ルギア、拾っちゃいました。3   作:じゅに

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第13話 ジラーチとテッポウオと。

 

 

 

 

 花園で待っていたシェイミは、戻ってきた俺たち──というか俺を見た途端、悲鳴じみた声を上げた。

 

「なんでしゅ、その腕!」

「へ? 腕?」

 

 袖でも破けてたか? 

 と見下ろした俺は我が目を疑った。

 

 破けてるどころじゃない。

 右肩が完全に脱臼し、ぷらーんと垂れ下がっていたのである。

 

「なんでそんなことになってるでしゅ!? 

 ヒードランに噛みつかれたんでしゅか!?」

 

「いやいやいや! 攻撃なんて喰らって……あ」

 

 俺とミュウツーはほぼ同時に原因を悟った。

 

「水鉄砲か」

「水鉄砲だな」

 

「……どういうことでしゅ?」

 

 シェイミの頭の上にハテナが乱舞する。

 読者諸君も混乱しきりだろうから、順を追って話そう。

 

 そもそもなぜ、わざわざテッポウオを手首に張りつかせていたのか。

 

 端的に言えば、命中精度を高めるためである。

 

 話をもちかけた時、当の本人から言われたのだ。

「おれっちの鉄砲は強力だが当たらねえのが難点でね」と。

 

 どれだけ当たらないのか、適当な木にオレンの実を吊るし、試し撃ちしてもらったところ、5発撃って1発当たるかどうかという結果に終わった。

 命中率はおよそ20パーセントということになる。

 

 どうも特性は“はりきり”らしい。

 威力が上がる代わりに命中力が低下する、なんとも一芸的(ピーキー)な特性だ。

 

 動かない的でこれでは、流石に戦力として数えるのは難しい。でも威力は折り紙付きだ。

 ならば狙いは俺がつけ、撃つことにだけ専念してもらおうという発想から編み出したのが、人魚(じんぎょ)一体の射撃スタイルというわけである。

 

 目論見は成功したが、まさか水鉄砲の勢いで肩が持っていかれるとはね。

 作用反作用の法則ってやつ? 

 

 よくもまあ今まで気づかなかったもんだ。

 そりゃシェイミじゃなくとも驚くわな。

 たった1時間出かけただけの仲間が脱臼して戻ってきたら。

 

「ごめんミュウツー(カタリベ)、治せる?」

「やってみる」

 

 ミュウツーが翳した掌から癒しの波動(淡い光)が流れ、瞬く間に完治した。

 肩を回してみる。すこぶる健康だ。痛みもない。

 

 俺はにっこりして、左手に抱いていたジラーチをひょいと持ち上げた。

 

「ありがとう! さ、ジラーチを起こすぞ。

 おっと、その前にテッポウオを水に戻してやらにゃ」

 

「ありがてぇ。

 そろそろ身体が乾いてきたところだったんでさ。

 いやあそれにしてもあの島は暑かったね!」

 

 袖の中のテッポウオは話すうちにヒードランを追い詰めた時の興奮が戻ってきたのか、尾びれをビチビチ震わせていた。

 

 

 

 アシタバが充分離れたのを見計らい、シェイミはミュウツーに耳打ちした。

 

「……人間て、関節が外れても痛くないものなんでしゅか」

 

 ミュウツーは自信なさげに首を振った。

 

「……いや。相当痛むはずだが」

「じゃあなんでアイツは気づかなかったんでしゅか」

 

 戦闘中に気づかなかったのは、まあわかる。興奮や緊張で痛覚が鈍るのはよくあることだ。

 だがアシタバは、ここに戻ってきてシェイミに指摘されてからも、痛がる素振りを見せなかった。

 

 まるで、()()()()()()()()()()()()()()に。

 

「…………」

 

 ミュウツーは無言でアシタバを見つめた。

 言い知れぬ不安に、胸騒ぎを覚えながら。

 

 

 ○○○

 

 

 グラシデアの蜜から作っためざまし団子を小さく千切り、ジラーチに食べさせる。

 

 ジラーチの瞼がぴくりと震えた。

 ゆっくり、ゆっくりと蕾がほころぶような速さで開かれていく。

 

「大丈夫か? 起きれるか?」

「……う…………」

 

