ルギア、拾っちゃいました。3   作:じゅに

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第16話 神々。

 

 

 

 

 ヒスイの上空。

 天をも突き刺す巨峰テンガン山すら見下ろすほどの高みにて、3体のポケモンが睨みあっていた。

 

 いずれも腕を組み、険しい表情をうかべている。

 だが険しさの中に潜む感情は、それぞれ微妙に異なっていた。

 

「……まずは矛を収めよ、我が友」

 

 緑の体毛を逆立てながらトルネロスが言う。

 

 彼の面には怒りの中に不安があった。

 いや、不安の方が遥かに色濃く、怒りは怯えを悟られぬための欺瞞に過ぎない。

 

 哀れだ。

 

 なにが哀れといって、その欺瞞はとっくに看破されているにも関わらず、本人だけが隠しおおせていると思いこんでいることである。

 

「あぁ? 収めろだ?」

 

 ボルトロスの眼光が鋭く光る。こちらは怒り一色に彩られ、他の感情など入る隙間もない。

 バヂリ、と不穏な雷光が迸る。雷撃を大の苦手とするトルネロスは、あっさりと怒りの仮面を脱いだ。

 おろおろと、両掌を無意味に上げ下げする。

 

「お、怒るでない、怒るでないよ。そうもバチバチされたのでは話し合いにならんだろ」

 

「最初から話し合いなんて望んでねぇ!」

 

 いよいよボルトロスが激怒する。

 その横っ面を、紅色の蛇が思いっきり殴りつけた。

 

「うぼっ!?」

「ら、ラブ殿!?」

 

 ボルトロスは呻き、トルネロスは狼狽する。

 慈愛の神ラブトロスは、手元に蛇を戻しながら、眦を吊り上げて一喝した。

 

「いつまでもやかましいねこのボンクラ!」

 

「な、なんだと」

 

「なんだもヘチマもないっ!」

 

 再び蛇が暴れ狂う。

 ボルトロスの顔といわず腹といわず、目につくところ全てを打擲してからラブトロスは太い息を吐いた。

 

「あのねえ。アンタがランドに思うところがあるのは分かるよ。アタシもあの不遜な態度には辟易してる」

 

「だったら!」

 

 オレの憤懣は分かるだろう、と言いさしたボルトロスの口元を、女神のしなやかな指が抑えた。

 

「わかる。分かるよ。だからアタシらにまで角を生やすのはおよし。こちとら味方さ。だのにツンケンされたんじゃ、あんまり寂しいじゃないか」

 

「…………」

 

 柔らかな声で諭されて、ボルトロスは小さく俯いた。

 

 

 ○○○

 

 

 万物の祖・アルセウスは彼らを産み落として早々に役目を負わせた。

 

 トルネロスは草木の種を風に載せて運べ。

 ランドロスはその種を受け止める土壌を作れ。

 ボルトロスは雨や雷で成長を促せ。

 

 このおかげで世界には四季が巡り、無数の動植物が育まれるようになった。

 

 あらゆる命がボルトロスたちに生かされていると言ってよい。

 

 ではラブトロスの役割は何か? 

 三柱たちがそれぞれの仕事を十全に果たせるよう、愛をもって慈しむことである。

 彼女の愛に限りはなく、隔たりもない。

 

 故に男神たちは仕事に没頭することが出来た。

 

 ところが。

 彼女の愛を独り占めしようと企む者が現れた。

 

 ランドロスである。

 

 豪放磊落な豊穣神は、ある日突然、ボルトロスよりもトルネロスよりも己が一段格上であると宣ったのだ。

 だから自分は彼女を専有する権利を持つ、と。

 

 気弱なトルネロスは懸命に反駁した。

 我らに上下の別はない。

 他ならぬ始祖様が、対等の存在としてお創りあそばされたのだからと。

 

 ランドロスは一笑に付した。

 

「それは始祖様唯一の誤りである。

 我こそが最も偉大であり、尊い神だ。

 だからお主らの上に立つ。

 よってラブトロスは我が妻とする」

 

 と言って譲らない。

 

 傍でやり取りを聞いていたボルトロスは当然激怒した。

 稲妻が七日七晩降り注ぎ、ポケモンたちは世界の終焉(おわり)かと恐れ慄いた。

 

