら泣いたんじゃ、窒息しかねないもんな。

 

「泣き虫でしゅねえ」

 

 シェイミが呆れた溜息をつく。

 

「お前さんは怖くなかったんか?」

「ぜんぜん! ミーに雷は効きましぇんから!」

 

 いやまあ確かに、草に電気はいまひとつだけどさ。

 あの威力じゃ、そんな理屈なんて通用しない。

 丸焦げになってたよ。たぶん。

 

 ツッコミかけて止めた。

 シェイミの小さな脚がかたかた震えていたからだ。

 

 突っ込む代わりに、俺はくすりと笑った。

 まったく、意地っ張りなお姫様だよ。

 

「……さて」

 

 俺の声色が変わったことを悟り、ミュウツーが居住まいを正した。

 

「こっからどうするか、決めていこう」

 

 咲いたグラシデアは一輪こっきり。

 作れた目覚まし団子は2つ。

 うち1つはミュウツーが食べた。

 残る1つは当然、火吹き島で眠るというジラーチに食べさせてやりたいが、なにぶんあそこにはとんでもない強敵がいる。

 

 溶岩を自在に操るうえに、強烈無比な欠伸をかましてくるヒードランを、いかにして突破するべきか。

 

 最も手っ取り早いのは、強力な水技を繰り出せるポケモンを味方につけることだろう。

 次点で、ミュウツーに水技を覚えてもらう方策である。

 

「……って考えてるんだがどう思う?」

 

 全員に問いかける。

 するとコイキングが真っ先に手……もとい、ヒレを挙げた。

 

「それでしたらあの、私のところの長に頼めばなんとかなるかもしれません」

「まじか!」

 

 コイキングの群れの長とくればギャラドスに違いない。数多の水タイプの中でもトップクラスの強さを誇るポケモンだ。

 

 俺はぱん! と両手を合わせ拝むように頼んだ。

 

「頼む! 力を貸してくれ!」

「わかりました。それではしばしお待ちください。

 実はこの泉が私たち一族の棲処なのです」

 

 コイキングは微笑みを浮かべ、とぷんと潜っていった。

 15分ほども待ったろうか。

 春の日差しにおもわず微睡みかけたところへ、コイキングが戻ってきた。

 

「お待たせしました! 我らが長にございます!」

 

 一拍遅れて大きな水飛沫が噴き上がる。

 俺たちは呆然と“長”を見あげた。

 

 誰がこの光景を予想できただろう。

 自信満々のコイキングの横にいたのは、全身を金色に煌めかせたでっかいでっかいコイキングだった。

 

 どんぐらいデカいかというと、泉の傍に立つ目測で8メートルほどの楓の木と同じくらいの背丈なのだ。

 

「我らが長は一族で最も大きく、最も高く跳ねることができます! 

 しかも、長の()()()()はとっても強烈なんですよ!

 未だかつてその技を食らって無事だったものはいないのです!」

 

 その、あまりに誇らしげな物言いに、金コイキングが「ま゛っ」と頷き。

 

 

「そ…………っかァ」

 

 

 俺は、なんとかそれだけ振り絞りながら、近隣の水タイプ探索を決意したのだった。

 

 

 

 

 

 




というわけで11話。
なんとかランドボルトの喧嘩現場からは脱出できました。
しかしミュウツーが起きても対ヒードランの策が見つからない模様。
アシタバくんはどうするのやら。

ラストのクソデカコイキング、大きさがピンと来ない人はマンションの1階から2階までの高さぐらいを想像していただければ作者のイメージと近いです。クソデカコイキングはいいぞ。

よければ感想高評価おなしゃす!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。