ルギア、拾っちゃいました。3   作:じゅに

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第15話 祈りよ、届け。

 

 

 

 

 意識を取り戻したとき、背中の傷は完全に塞がっていた。こういうときは呪いも悪くないと思ってしまう。

 一刻も早く解きたい気持ちに嘘はないが、ヒスイのように文化的な生活を送れない場所では便利極まりない能力だ。

 

 ただ失った血までは補完されないようで、立ち上がった途端目が眩み、そばの木に凭れかかった。

 

(うぅわ気持ち悪ぃ……血ぃ出しすぎたな)

 

 辺りを見回せば、とっくの昔に日は暮れて、鋭く尖った三日月が空の彼方に浮かんでいた。

 

 どうやらバサギリに斬られて2、3時間ほど気絶していたらしい。

 

「うー……」

 

 歯の間から漏れた呻き声に、袖口のテッポウオも目を覚ました。

 

「……はっ!? だ、旦那っ、大丈夫かい!?

 強かに斬られちまってたぜ!」

 

「おう。大丈夫大丈夫。もうなんともねぇよ」

 

「はえ……? ホントかい……?」

 

 テッポウオは目を丸くした。

「人間てなァ随分治りが早いんだねえ」などと感心しきりである。

 俺が特殊なだけなんだが、まあ他に人間がいるわけでなし、そういうことにしておこう。

 

「けど、一張羅が血まみれだねぇ。

 このまんま戻ったら嬢ちゃんたちが肝を潰すぜ」

 

「あ」

 

 確かにそうだ。

 盛大に流血したせいで、腰から下半身にかけて血の池で半身浴でもしたのかというぐらい真っ赤に染まっちまっている。

 なかなかにスプラッタだ。

 

 乾いちゃいるが、これでは何かあったのが丸わかりである。

 

「転んだ……ってのは苦しいよなあ」

「そりゃ無理があるだろい」

 

 テッポウオに呆れた声でツッコまれる。

 

 モモワロウはと目を走らせると、少し離れたところにラッキーの卵を抱えて佇んでいた。

 

 気のせいか、どこか悄げた顔をしている。

 呼びかけると、びくっと両の殻を震わせて視線を合わせてきた。

 

「モ……」

「卵、貰ってきてくれたんだな。ありがとう。

 ミュウツー(カタリベ)達のところに戻ろうぜ」

「……」

 

 モモワロウは無言でこっくりし、卵を渡すと、俺たちからやや遅れて着いてきた。

 

 うん、まだぎこちないけど、少しずつ穏やかに会話できるようになってきたな。

 あとはもう、時間をかけて信頼を築いていこう。

 焦りは禁物だ。

 

 さてこの血痕、ミュウツーにどう言い訳するべきか。

 

 脳内でシミュレートしながら帰途に着いた。

 

 

 ○○○

 

 

 シェイミたちの待つ泉に戻ると、意外な客が訪れていた。

 

「エイパム!」

「よっ」

 

 群青の海岸で俺の面倒を見てくれていたエイパムが、ぴょこんと尾の手を挙げて挨拶してきた。

 

 俺は心から安堵した。

 ニャルマーたちが、ボスのブニャットを殺されかけて俺に報復しようとした時、身を呈して庇ってくれた恩(ポケ)だ。

 

 ヒードラン討伐の時もエイパム山には立ち寄れなかったので、ずっと案じていたのだ。

 

「よかった、無事だったんだな!」

 

「おう。ピンピンしてるぜぇ」

 

 エイパムはにっかりと笑った。

 

 その台詞には、

 

 安心しなよアシタバ。

 オイラはどっこもケガなんかしてないからさ。

 

 という風な優しい温もりがあって、俺は目頭が熱くなった。

 

「よーやっと海岸一帯(ナワバリ)も落ち着いたから様子を見にきたんだぁ。それにこれ、新しい服。

 そろそろ入り用だろぉ?」

 

「おおお……!」

 

 なんという神タイミング。

 俺は何度も頭を下げながら、エイパム手製の新しい貫頭衣を受け取った。

 

 血だらけの部分がみんなに見えないよう素早く着替える。

 

「遅かったな、アシタ……」

 

 やりとりを聞きつつ、片膝を立てて座っていたミュウツーが、俺たちの背後から遅れて現れたモモワロウを認めて血相を変えた。

 

「貴様……!」

「モモッ!」

 

 怯えたモモワロウが鎖を構える。

 俺は慌てて両者の間に割って入り、手をブンブン振った。

 

「だー待て待て!