 以来、四神の間には大きなわだかまりが生まれてしまったのである。

 

 三柱ともランドロスにはウンザリしていた。

 かといって、言って分かる男でも、力ずくで倒せる相手でもない。

 

 なにしろトルネロスは気弱すぎてバトルに向いておらず、ボルトロスは相性が悪い。

 頼みの綱はラブトロスだけだが、彼女は愛の化身であるため、戦うことそれ自体に強い忌避感を覚えてしまうのだ。

 

 これではランドロスを分からせることなど夢のまた夢。

 切歯扼腕していたボルトロスだったが、ある日、妙なニンゲンを見つけた。

 

 ニンゲンの名をアシタバという。

 

 アシタバはここではない何処かから来たらしく、なんとかして帰りたがっていた。

 どうも歩いては辿り着けぬところらしい。

 

 ボルトロスは好奇心が旺盛だ。

 ランドロスへの怒りはさておいて、ニンゲンの行く末に心を惹かれた。

 

 なんとはなしに見守っていると、満願を成就させる稀有なポケモン・ジラーチの力を借りようと画策しはじめたではないか。

 

 その時。

 ボルトロスに天啓が舞い降りた。

 

(ニンゲンに、ランドロス(あのアホ)の弱体化も祈らせてしまえ)

 

 タイプを変えるか、パワーを削ぐか。

 方法はなんでもい。

 今よりも弱ってくれれば、あとはこちらでケリをつける。

 

 トルネロスにこの思惑を打ち明けると、わざわざニンゲンを介さずに自分で祈ればいいのではと首を傾げられた。

 

 無粋者めが。

 そんなことをすれば正攻法ではランドロスに勝てないと認めるようなものでないか。

 

 あくまで己の矜恃を傷つけることなく有利に事を進めたいのである。

 

 だからヒードランとの戦いでわざわざ助けてやったのだ。貸しを作ればこちらの命令に否とは言うまい。

 

 計画は順調に進み、昏睡したジラーチを目覚めさせる薬も完成した。

 後は祈らせるだけという段になって、またぞろ豊穣神が妨害してきたのだ。

 

 腹立たしい、などというレベルではない。

 念じるだけで相手を殺せるならもう五十回は縊り殺しているだろう。

 

 憎悪の滾るまま雷撃を迸らせたが、やはりランドロスには毛筋ひとつ傷つけられず、悠々と逃げられてしまった。

 

 ついでにアシタバにも逃げられ、はや数日。

 

 このままでは憤死しかねんと見かねたトルネロスがラブトロスとボルトロスを集め、会議を開いたというわけである。

 

 ようやく心落ち着けたボルトロスが口を開きかけたその時。

 誰も予想しないことが起きた。

 

 空がにわかに灰色の帳を降ろし、渦を巻き始めたのである。

 

 自然現象ではない。

 これは、他ならぬジラーチが願いを叶えるときの前触れであった。

 

「まさか……!?」

「祈りおったのか!」

 

 ボルトロスは高く吼え、霊獣の姿に戻ると、ジラーチの波動が流れてくる方へと飛翔した。

 

 一度に叶えられる祈りは二つまで。

 膨大な精気を費消するため、成就の後は一年ほど休息する。

 

 もしもアシタバが元の世界への帰還以外にも“何か”を願っていた場合、ボルトロスはもう一年待たねばならなくなるわけだ。

 

 そんなことは受け容れられない。断じて! 

 

 

「止めろアシタバぁあああ!」

 

 

 風を切って飛びながら、ボルトロスは大声を張り上げた。

 

 

 ○○○

 

 

 ジラーチとアシタバは、ボルトロスとランドロスが最後に戦った山からいくらも離れていない泉のそばに居た。

 

「なんだ貴様らこんなところに」

 

 おったのか、と言いさして、ボルトロスは目の前の光景に思わず絶句した。

 

 一体何があったのだろう。

 アシタバは地面にへたりこみ、虚ろな眼差しで宙を見上げていた。激しく咽び泣いたと見え、頬には涙の跡が幾筋も伝っている。

 

 ジラーチは沈痛な面持ちで項垂れ、他のポケモンたちもアシタバから目を逸らしていた。

 