 微かに震える手が俺に伸びてきて、胸の辺りをそっと触れてきた。か細い吐息が漏れる。

 

 俺は、切なくなるほど小さな手を握り返し、問いかけた。

 

「なにか食べられそうか?」

「…………うん」

「おーけぃ」

 

 俺はあらかじめ用意しておいたモモンの実の汁で指を濡らし、含ませてやった。

 甘みの強い果汁なら、病み上がりでも喉を通るだろう。

 

 思った通り、甚だ弱い力ではあるものの、ちゃんと吸いついてくる。

 

 指の汁気が無くなるまで吸ってから舌を離し、ジラーチは安堵の息を吐いた。

 

「随分長いあいだ食べてなかっただろ?

 少しずつ量を増やしていこうな」

 

 ジラーチは儚げに微笑んでから、しんどそうに瞳を閉じた。

 

「シェイミ。葉っぱの寝床を頼めるか?」

「いいでしゅよ」

「カタリベ、焚き火を頼む」

「わかった」

 

 マジカルリーフで集められた柔らかな葉で即席の寝床を作り、ジラーチを横たえた。

 

 この衰弱具合からして固形物は当分受けつけないだろう。かといって果汁だけでは栄養に欠ける。

 ハピナスの溶き卵なら食べられるかもしれない。

 

「シェイミ、この辺りにラッキーかハピナスが住んでるところを知らないか?」

 

「ラッキーなら裏手の山にいましゅけど」

 

 ラッキー。あ、親父ギャグになっちゃった。

 

「うし。そしたらひとっ走り行って卵貰ってくるわ」

「ならワタシも」

 

 腰を浮かせたミュウツーに俺は首を振った。

 

「いや、お前さんはここに居てくれ。ジラーチにちょっかい出す奴がいるとは考えにくいけど、念の為な」

 

 ミュウツーが眉を顰めた。

 

「独りで行く気か?」

 

「大丈夫だって。またテッポウオについて来てもらうさ。テッポウオ、頼めるか?」

 

 泉に声をかけると、テッポウオが嬉しげに飛び跳ねた。

 

「ご指名とあらば行けるも行けないもないやね! 

 ぜひとも連れてっておくんなせぇ!」

 

「おう。よろしくな」

 

 また手首の下に張りついてもらい、不安げなミュウツーに手を振って近くの山へと走った。

 

 走りながら苦笑する。

 相棒は、ずいぶん過保護になった。

 それもまあ無理ないことだ。

 こっちに来て以来、食事の支度にバトルにと甘えっぱなしだもんなあ。

 

 ここらで1つ、俺も頼りになるってところを見せないと。ちゃちゃっと卵を調達して、安心させてやろう。

 

 

 ○○○

 

 

「……へぇ、お前さんアシッドボム撃てるのか」

「へへへ。ダチのメノクラゲに教わったんでさ」

 

 テッポウオが胸を反らせる。

 

 道中だんまりというのも味気がないので、テッポウオと会話していたら、いつしか技のレパートリーに話が及んでいた。

 

 すると、実に多彩な技を習得していることが分かったのだ。

 

 元々テッポウオとその進化系のオクタンは射出系の技を多く覚える傾向にあるが、この個体は持ち前の好奇心で色々なポケモンから技を教わってきたらしい。

 

「旦那、水の中ってなあ気楽な世界だと思ってなさるね? いやいやとんでもねぇ、中々どうして油断ならねえところだよ。

 なにしろ泳ぎの上手いやつぁ、音も気配も殺して忍び寄ってくるかんね。

 うかうかしてたら後ろからバクっ……なんてこともしょっちゅうさ。

 おっ父もおっ母もそれでやられちまった」

 

「……そうだったのか」

 

「おっと、お慰みは要らねえよ」

 

 真実嫌そうにテッポウオはヒレを振った。

 

「お涙頂戴は(きれ)ぇなんだ。

 大体そんな奴、海にも川にもごまんといらぁ。

 おれっちだけが特別カワイソウってわけじゃねえ。

 言いたいのはね旦那、おれっちは結構役に立つ男だってことなんすよ」

 

「うん?」

 

 俺は首を捻った。

 なんだか話の向きが変わってきた気がする。

 するとテッポウオは気恥しそうに身をくねらせた。

 