 こいつはもう敵じゃない! これからは俺たちに力を貸してくれることになったんだよ」

 

「何……?」

 

 ミュウツーが唖然と拳を下ろす。

 俺は道みち考えてきた言い訳を、なるべく早口にならないよう並べ立てた。

 

 山に入ればすぐにラッキーに会えると思ったが、なかなか出逢えなかったこと。

 そのうち野生のルクシオの縄張りに入ってしまい、随分追いかけられたこと。

 どこからか現れたモモワロウが窮地を救ってくれたこと。

 向こうの世界でのしがらみはお互い水に流し、協力しあうと誓ったこと。

 

「……そうだったのか」

 

 虚実織り交ぜて、というよりほぼ嘘の話だが、どうにかミュウツーの説得に成功した。

 

 もちろんこの話は予めテッポウオたちに言い含め、口裏を合わせるよう教えてある。

 

 剣呑な空気が落ち着いたところで、俺は卵を見せた。

 

「……それじゃ、ジラーチに卵を飲ませてやろう」

 

 焚き火に照らされてなお青白いジラーチを助け起こし、温めた卵液をすこしずつ含ませる。

 

 さすが栄養満点なだけあり、格段に呼吸が安定した。

 このぶんなら、5日ほども看病すれば起きあがれるようになるだろう。

 

 エイパムがジラーチをしげしげと覗き込む。

 

「にしてもまぁ、本当におほしさまを助け出しちまうとはなぁ。お前さん凄いなあ」

 

「────みんなのおかげさ」

 

 グラシデアを咲かせてくれたシェイミ。

 ヒードランとの死闘を戦い抜いてくれたミュウツーにテッポウオ。

 そしてバサギリの襲撃から護ってくれたモモワロウ。

 

 だれか1人でも欠けてたら、俺たちは今ここに居ない。

 

 俺はみんなの顔を見回し、頷いた。

 

「まずは第一関門突破だ。

 今度はジラーチ……失礼、おほしさまが元気になるよう看病しよう。もう少し、力を貸してくれ」

 

 ミュウツーたちは口々に「仕方ないでしゅねえ」とか「任せろ」とか「ああ!」と請け負ってくれた。

 

 

 ○○○

 

 

 それから数日後。

 幸いバサギリも、ついでにボルトロスも現れず平和な日々を送った。

 

 俺は三度々々、ラッキーの卵をジラーチに喰わせた。

 卵を貰いに行くのはミュウツーがやってくれた。

 次は俺が行こうか? と言ってもミュウツーは絶対に首を縦に振らなかった。

 

 ……多分、俺の話には嘘があると見破られているんだろう。全てバレているとは思いたくないが、ミュウツーなら有り得る。

 

 だから俺も強くは言えなかった。

 

 反面、ジラーチの容態は日を追うごとに良くなって、火吹き島から救出した1週間後には自在に宙を飛べるほど快復した。

 

 ジラーチは身体中で風を浴びながら快哉を上げた。

 

「いや〜〜〜〜! 

 こんたな気持ち良ぇ風は久々じゃな〜! 

 ()(きゃえ)るでぇ!」

 

 わあ。思ったより訛りが強ぇ。

 可憐な見た目とギャップがありすぎる。

 けどこれはこれで可愛いか、うん。

 

 勝手に納得する俺の前にぴゅるりると着地したジラーチは、ぺっこりとお辞儀した。

 

「お()さんが助けてくれたべな?

 ほんなごつ世話になったべ。

 お礼と言っちゃなんだがよ、なんでん祈ってくれちゃ。わだすが叶えてやるべよ」

 

「な、なんでもいいんだよな?」

 

「んだ! 二言はねえ!」

 

 ジラーチはえへんと胸を張った。

 俺は高鳴る胸を必死に押さえつけた。

 

 帰れる。やっと帰れる。

 また、あいつらに会える! 