「ど、どうした」

 

 ようやくそれだけ訊ねると、ミュウツーとかいうポケモンが低い声で応えた。

 

「願いが、叶わなかったのだ」

「なんだと!?」

 

 ボルトロスの視線がジラーチを捉える。

 ジラーチはびくりと肩を震わせ、「……んだ」と頷いた。

 

 ボルトロスは混乱した。

 ジラーチの力の源は全知全能の造物主・アルセウスである。それが為、叶えられる願いには限りがない。どんな願いでもたちまち顕現できる。

 

 なのに、叶わなかった。

 否、叶えられなかった。

 

 それは即ち、神の御身に恐るべき災禍が及んでいることを示唆してはいないか。

 

 ボルトロスは奥歯を噛み締めた。

 

 有り得ない。

 あってはならない。

 

 神を脅かすものなど居るはずがないのだ! 

 

 ジラーチの細い肩を掴み、激しく揺さぶった。

 

「もう一度試せ! 

 いや、一度と言わず叶うまで試すのだ!」

 

 ジラーチは叫んだ。

 つぶらな瞳から、大粒の涙を零しながら。

 

「もう何度も試しただ! 

 でもダメだった! 

 なんべんやってもはじまりさまが応えてくださらねんだ!」

 

「……な…………」

 

 何故、と問う声は酷く掠れて音にならなかった。

 ジラーチはしゃくりあげ、弱々しい口調で言った。

 

「わがんねえ。わがんねえよう。

 はじまりさまがいなぐなっちまったんだ。

 この世界のどこにもいらっしゃらねぇ。

 こんなこと今までなかった……

 はじまりさまと繋がれねぇなんて……」

 

「…………!」

 

 ボルトロスの手から力が抜けた。

 追いかけてきたトルネロスもジラーチの言葉に顔色を無くしている。

 

 しかし、ラブトロスだけは全く冷静であった。

 

「なるほど。そりゃ冥王の仕業だろうねえ」

 

 トルネロスが眉を顰める。

 

「冥王……ってえと、大昔に我らが神に楯突いたっていう?」

 

「そう。その叛逆者さ。

 巨人族をそそのかして始まり様を亡き者にしようとした、史上最も野心に溢れた神だよ」

 

 最低の愚か者とも言えるがね、と毒づいて、ラブトロスは一同を見回した。

 そして、この場で唯一の人間であるアシタバに目を止める。

 

 愛の象徴であり、愛の化身である彼女は、アシタバが骨の髄まで呪われかけていることを一目で見抜き、嘆息した。

 

「なるほどね……

 この子が現世への()()ってわけかい」

 

「あ、あの、ラブ殿?」

 

「おめえだけ納得いかれちゃ困る。

 オレらにも説明してくれ!」

 

 トルネロスとボルトロスが詰め寄る。

 他の面々も、説明を聞きたくてソワソワと落ち着かない様子だ。

 

 ラブトロスはもう一度太息(といき)してから、まず結論を突きつけた。

 

「この人間は呪われている。おぞましい呪いだ。

 この呪いの主に我らが神は拐われてしまった。

 我らの神を取り戻し、かつ呪いを解くためには、清浄な炎に炙られて身も心も清めなきゃならないよ」

 

 アシタバがポカンと口を開ける。

 

「清浄な、炎……?」

「そうさ」

 

 ラブトロスはじっとアシタバを見つめ、厳かに告げた。

 

「この世でただ御一方だけが扱える特別な炎。

 聖なる炎の使い手、ホウオウ様に逢いに行くんだ。

 アンタが助かる道は、それしかない」

 

 

 

 




というわけで16話。

ボルトロス陣営のすったもんだ公開。
コピペロスだのおっさんだの散々言われてますが作者は結構好きです。特に霊獣フォルム。
トルネロスがやけに気弱ですけど風見鶏的性格ということで笑
事なかれ主義とも言えるかな。争い嫌いなおかげでラブトロスと1番仲が良かったりします。

そしてアシタバくん自分が呪われていることを知りました。
呪いを解除しアルセウスを取り戻すためにはホウオウが必要な様子。
ホウオウがいるところといえば……
この辺りは次話で詳しく書きます。

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