「へへへ。ムックルがタネマシンガン(豆鉄砲)喰らったみてぇな顔するじゃねえの。

 いやね。おれっちはさ、あんなバトル生まれて初めてだったのさ。

 おれっちの射撃の腕みせたろ? 当たる方が珍しいからよ、一族のいい笑いもんだったのさ。

 それがあんなどえれぇ怪物を倒しちまった。

 震えたね。おれっちにもこんなことが出来るんだって、踊り出したいぐらい嬉しかったのよ。

 

 …………ええと、つまりさ」

 

 どことなく媚びるような眼差しを向けながら、テッポウオは言った。

 

「今回限りなんて水臭いこと言わずによ。

 おれっちを仲間に入れちゃくんねぇか。

 きっと頼りになるぜぇ」

 

 俺は目を丸くし、次いで爆笑した。

 

「な、なんでぇ、笑うことねぇじゃねえか」

 

「いや悪い悪い。

 お前さんを笑ったわけじゃないんだ」

 

 まさか自分から売り込んでくるポケモンが居ようとは思わなかった。

 もしもこいつが人間なら、腕のいい営業マンになったろう。

 

 傾斜のきつくなってきた坂を登りながら、俺は答えた。

 

「願ってもない話だよ。

 お前さんが入ってくれたら百人力だ。

 よろしくな」

 

「──! おう! 大舟に乗ったつもりでいなぁ!

 どんな奴もぶち抜いてやるぜ!」

 

 テッポウオの小さなヒレと握手を交わす。

 

 実際のところ、ミュウツーしか戦えない状態なのは怖くて仕方なかった。

 テッポウオがついてきてくれるなら戦術の幅もぐっと広がるし、ミュウツーの負担も減らしてやれる。

 いいことづくめだ。

 

「とくればあだ名を付けてやらないとな。

 どんな名前がいい?」

 

「あだ名。あだ名ねぇ。

 うーん……いきなし言われっと難しいねえ」

 

「なら、テツってどうだ?」

 

 テッポウオのテツ。

 安直にすぎるかもしれないが、きっと似合う。

 テツは何回か口ずさんでから1つ頷いた。

 

「テツか。いいね、いい響きだ。

 これからおれっちのことはテツって呼んでくんな!」

 

 笑いながら振り仰いだ顔が、そのまま硬直した。

 さあっと血の気が引いていく。

 

 視線を追って首をめぐらせた瞬間、背中を強く押されてつんのめった。

 なぜか踏ん張りが効かず、膝から崩れ落ちる。

 

 慌てて立ち上がろうとついた腕を、ぬるりとしたものが流れていく。

 

 赤い。

 血だ。

 

「あ…………?」

 

 呆然と振り向けば。

 一体、いつからそこに居たんだろう。

 あのバサギリが、この黒曜のオヤブンが、斧を振り下ろした姿勢のまま俺を見下ろしていた。

 

 気づいた途端、背中の傷からとんでもない勢いで血が噴き出しはじめる。

 

 斬られたんだ。

 あの斧で。

 ああ、ちくしょう。

 やっぱりミュウツーと一緒に来ればよかった。

 

 撃つか、水鉄砲。

 いやダメだ、今の俺じゃ狙いをつけることも反動に耐えることも出来ない。

 

 八方塞がりだ。

 後悔が渦を巻く。

 

「だ、旦那っ、旦那ァっ!」

 

 半狂乱のテツを宥めようとして盛大に血を吐いた。

 鉄錆に似た匂いが口の中を満たす。

 

 霞む視界で、バサギリがもう一度斧を振り上げたのが見えた。

 

 トドメを刺す気か。

 せめてテツは見逃してくれねえかな? 

 俺の何が気に食わないのか分からないけれど、いま仲間にしたばかりの魚まで殺す必要はないだろ? 

 

 そう弁明したくとも言葉にならなくて、だから必死に手を伸ばした。

 

「────」

 

 バサギリは無言のまま、凄まじいパワーで斧を振り下ろした。

 

 

 

 

 




というわけで13話。
アシタバくんまた一歩人間やめてるの巻。
自覚ないけど。

そしてラッキーに会う前にバサギリがログイン。
果たしてアシタバは生きて戻ることができるのか。

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