 

 その喜びと興奮がいきすぎて、心臓が弾けてしまいそうだった。

 

 エイパムが苦笑しながら背中をとんとん撫ぜてくれ、俺はふーっと一息ついて、切なる願いを口にした。

 

「俺と仲間を、元の世界に帰してくれ!」

「あいよっ! ガッテン承知!」

 

 ジラーチは声を張り上げるや、螺旋を描いて急上昇した。天蓋の枝葉を突き破り、泉の真上で静止する。

 

 すると俄に空がかき曇り、尋常でない雰囲気が充ち始めた。

 

 ジラーチが瞼を閉じる。

 呼応するように、腹の目玉が開眼した。

 

『我、願いの具現者・ジラーチ。

 ただいまヒトの子・アシタバより聞き届けたる祈りを成就せん!』

 

 ジラーチの全身が七色に光る。

 世界に光が広がり、とても目を開けていられない眩さに変わった。

 

 目を瞑るだけではとても間に合わず、地べたに伏せる。それは図らずも、祈りの姿勢となった。

 

 光は、発現した時と同じように唐突に消えた。

 

「終わった、のか?」

 

 呟きに答える声はない。

 俺は恐る恐る身を起こし。

 

 そして、絶句した。

 

 

「…………は?」

 

 

 そこには、地面があり木があり泉があった。

 呆然と佇むミュウツーがいて、エイパムがいて、シェイミがいた。

 

 影に潜んでいたモモワロウと、泉に隠れていたテッポウオと目が合った。

 

 何も変わっていない。

 どこにも動いていない。

 

 何一つ、願いは果たされていなかった。

 

「…………っ!?」

 

 慌てて頭上を振り仰ぐ。

 

 ちょうどジラーチが降りてくるところだった。

 

 星を頭に頂いたその顔は明らかに青ざめている。

 何事かひっきりなしに呟いているので耳を澄ませると、「なぜじゃ、どうして」と同じ言葉を繰り返していた。

 

「じ、ジラーチ。どうしたんだ」

 

 長い患いで力が発揮できなかったのか。

 そうならそうと言ってくれ。

 それならまだ希望がある。

 療治をすればいいだけだから。

 

 けれど。

 返ってきたのはもっと絶望的な言葉だった。

 

 どこを見ているとも分からない、虚ろな眼差しでジラーチは言った。

 

「祈りを叶えるときはな……

 始まり様からお力をお借りすんだ……

 それがわだすの神通力だから……

 けど……」

 

 ジラーチは涙をいっぱい湛えて俺たちを見つめた。

 それは親とはぐれた子供のように、頼りない顔つきだった。

 

「始まり様に繋がらねえ……

 どんだけ呼びかけても、どこにもいらっしゃらねンだ……これじゃ祈りが……叶えられねえ……!」

 

 始まり様。

 それは即ち、全知全能にしてこの世の万物を作りたもう神・アルセウスに他ならない。

 

 ジラーチの祈りの具現化は、アルセウスを通しての神通力だったわけだ。

 

 だけど、そのアルセウスが居ないという。

 俺は膝から力が抜けて、その場にへたりこんだ。

 

「嘘だろ……」

 

 カサカサに乾いた唇から勝手に言葉が漏れる。

 

 じゃあなにか。

 俺が来たのと入れ違いに、アルセウスがあっちに行ったとでも? 

 

「そんな……そんなこと、あるかよ……」

 

 前髪をぐしゃりと握りつぶす。

 

 ジラーチだけが心の支えだったんだ。

 祈ればなんとかなると信じてここまで来た。

 

 なのに…………なのに…………! 

 

 

「あぁああぁああぁああああ!」

 

 

 あらゆる感情が渾然一体になり、意味のない音となって迸る。

 

 尽きることのない涙が、地面に染みこんでいった。

 

 

 

 

 




というわけで15話。
ジラーチ元気になるの巻。
めちゃくちゃ訛ってますけどどこの方言と定めているわけではありません。強いて言うなら色んな地方のちゃんぽんです。

江戸っ子弁のテッポウオと会話させたらさぞ賑やかじゃろなあ。

そして祈ってみましたが通じず。
どうやらアルセウスはここに居ないみたいです。
流石のアシタバも心折れちゃいましたね。
可哀想……

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